Fate/SAO それ行け、はくのんwith赤い暴君 作:蒼の涼風
第四話、お送りいたします。
今回話は進みません、すこしワンクッション回でございます。
それでは、どうぞ。
とりあえずこれから使う武器も決まった。アスナさんの案内で宿も取れた。2層の新しい街では所謂街開きというお祭りを行っているそうだ。
そんなお祭り騒ぎが大好きなセイバーも、いきなりのボス戦で疲れたようで、今はベッドで眠っている。
ひとつ気がついたのは、セイバーには所謂HPゲージがなかった。セイバーがダメージを受けると、そのダメージ値は私のHPから減らされていた。
つまり、生きるも死ぬも一緒と言うことだ。何だ、前と一緒じゃないか。
「……と、ここまでがわたしの知っている【この世界の現実】。どう、少しは役に立ったかしら?」
因みに今さっきまで、目の前のアスナさんが懇切丁寧に【ソードアート・オンライン】に突如として現れたゲームマスターが言い放ったルールを説明してくれた。
いわく、ここがVRMMOと呼ばれる、体感型オンラインゲームの中であること。サービス開始初日に、通達された仕様。即ち【ゲームクリア者が出るまでのログアウト不可】と【ゲーム中での死亡は、現実世界の死亡に繋がる】と言うもの。加えて、ゲーム開始から2ヶ月が経過しようやく第1層がクリアできたものの、私も経験したようにその全体を率いていたリーダーが死亡。離脱したこと。
「どこの世界でも、どうしようもないことを始める人間って、いるもんだ」
思わず漏れた呟きに、不思議そうに首を傾げられちゃった。
そりゃそうだよね。でも、月の話なんて出来ないし、曖昧に笑ってみる。
「ハクノンさん、まだ何か抱えていますよね? まあ、でもリアルの詮索はマナー違反だってこの攻略本にも書いてあるし。深くは聞きませんよ」
なんと、ゲームの中に攻略本とは。え、でも【大丈夫、アルゴの攻略本だよ】って書いてあるそれ……なんだか旧世紀に似たような表記でとんでもない誤情報を載せまくった攻略本が会ったとか。
うへー、うさんくせー。
「大丈夫よ。アルゴさんは本当に皆の攻略に役立つように作ってくれてるし、実際この攻略本のおかげで随分助かったわ」
ちょっと、気を悪くさせたみたい。そっか、アルゴさんって人はアスナさんの知り合いなんだね。
じゃあ、鉄球を振り回すロボットに乗ってそうな名前だとか、口に出さないほうがいいかな。
「それで、ハクノンさんはこれからどうするんですか? 私は次の階層へ挑戦してみようと思っているんですけど」
そう言って、こっちの反応を確かめるようにチラリと見てくる。
正直、このままこの世界に関わって良いのかという迷いもある。
「ひとつ、聞いてもいいかな?」
「ええ、どうぞ」
「どうして、アスナさんは上に行こうと思ったの? 安全な場所で助けを待つことも出来たんだよね?」
その問いかけは、きっとこれまで自分で何度もしたのかもしれない。もしかしたら、誰かにそうやって投げかけたのかもしれない。
彼女の顔は迷いもなく、まっすぐに私を見て言葉を紡いだ。
「何もせずゆっくり腐っていくくらいなら、最期まで全力で戦って、満足して死にたい。例え怪物に負けて死んでも、このゲーム……この世界に負けたくない、最初はそう思っていたの」
そう漏らされたアスナさんの顔はどこか寂しげで、それでいて守ってあげたくなる表情をしていた。
「でもね、この世界でも美しい場所はある。美味しい食べ物もある。何より、相棒だって思える剣と出会わせてくれた人がいる。だから、私は前に進みたい。彼に置いて行かれたくない。生きて、この世界を脱出してみせる。そう思ってるの」
