金色の狐、緋色の尻尾   作:花海棠

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お久しぶりです、花海棠です。
予選篇、予想以上に長丁場になりました…ついに数字で表記です。
改めて、九喇嘛がちゃんと登場したような…クラマと、カタカナ表示なのは小生のこだわりです。まだ、九尾に名前があること自体認知されていないという意味合いで……二期からは、漢字表記にしようかな。しょーもないこだわりです。
あまり展開進んでいませんが、大事な要素は多いかと。

サブタイトルを付けるなら、『日向の宿命、ヒナタvsネジ』です。まんまか?
しかし、キバが何気に出張っている…

2015/06/29最終投稿。
2015/10/20名前変更。



11.『中忍試験編・予選〈2〉』

「(――…負けちまった、なぁ…)」

 

ナルトとの試合に負けて治療室に運び込まれたキバは、ぼんやりと、手当てを受けたベッドの上で古びた天井を見上げていた。配管とかが結構むき出しな天井に、この塔ボロッちいな、なんて取り留めもない感想が頭を過っていく。

 

「赤丸…ごめんな」

 

キバは枕元で丸くなる赤丸に、そっと手を伸ばしてその傷付いた毛並みを労わるようにして撫でた。ナルトにしてやられたとはいえ、本物の赤丸とは気付かずに思いっきり殴ってしまったのだ。だというのに、赤丸はクゥ~ンと小さく鳴いて健気にも主人の怪我を心配してくれている。この出来過ぎた良き相棒に、キバは思わず目頭が熱くなった。包帯の巻かれた手で乱暴に目元を擦りながら、後で赤丸にはキバ様特製犬ごはんを思う存分振る舞ってやろうと心に決める。

 

キバがそんな赤丸に再び視線を戻した折、ふと視界に隣のベッドを遮る衝立が映り込んだ。死の森のど真ん中に位置するこの塔には、治療室兼病室の広いひとつの部屋しかなく、隣り合ったベッドの間に衝立を置いて相部屋仕様になっているのだ。

室内の気配は五つ。この部屋に居るのは、皆予選で負けた奴らばかりであり、サスケの奴はいねーのか、と……キバは血と消毒の匂いで少し効きの悪くなった鼻で、しかし匂いの残滓もないことからその同期の不在を知る。仕方ないとはいえ、負け犬のたまり場みたいなこの場所に自分も居るハメになったことは、キバにとっては不本意であり、正直腹立たしくてしょうがなかった。

 

……ナルトが、あれほど強くなっているとは夢にも思わなかった。変化の術も満足にできなかったヤツがだぜ?なのに、オレはその変化の術で、一杯も二杯も食わされちまったんだ。…次は、絶対に勝つ。そんで、オレこそが火影になってナルトを見返してやる!!――キバの胸には、そんな新たな目標がふつふつと滾っていた。

 

バタバタバタ――不意に、幾人もの足音が治療室の前の廊下を慌ただしく駆けていく音を、キバの耳は捕らえた。犬並に嗅覚の優れたキバだが、聴覚とて引けを取りはしないのだ。

なんだ?……気になってキバが廊下の物音に意識を向けると、先ほどキバの手当てをしてくれていた医療班らしき人たちの会話が聞こえてきた。よほど焦っていたのだろう、ドア越しでありながらキバにはその全容が聞き取れた。

 

「――なに!?緊急治療室が使えないだと!?どういうことだ!!」

「治療に必要な機材が使えなくなっているんです!里内の病院ほど定期的に整備もできないものなので、故障も考えられますが……」

「馬鹿な!中忍試験の開始前に、整備は済んでいるはずだぞ!!これでは、重篤な怪我人が出た場合に治療ができないではないか!!」

 

バタバタと……さらにせわしくなった足音が、キバのいる部屋から遠ざかっていく。

 

ドッドッドッ……キバは、自分の心臓が、嫌にうるさく鳴っているのを感じていた。耳元に心臓が移動したんじゃねーかと思うくらい、うるせぇ……。赤丸も、そんな主人の変化に気づいたのだろう。ぴくっと頭をあげて、クゥゥ…と低く唸りだす。

