【ネタ】美少女を探せ!   作:ちーまる

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四校合同合宿らしい

風情ある旅館の一室は普段の様相とは変わっていた。大広間に並べられているのは長机ではなく、雀卓。今回集まる数十人の打ち手が全員打てる以上の余裕をもって用意されている。打ち手を歓迎するかのように丁寧に手入れされた雀卓は微かに光っていた。

 

その部屋に足を踏み入れるのは数週間前、決勝の舞台で鎬を削ったばかりの強敵たち。

 

―誇りある伝統とそれに見合うだけの実力を兼ね備えた「風越学園」

―その姿まさしく荒ぶる龍の如く、去年の長野覇者「龍門渕高校」

―今季長野大会におけるダークホース「鶴賀学園」

 

 

そして

 

 

「さて、旅館に着いてすぐだけど……」

 

―そんな強敵を打倒した今年の長野王者である我が「清澄高校」である(なお学校の紹介文の出典はウィークリー麻雀です。うちの学校だけ簡単すぎじゃない?)

 

決勝の卓で顔をあわせているからか皆さんお知り合いの様で、久しぶりに会った強敵(と書いてともと読む)にわくわくしているようだ。……俺を除いて。暗い表情を見られないようにフードを深くかぶれば、自然とため息が漏れた。

 

当然だ。

 

俺がしていたことは他校の偵察(という名の美少女探し)に控室での応援(という名の雑用)だけである。ここにいる人たちとは少しも関わりがない。こっちはテレビで見ていたから一方的なお知り合いであっても、あちらからしてみれば「誰こいつ」状態だ。

 

初対面で無闇に馴れ馴れしく接して好感度を下げることは全力で避けたい。コミュニケーション能力に自信がない俺は基本的に見る専だ。あれだよ、いくら見た目がイケメンになったところで中身の性格何て簡単に変わるわけがない。女っ気がゼロに近く、かつ友人も少なかった俺にラノベ主人公ばりのコミュニケーション能力を期待されても困る。

 

特に女性は対応を間違えると即終了だ。はっきり言って、爆弾と同じくらい危険で不用意に刺激すればドカンである。これだけは身を以て経験したからはっきりいえるね。何で女子って他の女子の名前を出しただけで急に怒り出すんでしょうね……

 

 

まあともかく、俺はなるべく目立つことが無いようにと、隅の方で必死に息を殺し壁と一体化していた。

ここに着くまでは確かにこの合宿を楽しみにしていたといえる。テレビで見ていたけど皆さん文句なしに美少女が多いし、今回参加できなかった須賀に対するちょっとした優越感的なものがあったことは間違いない。

 

だが、いざ二十人の女子を目の前にすると話は違う。男子1に女子20だ。ここで「ハーレム、キタコレ!」といえる精神を持ち合わせていれば良かったが、残念ながら俺はそんな鋼鉄の精神は持っていない。一昔に流行った草食系男子とかではなく、生身の人間にどもるコミュ障の方です。もちろん、二次三次問わず美少女・美女は大好きだよ!

 

 

 

「まずは、温泉よね!」

 

「誰に言うとるんじゃ……」

 

 

温泉……?

 

……かわいい女の子の浴衣見放題じゃないですか!須賀には悪いけどやっぱり来てよかったなあ合宿!女の子の浴衣姿に比べたら、さっきまでの悩みの何と小さきことか。もう開き直ってこの状況を楽しもう、うん。生きているうちにこんな沢山の女の子に囲まれる事なんてもう二度とないだろうし。あれ、何か涙が勝手に……

 

さあ、いざ行かん温泉へ!

 

◇◇◇

 

 

「というわけで、まずは皆さんこの合同合宿に参加下さってありがとうございます」

 

 

女子の皆さんが一風呂浴びた後、俺たちは先ほどの大広間に再度集まっていた。俺?俺はこの場所でビデオを見ながらスタンバイしてました。あんまり汗もかいてないし、一人残さずチェックしたい思いが上回った。いやー、眼福眼福!あれだね、和ちゃんとか最早凶器だよ。風呂上がりの上気した表情にあの浴衣姿、イチコロです。あの龍門渕の眼鏡かけてる子、確か沢村さんも中々のおもちをお持ちのようだ。風越の部長さんといい、部長と呼ばれている人たちは綺麗処が多いなあ!

