Fate/SAO それ行け、はくのんwith赤い暴君   作:蒼の涼風

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まるっきり2ヶ月ぶりの更新となってしまいました。
蒼の涼風です。

24話、完成しましたので投稿させていただきます。


Art24:夢中の邂逅

 ふと、気がつくとそこは宇宙。

 正しくは月面と言っても良いし、言い換えれば学校の校舎と言ってもいい。

 つまり、見たことがある。月海原学園……かつて月の聖杯戦争の舞台として過ごした場所。そこに良く似ている。

 

「何だ、此度の雑種は随分と呆けているな。聖杯戦争を生き延びた者らしからぬ顔だ」

 

 ふと、聞こえたその声は。どこかで聞いたことがあるような。全てを見下す傲慢さと全てを許す寛容さを兼ね備えたような、そんな不思議な声。

 振り向いたときに目の前に居たのは、黄金の鎧を身に纏った男性だった。

 

「あなた、は?」

「痴れ者が。誰の許しを得て我の姿を見て、我に言葉をかけている。我の知る雑種と在り様が似ているからこそ気まぐれに手を貸していたが、その無礼な首、撥ねてくれようか」

 

 急に、背中にぞくりとした殺気を感じる。ひれ伏せ、この男の怒りを買うなと本能が命じているのが分かる。

 

「しかし、まあ良い。我の意識を受け入れてなお正気を保っていられる貴様の気概に免じて、此度のみ不問といたす」

 

 思わず首を傾げる。此度、というのはこの一回だけなのか。それとも今顔を合わせている時間を指しているのか判断が付かない。

 

「どうした、我と会話するのを許すといっているのだ。何でも話せ」

「えっと……じゃあ、まず。あなたは……ひいっ!?」

 

 急に剣が飛んできたよ!

 怖いよ、このお兄さん!

 

「よもや我を見て誰だか分からぬなどと戯けた言葉を発する気じゃあるまいな? ふん、しかしそうか。ついあの雑種と同一視してしまうが……一度だけ名乗ってやろう。ゴージャスのサーヴァントだ」

 

 なんですかそれー!?

 あ、本人気に入っているっぽい。めっちゃドヤ顔してるし、心なしか鎧の金ぴか具合が増してるような気がするし。

 

「……なんだ、良い。許す。存分に笑え。我渾身のAUOジョークと言うヤツだ」

 

 あ、笑ってよかったんだ。分かりにくい、この人わかりにくいよ。助けてセイバー、へるぷみー。

 

「セイバー……そうだ、セイバーは!? 凛とランサーも!」

 

 ふと、こんなにのんびりしている場合じゃないことを思い出した。そう、自分はアインクラッドで皆を閉じ込めてるSAOの完全攻略を目指している筈だったのに、どうしてここにいるのか。

 

「ふん、心配はいらん。ここは貴様の、所謂心象風景の内部だ。現実……貴様のソレをそう呼んで良いのならば、あと10分もすれば目を覚ますだろうよ」

 

 そう愉しげに話す男の人、確かえいゆーおうとか言ってた。えいゆーおう、英雄、王?

 むむむむ、分からん。凛とかセイバーが居ればそのキーワードだけで目の前の人物が何なのかすぐに分かりそうなものを。

 

「時に雑種、貴様がこれまで使っていた剣だが、もとは俺のものだ。返してもらう。もとより、我以外扱いこなせぬ物だ」

 

 宣言されると同時に、私の腰にあったオリジンソードは光の粒子になって消えた。

 

「さて、ひとつ聞かせてもらうぞ、雑種。かつて聞かれた問いへの返答は、今も違わず答えられるか。この世界もあと30層を切った、クリアしてしまえば消滅する運命でしかないぞ。それでもなお、足掻くか。戦う力も持たぬまま」

 

 なんだ。何で今更そんな事。

 

「戦う力なんて、そんなもの私には最初から無かったよ。聖杯戦争でも、この世界でも生き残れたのは多くの出会いと、セイバーのおかげだった。私が出来るのは、ただ進むだけ。頑なに、それだけは守ろうって思ってやってきた。それは、私の誇りでもあるの。だから――」

 