 

「(……次の試合、ヒナタとネジだよな?……大丈夫かよ…?)」

 

日向の宗家と分家。同じ一族でありながら、その二つに分かれた血筋の確執の言うものを、キバはヒナタと同じ班になってからまざまざと知ることとなった。

里でも名の知れた名家の日向一族・宗家の跡取りでありながら、落ちこぼれのレッテルを張られたヒナタ。始めの頃はキバも、ヒナタのうじうじオドオドとした態度に何度もイライラさせられたものだ。あのシノでさえ、言葉にせずとも呆れたことがあるだろう。しかし…ヒナタはプレッシャーには弱いが、芯の強い、決して努力を怠らぬくノ一であったのだ。サスケなんかを追っかけている煩いだけのくノ一なんかよりも、よっぽど忍らしい。ヒナタのへこたれずそのひたむきな姿に、やがてキバとシノも彼女に対する見方は変わっていった。

そんな彼女の挫けても立ち上がり続ける意思の根幹には何が、誰がいたのか……同じ班員をやっていれば、おのずと分かることだった。キバは今日ソイツに負けるまで、ソイツのことをずっとバカにし続けていたのだから。

 

「(ヒナタは…ぜってー無茶する!あそこには、ナルトが居やがるんだ。アイツが、ヒナタの想いに応えることなんてないって、とっくに知ってるくせに…!!)」

 

先日、キバですら気づいた、ナルトが見つめ続ける赤い色――お前ら、いつの間にそんな仲になったんだ!?って…中忍試験が終わったら、あとですっげーからかって茶化してやるつもりだった。

……けど今は、そんなくだらないことを考えている場合じゃねぇ!――キバは、傷の痛む身体を無理矢理ベッドの上から起こした。

 

「ぐっ!……赤丸、悪ぃな…一緒に来てくれるか?」

「ワン!」

「へ…ありがとな」

 

キバは、痛みに悲鳴を上げる身体を引きずるようにして、赤丸を伴い治療室を出た。粉っぽい壁に縋って、今まさにヒナタとネジの予選が行われているだろう闘技場へと足を向かわせる。

 

――故に、キバは知らなかった。キバが出ていった後、治療室に侵入した人影に。そして、その後部屋から消えた幾つかの気配に……

 

 

◆◆◆

 

 

日向ヒナタと、日向ネジの戦い。それは、誰もが予想だにしない凄惨な戦いとなった。

実力の差は明らか。それでもヒナタは、ネジに喰らい付き挑み続けた。担当上忍師である紅が驚くほどに……憧れ続けたナルトの前で、ヒナタは己の忍道を貫き続けた。

 

「カハッ!!」

「やはり、この程度か……宗家の力は…」

 

日向宗家でありながら落ちこぼれと云われるヒナタ、分家ながら日向の天才と謂われるネジ。

互いが重い日向の運命に捕らわれながらも、ヒナタはその運命に抗うことを止めなかった。諦めろと言いながら、その血に苦しんでいるのはネジも同じだと……血反吐を吐きながら戦い続けるヒナタが指摘したその言葉に、ネジは殺気立てて、とどめを刺すかのごとく立つのもやっとなヒナタに向けて走り出す。

 

――ガッ!!――

 

「ネジ、いい加減にしろ…!」

「……なんで他の上忍たちまででしゃばる…宗家は特別扱いか…」

 

上忍一同(アスマを除く)に止められたネジは、不服そうな表情をしながらも白眼と拳を納めた。

闘技場に飛び降り、ヒナタに駆け寄るナルトたち。――その様子を、カミナも″見ていた″。

 

「(ヒナタっ……酷い怪我、早く治療しないと……!!)」

 

再度血を吐き倒れたヒナタ。心室細動を起こしていると叫ぶ紅に、医療班が慌てて駆け寄り治療を行う。

 

「このままでは10分と持たない!!緊急治療室に運ぶんだ…急げ!!」

 