 

いや、まあ大きいのだけが好きというわけじゃないけど。永水のところ何て一部を除いてヤバいし、千里山も中々だし、阿知賀の松実姉妹も……ってこんなことばかり考えていたら流石に失礼すぎる。煩悩を打ち消すように頭を振り、改めて意識を前で話していた部長に向ければ話は丁度挨拶が終わったところだった。

 

 

「合宿のメニューに入る前に参考にしてもらいたいデータがある。聞いてもらってもいいだろうか」

「いいわよ、お願いします」

「では、少々時間を貰おう」

 

そう言って前に立ったのは鶴賀の実質的な部長といって良い加治木さんだ。一応部長は中堅の蒲原さんだったそうだが、残念ながら貫録負けしている。実際、部長の引き継ぎも彼女がやったということを部長から聞いた。というより、決勝実況の時藤田さんにも間違えられていたしね。

 

「これは私が個人的に集めた今年の全国の……」

「ちょっと、待った!」

 

真面目な雰囲気の中、正面に座る片岡の手が勢いよく挙がった。このタイミングでの発言……まさか、片岡にも何か秘密のデータがあるのか?

 

「おトイレ行ってくるじぇ!」

 

雰囲気ぶち壊しである。このミーティング始まる前にすませておけよというツッコミをいれ、さあ今一度というところで次々に手が挙がる。結果湯あたりしたもの二名、遊び疲れて寝たもの一名、トイレに駆け込んだもの一名と燦燦たる有り様となった。

 

「仕方がないわね……長旅の疲れもあるようだし、この後は自由時間にしましょう。合宿のカリキュラムは明日の朝から、それじゃあ解散!」

 

うなだれる加治木さんの肩に手を置きながら部長が何とか収拾をつかせる。流石、部長憧れる!と心の中で賛辞を送った。というより、加治木さんは怒っていいと思うよ。あんな絶妙なタイミングで邪魔されて、俺なら怒っているね。あれなの、部長の方々は人間的にできた人だけがなるの?

 

「それじゃあ、これを。全国の強豪校のデータだ」

「これって……凄いこんなに細かく」

「うちが全国に行ったときにと集めていたのだが、何となく止められなくてな。良かったら使ってくれ」

 

「加治木さん……ありがとう」

 

部長に手渡された分厚いデータ。それを見ただけで時間と見合うだけの労力が費やされたことが分かる。そして、「全国に行きたい」という彼女の思いも。だから、その思いを受け取った俺たちは応えないといけない。感じた思いはきっと部長も同じだ。

 

「そうだ、悠斗くん」

「っえ、はい!」

 

受け取った時の真剣な表情は何処へやら、いつも通りの良い笑顔でこちらを向く部長。急いで近寄れば、はいこれとさっき貰ったばかりのデータ集が渡される。ずっしりと手にかかる重さは見た目以上だった。ぱらぱらとめくれば、データ以外にも分析なども書き込まれている。……本当に彼女が全国大会にかけた思いが伝わってくる。

 

「このデータも併せて分析よろしくね」

 

ウインクとともに告げられても誤魔化されないから!

心の中でそう反論するものの、美少女の笑顔と頼みごとを断れるはずもなく。

 

こうやって頼まれるということは期限は今日の夜まで、それもきっと部長が就寝するまで。いや……きつくね?相変わらず部長は人使い荒いすぎる。まあ、須賀が頼まれる肉体労働系の雑用よりマシだけどさ。覗き込むようにこちらを窺う部長に、引きつりそうなった顔を気合いで押し込める。

 

「はい、わかりました……加治木さん、本当にデータありがとうございました」

 

そう言って退出しようとする俺と、さっきまで静かにしていた鶴賀の女の子の視線がばっちり合う。反射的に会釈をするが、意識はすぐに先ほど渡されたデータに向いた。だからだろう、あり得ないものでも見たかのように驚く彼女の表情に気付かなかったのは。

 

◇◇◇

 

 

東横桃子は影の薄い少女だった。

 

どのくらい薄いかと言えば、人前で踊りださなければ気付いてもらえない影の薄さである。同じ部活の仲間、初めて自分を必要としてくれた大好きな人ですら完全に自分を視認することは出来ていなかった。それどころか、酷い時には存在感で虫に負けた時もあるくらいだった。

 

そのことを悲しいとは不思議と思わなかった。この影の薄さは立派なアイデンティティで、麻雀をたしなむ今となっては武器でもある。だが、それと見える人がいたという驚きは別だ。確かに、カメラ越しならばステルス中の自分を完全に認識することは可能である。加えて、ある意味自分よりオカルトじみた能力を持ったあの清澄のおっぱいさんは自分を見破った。だが、それは対局中の時だけだ。平時ではやっぱり気づくことは出来ていなかった。

