アイアンボトムグレイヴディガー~ショタ提督の苦悩~   作:ハルカワミナ

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しばらく間が開いてしまいました。
すみません。


深海棲艦の人魚姫

「Wow! テートクゥ!?」

 

金剛達を見つけ、こちらが近寄ると驚いた金剛の声が飛び込んだ。

まさか私自ら来るとは思っていなかったようだな。

暗視カメラに映る映像を見る限り惨憺たる有様だった。

 

「……随分とボロボロだな……」

 

報告どおり赤城と翔鶴が中破している。

翔鶴の弓は折れ、飛行甲板も破損。下着が見えている。

赤城も飛行甲板が破損しているな。

金剛と榛名も小破しているようだな。

服があちらこちら破れている。

……随分と扇情的な格好だが、もう少し無理をしてもらうことになりそうだ。

すまないな、と心の中で詫びた。

 

「……開幕の敵の攻撃から赤城さんと翔鶴さんを守りきれなかった榛名に責任があります……ごめんなさい」

 

「No! 榛名は悪くないネー! まさか敵が奇襲してくるなんて……Shit!」

 

榛名が謝り金剛が庇う。

平時なら美しい姉妹愛だと褒める事もできただろうが、ここは戦地だ。

まだ気を抜かないほうが良いだろう。

全員無事で帰投する事こそが一番なのだからな。

 

「責任の所在はどうでも良い。お前達が沈まないでいてくれたのが一番嬉しい。それに……私にも聞かせてくれるのだろう?」

 

「え……? 何をでしょうか?」

 

私の言葉に榛名が疑問の表情を浮かべる。

 

「電達に教えた金剛と榛名の童話がどのくらい違うのか興味がある。鎮守府に全員無事で帰れたら聞かせてくれ。その為にはもう一踏ん張りしてもらうぞ」

 

「はい、榛名は大丈夫です!」

 

「提督のハートを掴むのは、私デース!」

 

私の言葉に榛名と金剛が気合を入れなおす様に両の掌をぎゅうと握る。

その様子が微笑ましい。

まるで此方の勇気まで奮い起こしてくれるような。

 

「霧島、比叡も頼む。金剛と榛名は少々気負いすぎるきらいがあるからな。ストッパーになってくれると嬉しい」

 

「まっかせてー!」

 

「艦隊の頭脳と言われるように、頑張りますね」

 

比叡と霧島も救援に来たおかげで士気が持ち直したようだ。

声に明るさが戻っている。

しかし、反対に落ち込んだ様子の翔鶴の声が聞こえる。

 

「あの、提督……私は……」

 

「翔鶴か、赤城と後方まで下がってくれ。今は夜、艦載機も飛ばせないからな。中破しているならば尚更だ。それに……その格好は少々目に毒だ」

 

「っ! ですが、盾くらいには!」

 

翔鶴の一言にカッと頭に血が上る。

すんでの所で叫びだしたい感情を押し殺し、腹に鉛が沈んだような気持ちで声を出す。

 

「……誰がそんな事を望んでいる。私の願いは全員が無事である事だ。誰かを犠牲にして誰かを助けるというのは好ましくない」

 

「……失言でした。提督、ごめんなさい」

 

「解ってくれれば良い」

 

あぁ、そうかとふいに気付いてしまった。

翔鶴と私は似ているのだ。

だからこれほどまでに感情が掻き乱される。

すぐに自己犠牲という結論にたどり着く心根が。

翔鶴は瑞鶴を、そして私は艦娘を、か……。

笑えない冗談だが、笑えてしまうな。

クク、と自虐の笑みが零れているのを翔鶴が不審に思ったようで声をかけてくる。

 

「提督……? あの、なんでしょう?」

 

「……いや、何でもない。そうだ、翔鶴。……鎮守府に帰ったら一緒にあの時の場所で夕日を見ようか。少し話したい事もあるのでな」

 

「はい、分かりました。お付き合いさせていただきますね」

 

いつだったか翔鶴を秘書艦にした時に夕日を一緒に見た事がある。

鎮守府のとある場所で瑞鶴と自分についての悩みを打ち明けられたのだ。

……まぁ、その話は機会がある時に語ろう。

先程も言ったとおり、ここは敵地だ。

そう時間も経っていないが、士気が持ち直したのならすぐに出発したい。

島影に隠れているならば敵も砲撃が出来ないとは思うが春雨達が心配だ。

 

「では島風と金剛型の4隻は私に続いてくれ。翔鶴と赤城は下がれ。護衛は利根、鈴谷、熊野だ。春雨達を救出したら一気に離脱するぞ」

 

「えぇー! 鈴谷も撃ちたいよー!」

 

私の言葉に鈴谷がぶぅぶぅと文句を垂れる。

子豚かお前は。

 

「足柄のような戦闘狂になってどうする。ここには救援に来たのだ。やむをえないならば戦闘も辞さないが、極力しないに越した事はない」

 

「はーい、わかりましたよー」

 

むくれている鈴谷に声をかけようとすると赤城に先を越された。

 

「鈴谷さんは翔鶴さんにヤキモチを妬いているのでは。提督が二人きりで夕日を見るなんて言い出すからですよ?」

 

「んなっ!? ち、違うしぃ~! 鈴谷は提督が女心をもっと知ってくれればそれで良かっただけだしぃ~」

 

鈴谷はアワアワと手を振っているし、熊野はそれを見て微笑んでいる。

対して、翔鶴はと言えば顔を赤くして両手で頬を押さえている。

あぁ、だから手を離すなと言いたい。

押さえていた服の破れ目から紐の下着がチラチラと見えている。

……どうしてウチの鎮守府の艦娘達は緊張感の欠片も無いんだ。

盛大な溜息をディスプレイに向かって吐き出すと、粛清一括。

 