ヒナタが担架に乗せられる。

血にまみれた身体が運ばれて、すぐにヒナタは治療される

 

 

 ″はず″だった――

 

 

<――カミナ、目を覚ませ!!日向の娘、あのままでは危ないぞ!!>

 

「――ッ!!」

 

突如、カミナの〈中(なか)〉で、大きな声がカミナの意識を揺さぶり起こす。

 

カミナはたった″今″、現実の世界で目を″覚ました″―――

 

 

◆◆◆

 

 

「――なんだとっ!?どういうことだ!?」

 

試合が終わった闘技場に、医療班長の大きな声が轟いた。

ヒナタの吐いた血を握り締め、ネジに勝つことを宣言していたナルトは、そのただならぬ雰囲気に驚いて振り向く。

 

「緊急治療室の機材が使えなくなっているんです!ここでは治療ができません!!」

「何ですって…!?」

 

紅の悲鳴染みた声音が、その場に居た全員の心臓を鷲掴みにするかのようだった。

治療ができない――重傷を負い、一刻を争うヒナタの状態にそれは死の宣告にも等しかった。ネジでさえこの事態は予想外であっただろう、自身がしでかしたこととはいえ彼の瞳はわずかだが驚きに瞠られていた。

 

「どういうことだ!?中忍試験の間は、この塔でいかなる治療もできるよう設備されているのか決まりだろう!!」

「それがっ……どういうわけか、先ほど確認をしたところ、一部の機器が破損しているのが発見されて…!!」

「……誰かが機器を壊したってことか?」

 

人為的な治療設備の破壊。カカシの脳裏には瞬時に大蛇丸の姿が浮かんだ。しかし、なぜこのタイミングで…?

 

「じゃあヒナタはどうなるの!?早く治療をしなければッ……このままでは、この娘が死んでしまうわ!!」

 

「う、うそだろっ…ヒナタ!!」

「ナ、ナルト……――え?」

 

 

「―――みなさん、退いてください!!」

 

 

混沌化する人垣の中に飛び込んできた、鮮烈の赤――ヒナタの吐いた鮮血よりも大きなその赤い塊は、ヒナタの周りにいる白衣を押しのけて、そのまま床の上で担架に乗せられていたヒナタの上に躊躇なく馬乗りになる。

 

「えっ?…カミナ!?」

「キ、キミ!?なにをするんだ!!」

「いいからっ、少し離れていてくださいッ!!」

 

大の医療忍者達すら跳ねのけて、カミナは急いでヒナタの首に掛けられた額宛を外し、上着のチャックを降ろす。鎖帷子越しにも分かる、ヒナタの成長過程にある胸元…は、ひとまず置いておくとして、カミナは探るように指先でヒナタの身体に触れた。そして、ヒナタの左胸の周囲のある一点を狙いすますと…カミナは親指をその位置に合わせて、ぐっと体重を掛けて強く押し込んだ。

――キンッ……カミナの手が触れた位置よりも下方、ヒナタの体内で″楔(くさび)″が外れるような微細な感覚を、カミナは正確に感じ取った。

 

「(――外れたっ…!よし、この要領で…)」

 

カミナはまたすぐに指先を移動させ、ヒナタの身体の要所を同じように突いていった。

 

カミナの行いに、何の意味がるのか分からない。しかし、今の今まで深い眠りにいたはずのカミナがなぜ…という疑問よりも、その必死で真剣な眼差しに、誰も声をかけることができずにいた。

いかなる方法かは分からないが、カミナはヒナタを救おうとしている。誰もがそう思ったから。

 

「カミナ…いったい、なにしてんだってば…?」

「……まさか……カミナは、閉じられたヒナタの点穴を解除しているのか…?」

「「「えっ!!」」」

 

カカシの零した予測は、予想以上に周囲を驚かせた。口にした本人のカカシですら、それは信じられないことだったからだ。

 

ネジは、瞬時に白眼を発動させた。そして目にする。カミナの手は、確実にネジが閉じたヒナタの点穴を解除し、そして彼女の手から放出される微細にコントロールされたチャクラが、ヒナタの傷付いた内臓器を癒していることを。

