Fate/SAO それ行け、はくのんwith赤い暴君   作:蒼の涼風

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こんばんは。
はくのん27話、投稿させて頂きます。


Art27:無銘の英雄

――I am the bone of my sword(我が骨子は捩れ狂う).――

 

 そんな言葉と共に爆発的な衝撃がボスフロアを襲う。

 一時的にボスの取り巻きの狼形のMOBが全滅したんだけど、ボスに対してはそれほど大きなダメージにはなっていなかったみたい。暫くのスタンと、幾ばくかのHPゲージの減少はあったけれど、状況は大きく変わっていない。

 

「やはり、今の状態ではこれが限界か」

「おい、アンタ! 何や今の!?」

 

 チッと舌打ちを漏らす名無しと、すぐに状況を把握してこっちに走ってきたキバオウさん。

 

「なに、虎の子と思って用意しておいた、手製の投擲武器だ。ありったけの素材を使って着弾地点で爆発に似た衝撃を引き起こすように調整していたのだが、雑魚殲滅程度にしか役に立たなかったな」

「その武器……まだあるんか?」

「言っただろう、虎の子だ、と。一発しか用意できなかったよ」

 

 うがーなんて頭を抱えてるキバオウさんと、とてつもなく絶望的な状況を平然と言ってのける名無し。

 正直この名無しはこういう絶望的な状況を何度も乗り切ってきたんじゃないかと思えるような佇まいだ。

 

「アスナ、どうする。装備破壊MOBだとすると、明らかに準備が足りない。一度引き返すか!?」

「そうね……いえ、だめ。ここまで来て引き返すわけには。あとはボスだけなんだか……ら?」

 

 キリト君の問いかけに、アスナが思考を巡らせて戦闘続行の判断を下そうとしたのとほぼ同時に、雑魚のポップエフィクトが浮かび上がる。

 まじ?

 

「奏者、これは上手くない。このままではジリ貧だ。流石に余も、一度に多数を相手取るスキルは持っておらぬ」

「だよね、こんな状況……どっちかって言うとシンジが連れていたライダーとか、ラニのバーサーカーとか。あの人たちが使ってたような面制圧ができる宝具でもないと」

 

 むむむ。セイバーは“決闘”には滅法強いけれど、こうやって大量の敵を相手取るのは余り得意じゃない。精精、その大ぶりの剣を使ってなぎ払うのが関の山かな。本当。真に厄介な敵は1の最強よりも最弱の無限ってヤツかな。

 もうすぐボスのスタンも切れる。そうなったら手詰まりだ。今のうちに退却しないと。

 

「さて、どうかな。面制圧を可能とする“世界”を、君の根源は知っていると思うがね」

 

 ふと、そんな言葉が耳を打った。

 振り返ると、そこには口元ににやりと笑みを浮かべたまま佇む名無しの姿。

 ふ、と。私の意識がどこかに飛ぶ。そのヴィジョンは、月の聖杯戦争。

 でも、自分なのに自分じゃない。そこに居るのは一人の男子生徒だし、隣に居るのはセイバーじゃなくて名無しだ。そして、彼の宝具。

 そこまで見た後、強い動悸と一緒に崩れ落ちそうになる自分の足に渇を入れる。見つけた。

 

「どうすれば、いい?」

「魔力が必要だ。仮初のパスを繋ぐぞ、令呪を使え!」

 

 こくん、と頷く。令呪をここで使い渋っていられる場面じゃない。自然と、頭に浮かんでくる仮初のパスを繋ぐ呪文。これは、どこかで聞いたような。それとも、ただの気のせいなのかな。

 

「――告げる。汝の身は我が下に、我が運命は汝の剣に! 聖杯のよるべに従い、この意、この理に従うのなら――」

 

 右手が熱くなる。

 令呪が消費されるときの膨大な情報量が、自分の体内を駆け巡る。けれど、言葉は止まらない。

 

「――我に従え! ならばこの命運、汝の剣に預けよう。無銘にして錬鉄の英雄――守護者、アーチャー!!」

 

 腹の底から、声を絞り出す。眩しい閃光と共に、右手に刻まれた令呪が一画消費されたのを感じる。

 

「アーチャーの名に懸け、誓いを受ける。今だけの仮初の契約ではあるが、君を主と認めよう、マスター」

 

 そこに居るのは、赤い外套を翻して白と黒の短剣を両手に持った、まごう事なき英雄。

 

