金色の狐、緋色の尻尾   作:花海棠

19 / 19
こんばんわ、花海棠です。
思わぬ連休をもらいまして、一日中執筆活動に当てました。目が、しょぼしょぼする……
元ネタはあったので、結構スルスル書けたかな?
また本編から脱線しましたが、まぁ、無計画に立てたフラグの回収作業ということで……子供時代のナルトたちを書くのは楽しいのですが、ぶっちゃけこの年齢の幼児はどこまで生活できるのだろうかと、リアルとの矛盾に立ち向かいながら書きました(汗)

*アニナル2期 177(398)話のネタ、ちょっぴり入ってます。見てなくても大丈夫、たぶん…。


19.『番外・シカマルsid.~目立つ二人~』

 

オレの名前は、奈良シカマル。

家は代々秘伝忍術を受け継ぐ家系だとか、気の強い幼馴染と食いしん坊の幼馴染がいるだとか、空を流れていく雲をのんびり眺めるのが好きだとか……まぁ、オレのことについてはどーてもいいや。

 

 

めんどくせーが、少しオレの同期の話をするとしよう。

 

 

オレと同期のアカデミーの生徒に、うずまきナルトって言う、まぁ、とにかく騒がしい奴がいる。

居眠りを邪魔する煩さは嫌いだが、あいつの仕出かすイタズラはたまに見ていて笑えるものがある。ナルトはバカだが面白い奴だ、それがオレの印象だった。かといってわざわざ仲良くしにいこうという程でもない。あくまで目立つクラスメイトのひとりだった。

 

そんなナルトは、アカデミーの中じゃ浮いている存在だったと言えるだろう。ところかまわずイタズラをしまくるというのもそうだが……ナルトは、なぜか周りの奴らにハブられていることが多かった。多いどころか、いつものような気もする。チョウジだって「だよねー?なんでだろう?」とポテチを食いながらも同意してくれた。四六時中食い物のことで頭がいっぱいなチョウジの印象に残るぐらいだ、やっぱり異様なのだろう。いのにも一度話を振ってみたが、「ナルトのことよりサスケ君のこと教えなさいよ!サスケ君って、どんな女の子がタイプなのかしら!?」だと……知るかよ、自分で聞け。

 

別に親しくもないナルトのことなど気にするほどのことでもないのだが、時々ナルトをハブる奴らの会話が聞こえてくると、その度にこの違和感が思い起こされた。……ほんとウゼェ。仲間にしてやるなんて言ってナルトに危ねぇことさせたり、除け者にしたり。アイツがなにしたんだよ、わけわかんねぇ。

 

まぁ、それはそれとして。

 

そんなナルト以外にも目立つ奴が、この前アカデミーに編入してきた。(つーかこのクラス、女子に人気のうちはサスケとか、家が名家とか、秘伝忍術の家系とか、目立つ要素のある生徒が多いよな。……あ?一応オレもか?)

 

そいつがイルカ先生に呼ばれて教室に入ってきた瞬間、教室中の奴らが息を呑んだ、気がした。

 

真っ赤な髪。

それが、彼女の第一の印象だった。

 

「木乃花カミナです。よろしくおねがいします」

 

はにかむような笑顔は、結構可愛かったと思う。

 

 

木乃花カミナ。

そいつは、両親を戦禍で亡くした戦争孤児ってやつで、里の外から来たらしい。生まれて以来木ノ葉隠れの里を出たことのないオレたちにとって、カミナははじめ宇宙人か何かに見えていたのかもしれない。けれど、カミナは普通に話すし言葉も通じるし、笑いもする。髪の色が印象的過ぎただけで、カミナはごく普通の女の子だった。むしろ、いの達のようにサスケがどうの、おしゃれがどうのとかまびすしい女子たちに比べて必要なこと以外無駄にしゃべらない落ち着いた奴だったから、オレの中では数少ない好印象な女子だった。

そんな物静かな女を、周囲は次第に「面白味のない」「つまらない」女子と認識していったらしい。編入時の騒がしかった興味も失せて、いつもの日常へと戻っていった。

 