 

「(馬鹿なっ…!!白眼も無しに、点穴の正確な位置をッ…しかも、あれは医療忍術。習得が困難な治癒術を、なぜ下忍に成りたてのあいつが…!?)」

「で、でもッ…カカシ先生、点穴は白眼じゃないと見えないんでしょ!?カミナは、どうして点穴の位置が分かるの?」

 

ネジが困惑し、サクラが驚きに声を上げるのも当然だった。

点穴とは、元来チャクラの通り道である経絡系のツボのようなもので、そこを突くことでチャクラの流れをコントロールできると言われている。今の戦いで、ヒナタの点穴はネジの攻撃によって閉じられていた。ヒナタの柔拳による攻撃が封じられただけでなく、本来のチャクラの流れを阻害されれば当然身体の正常な働きにも影響を及ぼしてしまう。ましてや、瀕死のヒナタにとってそれは命取りに等しかった。故にカミナは、急ぎ点穴の楔を外し、チャクラの流れを正常の戻そうとしているのである。

 

「見えないって言っても、人体の構造から点穴の位置は大体決まっている。それに……カミナは、医療忍術を習得している。その優れたチャクラコントロールで正確な点穴の位置を定め、確実に点穴の楔を外しているんだろう」

「医療忍術だと!?あの歳でか!?」

 

ガイの無駄に大きな声は、当然その場にいた全員の耳に届いた。脳筋族のガイですら驚くのも無理はない。医療忍術はそれほどまでに習得困難な高等技術であることが周知されており、故に任務地へ赴ける医療忍者の存在は木ノ葉でも希少であった。

かつてその道のエキスパートと言われた彼の伝説の三忍のうちの一人が、数十年前にとある事情で里を出てしまい、以降後進の育成が伴わなかったのも一因とされているが……

 

「グフッ!!」

「っ、ヒナタ!!(――心臓周囲の点穴は外れた!でも、まだ脈が正常に戻らないッ!!)」

 

ヒナタが再び血を吐いたことで、カミナの胸に焦りが高まる。正規の指導を受けたわけではないカミナの医療忍術では、これ以上の対応しようがなかった。

どうすればいい、どうすれば――すると、カミナの脳裏に再び″あの声″が聞こえた。

 

<――ワシのチャクラを使え。治癒術で、一気に小娘の傷を治すのだ>

 

瞬間、カミナの周囲の景色が変わった。

 

 

◆◆◆

 

 

――カミナは、何処とも知れぬ足元が水に満たされた場に立っていた。

見覚えのない景色。ヒナタも居ない。薄暗い空間は、昼なのか夜なのか、屋内なのか屋外なのかもあいまいにさせており、浅く水が満たされた足元の以外に上も横もどこまで空間が続いているのかわからなかった。

そして、カミナが顧みた背後には……巨大な、並の建物の大きさを優に超える四足の獣が、そこにそびえるようにして佇んでいた。そのあまりに大きなシルエットに、獣の全貌を見ることは適わなかった。

 

「あなたは……誰?」

「……いまさら、名乗らずとも分かるだろう?以前より何度もワシの名を呼び、この自慢の毛並みを台無しにして泣きじゃくっていたではないか」

 

ザブッ……獣の前足が水面を叩き、飛沫が上がる。近づいた鼻先からその細面の顔を辿れば、赤い獣の眼が二つ、カミナを見据えていた。

 

「……クラマ……」

 

赤の双眸が、肯定するように一度瞬いた。

――その存在は何者なのか、どうしてカミナの〈中〉にいるのか、夢に見るあの記憶達はなんなのか……聞きたいことは山のようにあった。けれど、いま、カミナが聞くべきことは…最も優先するべきことは別にある。

 

「ヒナタを助けて」

「(恋敵をも救うか。その懐のデカさは変わらぬよな……)……よかろう。それが主の…カミナの望みならば……」

 