「喧しい! 貴様等とっとと行かんか!」

 

「うひゃあい!」

 

変な返事を残して鈴谷達が慌てて下がっていく。

 

「司令、霧島でよろしければサポートいたしましょうか?」

 

「……手が回らなくなったら頼む。今は春雨達の場所に急ごう……」

 

霧島の言葉に話半分で答える。

舵を切り、暗礁用のソナー映像を確認しながらレーダーに反応があった場所に向かう。

島の姿が暗視カメラに映るまで誰も無言だった。

 

「……この反対側に少し窪んだ場所がある。そこにレーダーの反応があるな」

 

レーダーに映るこの島はブーツを捻ったような形状をしている。

その捻れて細くなった部分に春雨達は隠れているのだろう。

先程から雨も風も波も勢いを増している。

これは嵐と読んで差し支えないな……。

 

「暗礁に気をつけてくれ。座礁なんてしたら良い的だ」

 

先行している島風に注意を促す。

艦娘は水上に立てるから良いのだが、此方は船である以上、どうしても暗礁には弱い。

雨と風に邪魔はされているが砲撃の音は聞こえないようだ。

このまま深海棲艦も諦めてくれると良いのだが……。

その時島風から通信が入った。

 

「提督見つけたよ! 春雨ちゃん達全員居たよ! ……ひゃっ!?」

 

春雨を見つけた報を聞いた瞬間安堵したが、続いて聞こえた島風の悲鳴の後、通信が切れる。

 

「島風!? どうした!? 何があった!」

 

慌てて問いかけると爆発音と共に島風の悲鳴が耳に飛び込んだ。

 

「てっ、提督! 魚雷が! あうぅっ! 痛いってばぁっ!」

 

続いて島風のいる方向が若干明るくなると共に水柱が上がり、轟音が響いた。

一瞬艦娘の誰かに魚雷が当たったかとも肝を冷やしたが、明るい光が見えたという事は水中では無く崖か岩礁に当たったのだろう。

しかし、島風と大破しているであろう艦娘達では直撃を食らえば、まず助からない。

 

「金剛。榛名、比叡! 弾幕を張りながら春雨達の救出に向かえ! 方向は指示する! 霧島は私の護衛だ。今からレーダーの索敵範囲を拡げる!」

 

暗視モードを切り、レーダーの索敵範囲を拡大すると南東に赤い三角が見えた。

 

「金剛! 5時の方向に敵影! 測距射撃を頼む。敵をこれ以上春雨達に近づけるな!」

 

「撃ちます! Fire~!」

 

金剛の砲門から火が噴出し、続いて比叡、榛名からも砲撃音が轟く。

 

「魚雷に気をつけろ。地形が変わるほどの威力だ。当たれば戦艦といえども無事には済まん」

 

「Yes! 高速戦艦の実力、見せてあげるネー! テイトクー! 魚雷なんて撃たれる前に沈めるネー!」

 

「私! 頑張るから! 見捨てないでぇー!!」

 

「試製35.6cm三連装砲、即応射撃です! 勝利を! 提督に!!」

 

私の言葉に金剛が答え、比叡、榛名も続く。

 

これならいくら深海棲艦の姫クラスと言えども……!

 

「……何ッ!?」

 

レーダーに映るのは未だ健在な赤い三角。

しかも向きを此方に向け近づいてくる。

やはりレーダーに気付かれたか……!

そして、これは魚雷か……!?

ソナーに放射状に白い点が表示され、刻一刻と近づいてくる。

 

「ッ! 不味い! 霧島、魚雷に警戒しろ! 敵の砲撃は私が囮になる!」

 

「危険です、司令!」

 

霧島の制止の声を振り払い、面舵を一杯に取る。

自分の体が艦の出力に引きずられそうになるのを踏ん張り、かろうじて耐えた。霧島もすでに魚雷の射程からは外れている。

なんとかかわした魚雷の軌跡を見送り、考える。

 

……しかし深海棲艦一隻だけか? 

レーダーに一隻しか反応が無いのは流石におかしい。

しかし、金剛達の砲撃をモノともせず魚雷を撃ってくるほどの相手だ。

一隻で充分だと舐められているのか。

嵐の音と暗闇で血と重油の海が脳をかすめる。

ギリと歯が軋ませ、無線の出力を最大にして叫んだ。

恐怖を吹き飛ばすように、声も枯れよと。

 

「金剛! 今のうちに救出を! 大和、武蔵! 5時方向! 合図を出したら撃て!」

 

「ッ! 了解です!」

 

大和の声が聞こえたと同時に、高速艇のサーチライトを深海棲艦に当てる。

夜の闇を切り裂くような凄まじい光が深海棲艦のおどろおどろしい姿を露にする。

蒼い靄に包まれたその深海棲艦と目が合った……ような気がした。

 

「ッてぇ!!!」

 

私の声に雷が轟いたような轟音を響かせ、大和と武蔵が主砲を放った。

凄まじい水柱が立ち、視界が塞がれ、バチバチと砲撃によって巻き上げられた海水が否応も無しに船体を叩く。

……しかし、目標未だ健在。

真っ白な髪とアメジストのように淡く紫に光る瞳、そして色素の薄い肌。

この娘を私は知っている……!?

「……はる……さめ……?」

自分の口が勝手にありえない名前を呟く。

私の声が聞こえたのかどうかは分からないが、その形の良い目を細めて、此方に照準を定め、儚げな笑みを浮かべた……。




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