「……何処だよ、ここ……」
目が覚めたら、何処か知らない駅にいました。突っ立てるのもまずいので、外に設置されているベンチで考える人ポーズする。え?本当にどういう状況なのこれ。確か昨日は一人さびしくベットで寝てたはず、何がどうしたら外にいることになるの?ついに超能力でも目覚めたのか俺。
ごそごそと探っていたポケットからスマホを取り出して時間を確認しようとした時、液晶に映る美少年。美、少年……
「ちょ、別人じゃねーか!」
女子顔負けの黒髪に白い肌、それにルビーのような赤い目。どうみても別人です、ありがとうございました。これは将来モテるに違いない顔ですよ。だが、中が俺みたいなコミュ障彼女いない歴=年齢でなければな。残念、彼のリア充ライフは終わってしまった!
そんなことを思えば、自然と流れそうになる涙。いや、違うから!いつもクラスでぼっちだったわけじゃないから!ちょっとシャイボーイだっただけだから!
下らない事を考えながらも荷物をあさり、手がかりを探す。欲しいのは自分の名前と住所、後は所持金とこの世界の手がかりになりそうなもの。背負っていた大きなリュックにあったのは数日分の着替え、下着、パジャマに通帳そして――
「麻雀の本?」
相当読み込んだのが分かる麻雀の本が数冊押し込まれていた。その横にあるこれまた相当書き込んである手帳。それらをパラパラとめくる。めくるたびに顔が強張っていくのが自分にもわかった。
前の世界では考えられないくらいの麻雀ブーム、小学生でも麻雀を触っているという違和感、注目されまくっている美人雀士、これらが指し示す事つまり……
「これ、咲じゃねーか……」
咲、金が絡むギャンブル麻雀ではなく女子高生が頑張る青春麻雀漫画。かと思いきやその実態は、ただの超能力麻雀である。あれだよ、テニスがテニヌだったみたいな感じであっているはず。アニメも放映されていたが、あんまり覚えていない。
分かっていることは「超能力持ちの女子高生」「主人公は咲という女子高生、長野県」「美少女雀士メイン」くらいだ。
思わず頭を抱えた。
全っ然役に立たねー!生まれてから数十年、麻雀や競馬などギャンブルとは無縁の世界で生きてきた。高レートで賭け事して絶望みたいなこともないし、一攫千金でぼろ儲けなんてこともしたことがない。
だが、それでは駄目なのだ。この世界において、麻雀の腕は必須。恐らくこの熱狂ぶりを見るに、お見合いの条件でも「麻雀検定○○級以上のみ」とか、喫茶店でも「麻雀が打てない人お断り」みたいなことがあるに違いない!
深いため息が自然と口からもれた。仰いだ空は憎らしいほど晴天で雲一つ見つからない。そんな絶賛ネガティブ中の俺に近づいてくる足音が聞こえた。
「黒羽くん、久しぶりね」
「はい、お久しぶりです赤土さん」
取り敢えずこの体の名前は判明したようだ。つーか、名前とか心配してたけど全自動で口からでてきた。ラッキー!このへんは心配しなくてよさそうだ。
◇◇◇
赤土晴絵は横に座る少年から不思議と目が離せなかった。黒羽悠斗、小学生とは思えないほど沈鬱な表情で外を眺めている。
人目を惹く容姿をしているとは思う。華奢な体つきに、宝石のような赤い瞳。だが、それだけが原因でないことは分かっていた。匂うのだ、隠しきれないほどの強者の匂いがこの少年から。例えば準決勝で自分をぼこぼこにしたあの小鍛冶健夜のような、いやそれ以上の才能かもしれない何かを感じた。
もし、もしこの子と全力で打てることが出来たら自分は、あのトラウマを乗り越えられるかも知れない。そんな希望が頭をよぎった。
加えて、彼は亡くなった友人の子供であった。両親を失い沈んでいた彼から急に「あなたと麻雀を打ちたいので、奈良に行きます」とか言われた時に返す言葉を、晴絵は知らなかった。取り敢えず勢いでオッケーしてしまったものの、彼の傷を抉るようなまねはしたくない。
そんな気持ちもあってか、極めて明るい雰囲気で話しかける。
「なあ、今日打つのは私とうちの教室の生徒二人でいいんだよな?」
「ええ。ご無理を言って申し訳ありません。ただ……これはどうしても必要なことでしたので」
「必要?」
「両親がいつか打ちたいと願っていた人と打つ、それを俺が叶えることで少しでも心残りを無くしたかったので」
(地雷踏んだー!)