クラマが右手の拳を突き出した。カミナは言われるまでもなく、まるでそうすることが当然であるかのように、自らの拳を突き出してそれにくっつけた。

瞬間、急激に流れ込む莫大なチャクラ。そのあまりの巨大さに、カミナは身体が引き裂かれそうだった。

 

「ぐっ…!!」

「恐れるな。主ならば、ワシのチャクラもすぐに飼い慣らすことができよう……お前の、望む未来を進め――」

 

その恐ろしい風貌の獣の声音は、どこまでも優しかった――

 

 

◆◆◆

 

 

――バッ、バッ、バッ…!!――

 

″現実″の世界で、カミナは素早くいくつかの印を両手で結ぶ。本来、医療忍術には印を必要としない。しかし、クラマから受け取ったチャクラを感じ取った瞬間に、カミナにはわかったのだ。この強大すぎるチャクラは、それがゆえにこのままでは使えないと……

 

「ヒナタから離れてください!!」

 

カミナが鋭く叫ぶ。それとほぼ同時に、カミナは両手をヒナタの身体の上にかざした。

 

――ブワッ!!――

 

「うわっ!!なッなんだ…!?」

「なにっ、コレ…!?これって、カミナのチャクラなの!?」

 

ナルトやサクラ達が、思わずたたらを踏んで顔の前に腕をかざす――カミナたちの周囲に居た者達は、突然身体の前面から突風を受けたような衝撃を感じた。しかし、窓もない塔の闘技場の中に風が吹き込むはずもない。……その正体は、チャクラだった。カミナの小さな身体から突如巨大なチャクラが膨れ上がり、それが余波となってナルトたちにぶつかったのだ。

 

――シュウウゥゥゥ…――

 

カミナの両手は、チャクラの光に包まれて大きく輝いている。これまで見てきた、医療忍術の輝きとは比べ物にならないチャクラの量だ。カミナは繊細なチャクラコントロールを必要とする治癒術を、その大量のチャクラを練り込んでやってのけてるのだ。カミナの全身から溢れるチャクラは、治癒術に還元されなかった分が緋色の輝きとなって霧散し、空気中へ溶けて消えていく。

 

「(…なんてチャクラの量だ、チャクラが無駄に溢れているぞっ……一体どういうことだ、ナルトじゃあるまいし、カミナのチャクラはこれほどまで多くはなかったはず…!?)」

「(なんと……カミナよ、おぬしの力はここまで…!!)」

 

カカシと三代目ですら驚くその光景に、他の者達など言葉も出なかった。

緋色のチャクラの放出はやがて収まり、治癒術の光も消えていく。カミナはすぐにヒナタの首に手を触れて、真剣にその微かな鼓動を聞きとった。

 

――トクッ…トクッ…――

 

「(脈が、正常に戻った……よかったッ…!!)」

「ゴホッ……か、み……ちゃ、ゲホッ」

「ヒナタっ!!」

 

僅かだが、ヒナタの意識が戻ったのをカミナは確認した。しかし、咳き込むヒナタの様子から吐血した血が口の中に溢れているのだろう事が伺える。

ここまでくれば、もう生命の危険はないが………カミナは乗り上げていたヒナタの身体から下りると、血の気が引き、しかし生気は失われていないヒナタの頬に手を添えた。

 

「カミナっ、ヒナタはだいじょう…―――って、えぇええええっ!!??」

「か、かみなぁっ!?」

 

目もくらむようなチャクラの光が収まり、サクラとナルトがヒナタの安否を伺うと……深刻だった表情から一転、二人は会場全体に轟くほどの素っ頓狂な悲鳴を上げた。

その理由は、ギャラリーに居たシカマルたち八班もバッチリと見えており、近くに居たリーなんかは顔を真っ赤にして、目を白黒とさせていた……カカシや紅たち大人は、思わずぽかーんとしている―――カミナが、いきなりヒナタにキスしていたからだ。

 

「うっ……んっ……」

「んぅ…………、べっ!」

 

バッ!!――と、カミナがヒナタから離れた途端、彼女が床に吐き出した血の色に、今度は全員がぎょっとした。カミナはただ、ヒナタの息を詰まらせていた血を取り除いていただけなのである。

