Fate/SAO それ行け、はくのんwith赤い暴君 作:蒼の涼風
第2話、投下させていただきます。
それでは、どうぞ。
「さあ、拳を握れ、顔を上げよ! 命運は尽きぬ! 何故なら、そなたの運命は今始まるのだから!」
懐かしい。開戦を高らかに謳う彼女は、真紅のドレスと金色の髪を靡かせて戦場を舞う。そして飛ばされた檄は、私だけじゃなくこの場に居た全員の指揮も回復させた。
ムーンセル、その聖杯戦争。ほんの2ヶ月程の戦いだったけれども、今では誰よりも信用し信頼できる私の相棒、セイバー。
「全員、彼女に続けぇ!」
水色の髪をした、いかにも騎士と言った様子の男性が指令を飛ばす。あの人がこのパーティーの司令官なのだろう。嵐を呼びそうだったり、最終合体しそうだったり、戦場でラブロマンスを繰り広げそうな声だ。うん、なんのこっちゃ。
「うむ、この空気悪くない。むしろ良い。さあ、奏者よ! そなたの戦い方、覚えておろうな?」
セイバーの声が響き、私は意識を眼前の巨大なモンスターに集中させる。見える。敵がどう動こうとしているのかが、大まかに分けて3パターンに。素早く鋭い攻撃・身を守る行動・力いっぱいの渾身の一撃。
今までも私は敵の行動をこう区分することで、何とか戦ってこれた。
「セイバー、そこ。一度受け止めてからアタック!」
短い言葉だけで、私が伝えたい事を確実にこなしてくれる。本当に頼もしい。
「
水色の騎士の指示が飛ぶ。けれども、ついさっき私を守るために盾になってくれた人たちのダメージも大きかったようで、なかなか立て直せない。
「でぇやぁぁぁ!」
全身を薄青い光に包まれた少年が、ボスの刀をはじいた。次の瞬間には、ケープを被っていた女性の剣士が物凄い勢いで突進して、ボスのHPを削っていく。
「ハクノン、色々聞きたいことはあるが。とりあえず、あの赤い服の女性は味方で良いんだな?」
少年がちらりとこっちを見て聞いてくる。正直、誰が味方かなんて聞かれたら、ここに居る人より頼りにしている……なんて言ったら怒るかなぁ。や、そもそも皆さん私の名前を読んでるけど、私は皆さんの名前を知らないわけですよ!?
このままじゃ、いろいろ大変なんですよ。内心つぶやくモノローグっても、黒い髪の子とか栗色の髪の女の子とか、スキンヘッドの斧の人とか、もやっとボールとか!
「奏者よ、発言がメタメタしいぞ。と言うか余裕だな!?」
おっといけない。アンデルセン辺りにでも毒されてるのかな、描写がどうとかこうとか。
「セイバー、あと少し。行ける!」
「うむ、任せよ!」
ボスのHPが、皆の頑張りであと10%ってところまで落ちてきた。つまり4本目のバーが半分まで減ったわけだ。や、私がこの世界で自我を持ったときには半分以上削られていたから、この集団は本当に優秀なんだと思う。
特にあの水色の髪の指揮官、すごい。
「駄目だ、離れろ! 範囲攻撃がくるぞ!」
急に、後ろの男の子から別の指示が飛んだ。だけれど、そんな急に反応できる人間なんてそうそう居るわけもなく。咄嗟にセイバーが周囲に居た女の子やスキンヘッドの男の人を剣で弾き飛ばして、私を抱き上げて飛んで逃げた。次の瞬間、見たのは惨劇と言っていい。
一度になぎは割られる人たち。ギリギリで踏みとどまっているものの、殆どHPは無くなっている。
そんな中、一人盾を構えて動いていない、男の人。いや、あれは動いてないんじゃない、動けないんだ。そう思ったときには遅かった。少しずつ光の欠片になって消えていく、騎士のような見た目の水色の男性。
知っている。この、跡形もなく消えて死ぬ感覚は。聖杯戦争、あのデスゲームと同じ……人の尊厳を踏み躙る死に方だ。
「すま……ない。キリト、さん……ボス、倒して……」
「ディアベェェェル!」
指揮官の退場、それは集団戦において致命的な痛手であるし、敗北が決定的になったとも言える。当然、集団がパニックになって戦線が崩壊するのは火を見るよりも明らか。
月の裏側での苦い思い出が蘇る。ガトー、ユリウス、シンジ、レオ……皆、私に後を託して消えていった。逃げるな、食いしばれ。
潰されるな、岸波白野。今は泣く時じゃない。
「キリトって誰!?」
すぐに声を張り上げる。それと同時に、飛び出してきたのは先程指示を飛ばした男の子。
「キリトは俺だ。ってか、パーティ組んでるんだから、名前くらい確認しといてくれないかな」
「あはは、ごめんごめん。さっきの人、後は君に託すって。ボスを倒してくれって」
伝えた言葉に、頷いて返してくれた。
けれども、私達だけが踏ん張っても、ここに居る全員を助けることはできない。
「全員、ちゅううううううもおおおおおおおおく!!」
「これより、偉大なる騎士、ディアベル最期の指示を伝える!」
