Fate/SAO それ行け、はくのんwith赤い暴君   作:蒼の涼風

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こんばんは、お待たせしました。
はくのん26話、投降させていただきます。


Art26:70層ボス攻略戦

 第70層迷宮区、フロアボス攻略戦。参加攻略組フルレイドの48人は、正直手を出しあぐねていた

 激しく地面を叩く衝撃音と、響く地鳴り。次から次に沸いて出てくる敵性MOBがことごとく消え去っていく。

 室内に響く轟音と、ものの数分前までは綺麗な石作りだったボスフロアは、見るも無残な瓦礫の山に化している。

 

「なるほど。そのまま文字通りとは。これは恐れ入る」

 

 隣で投擲用のピックを持ったままの名無しがぼそりと漏らす。

 

「しかし、アレはあくまで集団の名前だったはず。奏者よ、今回もまともなサーヴァントとは言いづらいな」

「ロビン・フッドの時と同じかな。“そうあってもらいたい”っている後世の人間の創造が作り出した、創作上の存在……みたいな」

 

 そう喋っている間にも、こっちを敵として認識した敵MOBがまた1体消し飛んだ。()()()()()()()()()で。

 第70層フロアボス。クラス、バーサーカー。真名はBerserkと表記されていた。

 確か、ノルウェー語でベルセルク。今ではメジャーなのは英語で最後に「er」が入るバーサーカー。

北欧神話においてワルキューレが集めた勇者の魂が軍神オーディンの加護を得たと言われる、異能の戦士達の総称であり正しくサーヴァントの1クラス、バーサーカーの起源となった存在。

 

「相変わらず無茶苦茶な存在だわ、サーヴァントって。攻略のための糸口すらつかめない」

 

 一番先頭でアスナがぎりり、と奥歯を噛んでいるのが分かる。確かに、どうしようもない。こんな存在。こんな障害は本来ゲームとして存在してはいけない。

 

「は! 糸口が無けりゃでっかい穴を開けたるんが筋やろが。お前ら、雑魚MOBは無視して突っ込め!」

 

 何時までも見ているだけではどうにもならないと判断したのか、ただ痺れが切れたのかキバオウさんが自分と同じギルドのメンバーに号令を飛ばす。

 それを見てリンドさん達も反対側から攻めるために駆け寄った。

 

「待て、無闇に突っ込むな! 出方が分からなさ過ぎる!」

 

 キリト君が咄嗟に声をかけたものの、怒号と轟音にかき消されて届いていない。

 ベルセルクがただ一振り、その手に持っている鉄塊を薙いだだけで、多くのプレイヤーが吹き飛ばされている。

 幸いHPが消し飛んだ人が居ないのがせめてもの救いと言えるかもしれない。

 

「しかし、どうするか。もし神話の通りであるならば、バーサーカーに武器での攻撃は通じず、火も効かなかったという。なかなかの難物だぞ?」

「武器が効かないってことは無いんだろうけど、恐らく物理防御がとんでもなく高いんだろうね。そんな相手は……レベルを上げて、物理で殴る!」

 

 右手を軽く振って、開いた令呪のコマンド。最近新しく解放されたスキル【コードキャスト】を展開する。選ぶのは【boost_str32】大幅にサーヴァントの筋力を上げる。

 正直これは魔法とかマジックスキルに相当するんじゃないかとも思うんだけれど、使用するのに結晶を1つ何でも良いから割らないといけない辺りで釣り合いをとっているようだ。

 

「筋力上げて押せ押せか、聖杯戦争の時から全く進歩の無い戦い方ではないか!」

 

 いや、正直セイバーはそれが一番強いんで。魂の改ざんで筋力全振りして呆れられたのも良い思い出。あは。

 それでも、筋力が上昇したセイバーはしっかり前に飛び出してくれて、バーサーカーに切りかかる。思ったとおり少しなら攻撃は通る。けれど、無駄に硬いその敵の防御力を突破するのは骨が折れそうだ。

 

「では、こちらも援護しよう……!」

 

 これまで成り行きを見守っていた名無しも、両手に投擲用の短剣を手に持って肉薄する。

 名無しが跳び上がり、放たれたふた振りの短剣が光を纏ってボスに突き刺さる。

 

「赤原を駆けろ……火の猟犬!」

 