 

「あ……ごめんなさい。手か布に出せばよかったですね。……ヒナタは、もう大丈夫です。応急処置だけですが、危険は脱しました」

「ハッ!……し、信じられん!専用の機材も無しに、心室細動を治すとはっ…!!」

 

呆気にとられていた面々の中、カミナの言葉で我に返った医療班員が慌ててヒナタに駆け寄る。そして手早く状態を確認してから、感嘆の声を漏らした。

ヒナタはひとまず、一命を取り留めた。しかし、他臓器に受けたダメージは依然として深刻であったため、ヒナタはすぐさま木ノ葉病院に運び込まれることとなった。

 

慌ただしく搬送隊が準備される最中、カミナは床に座り込んだまま唇に着いたヒナタの血を拭う。

――なんて巨大なチャクラだろう。ヒナタを傷つけぬよう、少しずつ治癒術に変換するだけで精一杯だった。<初めてにしちゃ、上出来だ…>――そう満足そうな声音を最後に、カミナの〈中〉からあの巨大な獣…クラマの気配が遠ざかっていった。消えてはない。″彼″はこれまでもずっとカミナの〈中〉に居たのだと、今のカミナには解っていた。

 

しかし、″なぜ″彼の獣は、カミナ(わたし)の〈中〉に?

カミナは……徐に、自身の腹部に手を当てた。答えはすでに、出ているのかもしれない――

 

「――…あのまま楽になっていた方が、ヒナタ様の為だったかもな」

 

背中に掛けられたネジの声音に、カミナは振り替える。ちょうどナルトたちが人垣を割ってカミナの元へ駆けつけてきたときだったので、そのネジの無情とも取れる言葉は、しっかりナルトにも聞こえてしまっていた。

 

「てめぇっ!自分でヒナタをあんなにしておいて、その言い草は何だってばよ!!」

「ナ、ナルト、やめなさいって…!!」

「サクラちゃん!けどっ!!」

 

「……ネジさん」

 

ナルトの手を借りて、カミナが立ち上がる。身体はフラフラだったが、カミナを苛んでいたあの眠気は嘘のように無くなっていた。しかし、チャクラはクラマから貰ったものとはいえ、あの強大な力をコントロールするには同じくらい精神力と体力を要していた。

カミナは、ネジの顔をまっすぐに見据えた。今の彼には、あの自信と高慢さのうかがえる表情は無い。否、彼はもとより高慢なのではない。彼は――彼もまた、ヒナタと同じように、心を殺して日向の運命に抗い続けている。

 

「ネジさん……小鳥は、飛びましたよ」

「!」

「あの時の小鳥、ヒナタに似ていると思いませんか…?」

 

一年前…アカデミーを卒業する前の年、カミナは巣から落ちた小鳥の雛を拾った。その小鳥の巣はネジたち一班の修行場の近くであり、カミナとネジはその小鳥を通して幾度か言葉を交わしたことがあったのだ。

 

「……所詮、飼い慣らされた鳥だ。よしんば飛べたとしても、餌を採れずに死んでいるだろう。巣からはじき出され地に落ちた時点で、あの鳥の運命は決まっていた……」

 

その何もかも諦めた表情で語るネジ。しかし……それでも鳥が、翼を広げることを止めないのは……彼(彼女)の、鳥として生まれ持った本能なのであろうか……。

 

「……それでも、小鳥は飛びました。それはあの子が…どんな運命の中でも、懸命に生きようとしていたからだとは思いませんか?」

「!!………部外者が。貴様らに、我ら日向の何が分かる……」

 

ネジはそう言い捨てて背を向けると、振り返ることなくギャラリーへ戻っていった。

 

 

波乱の八回戦は、ひとまずの決着がついた……――

 

 

 

 




点穴の作用は、小生のオリジナル設定です。
雷遁使うとかも考えた…でも、瀕死なヒナタに、ちょっと鞭うち過ぎだなと思ってボツへ。

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