カミナは普段、教室の隅っこで図書館から借りた本を読んでいることが多かった。本のタイトルは、忍術の本だったり料理の本だったり、物語だったりといろいろだった。…別に盗み見ていたわけじゃねぇし。普通に聞いただけだし。でも、カミナに声をかけると決まって「おーい!シカマルぅ!!」とナルトのデカい声で呼ばれることが多かった気がする……いや、毎回じゃね?おかげで、オレはあまりカミナとじっくり話をした試しがねぇ。でも、どうして話をしたいと思ったんだろうな…?たまたま、いのにそれをぐちってみたら「ま、ままままさか!めんどくさがり屋のシカマルに、ついに春が!?うそでしょっ!カミナが不幸になっちゃうわ!!」とこの世の終わりとでも言わんばかりに(多少芝居がかっていたのは分かる)喚き叫んでいた。うるせぇよ……そして、おい、最後の一言は聞き捨てならねぇぞ?

 

まぁ、とにかく。

 

そんなナルトとカミナは、正反対でありながら、とにかく印象深い奴らだったのだ。

だが、各々に印象深い特徴があるだけで、当の二人に接点というものは皆無と言っていいほど無かった。その証拠に、教室内であれどこであれ、二人が会話しているとろこを見たことが無い。そもそも、二人が同時に視界に入ることすらなかった。

 

二人はまるで、互いに磁石のN極とN極を持っているかのような、そんな見えない力の隔たりがあるように思えた。

 

しかし、繋がりがないようで、なぜかオレの勘は二人を″同じ″カテゴリーに括っていた。

どうして、そう思ったのか――

 

 

 

ある日のことだ。ナルトがアカデミーの廊下で教師に怒られていた。相手は、イルカ先生以外の教師だった。周りには野次馬の生徒で人だかりができていて、途中からその騒ぎに気づいたオレにはその全容は分からなかったが、なんとなくナルトは何かのとばっちりで怒られているような気がした。

その証拠に、ナルトの傍らにはニヤニヤとしている性格が悪いと評判な男子が3人、さらにその近くで涙ぐんで震えている女子が一方的に怒られているナルトをおろおろと見つめていた。教師は周囲の目もはばからず、ナルトだけを叱りつけている。ちょっと言いすぎじゃねぇか?ってぐらい、その教師の言葉は辛辣なものだった。ナルトの奴も、なんで大人しくさらし者になっているのか不思議でならなかった。――だれか、だれか止めてやれよって……オレは、柄にもなくそんなことを願っていた。

 

「何があったんですか!?」

 

そんな願いが天に届いたのかどうか分からないが、イルカ先生が駆けつけてきてくれた。

教師は、ナルトが気の弱い女子生徒をいじめていて、それを注意した三人の男子生徒と殴り合いの喧嘩をしていたのだとイルカ先生に説明していた――は?逆だろ?と、思わずオレは胸の内で声を上げた。ナルトは確かにイタズラ野郎だが、女子を、それもたった一人を標的にしていじめるようなことはしない奴だ。もともとの現場を見ていなかったのだろう他の生徒たちは、「やっぱりねー」「サイテイなヤツー」「ひどいことすんなぁ」と好き勝手なことをぬかしていやがる……オカシイぞ、お前ら。

 

「………わかりました。ナルトには、私が話を聞きましょう。皆、教室に戻りなさい」

 

イルカ先生はそう言って、その場を収めた。なんだか釈然としなかった。教師の奴も、まだナルトを叱り足りなかったのか不満そうにしていたが、捌ける生徒たちにならって踵を返した。

 

「――化け狐の話など、聞くだけ無駄だ」

 

オレの横を通り過ぎた教師は、小さくそんな言葉を吐き捨てていた。バケ狐って、なんだ?

 

その時だ。

 

 

――ゾクッ……!!――

 

 

身体の芯を震わせるような得体の知れない寒気を感じて、急に心臓が跳ね上がった。隣に居たチョウジも感じたのだろう。丸い顔を青くして、開けたばかりのポテチの袋をぐしゃりと潰してしまっていた。見れは周りの生徒たちも、一瞬何が起きたのか分からないというかのように、怯えた顔をしてあたりをきょろきょろと見まわしていた。寒気はほんとうに一瞬で、気配はすでに風が吹き抜けた後のように霧散していた。

 

今のはなんだったのか……ふと見上げると、教師が表情を険しくして振り返っていた。まるで戦場に出た忍の顔だ。たぶん、だけど…。視線の先には、ナルトに手を引かれて廊下を歩いて行くイルカ先生の後姿……あれ?なんでイルカ先生がナルトに手ぇ引かれてんだ? 

