金色の狐、緋色の尻尾   作:花海棠

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こんばんわ、花海棠です。
ようやく投稿できました。とにかく投稿したくてしたくて、書き上げてすぐに上げちゃった次第です。誤字などの修正あれば、後日致すかも?
今回は、完全にオリジナル展開です。本当はあっさり行きたかったのに、思った以上に濃厚な話になったような気が……文章量もそれに伴い増大(汗)
筆不精の私にしては、出血大サービスです。2話に分割して連続投稿です‼
更新最新話だけでなく、『中忍試験・予選〈5〉前篇』『後編』を続けて読むことをお勧めします。


14.『中忍試験編・予選〈5〉前篇』

サクラは観覧席から、突然カミナの失格に異を唱えてきた音忍に、訝しむ視線を向けていた。

――あのナギという音忍……第二の試験で意識のないサスケを襲ってきた″四人の″音忍たちの中で、他の三人が攻撃を仕掛けてくる最中、彼だけはただ仲間たちの戦いを傍観しているだけだったのである。

 

『――ナギ!サボってねぇで、テメェもヤれよ!!』

『相手は徹夜明けのお嬢さんひとりだ。キミ達だけで十分だろ?』

『……やめておけ、ザク。やる気がないやつに、構うだけ無駄だよ』

『フン!手柄は殺った私たちだけのもんだからね!』

 

サクラの存在など歯牙にもかけない音忍らの言動には、サクラ自身悔しさを感じていた。だが事実その通りだった。あの時、リーが助けに来てくれなければ、いの達が助けに来てくれなければ、サクラひとりでは仲間達を守りきることは出来なかったのだから。

しかし、彼の音忍は他の三人と比べても、どこか妙だった。リーやいの達が現れても加勢せず、ザクという音忍が呪印を暴走させたサスケに両腕を折られても、助けにも入らなかった。唯一したことといえば、撤退する際に気を失っていた仲間を担いでいったぐらいだ。

 

「(あいつ、いったい何なの…?)」

 

サクラは過激な攻撃をしてきたあの三人以上に、あのナギという音忍が不気味に思えた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

ナギ・ナタクという、音隠れの忍。

淡い草色の髪を襟足で束ね、男にしては色白の肌。目元を覆う色の濃いサングラス(シノのものとは少し形状が異なっている)がその薄い色彩の中で一際目を惹きつけ、唯一表情の分かる口元だけが、薄い唇で常に弧を描いていた。一見友好的な相貌だが、その反面、張付けたようなその薄っぺらい面(つら)には、見つめているだけでうすら寒さを感じさせられる。(カカシ先生の方が顔の露出面積少ないのに、こうまでも印象が違うのは何故だろう?)額当てと音忍たちに共通の柄入りマフラーを首元に巻き、裾の長いコートのような上着を羽織っている、青年と呼べるぐらいの年頃の男だった。

 

多数の視線に注目されながらも音忍の男は、臆することなくその″提案″を述べた。

 

「――試験官殿、オレは出来ればこの機会にぜひ木ノ葉の忍と手合せがしてみたい。特に…そこの赤髪のお譲さん。さっき飛び込んできた身のこなしといい、その歳で医療忍術も使えるなんてなかなかのもんだね。ここで戦いもせずに失格なんてもったいないよ。中忍試験は、各忍里の力を示すとともに、より優れた忍を見出すための場なんでしょう?

それに…次の本選を前に、オレたちの手の内を知りたい者もいるかもしれない。特に、最速でこの塔に到着した砂隠れの方々は、始めて戦いを目にする相手も多いはず。本人と、皆さんと、火影様の許可がいただければ、このまま彼女を含めて予選を続行と致しませんか?」

 

にっこり――そんな口元の笑顔で締めくくった彼の者の提案に、多くの者はあっけにとられていた。唯一サクラだけは、死の森では堂々と襲ってきたくせになによ白々しいと、口と目元を見事なへの字に曲げていたが。

 

表向き、他里の忍の失格をわざわざ覆えそうとしてくる、親切でおせっかいな受験者と言った図だ。しかし、実情は大蛇丸の部下である音忍が、暗にカミナの中忍試験敗退を阻止している言動でもある。

