Fate/SAO それ行け、はくのんwith赤い暴君 作:蒼の涼風
ローマ皇帝ネロ・クラウディウス。その象徴たる黄金の劇場は、いかなる相手であってもその能力を数割、削ぐ。
つまり、本気で戦えなくなる。残り二画となった令呪の描いてある左手甲を、右手で握り締めながら、私は勝利を確信した。
そう。いつだって、劇場は絶対皇帝圏。ここぞと言うときには、いつも勝利に導いてくれた正しく私達の切り札。
「行くぞランサー! この一撃にて滅せよ……
その技は、彼女が黄金劇場を開いている時のみ使える技。彼女の剣が、ランサーの体を切り裂いた。
「まだだ……
さっき、ランサーに叩き込んだ
ここで油断しちゃいけない。サーヴァント相手だと、どんな手で逆転されるか。ひとつ読み間違えただけで、逆転されて負ける何てことは、あの聖杯戦争では多々あった出来事だ。実際、逆転を繰り返してきた身としては、明日は我が身と言う言葉が身にしみる。
「燃え盛れ炎、これぞ余の情熱。しばし私情を語ろう……余は奏者が、大好きだ!
しばし? なんて突っ込みを入れたくなる。
四六時中語ってないか、その私情。
けれど、そんな叫びと一緒に突進したセイバーの剣は、大きく燃え上がり貫いたランサーを爆発に巻き込んだ。それは、末期の言葉さえも許さぬ、全てを燃やし尽くす炎。依然語った、彼女の【愛】の形その物にも思えた。HPを全損したランサーと、ランルー君はガラス片……じゃなく、あの時と同じ。少しずつ砂糖菓子のように消えていった。
「おわ……った?」
「うむ、奏者よ。そなたの勝利だ、見事な指揮であった」
くるくると、その剣を簡単に頭上で回転させたセイバーは満足そうに息を吐き出して戻ってきた。
そう、勝った。生き残った。その安堵感から思わずその場にへたり込みそうになるものの、周囲から新たに注がれる疑惑の視線に気分が重くなる。
「ジブン、さっきの奴……あれ、プレイヤー、か? PKしたっちゅーことか?」
最初に声をかけてきたのは、キバオウさん。その声には、動揺を隠せないのがありありと感じ取れる。
リンドさんや、2人の仲間として行動している多数のプレイヤーからも、「PK」や「それって人殺し……」と言う言葉が何度も聞こえた。
「貴様ら、黙って聞いていれば――!」
「良いんだよ、セイバー。人の命を奪ったのは確かなんだ。それが……あの人であっても、ね。行こう……次の町【タラン】にはとっても美味しいケーキがあるんだって。がんばったご褒美に買ってあげる」
今にも爆発して、プレイヤー達に斬りかかろうかという勢いで剣を握るセイバーを止めて、笑顔を作る。
多分、私達が次の町に行く事で、大多数の人はマロメに戻るのだろう。それか、近くの安全エリアで野営でもするかな。
そんなことを考えながら、まだ怒りが収まらないセイバーの手を引き【タラン】に向かうことにした。ケーキ、楽しみだね。セイバー。さあ、気持ちを切り替えて前を向こう。もともと自分達はこの世界の招かれざる来訪者と言う奴だ、なら無頼を気取って進もうじゃない。
何が起きたのは、理解できなかった。ベータテストの時には存在しなかったサーヴァントという存在。正直俺は、彼女……ハクノンが何らかの切欠で得た、彼女だけのエクストラスキル――いうなれば、ユニークスキル――なのだと思っていたのだけれど、違ったのだろうか。【ランサー】と名乗る男と、傍らに居た不気味な存在。そのあり方は、表面的には違えど、ハクノンさんとセイバーさんによく似ているような気がした。
そして、俺が気に入らないのは。
「何で、皆を守ってくれたのに、そんな言葉しか口に出来ないんだ」
「今は、感謝以外の何を口にするというの?」
ふと、思わず漏れた言葉と隣に居たアスナの言葉が、同じように漏れる。そうだ、彼女はこうなる事を承知で戦ってくれたんだ。だからこそ新参のタンク部隊、たしか
