アイアンボトムグレイヴディガー~ショタ提督の苦悩~ 作:ハルカワミナ
「さて、青葉の部屋に来たはいいんだが。どうやって声をかけるべきか」
青葉の部屋は衣笠と同室の二人部屋だ。
ドアをノックしようと手を上げたところでしばし逡巡する。
何度か腕を上げて下ろしを繰り返しているところだ。
だが、いつまでもドアの前に居る訳にもいかないだろう。
他の艦娘に見咎められると面倒な事にもなりそうだ。
意を決して、ドアをノックする。
「はーいっ!」
軽快な返事と足音がドアに近づいてくる。この声は……。
「おやー? 提督? どしたのー?」
ドアが開かれ、出迎えてくれたのはやはり衣笠だった。
青葉と同じ桜の花びらを少し濃くしたような髪の色と、制服。
違うのは衣笠の方はスカートと髪型くらいだろうか。
「あ、ああ。青葉に用があって来たんだが、在室だろうか?」
今からする話には少しそぐわない雰囲気をぶつけられ、たじろぐ。
「青葉ですかー? さっきお風呂に行くって慌ててましたよー?」
「む、そうか。すまない。不在なら良いんだ」
青葉は浴場か、ならば前で待っていれば捕まえられるな。
そう思って踵を返し、浴場に向かおうとしたとたん襟首を捕まれた。
「ぐぇ」
妙な声が出てしまった。
普段の私ならいきなり何をするんだと怒鳴っているところだったが、首がしっかり絞まってそれどころでは無かった。
「逃げても無駄よ!」
ぐいと引っ張られたたらを踏んで衣笠の腕の中にスッポリと納まってしまった。
「は、離せ! 何をする!」
衣笠の腕を掴みじたばたともがいてみるが、しっかりと胸の前で衣笠の腕が固定されて身動きがとれない。
「提督ー、青葉に何をしたんですかー? あの子泣いてたんですけどー」
「む、それは……」
ジットリとねめつける様な声質で聞かれる。
衣笠は先ほどまで遠征に出ていた筈だ。
もしかしたらまるゆとの騒ぎを知らない可能性もある。
このまま言い包めるか?しかし、青葉と同室なのだ。いつボロが出るか解らない。
衣笠の腕に手を当てたまま考える。
案外柔らかい、むにむにと腕の肉をつまんでみた。
……これはこれで楽しい。
「提督ー? あんまり触ってると触り返すぞ~。ほらほら~♪」
「え? いや、待て衣笠!」
いつの間にかその行為に没頭していたようだ。
胸の前で組まれていた手が脇の下に移動する。
「ほら~、言わないとくすぐりの刑ですよー、提督」
不味い、すでに衣笠の指がもぞもぞと動いている。
「待て、くふっ…衣笠、クッ!」
思えば幼いころからくすぐりに弱かった。おそらく皮膚が薄いのかもしれない。
「やめ、やめてくれ、衣笠……」
こんなところで威厳の無い態度をさらけ出すわけにはいかない。
力の入らない腕で衣笠の腕を掴み、頤を上げ後ろ上にあった衣笠の顔を見つめる。
……この時の心境を後に衣笠はこう語っている。顔を真っ赤にしてナニカに耐えている提督を見て自分の心のカタパルトが外れたと。
後に青葉に自慢し、提督の弱点発見サル!という見出しの新聞が鎮守府中にばら撒かれたのはまた別のお話。
「よし、どんどん強くしちゃお!」
すでに声も出せない。息が荒くなってしまい、ぜいぜいと呼吸する音だけが厭に耳に響く。
「ただいまー、衣笠。青葉ホントは敵じゃなくて司令官だけみていたいんだけどなぁ……な、なんてねっ!」
ドアが開き、青葉が入ってくる。
コヒューコヒューと自分の呼吸が邪魔をして青葉が何を言っていたのかわからない。
「……あ、あお、ば?」
助けを求めようと手を延ばし、話しかけるがどうやら青葉は硬直しているようだ。
薬局で配布しているものらしいヒロポンZと書かれた洗面器が落ち、乾いた音をたてる。
石鹸、タオル、丸められた下着だろうか、薄いピンクの布が見える。
「青葉取材、……いえ砲撃しまーす」
ドアを後ろ手に閉め、どこからか20.3cm連装砲を取り出す。
「はわわ、砲撃はやばいって! 青葉! ちょっと待って!」
衣笠が慌てた様子で声をあげる。
ようやく衣笠の腕から抜け出せたが、力が入らずに膝からへなりとくずおれてしまった。
「司令官!」
このままでは床にキスするな、と酸欠の頭で考えていたら柔らかいものに抱き留められた。
これは、青葉か。礼を言わなくては……。
「あ、おば。あ、りがぉ……」
自分の口が礼を紡ぐより早く、意識は深海へと引きずられ暗くなっていった。
だが、不思議と不快感は無かった。
……温かい温度に包まれながらそこで自分の意識は閉じた。
ショタ提督、自覚していないけれどブレーキブレーカーです。
読んで頂きありがとうございます。
誤字・脱字などありましたら教らせください。
やはりお薬とアルコールが残っていたのかもしれませんね!
(ちなみにヒロポンZは栄養ドリンクです。)