大蛇丸は……この中忍試験の継続と、サスケ、カミナには手を出さぬようにと脅しをかけてきている。奴の言いなりになるのも癪だが、正直、敵の手の内の全貌が見えぬ今の状況では、木ノ葉側もうかつに動けなかった。

 

ハヤテの、カカシの、三代目の表情に、苦悩の色が浮かぶ。

 

「――ッ!! 火影様、カカシ先生!……無茶を承知で、私からもお願いします。どうか…私に、試験を続けさせてはもらえないでしょうか?」

「カミナ?」

 

一部の者にしか理解し得ないこの緊迫した空気を、突如、カミナの声音が切り崩した。

それも、先ほど彼女が覚悟を持って下した決断を覆す言葉で、だ。

 

カカシは傍らに立つカミナを見下ろした。そして、僅かにその右目を瞠目させる。

――表情を硬くしているカミナの蒼い瞳には、焦燥と苦悩、そして……明らかな敵意が宿り、ナギという音忍を激しく睨みつけるようにして見上げていたのだ。

 

 

 

三代目は、やるせない気持ちを胸中に抱いたまま、カミナの試験続行を許可した。

 

そして、電光掲示板に次の試合の組み合わせが表示される―――

 

 

◆◆◆

 

 

水面の満ちる、果ての無い闇の空間。

カミナはそこで、彼の大きな獣と対峙していた。

 

「―――カミナ。″今の″は、あの音忍の暗号文だな?」

「…えぇ……クラマにも聞こえたの?」

「あぁ…カミナが感じたものは、ワシにも伝わる。チッ、胸糞悪ぃ……」

 

心の底から悪態を吐くクラマに、カミナは困ったような笑みを浮かべ、そして思っていた以上に張りつめていた己の緊張をわずかに解いた。

 

今しがたカミナは、現実の世界で常人には聞こえない――その法則性を知らなければ上忍にも読みとれない――特殊な周波数の″音″による暗号文(メッセージ)を、彼の音忍の演説ぶった話を聞きながら受け取っていたのだ。

 

 

『――チカラを見せてごらん。でないと、サスケくんを今すぐ、コロスよ?――』

 

 

送り主はもちろん、あのナギという音忍だ。言葉を発しながらも、別の意図をもつ暗号を同時に発信するなんて器用な男だ。いや、いま問題なのは、そんなことではなく………

 

「(どうあっても、私を戦わせたいのね。(サスケのことはハッタリだろうから心配してないけど…)……それにしても、もう確信せざるを得ない。私は……たとえ私自身に覚えが無くても、かつての私は……大蛇丸の………)」

 

カミナが視線を落した先にある両の手は、いつの日か、大蛇をクナイで殺したときの血潮が未だまとわりついているかのように思えた。先ほどの暗号と言い、一体この身には、大蛇丸の手によってどれだけの秘密が施されているのだろうか。自分の身体であるはずなのに、自分の物ではないような受け入れがたい感覚に、言い知れぬ恐怖が忍び寄る。

 

僅かに震える少女の小さき姿を、クラマは痛ましげな眼差しにて見遣っていた。

 

「……お前が大蛇丸という男の元に居たのは、お前の本意ではない。仕方のないことだった……」

「!!」

 

重々しく告げたクラマの言葉に、カミナははっと顔を上げた。見上げた先にある紅玉の眼には、様々な負の感情が浮かんでいた。悲しみや後悔という、彼の獣の苦しみの感情が。

 

「クラマ?……私が大蛇丸の仲間だと、知っていたの?」

「仲間ではない、断じて。言っただろう、不本意だと……あの邪な野望を持つ男の研究室で、ワシとお前のチャクラは出会ったのだ」

「チャクラが……?」

 

思えばカミナはまだ、このクラマのことを何も知らない。未だ闇の陰りに覆われた姿故に、その全貌の姿ですら。……彼の獣が、ずっとカミナの″中″に居たことも、今の今までカミナは知らなかったのだ。しかし、その存在を認めた瞬間から、カミナはクラマのことを受け入れていた。クラマも、その言動や態度からカミナのことを受け入れてくれているように思える。

 