教師は「まさかな…」と、首をかしげて今度こそその場から立ち去った。

 

 

 

 

その翌日、カミナがアカデミーを休んだ。風邪らしい。そういえば、あの後教室でカミナを見かけたとき顔色が悪かったような気がする。ナルトも登校していなかった。イルカ先生はナルトは今日は用事があって休むと言っていたが、アカデミーを休むほど公認の理由ってなんだ?って疑問に思った。どうせいつものさぼりだろー、と誰かが言っていたが、確かにその方がしっくりくるような気がした。そしてその日は、何事もなく一日が終わろうとしていた。

 

 

「――……ツイてねーな。あー…めんどくせぇ……」

 

オレは手にした手書きの地図を気だるげに眺めつつも、とある場所へと向かって歩いていた。

途中、商店街で購入したお弁当が嫌に重たくて、ますます気力が削がれるのを感じた。

 

アカデミーの放課後、帰り支度をしているとイルカ先生に声を掛けられた。この時点で、嫌な予感はしていたのだ。教員室に呼ばれて、今日配布されたプリントを病欠したカミナの家まで届けてほしいと言うのだ。なんでオレ…と思わず零したら、「今日の授業中、居眠りしていただろう?」と言われてしまう。居眠りなんて常連様のオレだが、改めて注意されればぐうの音も出ない……。今日は猪鹿蝶の修行もなかったから、のんびり雲を眺めに行こうかと思っていたのに、ツイてない。

 

肩を落としながら渋々アカデミーの校門を出ると、そこでまた校舎から出てきたイルカ先生に呼び止められた。え、まだなんかあんの?――イルカ先生は、どこにでもある茶封筒を取り出して「これでカミナに弁当を買ってやって行ってくれ。もう具合はいいそうだが、買い物に行って無理をさせてくなくてな」と言った。わざわざアカデミーの敷地を出てから頼むなんて、律儀な人だ。

そういえば、カミナは独り暮らしだったのだと思い出す。イルカ先生のゲンコツは痛いし、怒るとおっかねぇ人だが、こういう優しさは好ましいからいい先生だと思っている。昨日の教師とは大違いだ。

ただ不思議だったのが、いざ商店街で弁当を買うとき、封筒の中にはお金と「弁当はふたつ」というメモが入っていた。なんで二つ?カミナが知られざる大食いだったとしても、病人に弁当二つは多いんじゃないかと疑問に思ったのだが、とりあえず指示通りに購入を果たした。

 

 

「……ここ、マジで人住んでるのか?」

 

たどり着いたのは、デカいが古くて人気のないアパートだった。里の中央付近の場所ではあるが、周囲の建物も古びたものが多くて、手入れもあまりされていない過疎化した住所だった。カミナの部屋は、このアパートの2階にあるらしい。

ミシミシと、踏みしめるたびに悲鳴を上げる外階段をおっかなびっくり上りきると、並んだドアの枚数を数えて目的の部屋の前にたどり着く。古いが玄関の周辺はしっかりと掃き掃除がされており、確かな住居人が居るのが伺えた。

 

柄にもなくちょっと緊張しながら、ドアの横のインターホンを押した。……あれ?鳴らねぇし。

仕方ないので、控えめにペンキのはげたドアをノックした。……ドアって、叩いてもあんま響かねぇのな…。

 

「……はーい、だってばよぉー」

 

ちょっと元気そうな声が返ってきた。同時に、ドアに近づく人の足音……ん?ちょっとまて。今の、カミナの声だったか?しかも、どこかで聞き覚えのある語尾だ…。

 

「誰だってば……――って、シカマル?」

「は?……ナルト?」

 

まてまて。なんで、お前がカミナの部屋から出てくるんだ?