「俺は彼女の後を追いかけようと思う。アスナ、君はどうする?」
「もともと、彼女はわたしのパートナーなの。そりゃあ、プレイヤーを殺したことや、まだ話してないこととか色々あるけど。今、あんな顔で一人で行こうとするハクノンを見捨てるようなことをすると思う?」
しれっと言い放つアスナの横顔は、何てことも無いと言い放つ。
そうだな、さっきもアスナはしっかりと言い放ったところだった。「仲間だと思われるのが嫌なら引きずり出したりしない」と。
きっと、彼女はこうやって孤立しそうな人に対して等しく手を差し伸べるのだろう。いつか、きっと……いや、必ず彼女は攻略組プレイヤーの先頭に立ち、導く立場になると思う。
そんな姿を見てみたい。いや、願わくば隣で見ていたと感じるのは、俺の我侭だろうか。
「行きましょう、早くしないと追いつけないわ」
そんなアスナの声に俺も走り出そうとしたのだが、ふと呼び止められた。
そこには、キバオウ……一層攻略時から、あまり良い印象は持てなかったけど、彼は彼のやり方で攻略すると人づてに伝言を残してきたのはよく覚えている。
「ワイも追いかけたいけど、曲がりなりにもギルドの真似事をしとるんや、一人勝手には動けへん。アイツに、助かった……何か困ったことがあったら、今度はワイが力になる。そう、伝えてくれへんか」
何処と無く照れくさそうなキバオウの言葉に、うわー男のツンデレってこんなのかなーなんて悠長な感想を感じながらも、頷いてその場を後にする。
アスナが皆を引っ張って攻略していくなら、きっとハクノンさんはその先を行って道を切り開いていくだろう。傷ついて、落ち込んで。それでも挫けずに、ただ前を見つめて進む……そんな予感も、したんだ。
「あれがタランか……思ったより大きな町かも」
ゆっくりとした足取りで、タランへと向かう。視界の隅にあるHPバーはさっきの戦闘中にセイバーが飲んだポーションが利いているみたいで、6割ぐらいまで回復していた。
そう言えば、宿を取ったりとか美味しいご飯を食べさせてくれるお店だとか、今までアスナが探してくれていたから、探すの初めてだなぁなんて考えながら歩いてると、後ろから殺気!?
慌てて振り向くと、そこには何か機嫌の悪そうなアスナさんと、キリト君?
えーっと、何か御用でしょうか。
「バカ! パートナーを置いて一人で先に行くなんて、危ないじゃない!」
そう聞こうとする前に、響くアスナの怒鳴り声。
うあー、耳に響くよ。きーんって。
「まあ、そう言うことだって。ソロを気取るのも良いけど、ソロプレイには絶対的な限界があるんだ。一緒に行こう……それと、守ってくれてありがとう」
隣のキリト君が、どうどうとアスナを抑えながら苦笑いで告げてくる。どうしよう、そんな言葉をもらえるなんて、思っていなかった。
「……キバオウさんからも、『助かった、今度はワイが助けになったる』ですって」
そっか、そんな風に言ってもらえるなら、頑張った甲斐もあったと思って良いかな。
「奏者よ、そなたの国にこんな言葉があるのだろ? “情けは人のためならず”と。正しくそれではないか!」
隣で一部始終を聞いていたセイバーが、嬉しそうに。本当に嬉しそうな笑顔で私を見つめてくる。何だか視界が滲んでくる。
これで、ちょっと強気な友人なら「信じられない、泣かされた」なんて強がるのだろうけれども、私は無理そうだ。
キリト君がその後の話を纏めてくれて、4人でタランを目指すことになった。
そうだね、この2人になら話して良いのかもしれない。どうして私がランサー達を知っていたのかとか、セイバーのこととか。
少しだけ軽くなった気分のまま、私の足はまた前へと歩き始めた。
はい、今回はランサー戦決着と、これまであまり絡んでこなかった本来の主人公キリト君と合流してもらいました。
この4人、やっとそろった……長かった!
それでは、また次回。