でも、なぜ?――カミナの言いたいことは分かっているとうでも言うように、クラマは、先んじて小さく頭を振った。今は、話すべき時ではない、と。

 

「話せば長くなる。今はまず、目の前のことに集中しろ。あの音忍は油断ならん。……口悔しいが、今のワシにはロクな手助けができんからな。――死ぬなよ、カミナ」

 

 

クラマの心から身を案じる言葉を最後に、カミナの意識は現実の世界に引き戻された。

 

 

◆◆◆

 

 

予選・第十回戦目、

 

 

木乃花カミナ VS ナギ・ナタク

 

 

掲示板に表示された両名が、一度戻ったギャラリーから降りて試合の開始位置に着く。

 

 

「よりによって、今になってカミナの順番が回って来るなんて……」

「大丈夫だって、サクラちゃん!カミナなら……絶対勝つってばよ!!」

 

ナルトのその揺るぎない信頼は、時に最高の安心となり頼もしさでもあるのだが、いまのサクラには全ての不安を打ち消すまでには至らなかった。

死の森で気絶していたナルトは、あの音忍の不気味さを知らない。思えば、あの音忍の視線は、この塔にたどり着いてからずっと、カミナを捕らえていたような気さえする。まるで、執拗にサスケを付け狙っていたあの大蛇丸のような……あの蛇のごとき眼光を思い出して、サクラはぶるりと身を震わせた。

 

「大丈夫か、サクラ?」

「カカシ先生……」

「……まぁ、お前の不安も分かるよ。カミナの失格取り消しを提案した本人が、まさかの相手だ。カミナも変な遠慮はしないと思うが……正直、図られているみたいで気味が悪い」

「図られている?」

「……悪いサクラ、今のはオレの独り言だ」

 

カカシは唯一見える目元でにっこりと笑顔を作っていたが……その表情に、安心感を感じる温かさは無かった。むしろ、まるで波の国の時の任務のように、警戒を促されているような気さえした。

サクラは不安を抱いたまま、だが身を引き締めてカミナの闘いを見守るべく視線を闘技場へと向けた。

 

そして――傍らに居たナルトもまた、先ほどサクラを励ました太陽のような表情とは打って変わって、サクラ以上に不安の拭いきれぬ眼差しをカミナに向けていたことは、三代目以外に誰も気づいてはいなかった。先ほどの彼の言葉は、ナルト自身にこそ言い聞かせていたものなのかもしれない……。

 

 

◆◆◆

 

 

「……では第十回戦、始めてください!!」

 

ハヤテの試合開始の合図とともに、カミナは即座に右足に装着したホルスターからクナイを取り出して構えた。対してナギは、コートに僅かな揺らめきを生じさせることもなく、微動だにしない。

 

「カミナー!がんば―――」

 

 

―――ヒュンッ………ドガッッ!!!―――

 

 

「――ッ!! ぅあッ!?」

 

カミナは、突如襲った顔面への強烈な打撃に、その華奢な体を宙に浮かせた。

 

 

――ドンッ、ダンッ!…ズザザザザァアアァァ…!!――

 

 

 

「…………………え…?」

 

ナルトの応援のために振り上げた拳が、宙を彷徨った。

試合開始早々、突然カミナの身体が後方へ吹っ飛び、硬い床石の上をバウンドしたうえ、砂埃を巻き上げながら転がって倒れ伏したのだ。吹っ飛ばされた拍子にカミナのクナイが、カランッと音を立てて離れた位置に落ちていく。

 

「カ、カミナっ!?」

 

サクラが、思わず悲鳴染みた声音を上げる。無理もなかった。いのも、シカマルも、チョウジも。砂隠れの面々やカカシやアスマでさえも唖然として、吹っ飛ばされたカミナの姿に釘付けとなっていた。

 

「……ゴホッ(…今の攻撃は一体…私にも見えなかった…)」

 

ハヤテの眼にすら映らなかった攻撃は、おそらく、音忍ナギが放ったものではあろうことは推察できる。しかし、印すら組んだそぶりも見せなかったその攻撃の原理は、この会場に居る誰ひとりとして理解できなかった。

 

「ぅ、くッ……(…今の攻撃、見えなかった……でも、音が…)――はッ!!」

「ククク……油断しちゃダメだろう?コレは試験の″試合″でも″闘い″なんだから…ねぇ?」

 

