Fate/SAO それ行け、はくのんwith赤い暴君   作:蒼の涼風

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少し間が開いてしまいましたが第10話、投稿させていただきます。


Art10:Nezhaのスミスショップ

 新しい町【タラン】に到着した私達は、とりあえず先ほどの戦闘での疲れを癒したい。そして出来たら美味しいものを食べたいと言う満場一致の方針により、道具屋に行ってさっそくアルゴさん印の攻略本を購入。

 観光名所のページを開き、お勧めのレストランへと向かうのだった。ウルバスの街で食べた『トランブル・ショートケーキ』がこの町にも置いてある店が一軒だけあると聞いていたのだけど、なかなか奥まっている上に入り組んだ場所にあるそのレストランは攻略本を持っていても見つけるのが一苦労だった。迷子にならずに出られるかなぁ。

 

「それで、話してくれるの? ハクノン、あなたが何を知っていて何を隠しているのか」

 

 もっか、目の前の偉い美人さんに取り調べうけてます。カツ丼、カツ丼下さい!

 

『お待たせしました、カツ丼でございます』 

 

 なんて、店のNPCが本当にカツ丼持ってきた。な、何だってー!?

 このゲームでは基本的に現実にあるような……特に日本で見かけるような食事って言うのは全くと言って良いほど見かけなくて、なんだか美味しいのか不味いのかよく分からない料理を食べさせられたことも何度かあるのに。

 

「こほん。今はそう言うどうでも良い話をしているんじゃないでしょう?」

 

 じろりと睨んで話を戻させられる。はい、悪ふざけしてスミマセンデシタ。

 

「それで、ハクノンさん。俺たちに話したいことがあるって……どんな」

「じゃあ、少し長くなるけど聞いてもらおうかな。私と、セイバーの出会いの物語。決して綺麗な話じゃないし、少しだけ話せないこともあるけれど……嘘だとか、作り話だとかじゃない、本当に私が体験した話だよ」

 

 キリト君に助け舟を出してもらって、頷いてから話を始める。私が経験した、月の聖杯戦争の話。それは、おそらく誰が聞いてもファンタジーだとしか思えないような、出来事だった。

 セイバーとの出会い、それまで友人として振舞っていた人物との最初の決闘。今でも自分の師だと思える偉大な軍人と騎士の話。遊び相手を求めて彷徨っていた幼い少女の話。先程戦ったランサーとの死闘、暗殺拳の達人と、悲しい殺し屋の末路。そして、そこで出会った友人との死闘。太陽にも似た少年と、愚直なまでに主人に忠実だった剣士の物語。7つの決闘と1つの戦い、1人の男の結末を語り終えた後は少し喉の渇きを感じてテーブルに置かれた水を口に運ぶ。

 ところどころ端折っている部分はあるし、まだ語っていないものは多かったけれど、この2人は真剣に私の話を聞いてくれていた。

 

「信じられないな……ああいや、ハクノンさんの話を信じないと言っているんじゃなくて、そんな技術があって、そこで殺し合いを行う人が居るって言うことが」

 

 そんな風にキリト君から声が漏れ、アスナは何か考え込んでるみたいで難しい顔をしている。

 

「で、サーヴァントって言うのはそのムーンセルって言うのに記録されていた、過去の偉人のデータというか魂と言うか……私達は【英霊】って呼んでいるんだけれど、そういったもの。だから、このセイバーは本物のローマ皇帝、ネロなんだって」

「そんな馬鹿な!」

 

 ふとアスナが声を上げて話に割り込んできた。

 

「ローマ帝国の5代皇帝ネロ・クラウディウスといえば男性じゃない。セイバーさんはどう見ても女性でしょ!?」

「うむ、余は昔から男装をして男として振舞っていたし、妻も居たからな。男と思われても仕方が無い。だが、アスナ。そなたの知る『史実』と『真実』は必ずしも同じではない。史実とは、後の歴史家が仮設を立て大多数の者が『そうだろう』と考えているだけのものに過ぎぬ」

 

 うんうんと、アスナの疑問には運ばれてきたカツ丼を食べていたセイバーが答える。美味しい?