「奏者、2体のサーヴァントと契約など無茶なことを……! それに令呪まで……!」

「大丈夫、無茶だけど無理じゃない。皆無茶を承知でやってるんだ、私だって、私ができるだけの無茶をやる……!」

 

 セイバーから飛び出した言葉を抑えさせ、令呪を使った痛みに疼く右手を押さえながら、次々とポップしてくる雑魚MOBと、より一層瞳に怒りを滾らせたボスを見る。

 

「だから力を貸して、セイバー。私一人じゃ、立ってるのが精一杯だから、私を守って」

「……うむ、任せよ。何人たりとも奏者に危害は加えさせぬ。後は任せよ」

 

 私の言葉に力強く頷いてくれたセイバーは、振り向きざまに剣を振る。

 

「っく、しかし剣の耐久値が見る見る減るな、これは。程度があろう!」

「ならば、耐久値を気にする必要の無い武器を用意するだけのこと」

 

 セイバーの悔しそうな言葉に被さるように、アーチャーが叫ぶ。

 

I am the bone of my sword.(体は剣でできている)

 Steel is my body, and fire is my blood.(血潮は鉄で心は硝子)

 I have created over a thousand blades. (幾たびの戦場を越えて不敗)

 Unknown to Death.(ただの一度も敗走は無く)

 Nor known to Life.(ただの一度も理解されない)

 Have withstood pain to create many weapons.(彼の者は常に独り剣の丘で勝利に酔う)

 Yet, those hands will never hold anything.(故に、生涯に意味は無く)

 So as I pray, UNLIMITED BLADE WORKS. (その体は、きっと剣でできていた)

 

 一つの結晶を割り、謡うように流れるその言葉が終わると同時に、ボスフロアが一面赤色の。燃えるような夕日と空中に浮く巨大な歯車に埋め尽くされた荒野に塗り替えられた。

 それは、セイバーが宝具として所有している黄金劇場と同じような、それでいて相反するようなそんな感覚だったと思う。

 次に、目に付いたのは地面に突き立てられた剣。まるで何かのお墓のように。

 

「この世界は無限に偽者の剣を内包する。いかに破壊されようとそれらは全て偽者、次の瞬間には存在している。この剣を使え、無限の敵が相手ならば、無限の剣で立ち向かえ!」

 

 告げるアーチャーの声に、戸惑いを見せるプレイヤー達。そりゃそうだ、こんな魔法みたいなこといきなり見せられたら、誰だって困惑する。

 

「ありがたい、使わせてもらうぜ!」

「私も、お借りします!」

 

 いの一番に近くの剣を抜いて、狼を切り払いながら駆け出したのはキリト君。次いで、アスナも近くの細身の剣を抜いて走り始めた。

 キリト君のジェットエンジンじみた突進が、アスナの流れる星のように流麗な連撃が、ボスに繰り出される。

 

「お前ら、ボサッとするな! まだダメージディーラーに(タンク)させるつもりか!?」

 

 その様子を見ていたエギルさんが、近くの剣を纏めて3本抜くと、両手に1本ずつと口に咥えて突撃する。

 

「昔こんなアニメーションがあってなぁ、一度やってみたかったんだよ!」

「エギルさん、こんなのもありましたよね!」

 

 ボスに肉薄するエギルさんの横を一緒に走る女性は、両手の指と指の間に剣を挟んで……うわ、6本も持ってる。と言うか筋力パラメーターどうなってるんですか、壁戦士の皆さん。

 

「うむ、余も暴れ足りぬ。もうひと暴れだ!」

 

 一度勢いの付いた軍勢って言うのはどうにも始末に終えないもので。

 なんというか、武器の耐久値を考慮しなくて良いとなると、人間こうも攻め一辺倒になるのかと思うほどである。

 結果として、今回のMVPは名無しことアーチャー。ラストアタックはキリト君で、狼の模様がでかでかと入った褌をドロップしたようです。

 

「い、いらねぇ」

 

 とは、本人の談でした。

 




みなさん、メリークリスマス!
そんな訳で、涼風さんからのプレゼントは最新話だよ!
え、いらない?

取り敢えず、70層フロアボス“ベルセルク”撃破です。
原作に追いつくまで残り5層……そろそろ終わりが見えてきても良いのかな。

いえ、きちんとした終わりは私の中ではまだ先なのですが、ホロウリアリゼーション、面白そうだな。

それではまた次回、2人の冒険にお付き合いください。

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