色のない唇が、歪む――黒い手袋を纏ったナギの右手が、彼の頭上に掲げられる。なんの印も組んでいない掌が、ひゅっ…と、重力に従う程度の速さで振り下された。

 

 

――ヒュンッ……――

 

 

「!!」

 

咄嗟に、カミナは床の上から跳ね起きて、右へと跳んだ。直後、ドシンッ!!という重い音が床石を叩き、亀裂を走らせた。……カミナの背筋を、ひやりと冷たいものが走る。

カミナは打ち付けた身体の痛みをやり過ごして、さらに右側へと飛ぶ。ナギの手は、カミナの動きを追うようにして、ひょい、ひょい、ひょい…と、まるで指揮棒でも降るかのように右手を宙で上下させた。その度に、床は巨大なハンマーか何かで殴りつけたかのようにけたたましい音を立てて陥没し、割れて石の破片を飛び散らせた。

 

――ドンッ、ドンッ、ドンッ……!!――

 

「くッ!!……――ぅあっ!?」

 

しかし三回飛び退いたところで、再び衝撃がカミナを後方から襲った。無防備だった背中を蹴りつけられたかのような衝撃を受けて、カミナの身体は前のめりにバランスを崩す。

そこへ、ズドンッ…!!と、重い衝撃が落ちてきた。石を陥没させるほどの衝撃だ。カミナの身体は、強烈に足元へと叩き付けられた。

 

「がはっ…!!」

 

「カミナーッ!!」

 

観戦しているナルトたちにも、何が何だか分からなかった。かろうじて、視覚で捕らえられない″何か″が、カミナを攻撃しているかのように思えた程度だ。

しかし、リーと我愛羅戦の時のように、ナギが見えないほどの速い動きで攻撃しているわけではなく(現に、ナギは試合開始の位置から動いていない)、かといって忍術を使っている素振りも見られない。石が割れる程の物理攻撃である以上、幻術であるはずもなく……

 

「カミナぁ!!――カカシ先生!何なんだってばよ、あの攻撃!?あいつ何したんだ?なんにも見えねーってばよ!!」

「……オレにも、分からん。初めて見る攻撃スタイルだ。……忍術、か。しかし、奴はいつの間に印を組んだんだ?」

 

額宛を押し上げて写輪眼を露わにしたカカシも、訝しむようにナギの戦闘方法を見定めていた。

 

 

 

 

 

ギャラリーたちの動揺する″気配″を満足げに感じ取りながら、ナギは、カミナがふらつきつつもようやく立ち上ががるのを余裕の笑みを浮かべて待ち、そして、再び掲げた右手をすっ…と右から左へと凪いだ。

 

――ガンッ!!――

 

「うぁっ…!!」

 

カミナの身体が彼女の左側から衝撃を受けたように、右に吹っ飛ぶ。

ナギが、今度は左から右へと腕を振った。カミナの身体が左へと倒れた。

 

「――ぐっ…!!――ぅあっ…!!――あぐっ…!!」

 

カミナの身体が、四方八方から攻撃にさらされているかのように、前後左右へと大きく揺らされる。彼女の赤い髪が宙を舞う以外にも、鮮血の飛沫が床に跡を残していった。カミナは、防戦一方だった。

 

「こ、こんなの一方的過ぎるわ!カカシ先生、試合を止めて!カミナは戦える状態じゃないわよ!!」

「……試合の判定は、ハヤテに一任されている。まだ口出しはできないよ。……まだ、ね」

「先生!?」

 

傷付いていく仲間の姿に、サクラの耐えようもない気持ちはカカシにもわかっていた。だが、これはあくまで試験なのだ。大蛇丸の存在が秘密裏にされている以上、奴が″捨て駒″と言い捨てた音忍たちを木ノ葉側が勝手に処理するわけにもいかなかった。……カカシにも、苦しい決断だった。

 

 

『彼女が木ノ葉を裏切るんじゃないわ……オマエたちが、彼女を裏切るのよ…』

 

 

「――!!」

 

一瞬、脳裏に蘇えった彼の忍の言葉に、カカシは心の臓が冷える心地がした。

―――俺たちが、カミナを見捨てる?……見殺しにするとでも、言うのだろうか?