 やっぱりソードスキルのライトエフィクトはかっこいいなー。なんて思いながら、私もブレイブハートを握って突撃する。横では、キリト君も一緒に走って肉薄する。

 

「セイバー、スイッチ!」

「任せた奏者!」

 

 タイミングを見計らって、セイバーと入れ替わる。振り下ろした剣に手応えといえるようなものは無かったけれど、これでいい。あくまで戦うのはセイバー。私はその時間稼ぎの為に手を打つ

 

「―――――!!」

 

 隣に駆け寄ってきたキリト君はジェットエンジンに似た音を上げて、赤い光を残して突進していてる。凄い、これまでの攻撃よりも大きめに体力を削ってる。

 キリト君の後ろから続いたアスナが、何度も無数の突きを繰り出して更にボスのHPを削る。やっぱり、このゲームで最高のコンビはあの2人じゃないかと。

 

「行くぞ、奏者。花散る天幕(ロサ・イクトゥス)!」

 

 セイバーの渾身の一撃が叩き込まれる。

 

「アスナ、行くぞ!」

「ええ!」

 

 キリト君の黒い剣と、アスナの綺麗なレイピアが次々と切り込んでいく。エギルさんの斧とクラインさんの刀が両腕を薙ぐ。

 HPが残り70パーセントってところかな。この調子ならいける。何だかんだ言っても回復が終わった軍と聖竜連合の人たちも攻撃に参加している。

 

「やはり、この空気。共闘と言うのは悪くない。むしろ良い。奏者、このままイケイケでいくぞ」

「待ってセイバー、何かが来る!」

 

 吼える。咆える。天高く。

 それは狂戦士の怒りか、高揚か。かの戦士の身に纏っていた熊の毛皮が、狼の姿へと変換されていく。いや、毛皮だけじゃなくてベルセルクそのものが、巨大な狼のモンスターに姿を変えた。

 それに合わせて、今までランダムに近いものを襲っていた雑魚MOBが急に統率が取れたように揃ってこちらを標的にし始めた。さながら、自分達より強い者に従う獣のように。

 

 

――宝具【狂戦士の激情(ウールヴヘジン)】――

 

 視界の隅にそう表現されたそれは、ベルセルクと並んで語られる。あるいは同一視する説ももたれている。

 キリスト教化前の北欧に存在したと言われる、戦闘集団。獣のように振舞って、敵の武器や盾に噛み付くような振る舞いをしたと。

……武器や盾に?

 

「うわああぁ!? 俺の、俺の盾がぁ!」

 

 叫んだのは、軍の壁戦士(タンク)部隊の一人。被弾してもその自慢の盾の防御力の高さでよく前線を支えてくれていた人なんだけど。

 守りの要の盾を失った以上、前線に居座り続けるのは無理な話だと思う。

 

「うわああ!!」

「装備破壊MOBだと!? ちくしょう、こんなの聞いてねえっ」

 

 鎧袖一触、まさに一撃でレイドメンバーが総崩れしそうな勢いで混乱が広がっていく。まずい、どうにかしないと。

 どうやって?

 以前のようにアスナの一喝? 無理だ。あの時とは状況が違う。同じ理由でキバオウさんやリンドさんの号令でも無理だ。直接自分の命がかかっている状況で落ち着けなんて無理な話だ。セイバーにも上手い手が見つかっていないみたい、苦い顔してる。

 

「死にたくない者は全力で避けろ! 薙ぎ払う!」

 

 次の瞬間、響いたのは名無しの怒号。

 私は確かに聞いたのと、目の錯覚じゃなければその瞬間は確かにあった。彼の手に弓が。

 

――我が骨子は捻れ狂う――

 

 膨大なソードスキルの光の奔流、ソレを眺めている名無し……いや、ノーネーム。

 一瞬だけ見せた彼のその手にあった弓は、次の瞬間には2本の投擲用短剣へと姿を変えていた。

 




……前回ちょい役で終わるんじゃなかったんですか、名無しさん!

ぶっちゃけてしまえば、リズの武具屋を皆が皆使ってるわけじゃないよな。→はくのんにも懇意の鍛冶屋があるはず→剣を打つならこいつ!

という単純思考ですが。バッドエンド回避キーパーソンです。いやマジで。

それではまた次回、はくのんとネロの旅にお付き合いください。

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