正義の味方と幼き勇者 作:Y2
たぶん次回で出ると思います
衛宮士郎の朝は早い
昔から魔術の鍛錬と家事のために早起きするのが習慣となっており封印指定されて魔術協会に追われるようになってからもその習慣は変わらなかった、むしろ満足に休息を取れない程短い睡眠だった時もある
遥か昔、自分がまだ未熟だったころはこの家に住んでいた。
家の部屋の間取りは頭が忘れていても体が覚えており掃除するのに不便はなかった
最小の動作と最大の効率で掃除をしていく、長年鍛えられた執事スキルは伊達ではないのだ。
家の掃除が終わりふと時計を見ると長針は6の数字を指していた
「丁度いい、この体がどれ程のものか試してみるとしよう」
庭に出て簡易的な結界を貼る、魔術師がいない事は分かっているが万が一の可能性を考慮し外に魔力が漏れない様にするための結界だ
「
もはやお馴染みとなった言葉
手にするのは自らが愛用している夫婦剣、干将・莫耶を投影する
(投影の負担が軽い…これも世界のバックアップか?)
投影、というのはざっくり言うと無から有を生み出す所業だ。(士郎の投影は厳密に言うと違うのだが)
もちろん世界がそんな矛盾を許すはずがなくそれなりの負担がかかり、投影品は劣化するのがオチだ
しかし世界からのバックアップからか投影の負担は軽減されている、流石に劣化はしているが
「螺旋剣程の物を試す訳にはいかないな、始めるか」
詳しく調べたい所だがこんな所で魔力を消費し大事な時に魔力が枯渇でもしたら本末転倒だ、今はとりあえず鍛錬を優先する
「せい――――はっ――――――!」
剣を振るう
才能がない者がただひたすらに研鑽を積み上げた剣技、それが衛宮士郎の剣技だ
敵は常に己自身、イメージするのは常に最強の自分だ
30分程剣を振るい、実感する
(これは最盛期に近いんじゃないか…?)
衛宮士郎が覚えている中で最速の動きが出来ている、世界とやらはよほど俺に肩入れしているらしい
一息つき次の鍛錬に入る
目を閉じこれまでに出会った英霊と記録として入ってきている英霊の中からランダムに一人選び、目の前にいると仮定する
「―――――ふっ!」
今回の仮想敵は冬木で出会ったランサー、クーフーリン
ランサーのクラスの中でも3本の指に入る強さを誇る最速の英霊だ
彼と戦っている事を想像しながら剣を振るう、先ほどまでの体の調子を確かめる剣技ではなく自分の命を守り人を殺すための剣技だ
「くっ…最盛期でもこれほどか」
再び30分が経過し、鍛錬を終了する。
脳内シュミレートでは剣が弾かれたのは20回、致命傷となりうる傷を負ったのは8回だった
「俺もまだまだだな…」
超えるべき壁は高い、もっと鍛えなくてはなと思いながら汗を流しに行った
赤い、紅い、朱い世界を見ている
空は暗雲で覆われ周りを見渡せば万物を焼き払う炎、そして顔を上げると黒い太陽のようなナニカがあった
「ひどい……」
そんな感想を抱けるのはこれが夢だと分かっているからだろう、こんなに炎が燃え盛っているのに彼女は熱気を感じないのがその証拠だ
「これは一体…?」
夢とは記憶の整理で見る物、と聞いた事がある。が、このような惨事を友奈は経験した事はない、一体これはなんの記憶なのだろうか
「!男の子!」
呆然としていると、炎の海から一人の少年が歩いてくるのが見えた
年齢は5.6歳程度だろうか、その足取りは覚束なく今にも倒れそうだ
「っ!」
その様な子供を見捨てられる友奈ではない、すぐに駆け寄り手を取ろうとするが
「……えっ?」
その手は少年の体を過ぎ去ってしまう、まるで自分が幽霊にでもなったかのようだ
その少年も友奈に気づいてる様子はなくふらふらと歩き続ける、まるでそうするのが自分に課せられた使命だとでも言わんばかりに
が、それにも限界はある。
既に少年の体力、精神力共に限界だった、地面に崩れ落ち虚ろな目で空を見上げる