けれども、その決意を語ったアスナさんは強い決意をもって言葉を区切った。前に進む。それは月の聖杯戦争で、私が最後まで……腕が吹き飛ばされようが、足が消されようが失わなかったひとつの意地と同じ。
そんな言葉を聴いちゃったら、私の答えも決まってしまった。
「じゃあ、私も上に行く。戦力面ではそんなに役に立たないけど、セイバーが褒めてくれたように、少しなら戦闘指揮も出来るし。それに、ゲームはクリアしてなんぼだしね。だから、少しの間でもいい、手助けしてほしい」
伝えて差し出した手のひらは、暫く悩むそぶりを見せたアスナさんの手と、しっかりと握り合わされた。
「こちらこそよろしく、ハクノンさん。正直、一人じゃ本当に心細かったの」
「ハクノンで良いよ。よろしく、アスナ」
一緒に次の階層に進もうと約束してアスナが帰った後、ベッドで眠っているセイバーの隣に腰を下ろし、その滑らかな金髪に触れてみる。
うわ、さらさら。何これずるい、ずっと触っていたくなる撫で心地。
「奏者よ、頭を撫でられるのは良いが。少しくすぐったい」
ふと、漏らされた言葉に手が止まる。あれ、起きてましたか。
「本当に変わらんな、奏者よ。自分の為ではなく、誰かのために戦う決意を固めるとは。だが、余は……いや、私は、そのようなそなたが大好きだ。ならばこそ、この身は髪の一本に至るまで奏者にそなたに捧げよう。暴君とまで呼ばれた余が誰かにここまで尽くすのはそなただけだぞ、ハクノ」
そういって笑う少女の顔は、皇帝としての仮面を外してただ一人の人間として私を見てくれている。
「ありがとう。頼りにしてるよ、セイバー。それと、私も君のこと、その……好きだから、ネロ」
「……っ! 急に名前を呼ぶのはずるい。呼んでもらう気構えが出来てないし、きちんと聞き取れなかったではないか」
あはは、ごめんごめんなんて、ちょっと軽く謝ってみる。頭も撫で撫で。
それだけで機嫌が直っちゃうセイバー、なんてチョロイン。
「さてと、真面目な話。私は今までセイバーに指示を飛ばすだけで、自分で戦ったことなんて数えるほどしかないし、どれも言わずもがなって結果だった。だから、セイバー、お願い。私に戦い方を教えてほしい」
それは、今日の戦いを見ても明らかだった。ただ怯えるだけで、逃げるだけで。セイバーが来てくれなかったら、私はきっと成す術もなくあの場で光の粒子になって消えていただろう。
セイバーは渋い顔を作って、私に答える。
「奏者の考えていることはよく分かるし、余も奏者が戦う術を身に着けるのは賛成だ。だが、余では指南役にはなれぬ。余の剣技はいわば皇帝特権の賜物ともいえるからな、余人には模倣することは適わぬ」
残念そうに。本当に残念そうにそう言うセイバーのぐぬぬって表情、可愛い。ないす。
ああ、いやそうじゃない。セイバーに剣を習えないって事は、実践で使い方を学ぶ必要があるのだろうか。
「今は休もう、奏者よ。余は疲れた。ゆっくり休んで、明日になれば妙案も出よう」
そう、話を打ち切ってもぞもぞと、腰辺りに抱きついてきたセイバーはそのまま眠りへと落ちていった。
そうだね、きっと何とかなる。何とかする。今までだってそうして来たじゃないか。
自分に何も出来ないことも、何をすればいいのか定まっていないことも、何故自分がここにいるのか分からない事も。
分からないのは、今までどおり。なら、先に進んでいれば自ずと全ての答えが見えてくるだろう。
そう、自分に言い聞かせて今日は眠ることにしたのだった。
お読みいただきありがとうございます、蒼の涼風です。
第4話お送りいたしました。
今回は休息回&説明回と見せかけた百合回でございました。
剣女主、良いよね!が合言葉です。
それではまた、次回。