Fate/SAO それ行け、はくのんwith赤い暴君   作:蒼の涼風

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物凄くお待たせしました。
Art20をお送りします。




Art20:NPCの涙

 本当によく分からない。NPCを囮に使う作戦を反対して、決闘まで行って私の作戦を否定したくせに、その相手をこうやって遊びに誘って出かけている。

 本当にあなたは、何を考えているの?

 

「ねえねえアスナ、見て! アルゲードそばだって! 味気ないラーメンだ」

「アスナアスナ、あっちにデザインの良い下着屋さんがあるんだって!」

「アスナ、ここのケーキ――」

「アスナ――」

 

 つ、疲れた。二日間付き合えって言うし、遊びに行くって言うからもっとのんびり観光でもするのかと思っていたけれど、ハクノンは物凄い勢いで街にある店を片っ端から覗いて遊んでいた。

 

「ハクノン、何なの? こんなハイペースでまわってたら疲れちゃし、じっくり楽しめないじゃない!」

 

 そう言ったところで、わたしはハッと自分の口を押さえたのだけれど、もう後の祭り。はっきり言ってしまったのだ、二人の時間を楽しみたいと。そして、聞いていたハクノンは、とても嬉しそうに笑っていた。

 

「あはは、そうだよね。ちょっと飛ばしすぎだったかも。じゃあ、本当は明日行く予定だったんだけどフローリアに付き合ってくれる? ひとつ、片付けなきゃいけないクエストがあるんだ」

 

 そう言ったハクノンはどことなく気乗りしなさそうな口調ではあるものの、わたしを促してフローリアへと移動する。

 こんなところに何かあったっけ、とはてと首を傾げてしまった。

 確かに景色はいいし、植物が多くて女性には人気のフロアだけれど、もう最前線から10層近く下のフロアだし、今更何か用事があるともそうそう思えない。

 

「皆、そんなクエストなんか発生しなかったって言うんだけどね、私だけ何故か発生したクエストがあってさ」

 

 そう言ってハクノンが声をかけたのは、フローリアで花屋をしているNPCだった。

 

「こんにちは、リフィルさん」

「剣士様! 彼は、彼はどうでしたか……!」

 

 リフィル、と呼ばれた女性NPCはハクノンにしがみつくように問いかけているけれど、ハクノンは少しため息をつくと何かメニューを操作していた。そこで取り出したのは、折れた短剣だった。

 

「ごめんなさい、間に合わなかった。あなたの婚約者は、助けられなかった」

 

 その言葉を聞いたとたん、彼女は泣き崩れてしまう。きっと今ハクノンの目の前にはクエスト終了の文字が浮かび上がり、あと1分もすれば彼女は先程までと変わらず花屋の前の掃除を始めるだろう。今は彼女とパーティーを組んでいるから、わたしにもそう見えているだけで。

 パーティー? ちょっと待った、そもそも今はハクノンとパーティーを組んでいない。

 

「どう、して?」

「何かのバグなのか手違いなのか、この人の恋人が森に入ったまま帰ってこないってクエストを、私だけが受けれたんだ。で、クエストを進めてたらこの剣があった。この人の絵が入ったロケットと一緒にね」

 

 それはきっとありふれたバッドエンドクエストのひとつだと思う。恋人が行方不明で捜索依頼を出して、形見だけが見つかる。その後は復讐のためのクエストが始まったり。

 

「ねえ、アスナ。今、私たちパーティー組んでないけど、見えてるよね。リフィルさんが泣いているところ」

「……ええ」

 

 ただ、クエストの結果のひとつでしかないと言うのに、どうしてこんなにも。胸が締め付けられるのだろう。

 

「私は、この結末を見るのが嫌で今までクエストの完了報告をずるずる引き延ばしてた。だって、辛いじゃない。こんな涙。どうして、ただのプログラムが流す涙に、こんな辛い気持ちになるんだろうね」

「それ、は」

 

 もう、彼女が伝えたかったことがわかる。きっと、ハクノンは身をもって、わたしが取ろうとした作戦の先にあるものを教えようとしたんだと思う。

 

「こんな人が、私の作戦で……生まれる、かも?」

「どうだろう、町ひとつ囮にするってことは、犠牲になる人と助かった人が出てくる。そうなれば家族を失ったり恋人を失うNPCも、居ると思うんだ」

「そう、ね」

「きっとプログラムだからね、クエストでも無い限り泣かないんじゃないかな。アスナの言うとおり元通りになるかもしれない。それでも、一時的にでも君の判断で死んでいくキャラクターが出るって意味を、考えて欲しい、かな」

 

 そう、悲しそうな顔で訴えてきたハクノンの言葉に、わたしは――かつて、そのまま死んでしまう運命を見過ごせずになりふり構わず戦いに乱入し、助けたダークエルフの女性を思い出していた。

 

 

 

 

 

「セイバー、今だよ!」

「うむ。任せよ奏者! そしてラストアタックを取れたらご褒美に余ともデートするのだぞ!」

 

 3日後、私達は55層のフィールドボスの攻略を行っている。当初予定されていた町におびき寄せて包囲すると言う作戦は、撤回された。広い場所まで誘導した後、壁戦士(タンク)部隊がタゲを固定して私たちダメージディーラーがHPを削る、セオリー通りの攻略展開となった。

 ただ、アスナと出かけたことによりセイバーの機嫌が著しく悪くなり、半泣きのままむーっと睨んでくる彼女の機嫌を直すために、毎日添い寝することを約束させられたり、ラストアタックを取れたらデートに行くと約束させられたり、もうひとつ約束もあるのだけれど、まあ良いか。

 

「奏者よ、ラストアタック、ラストアタックだぞ!」

 

 キラキラと子供みたいにはしゃいで抱きついてくるセイバーの頭をなでて、ぎゅっと抱き返してみる。よしよし、お疲れ様。

 かつて彼女は【美少年は良いが、美少女はもっと良い】なる言葉を発していたことがあったが、彼女の感化されたのか今では分からないでもないと思ってしまう。

 それはきっと、一途に私に好意を向けてくれるこの暴君様が、とんでもなく可愛いからなんだろうなと内心思ったのは内緒。

 

「さあ、これで迷宮区に挑戦できる。奏者よ、どこかに遊びに連れて行けとは言わぬ。今から迷宮区に一番乗りで探索して、余にアイテムを貢ぐのだ!」

「今から? ……良いよ、行こうセイバー」

 

 久しぶりに暴れたからか、とても機嫌の良いセイバーに促されて、フィールドボス撃破の余韻に浸っているレイドチームを置いて駆け出す。

 きっと、こんな風に冒険を楽しむのは本当なら不謹慎なのかもしれない。けれど、どうもゲーマー気質と言うものが体に染み付いてしまったのか、はたまたセイバーの喜ぶ顔が嬉しいのか。新しい場所へ踏み込むこの瞬間がとても楽しい。そう考えているのは他にもいたようで、私たちの横を駆け抜けていく男の子が居た。

 

「お先に、ハクノン」

「ちょ、キリト君ずるい! 一番乗りは渡さないんだから」

 

 隣を駆け抜けていく黒いコートに叫んで、私たちもスピードを上げる。こうやって、純粋に競い合える相手と共に、攻略組のアインクラッド攻略も進んでいくんだろう。

 ちなみに、あっという間に私たち三人を追い抜いて先回りした白い【閃光】さんに、正座でお説教を食らったのは別のお話。

 




最後!
良いお話で終わらせようかと思ったのですが、お説教食らっちゃいました。
いや、オチが欲しかったんです、オチが。

今回もお読みいただき、ありがとうございました。

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