 

 

 

 

――図ったな、イルカ先公。

カミナにと預かったプリントにしては、封筒の厚みに違和感を感じてはいたのだ。そして、二つの弁当。もう脱力するしかない。

 

「そっか、イルカ先生が……ありがとなーシカマル!」

「おぅ……てか、なんでお前が礼を言うんだ?」

「ふふふ、私からもありがとう。シカマル」

「お、おう……カミナ、もう風邪は治ったのか?」

 

あのまま部屋の中に招かれて、オレは借りてきた猫のように小さなちゃぶ台の前に座っていた。つーか、ちゃぶ台とベッド意外になんにもねぇ部屋だった……。普通、女子の部屋ってもっとこう、ごちゃごちゃしてるもんじゃねぇのか?つっても、オレはいのの部屋ぐらいしか知らないが。

ナルトはちゃぶ台の向いに座って、早速弁当を広げている――「おい、なんで今食う?」「だってオレ、今日まだ飯食ってねんだもん」「あっそ…」――そして、ちょうど起きていたらしいカミナがパジャマの上に羽織を掛けてベッドに腰かけていた。顔色は、昨日よりもよさそうだった。

 

「少し熱が出ていただけなの。もう下がったから、明日はアカデミーに行けるよ。―――ナルト、シカマルにお茶出してあげよ?部屋から麦茶持って来てもらえないかな」

「おう、分かったってばよ!」

「あ、いや……すぐ帰るし、構わなくていーぜ?」

 

寝間着姿の女子の部屋に長居するつもりはないので辞退を申し出たが「茶ぐらい呑んで行けよ!」とナルトにも強引に勧められてしまい、そしてヤツは弁当を広げたままアパートの部屋を出ていった。……おい、茶ぁ取りにどこ行くんだよ?

カミナはそんなナルトの行動を当然のように見送り、自身は戸棚からガラスのコップをひとつ取り出して、流しで洗い始めた。病欠までしたカミナを動き回らせることに抵抗はあったが、勝手の知らない他人の家ではなんとなく身動きがとりづらく、結局そのまま座っているしかできなかった。……あー、落ち着かねぇ…。

 

「あー……お前、本当に独り暮らししてるんだな?」

「うん、そうだよ」

「………なんで、ナルトが居たんだ?」

「ナルトの部屋、ここの隣なんだよ。私がアカデミーに編入する一年ぐらい前から、私とナルトはお友達なの」

「ッ!…そうなのか?」

 

ナルトもこのアパートに住んでいたことには驚いたが、カミナがアカデミーに入るよりも前から里に居たのは知らなかった。なんでも、買い物とかは昼間のアカデミーがある時間に済ませているらしく、これまで同年代の奴らとは顔を合わせることが無かったらしい。

 

それでいて、合点がいったこともある。

 

「――…カミナ。昨日、ナルトが教師に叱られているのを止めに来たイルカ先生……あれ、お前だろ?」

「………どうしてわかったの?」

「……悪い、カマかけた。マジだったのか……」

 

可能性は五分五分だった。けれどもカミナがあまりにもあっさり認めたからかえってばつが悪く、すぐに白状した。カミナは一瞬目を丸くして、そして微笑んだだけだった。

 

変化の術――アカデミーで習う基本忍術で大して難しい術でもないのだが、それでもカミナは少し前に編入してきたばかりのはずだ。″編入″の名の通り、カミナはそれまでアカデミーに通ったことが無い、つまり、忍者の訓練を受けていなかったことになる。今のオレ達は、すでにアカデミー入学の適齢期を過ぎた歳だ。木ノ葉に来てから知識を得たとしても、わずか1年たらずで今のオレたちのレベルまで追いつくことは可能なのだろうか?……不可能ではないだろうが、かなりのセンスを要されるだろう。忍術だけじゃない。カミナは、編入してきたときからすでに手裏剣術も体術も、そこそこ出来ていた。それこそ、身体のつくりは一朝一夕でものにはならない。

それは、つまり――

 

「カミナ、お前……アカデミーじゃ、ぜんぜん本気出してねぇだろ?」

「……適度に力を抜いてるだけだよ。シカマルと一緒。」

 