 

「(……そんなはず……そんなことは、ない…!!)」

 

カカシは、手すりを掴む自らの右手に我知らず力を込めていた。

古い記憶が、カカシの脳裏を過る――雷光の中、血の吐息とともに己の名を呼んだ少女の姿を……カカシは、無理矢理記憶の奥へと押しやった。

 

 

 

 

 

月光ハヤテは、試合の成り行きから目をそらすことなく、しかし、忍として鍛えられた優秀な聴覚が、戦う下忍のチームメイトの悲痛な訴えを拾い上げていた。そして、里の誉れと言われる優秀すぎる担当上忍師の苦悩する気配も。

 

「(カミナさん…いっそ、気絶でもしてくれればいいと願ってしまう……試験官としては失格な想いだな、これは……)」

 

ハヤテは誰に悟らせることなく、胸中でひとりごちた。

確かに、この試合は一方的だった。目に見えない攻撃にカミナはただ耐えるだけ。決定打にない攻撃は少女に苦痛を与え続け、じわじわと傷を増やしていく。しかし……ハヤテは試験官の立場として、まだ試合を止めるわけにはいかなかった。

 

攻撃をガードするように、顔の前に掲げられた両の腕―――カミナはまだ、諦めていなかったからだ。

 

「そろそろ、なにかしたらどうだい?こうも無抵抗だと、さすがにつまらない……ッ!?」

 

ナギが腕を振り下したタイミングで、カミナが自らの意思で横へと飛んだ。そして、握り締められていた右手がカミナが飛び去った後の空間に向けてパッと開く――カミナの手中から突如、″視覚できる空気″が、宙を舞った。

 

 

――ザァァッ……!!――

 

 

「砂!?」

 

叫んだのは、カンクロウだった。テマリも――特に砂隠れの面々は、馴染みの…というにはやや危険度の高い″砂″が常に傍にいるためか、木ノ葉側よりも過敏にカミナの策に反応を示した。

 

 

――ヒュッ……!!――

 

 

「あ!なんか見えたってば!?」

 

ナルトが叫ぶ。床石が重い音を立て砂塵を巻き上げながら割れる最中、舞った砂が″何か″に遮られるようにして空中で形状を変えたのだ。

″何か″は四角い箱のような形で、見えない姿でありながら確かな質量を有していた。

 

床石が割れると同時に、カミナはすでに最後の『虎』の印を組んでいた。

 

「火遁・豪火球の術!!」

 

大きく息を吸い込んだカミナの口から、カミナと等身大ぐらいの火球が放たれる。火球から広がる炎が陥没した床を舐めるように覆い尽くし、ボンッ!!と一際大きな爆音を立てて焼失した。

同時にカミナを攻撃してきた″何か″の存在も会場から消えた気配が、肌を通して感じられた。

 

――音忍の薄い口唇が、さらに歪んだ笑みを深くした。

 

 

◆◆◆

 

 

「す、すご……」

「カミナって、あんなに強かったの?」

 

観戦していたいのとチョウジが、思わずといった態で感嘆の言葉を零している。無理もないよな、と隣にいたシカマルは思う。カミナの忍者アカデミーでの成績は常に(それも気持ち悪いほど正確に)中盤をキープしており、本当に実技でも筆記でもとにかく目立つことの少ない奴だった。

しかし、それは本来の実力を抑えてのものだったというのを、シカマルは早くから気づいていた(ナルトとの仲を知った時期にそれは確信に変わった)。でなければ、同期達よりも数年遅れて編入してきたカミナが、同じ年に一緒にアカデミーを卒業できるはずもないのだから。

 

「砂で見えない敵の姿をあぶり出し、それを火遁でトドメってわけか。あんだけ攻撃くらってる最中に、よくもまぁ……(スタミナのねーオレには、絶対できねぇ戦術だなこりゃ…)」

「なかなかの火遁じゃねーか。印の速さも正確さも、申し分ないな(しかし、″豪火球の術″であの威力か……)」

 