悩む暇さえなかった。栗色の長い髪の女の子がケープを脱ぎ捨てて大声を上げると、セイバーも続いてボスを指差した。
『ボスを倒せと!』
二人の声が、重なる。静寂が支配する中、完全に二人の独壇場だ。
「そして、次の
「アスナ……」
栗色の髪の少女、キリト君の発言からして、アスナって名前なのか。うん、アスナは手に握っている細剣をキリト君の両肩に軽く触れさせる。それは何かの物語か、儀式で見た……騎士を任命する時の仕草。
「俺も聞いたぞ! それにあいつには、ボスのスキルの知識がある。ディアベルを信じるなら指示に従うべきだ」
大きな斧を持った男性が、ボスの攻撃を堪えながらこっちを振り向いてくる。すぐに立て直して、今まで前線を抑えててくれたんだ。
軽いウインクを飛ばしてくる。周りから呼ばれる名前から察するに、エギルさんというらしいのだが、彼の一言が大きかった。今までパニックになっていたメンバーが恐る恐るながらも、持ち直した。大丈夫、こういう人たちがいれば、きっと皆がんばれる。
「指示を、
アスナの冷静な声が響く。こちらも後ひとふん張り、お願い。
「セイバー!」
「任せるがよい! 行くぞ――
私が指示を飛ばすより早く、セイバーは飛び出した。それはセイバーが聖杯戦争中最も得意とした攻撃、
あとほんの少し、威力が足りていなかった。何とかしないと、そう思った次の瞬間だった。
「アスナ! 最後の攻撃、一緒に頼む!」
響くキリト君の声。それだけで、キリト君とアスナは一斉に走り出して、綺麗と表現するしかない程のコンビネーション・連撃で残っていたHPを削り取った。
その最後の一撃。剣から放たれる光がVの字を刻んで、ボスは跡形もなく消えちゃった。……天空剣。いえ、何でもないです。
「っよっしゃああああ!」
空中に!! 浮かんだ【Congratulations!!】の文字に、力が抜ける。左手は凄く熱い。懐かしい、この痛みは令呪が刻まれた感覚かな。刀で斬られても痛くなかったのに、令呪が刻まれるときは痛いんだね。変なの。とりあえず、訳も分からないまま放り込まれた戦場での、ど修羅場は幕を閉じた。
「セイバー、また……会えたね」
「うむ。奏者が呼ぶならば、余はいつでも駆けつける。令呪など関係ない、そなたは唯一、余が主と認めた人間なのだ。胸を張るがよい」
お互いの存在を確かめるように、どちらからともなく抱擁を交わす。
皆がそれぞれに、ボスを倒した喜びを分かち合っていた。
「何なんだよ、お前は!」
そんな雰囲気を一瞬にして凍りつかせたのは、一人の軽鎧装備のソードマンだった。その顔には涙を流して、ぐちゃぐちゃで、とても勝利を喜んでいる顔じゃなかった。
「本当なら、称えられるのはディアベルさんだったはずだ! それなのにどうして、ディアベルさんが死んで、訳の分からない連中が称えられてるんだ!」
まるでその言葉が皮切りになったかのように、周囲の人々から疑惑・疑念。そう言った視線やあれやこれやが混じった言葉が飛び交った。
「そう言えばそうだ。あの赤いドレスの女は誰なんだ? あんな装備も武器も、見たことないぜ!」
「あっちのガキも、何でボスのソードスキルを読めたんだ!?」
「俺知ってる、あいつベータテスターだ! LAを取られないように情報を隠してたんだ!」
うう、視線がいたい。と言うか、なんでだよって言いたいのはこっちです。いきなり訳の分からない場所に居たのはこっちも同じなのに、何人かは私の名前知ってたよね。
なんでだよ!?
「余が誰か、だと? ふん、心して聞くがいい。余は至高にして至上の名器―――剣の英霊、サーヴァント・セイバーだ!」
ゆらりと立ち上がり、ふてぶてしく胸を張って高らかに宣言する、暴君様。でもね、きっと皆サーヴァントなんて知らないと思うんだ。
「サーヴァント?」
「テイムモンスターの一種か?」
「けど、どう見ても人間だよな。亜人種って感じでもないし。それにあの応答パターン、AIって感じじゃねえだろ」
口々にそう漏らされる。そりゃそうだ、これは所謂異世界とりっぷと言うやつなのだ。ここの常識に当てはまるわけがない。
けれども。
「知ってるぜ、サーヴァントシステム。まさかこんな低層で手に入れてるやつが居るとは思わなかったけどな」
そう、その雰囲気を破ったのは“彼”だった。
どうも、蒼の涼風です。
1話が思いのほか文字数で見ると少なかったため、少し増やしてみました。
ざっと、倍?
や、でも1話に詰め込むとだらだら書いてしまいそうです。
そして本編では小説・コミック・アニメごちゃ混ぜ+オリジナル要素ありなコボルト王戦となりました。
ただ、どうしてもディアベルはんは助けられんかったんや……。
それでは、また次回。