「――――――」
友奈は泣いていた
その少年の境遇を不憫に思ったのか、その心が死んでいるのを無意識の内に悟っていたのか、それは判らない
ただただ涙が止まらなかった
そんな時、一人の男性が少年の元へと駆け寄った
ボロボロの黒いコートに何かに必死になっている目を目にした男性だ
その男性は少年の手を掴み、本当に嬉しそうにこう言った
「ああ、生きてる――――――」
涙を流し、まるで救われたのは少年ではなくその男性の様な、嬉しい、優しい声。
その意味を友奈は理解する事はできず
ここで、夢は終わった
結城友奈は朝に弱い
と言うより衛宮士郎などの早起きの習慣でも付いてない限り人間は朝に弱いものだ、特に冬の布団は魔性のアイテムと化す
ともあれ彼女が目覚めたのは7時30分頃だった
「ここって……あ、そういえば私…」
頭が覚醒し、ここにいる理由を思い出す。
勝手に旅に出るなんて勇者部の皆には申し訳ないが、友奈は人が傷付くのが我慢できない少女だった
「いい匂い…士郎さんが朝ごはん作ってくれてるのかな?」
衛宮士郎の料理スキルを昨晩思い知らされた友奈は士郎の食事が楽しみとなっていた。勇者という責務があるにしろ彼女はまだ中学生、料理を楽しみにするかわいい一面もある
なにはともあれあまり時間はかけられない、料理は温かい方がおいしいものだ。手早く着替えをすませると居間に向かった
「え?今日は自由行動なんですか?」
「ああ、俺はとりあえず街全体に魔力反応の結界を張らないといけないからな」
朝食後、今日の方針を二人は話し合っていた。
ちなみに朝食はお米に魚に味噌汁、一般的な日本食だった
「友奈は魔術はわからないだろう?その間家にいるのも味気ないし散策しているといい」
「手伝いたいけど私がいても迷惑だろうし…わかりました、図書館に行ってきます」
そんな会話をして二人はすぐに行動を開始した。
結城友奈はそれなりに歴史に興味がある、親友の東郷美森が歴史に興味があるのが原因だろう。
そして友奈の世界はウイルスによって四国以外の世界が滅んだことにより外の世界の歴史は平成で止まっており、それ以降の歴史はない。違う世界とはいえ自分達の世界で滅んだ国の歴史には興味があった。
「おっきい図書館だなあ…」
友奈は風芽丘図書館という場所に来ていた、昨日の買い出しで要所となりそうなところは大体覚えているのだった。
早速中に入りすぐさま歴史のコーナーに向かう、予想よりも膨大な量の本があり目を真ん丸にした
(東郷さんがいたら目を輝かせそうだなぁ)
そんなことを考えながら目についた本をとっていく。
3冊目を取ったとき何気なく周りを見渡すと、車椅子に乗ったまま懸命に腕を伸ばし本を取ろうとしている少女がいた、年齢は8,9歳ぐらいだろうか?
「届かへん…!」
車椅子という機器の不自由さは友奈もよく理解している、東郷に長年付き合っていたのは伊達ではないのだ。
ともあれ困っている人を見捨てられる友奈ではない、すぐに近づきその本を取って少女に渡した
「はい!この本が取りたかったんだよね?」
「あ、おおきに。助かりました」
こんなことをされたのが意外だったのか、少女が目をぱちくりさせている
「高いところにあるものを取ろうとしたら危ないよ?誰かに手伝ってもらわないと…」
「心配してくれてありがとうございます、でもうち一人だから…」
そういって悲しそうに目を伏せる少女、親友に似た境遇の少女を放っておける友奈ではない。
あることを思いつき、すぐに行動に移した
「私、結城友奈!貴女は?」
「あ、うちは八神はやて言います。」
「はやてちゃんだね!よろしく!」
日差しの差す図書館で二人の少女が出会った
守護の力を振るう者と夜天の力を振るう者
二人の出会いが未来をどう導くのかはまだ誰も知らない
はやての口調に違和感がないかすごい心配