 

そんなわけで、自信のあったステルスを見破られたことに対する悔しさかもしれない。

 

 

「あっ、ちょ、待って……!」

 

何かを確認するかのように伸ばした手は、少年が背を向けそのまま出て行ってしまったことで意味がなくなる。よっぽど間抜けな表情をしていたのか、清澄の部長さんと話が終わった先輩が心配そうに話しかけてきた。

 

「モモ、大丈夫か?」

「せ、先輩……いたっす」

「何がだ?」

 

――私の「ステルス」が効かない相手が!

 

 

待っていて下さいっす、清澄の男子部員さん。明日の対局でそれが「本物」かどうかきっちり見極めさせてもらうっすよ!

 

 

◇◇◇

 

 

そこは外界とは一線を画す世界だった。清廉な空気が漂う境内、悪しきものを全て拒むような荘厳な雰囲気。神が住まう場所霧島神境、地元の人々はそう呼んで長きにわたって敬ってきた。

 

そんな歴史と格式ある神社に仕える巫女たちは、それ相応の知性と礼節を兼ね備えていると言っていい女性たちばかりである。だが、霧島神境の姫と呼ばれる神代小蒔も年頃の女の子だ。気になる男性から手紙の一つでも送られて来れば、当然の流れで自身に仕えてくれる六女仙たちと女子トークに突入する。

 

いつものように囲んでいた麻雀卓の中央に少年からの手紙と同封されていた箱が置かれた。一斉に手紙を覗き込むが、五人で読むにはあまりにも小さく読みにくい。それに気付いた石戸霞が手紙を手に取り読みあげはじめる。

 

 

『拝啓 暑気厳しき折柄、霧島仙境の皆様におかれましてはお元気にお過ごしのことと存じます』

「何かいきなり凄い他人行儀なのですよー。いつもみたいに接してくれていいのに」

 

『さて、日頃のお世話になっている皆様に何か御礼をと思い、このように筆を執った次第であります』

「お世話って……昔の事とはいえ姫様の命の恩人ですし、というより呼びつけて迷惑かけているのは私たちの方じゃ……」

 

『心ばかりのものでありますが、我が家で採れたブルーベリーです。皆様に喜んでもらえたら幸いです』

「……おいしそう、姫様後で食べましょうね」

「はいっ!楽しみです」

 

『そして少し早い気もしますが、石戸霞様お誕生日おめでとうございます。ささやかながらプレゼントもお贈りしましたので、受け取っていただければ嬉しく思います。皆様のさらなる活躍を願っております。 敬具』

「あらあら、本当だわ。一緒に何か入ってるわね」

 

読みあげ終わった霞が箱の底から袋に包まれた何かを取り出す。袋を開け出てきたのは熊の人形だった。それも自分とお揃いのように巫女服を着ている。霞は自分の頬が緩むのを抑えられなかった。カワイイものが嫌いな女子は少ない、そういうことだ。

 

無論、彼女いない歴=年齢の黒羽が女子受けの良いこのチョイスを出来たのは理由があった。彼が持つ伝手の中でも特に女子力が高い(推定)人物に、もし自分が誕生日プレゼントを貰うなら何が欲しいかを聞いたのだ。その集大成がこの熊の人形(巫女服)である。

 

女子力が高いと考え、真っ先に頭に浮かんだのは「そんなオカルトありえません」が口癖の少女であった。次いで大阪の病弱少女、岩手の子供っぽい一面を持つ少女、奈良のドラゴンロードである。取り敢えず全員に聞いてみたところ、大阪以外はまともな答えが返ってくる結果となった。

 

「かわいいクマさんですねー」

「霞ちゃんとお洋服がお揃いだなんて、流石ユウ様です!」

「しかもこの服の方は手作りじゃないですか……相変わらず女子力高いなぁ」

「……自信無くす」

「うふふ、今日から一緒に寝ようかしら」

 

そう言って人形を抱きかかえる霞の表情は穏やかに微笑んでいる。こうして永水女子麻雀部の女子トークはさらに盛り上がっていくのであった。

 

 




取り敢えず合宿のさわりは書いたものの……ぶっちゃけ宮守編とか永水編やりたい。
姫松とか関西、九州の学校は方言が鬼門。


まあ、何が言いたいかというと

宮守が天使すぎる

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