くすりと笑うカミナは、なんだか大人びていて……思わずドキリとした。

テストの間、鉛筆動かすのもめんどくせーだけなオレと、同じなわけねーだろ。カミナは周りに関心が無いように見えて、普通以上に周りを良く見ているのだ。

……カミナのような新参者が、自身の秀でた能力を惜しみなく晒け出したら、まず目を付けられるのは間違いない。そこそこ可愛い上に、この髪の色だ。人は、文字通り毛色の違う奴を蹴落として優越感に浸りたりたがる。オレにはその気は知れねーけど。その点を、なにくそと跳ね除けて爆進しているのがナルトだが。

そして――カミナが、そうある自分を後ろめたく思っていることは、笑顔の後に伏せられた表情からもよく分かることだった。ほんとコイツ、デキた性格してるよなぁー…と、ほんのちょっとだけ、カミナを一人占めしているナルトを羨ましく思った。

 

 

ひとつの視界に入ったナルトとカミナは、アカデミーに居る時とは、まるで違う表情をしていた。

N極とN極じゃねぇ。こいつらは、N極とS極だと――カミナの前で見せる、ゆるっゆるなナルトの表情を見れば分からざるをえない。いのの一方的な恋バナを聞かせられるよりもダメージデカいって、どんなだ……しかも、会話を聞くにこの二人は、特にナルトは…自身のカミナに向ける気持ちにまるで自覚がねーでやんの。マジか。オレはここに、お前らの新婚生活もどきな同棲生活の話を聞きに来たんじゃねーよ。まぁ、同期のひとり暮らしなんてどんなものか、興味本位で最初に尋ねたのはオレの方だけどもよ……。

 

…………。

 

……この歳で、両親や家族が居ない生活など、正直想像もできなかった。

昔は戦争孤児なんてのも、そう珍しいことではなかったみたいだが。

 

二人は互いに両親の顔も知らず、普通の家族の在り方を知らないのだと言う。――料理は勝手に出てくるものではなくて、自分で料理し作るもの。部屋のチリやゴミは勝手に消えることは無く、自分の手で掃除をするもの――怒るとおっかねぇ母ちゃんが当たり前のようにしていてくれたこと、それがない生活というものをリアルに想像できるこの友人たちの部屋で、それは、まだ無知で幼かったオレには軽く衝撃を与えるものだった。

 

 

 

なんだかんだで茶と茶菓子までごちそうになったオレは、西の空が赤く染まる頃まで入り浸ってしまい、気づいてからちょっと焦ってカミナの部屋を後にした。外の風に当たると良くないとナルトに押しとどめられてベッドの上から手を振るカミナに、オレも軽く手を振り返す。アパートの階段下まで見送ってくれたナルトを、律儀に思いながら――コイツが何を言いたいのかわかって、振り返った。

 

「……シカマル。あのさ…カミナとオレが友達だってこと、皆には内緒にしててくれってばよ」

「それは……お前が、周りのやつらにハブられてんのに関係してんのか?」

 

ナルトは、押し黙る。

あの時、あのウザイ教師は「化け狐」と言っていた……キツネ、で思い当たるのは、オレ達が生まれた年に里を襲ったという「九尾の狐」だが、詳しい話はオレもよく知らねぇ。それに、当時はオレもこいつも赤んぼだったはずだ。ナルトの誕生日って、いつだったっけな?

しかし、それがナルトとどういう関係があるってんだ?

 

「……なんでオレが、里の奴らにキラわれてんのか、オレにもわかんねぇんだ。だけどさ、カミナはそんなこと言わずに、オレの友達になってくれたんだってば。けど、オレとカミナが一緒にいたら、カミナが嫌な思いをしちまう……だから、立派な忍者になるまで、オレたちが友達なのは内緒なんだってばよ」

「……いいのかよ?オレにそんなこと話して…」

「んー?いいんじゃね?だってシカマルだし!」

「は……意味わかんねーよ」

 

ナルトの馬鹿っぽい笑顔が、柄にもなくしみったれたオレの胸の内を軽くしてくれたような気がした。

――親がいねーとか、イタズラ小僧だとか、そんなの些細なことじゃねーか。ナルトはナルトだし、カミナもカミナだ。馬鹿で底抜けに明るいクラスメイトと、大人しくてちょっと可愛いと思う友達だ。

 