 

「それに見よ、余は今でもこのように男装をしているではないか!」

 

 どーん、どや顔赤王様、登場。え、やっぱりそれ男装だって言い張るんだ。どう見てもスカートだし、胸やらお尻やら女性らしいプロポーションを強調するようなデザインのそれを。

 

「えっと、セイバーさん。それは私達の感性じゃ男装じゃないと思うのだけれど」

 

 苦笑いを漏らすアスナと、今更まじまじと衣装を見て恥ずかしそうな顔をしているキリト君。

 胸とかお尻とか、どーんと出ちゃってるもんね。

 

「ところでさ、その見えてるのって下着……いえ、なんでもないです」

 

 うんうん、男の子。気になるよね。アスナ、アスナこれはレオタードなんだよ、だからそんな本気で怒らなくても。

 

「いいえ、デリカシーの無い人はきちんとシメておかないと」

 

 ふん、と鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまったアスナに、セイバーと一緒に思わず笑顔が漏れてしまった。

 それは、何だか遠くに忘れてきちゃったような……かつて、旧校舎と呼ばれる場所で繰り広げられた騒がしくも楽しかった日々を思い出すもので。

 ああ、なんだ。私寂しいのか――なんて、贅沢。きっと、彼女なら……今自分を思ってくれている仲間が居るのに。私が人を殺したんだって話をしても変わらず接してくれる仲間が2人もいるのに嘗ての仲間を恋しがるのは、心の贅肉だと言うのだろうか。

 

「うむ、奏者よ! 出てきたぞ、ケーキだ」

 

 そんな話をしていたら出てきたトランブル・ショートケーキは以前見たのと変わらず、大きい、これなら、4人で分けてもお腹一杯そうになりそうだと思っていると、なんともう一つ出てきた。

 

「さっきのボス戦、ウインド・ワスプ狩りで数が多かったほうが、このケーキを奢ってもらうと約束したの。ありがとう、キリト君」

 

 にっこり、なんて表現がぴったりと似合うような笑顔を浮かべたアスナが嬉しそうにフォークを持って一口食べる。

 なんだ、結構仲良くやってるじゃん。

 わいわいと、4人で食事を終えると視界の隅には余り見たことの無いアイコンが写っていた。

 

「おいしかった……」

「確かに、ベータの時より美味くなってたかも……」

 

 うっとりしてるアスナと、ぶつぶつ呟いているキリト君。2人にこのマークが何なのかを聞いてみると、幸運ステータスに増加効果(バフ)がかかっているんだという。つまり、クリティカルやらレアドロップやらが出やすい状態になっているとの事。

 けれども、その効果時間が15分じゃそんなに多くのモンスターも狩れないし、何より今から町の外に出て狩りをするのも気乗りしない。

 

「ねえ、意味があるのか分からないけど……コレが出ている間に、この子の強化、試してみて良いかな?」

 

 あれやこれや幸運の使い方を相談していると、アスナがそう言い出した。確かに、武器の強化は絶対に成功するわけじゃないし、幸運ステータスがどこまで効果があるのか分からないけど、そう言うジンクスと言うか、願掛けじみたことは嫌いじゃない。キリト君も特にやりたいことがあるわけじゃないし、それでいく事になった。なんと、先日話していた、初のプレイヤーの鍛冶屋がこの町に来ていると言うのだから、試してみたいと思うのも無理は無い。

 私はメイスの強化素材は集めてないし、所謂サブウエポンなので強化するつもりは無いけど、キリト君もその鍛冶屋さんは使うつもりでいるみたい。

 ねずは……って読むのかな?『Nezhaのスミスショップ』に皆で来ている。

 

「ふむ、悪くない。むしろ良い。この名前、なかなか勇ましい名前ではないか」

 

 なんて漏らすセイバーの言葉にハテナと首を傾げてみるも、セイバーは面白そうに笑うだけで『奏者にもそのうち分かる』と言うだけだった。

 教えてくれないの? ちぇー。

 

「いらっしゃいませ、お買い物ですか? それともメンテナンスですか?」

「ウインドフルーレの強化をお願いします。項目は正確さ(アキュラシー)で、素材は持ち込みで最大数用意しています!」

 

 ふんす! なんて聞こえそうな勢いで開かれたトレードウィンドウを操作するアスナは、本当に楽しみにしているみたい。可愛い。

 

「凄いですねこんなに沢山……えっと、分かりました。それでは始めますね」

 

 どこかおどおどと言うか、気弱そうな印象を受けるプレイヤー、ネズハさんはアスナの剣を受け取って炉にくべ、加熱されたそれに槌を落とす。その流れはとても丁寧に見えた。

 果たして、気体に満ちた私達の気持ちは。

 

――ポキン――

 

 という何かが折れる音と、目の前で粒子に変わり消滅するアスナの剣、という結果を持って帰ってきたのだった。

 ……まじで?

 




はい、いよいよ始まりました武器強化詐欺。
あ、でもブルバス・バウってランサーの宝具に巻き込まれて消えたわけで。
え、ってことはアレどうしよう……?

それでは、また次回。

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