 一度深呼吸。一言間違えただけであっさり私を殺しそうな相手に向かって、ありったけ。自分の思いを吐き出す。

 どうしてか、その傲慢さが懐かしいのは……彼もきっと、どこかの「岸波白野」と駆け抜けたことがあるのだろう。

 

「だから、戦う手段が無いなら作り出してみせる。消滅しか待っていないとしても、最後の瞬間まで笑っていて見せる。この世界で出会った大好きな皆の為に。私の剣として、盾として戦ってくれる彼女の為に……私は、自分から止まるなんて選ばないよ」

 

 とんでもない重圧の中、そう伝えた。それが精一杯の、ありったけの自分の意思。

 

「貴様のその精神、やはり厄介だな。その手の人間がやがて神を殺すだろう。良い、許す。思う様足掻くが良い。選別だ、この剣をくれてやる」

 

 そう言って男の人がどこからか出してきた剣。その見た目はどこかで見たことがある形、色をしていた。

 そう、それは時々キリト君が、普段使ってるエリシュデータの耐久値が怪しくなってきたときに使っていた剣、“ダークリパルサー”にそっくりなのだ。

 

「……ありがとう、大事に使います。いつかまた……ギルガメッシュ」

 

 そうするのが自然だと言うかのように、私の手はその剣を受け取って装備する。“ブレイブハート”……とある剣の原型、なんて説明がされている。

 無意識のうちに発した彼の名前が私の耳に届いたのと同時に、意識がホワイトアウトしていく。ああ――目が覚めるんだな、なんて暢気に考えながら、私は意識を手放した。

 

 

 

 

 

「奏者、奏者! 目が覚めたか!?」

 

 ゆっくりと瞼を開くと、視界一杯に泣きそうになっている良く見知った顔が映った。

 

「おはよう、セイバー……」

「おはようではない! 余がどれだけ心配したと思っておるのだ! ああ、分かっていた。分かっていたとも。そなたは必ず目を覚ますし、心配するだけ損だと言うことくらいな!」

 

 ぷりぷり怒りながら抱きついてくる辺り、本気で心配してくれたんだと思うんだけど、こんな状況でこういう感想もどうかと思うんだけど。

 ……可愛いなぁ。

 ふと、視界の隅に未読のメッセージが届いているアイコンが映っていたので、セイバーを宥める傍ら開いてみる。キリト君、クラインさん、エギルさん、リズさんやシリカちゃん。キバオウさんやリンドさんからも、心配してくれてるメッセージが入っていた。ありがたい。

 明日、それぞれにきちんとお礼のメッセージを送ろうなんて考えていると、不意に押し倒された。

 

「セイ、バー?」

 

 じっと見下ろしてくる真剣な表情は、心配してくれているのとはまた違ったもので。

 その表情に私は、思わず息を飲み込んだ。

 

「奏者よ、きっと疲れているのは分かっている。ただ、今夜だけは……その、奏者と共に眠りたいというか。アレだけの大きな仕事の後だ、余に褒美の一つでもくれても良いだろう。と言うか、褒美がほしい……ええい、じれったい。余に身を任せよ、ハクノ」

 

 耳元で囁かれる言葉に思わずどきりと胸が高鳴って、何も考えられずに頷いてしまった。

 これはいよいよアレだろうか。あーるじゅうはちとか言うやつなのだろうか。と言うか私が女の子で良いのだろうかなどなど訳のわからない思考が頭の中を駆け巡る。

 

「……すぅ」

「すぅ?」

 

 なんと、ネロ皇帝はハクノンの腕を枕に眠ってしまった!

 あはは、ですよね。岸波白野の物語は常に健全な青少年皆様にも楽しんでいただける作りになっています!

 

「ずっと起きててくれたんだよね。ありがとう、おやすみ」

 

 そっと、彼女の頬に唇で触れて眠りに付くくっついているだけで幸せな気分になってくるから、不思議だ。

 ……そう、翌朝あのメッセージを見るまでは、そんな穏やかな気分で居られたのだった。

 




やっとこさ体調不良と、オルガマリー所長の死から立ち直れました。
…どっちがどうかって?

それは……ねえ?

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