「………、……オレはめんどくせーことは嫌いだからよ、お前らのことを言いふらす気も、必要以上に関わる気もねーよ。今まで通り、クラスの仲間だ」

「っ、シカマル………」

「……あー……まぁ、その…なんだ。……お前、バカだからよ。カミナがなんか困ってたら、話ぐらいは聞いてやるぜ?」

「おう!――……お? な、なんでカミナの話だけなんだってばよ!?」

「だって……お前が困った時は、カミナに相談すればいいだろ?」

「あ、そっか……ん?なんかちげぇーつーか……!!」

 

ヒヨコみたいな金髪の頭をわしゃわしゃ掻いているナルトに苦笑して、オレは片手を掲げながらそのアパートの前を立ち去った。振り返らなくても、ナルトがぶんぶんと手を振っている姿と、カミナがこっそり階段の上から見送っているのがわかる気がした。

 

 

 

 

 

――オレの同期には、目立つ故に、気になる奴らが居る。

 

あの小さくて汚ねぇアパート(いや、掃除はきちんとされてんだよ。外観が古いって意味でな?)以外では、常に背を向けて立っているしか出来なかったあいつらが、額あてを得て公に共にいることを許されたとき、オレは遠目に「よかったな」って思った。

もしかしたら、オレはちょっとだけカミナに惚れていたのかもしれねぇ……けど、オレにはカミナみてぇに将来はきっともっと美人になる優しすぎた女は似合わねぇ。美人でもブスでもねぇ嫁さんもらうのが夢なんだよ(そっから先のそれなり人生設計だってもうすでに立ててるんだぜ?)

 

 

ただ、オレは……二人の秘密を知って以来、いつか二人が笑って過ごせる毎日があればいいな、と…雲を見上げるたびに、時々だがそう思うようになった。

めんどくさがりやのオレが、他人の幸せを気にするようになっちまったなんて、どーしてだろうな……。すでにあいつらは、オレにとっての゛特別゛な友人たちだったてことだろう。

 

 

…………、………あー、なんかキリ悪ぃけど、小っ恥ずかしいオレの話はここで終わりな?

あ?めんどくせーんだよ……。

 

 

 

おわり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

 

シカマルの持ってきてくれたお弁当を食べ終えて、ナルトを風呂場へ送り出した頃。

玄関のドアをノックする音に、カミナは一度閉めた鍵を開けた。

 

「イルカ先生」

「こんばんわ、カミナ。具合はどうだ?」

「熱も下がりましたし、もう大丈夫です。どうぞ、上がってください」

「いや、遅い時間だしすぐに帰るよ。あと、コレな……明日の朝にでもナルトと食べてくれ」

 

イルカが差し出したビニールの袋に、カミナは恐縮してそれを受け取った。変な遠慮をしたところで、この優しい先生は必ず置いていくはずだから。

 

「ありがとうございます、先生……でも。すみませんでした、私が余計なことをしたせいで、先生にも迷惑を…」

「迷惑だなんて思ってないさ。――あの後、女の子と3人の男の子にも話を聞いた。詳しく問い詰めたら、3人は白状したよ。本当はあの男の子たちが女の子を……ヒナタをいじめていて、ナルトはそれを止めに入ったんだろう?あの教師にも説明しておいた。……なんか不満そうだったけどな」

「……ナルトがヒナタをいじめたなんて、信じられなかったんです」

「うん……オレも、そう思ったよ」

 

 

――ことの顛末は、イルカの言ったとおりだった。

昨日、いじめられていた女の子――日向ヒナタは、その特異な瞳の色をからかわれて泣き出す寸前だった。それを止めに入ったのがナルトだった。しかし、多勢に無勢。圧倒的不利な状況に陥り、そして騒ぎを聞きつけた、シカマル曰くあの「ウザイ教師」が駆けつけて喧嘩は止められた。

しかし、三人は口を揃えてナルトを悪者にし、結果一方的に責められたのはナルトだけだった。ヒナタも違うと言いたかったらしいが、元より気の弱い少女なのだ。3人と教師に睨まれて、ナルトをかばいきれなかったらしい。イルカに真実を話した彼女は、ぼろぼろと可哀想なぐらい泣き崩れてしまったそうだ。

そして、カミナが今日熱を出した理由だが――変化の術は忍術の基本とはいえ、まだアカデミー生の小さな身体ではチャクラの限界があり、長時間の持続は難しい。だがカミナはそれをやってのけた。しかし、やはり負担は大きかったようで、今日こうして熱を出してしまったわけである。

 

「ナルトも……思った以上に、驚かせてしまったみたいで……」

「あー…ぅん、まぁ、しょうがないだろう。……ナルトは、カミナが心配だったんだ」

 

イルカは苦笑しながら、今朝のことを思い返す――

 

 

 

――ガンガンガンガンガン!!!