シカマルが先ほどのカミナの戦術を分析し、あのアスマまでもがカミナの火遁に一目置いた評価を下していた。

――ナギの攻撃は、風遁で圧縮した空気の塊(キューブ)を相手にぶつけるというものであり、空気であるがゆえに攻撃を視覚化出来ず、避けることも攻撃を跳ね返すことも困難としていた。カミナはそれを、キューブが宙を飛ぶ時に生じる僅かな風の音と気配で察知して攻撃が当たる寸前で回避、砂でその位置を正確に把握し、そして″風″に優位となる″火″でキューブを爆散させたのである。

 

「すごいカミナ!あれって、サスケ君の術よね!?カミナったら、いつのまに……」

「サスケの術っていうか、サスケが良く使ってる術ね?――カミナのチャクラコントロールは元よりサクラ以上、いや……アレだけなら、カミナはすでに上忍クラスにも匹敵する。オレやサスケの写輪眼のように瞬時に術をコピーすることはできないが、印さえ正確に覚えれば、カミナは大抵の忍術はすぐに扱えるようになるだろうな。」

 

カミナは誰かさんと違って記憶力もいいしね、とカカシは付け加える。

 

「そ、そんなに!?カミナ、やっぱりすごい!!」

「さっすがカミナ!……サスケの術ってーのが、ちょーっと!気に喰わねぇけどよ…」

 

そんな些細なことで口先をとがらせるナルトに、カカシはやれやれと肩をすくめた。この意外性ナンバー1は、カミナの観戦に必死で普段なら即座に噛みついてくるイヤミも、今ばかりは通じて無いようだ……それだけ、実はカミナを心配しすぎて余裕のカケラも無いナルトを、カカシは目を細めて視界の端に見遣っていた。

 

「ナギってやつの術は風遁だった。それにぶつける術が火遁なのは当然だよ。(けれど奴は印を組んでいない、いったいどういう原理なんだか……)」

「ふ、布団?カントン?」

「風遁と火遁、よ!ナルト、″五大性質変化″の優劣関係って、アカデミーの特別講習で習ったでしょ!?」

「そ、そうだっけ……?」

「ま、簡単に言えば、″風″に強いのは″火″ってことね。……けれど、本来の″豪火球の術″はあんなものじゃない。″火″は……カミナには相性が悪すぎる」

「え?」

「ど、どういうことだってばよ?」

 

同時に首をかしげるサクラとナルト。

思い出すのは、波の国でのことだ。あの一件で、カカシはカミナのチャクラ性質を確信した。

 

「各々のチャクラには必ず得意とする性質があって、カミナが得意とするのは″水″の性質なんだ。

″火″と″水″は基本的に相性が悪い。一部例外もあるが……本来相反するチャクラ性質で、あそこまでの火力を出せるだけでもすごいことなんだ。しかし…今のカミナのチャクラで、あと何回火遁が使えるか……」

「「…………。」」

 

沈黙する二人の眼下では、すでにナギとカミナの交戦が再開されていた。

 

 

◆◆◆

 

 

「さすがだね。こんな短時間でオレの術を見破ったのは、キミが初めてだよ。その上で、砂と忍術で反撃してくるなんてさ……」

「……音と気配を探れば、さして難しいことじゃありません。腕の動きのブラフには、少し惑わされましたけど……でも、印も組まずに術を発動したその原理は……」

「おしゃべりよりもさ、もっと殺(ヤ)ろうよ?………オレ、あんまり時間に余裕ないし……」

「え?――ッ!?」

 

ナギが、コートのポケットに突っ込んだままだった左手も出して、両手を宙にかかげると……――ヒュン、ヒュン…と、相変わらず何も見えない空中から音が聞こえてくる。先ほどとは違い、確実に空気が動いているそれを、カミナは感じ取っていた。そして、その大まかな″位置″と″数″も……

 

「――ッ!!」

「……今度は圧縮強めて少し小さくして、数も増やしたよ?密度を増した分、多少感知はしやすいだろうけど……それでも、″すべて″を捕らえられるかな?」

 

ナギが、両手を振り下ろす。″視えない″攻撃が、″一斉に″カミナに襲い掛かった。

 

 

 

 




・ナギの人物設定、忍術は原作に無いオリジナルです。
・チャクラ性質の優劣は、原作37巻を参考にしています。

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