思わず晴絵は心の中で叫んだ。一番踏んでいけない地雷を思いきり踏んだ少し前の自分を殴り飛ばしたい。彼はそれ以降口を閉ざし、外を見ている。車内にどことなく気まずい雰囲気が流れ始めたところで、救いのように目的の場所に着く。さっきまでの失態を消すかのように、明るく話しかける。
「ようこそ、阿知賀こども麻雀倶楽部へ!」
◇◇◇
赤土さんという美人に連れられること少し、俺は今卓の前に座っていた。牌に向けていた視線を前に向ければ赤土さん、左右に向ければこの教室の生徒である少女二人、そして俺の後ろにはたくさんのちびっこ。
どうしてこうなった……
この麻雀教室は女子高の一角を借りて赤土さんが開いているものらしい。女子高にあるのも影響しているのか、ここには男子はいない。今打っている俺を除いて。やったー、ハーレムぅ!と喜べる状況ではない。こんなちびっこは範囲外だし、そもそも手を出した時点でおまわりさんの登場である。
この世界において麻雀で圧倒的に強いのは女子だ。男子はあんまり強くないというのが俺の認識のだが、この少年はどのくらいなのだろうか。ともすれば震えそうな手を抑え、牌に手を伸ばす。頼むから、無様に負けるようなことになりませんようにっ……今までないほど真剣にこの体に祈る。
「っ!(この感じ、やっぱりこの子……小鍛冶さん以上!)」
「う……(何この嫌な感じ、まるで氷を背中に入れられたみたい。怖いよー!)」
「ひうっ(どうしよう、おねーちゃん……)」
何か周りの人が凄い勢いで離れたんですけど。そんなに怖い顔してたか?いくらちびっこといえど、おにーさんちょっと傷ついちゃうぞー
というか、この体勝手に麻雀やってくれる。マジで嬉しいわー!ルールとか役とか全く分からないド素人は引っ込んでます。麻雀流行ってる世界でどうなることかと心配してたけど、この分なら平気かもしれないな。むしろ、美人雀士がたくさんいるこの世界、美人なおねーさん探しに行くのもいいかもしれないな。
「ふっ」
思わず笑みが漏れた。
ネガティブに考えても仕方ないのだ。どうして俺が少年に憑依することになったとか、元の世界に戻る方法とか、いくら考えたって分かるはずが無い。だったら、この状況を少しでも楽しもう。
そんなことをつらつら考えているうちに対局は終わっているみたいだ。どれどれ……
「俺の勝ちですね」
点数から様子は分からないが、赤土さんとは僅差でほか二人は桁が違う。実はこの少年ちょー凄いんじゃないの?いや、麻雀分かんないけど。
「ありがとうございました赤土さん。では、俺はこれで……って、え?」
そう言って退出しようとした時、袖を掴まれる。この子は一緒に卓を囲んでいた子だ。
「もう一回、もう一回やって欲しいのです!」
「いや、でも……」
「勝ち逃げは許さないのです!」
さらに力を込められ、ぐいっと顔が近づく。息がかかりそうな距離でよく見るとこの子も相当美少女だ。思わず目をそらす。彼女いない歴=年齢の俺にはきついっすよ、先輩!と動揺する俺を余所に、赤土さんが俺の肩を掴んだ。
「悪いが、もう一局付き合ってもらうぞ」
「あっ、はい」
有無を言わせない笑顔だった。
◇◇◇
「っはー!疲れたー」
電車に揺られ俺は外を眺めながら、これからのことを考える。
あの後の対局も俺が制した。もう一回もう一回とせがまれること数回、やっと教室から解放されたのはいいものの、何故か懐かれたちびっこどもが泣き出して大変だった。あの対局した美少女とはアドレスも交換させられたし、赤土さんからはまた来いよと笑顔で脅される始末。
取り敢えずはこの手帳に書かれた場所に行くか。この体の少年の目的を無下にはできないし。ぱらぱらとめくる手帳には数ページにわたって、人の名前と住所が所狭しと書き込まれてる。
北は北海道から南は九州まで、いったいこれらを全て行くまでにどのくらいかかるのか……やめやめ、こう考え直そう。俺は「美人雀士に会いに行く」のだと!こう考えれば、心も弾んでくる。
待ってろよ、美人なおねーさんたち!
これは麻雀が世界的競技となった世界で、美女・美少女を探すために麻雀を打つ少年の物語。
頭空っぽにして短編書いて現実逃避してました。連載してみたいけど、他があるから無理っぽい。