 

『――おわっ!?な、なんだぁ?!』

 

出勤前の準備をしていたイルカの部屋のドアを、突然物凄い音が叩いた。イルカは驚きながらも、玄関のドアを開けた。

 

『……ナルト?』

『イ、イルカせんせぇっ!た、たすけてくれってばよ!!カミナがっ……カミナが、死んじゃうかもしんねぇってばよっ!!』

 

息を切らせ、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにして、これほどまでに青ざめた顔をしたナルトを見たのはイルカも初めてだった。

カミナが死んでしまうかも――ナルトがここまで切羽詰っている理由は分からなかったが、イルカは取る物とりあえずナルトたちの住んでいるアパートに向かって走った。嗚咽を繰り返して話を聞けない状態のナルトは、とりあえずおぶって連れて行った。

 

『カミナっ、大丈夫か!?』

『―――へ?イルカ、先生?』

 

ボロいアパートのドアを蹴破るようにして飛び込むと、カミナがベッドの上に座り込み、手には体温計を持っていた――38度5分。確かに熱はあるが、命に関わるような状態ではなかった。

 

 

 

 

「――ナルトの奴、まさか熱出したことなかったなんてな……」

「あはは……確かに今朝は身体がだるくて、ナルトが呼んできてもなかなか返事ができなかったような気がするんですが……まさか、熱出したぐらいで「死ぬかも」なんて思うとは……」

 

普段カミナと触れ合いが多かったナルトにとって、今朝のカミナの体温は、驚くほどに熱く感じたのだろう。おまけに、いくら声をかけても起きないものだから、ナルトは初めての異常事態にパニックを起こしてしまったのだ。

 

ナルトにとって、カミナは唯一の存在なのだ。イルカもそうだが、共有する時間の長さのせいもあってかよりカミナへの依存度は高かった。それが失われてしまうかもしれない恐怖を……ナルトは本能的に、全力で拒絶したのだ。であれば、ナルトのあのなりふり構わない狼狽えっぶりも理解できるというものだ。

 

「……私の不調が忍術を使ったせいだと知ったら、ナルトはきっと気にすると思うので……このまま風邪ということで、話を合わせてくださいね?」

「あぁ、分かってるよ」

 

「――イルカ先生ッ!来てたのかってば?――あ!カミナ!外出ちゃダメだろ!!」

 

「……イルカ先生。ナルトって自分のことには頓着無いのに、私のことだとちょっと過保護ですよねぇ?」

「それだけ、カミナが大事なんだよ」

 

濡れた髪を乾かしきらずに外に出てくるナルトに、今度はカミナが注意をする。イルカも同意して、一緒に苦笑を零した。

――それからイルカは結局、ナルトの部屋でお茶を呑みつつ、二人から昼間来たシカマルの話を聞いてから帰路についた。やはり、今日シカマルを二人のところに寄越して正解だったとイルカは思った。ナルトはあのとおり、今は友達と呼べる他者がカミナしかいない。それでは、ダメなのだ。今朝のナルトの慌てぶりが、その思いに拍車をかけた。

里の掟が、過去の痛みが、それを許さないのもあるが……――ナルトとカミナには、もっと友達を作ってほしいというのがイルカの願いだった。いざというとき、頼れる人の環を、二人にはもっと広げていってほしかった。いずれは……彼らもアカデミーを卒業し、チームを組んで任務に取り組んでいく。彼らの間に信頼が無ければ、任務は成功せず、そして命を危険に晒してしまうこともあるかもしれない。そしてその柵を取り除くのは、自分たち大人の役目だと思った。

 

 

時間は、巡る……時代は、変わりつつあるのだ―――

 

 

 

 




後半のおまけは、蛇足だったかも……でも、ネタ明かしが必要な為詰め込みました。
ナルトとヒナタのエピソードを、少し改編しております。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。