アイアンボトムグレイヴディガー~ショタ提督の苦悩~ 作:ハルカワミナ
決して卑猥な意味ではありませんので悪しからず。
司令室に生目を連れてきた。
「うげ……」
設楽が勘弁してくれといった表情と声をあげる。
しかし生目は大手を広げて設楽に近づく。
「おぉ! 設楽! 私のマィエェンジェルゥゥウウ!」
……最高に気持ち悪い。
高身長の人間が設楽に求愛する様はまるで性犯罪者だな……。
しかし設楽はポケットから私の拳銃を取り出すと生目に向けた。
「それ以上近寄ると上官に対するセクハラとして頭に風穴が開くわよ。それに私は貴方が嫌いなの」
執務室で撃った後、自分のポケットに入れていたのか。
もし私が暴走するような事があれば介錯するつもりだったのか、自傷防止の為か……。
おそらく両方だろうな、うん。
「いちゃついているところ悪いが、出撃をしたい。生目、高速艇の操作と装備を聞かせてもらおうか。利根達も先行してくれ」
「わかったのじゃ! 我輩に任せるが良い!」
「誰がいちゃついてるのよ!」
プリプリと怒る設楽を無視して、敬礼をする利根に頷くと、鈴谷、熊野を連れてドックに向かってくれた。
設楽の前でハンズアップをしている生目に座れ、と椅子を勧める。
生目はお前はもう知っていると思うが、と前置きして話し始めた。
「あの高速艇は妖精と、それが視える人間に協力してもらって、簡易的な妖精AIを搭載してある。操舵席に座ればサルでも扱えるぞ」
この世界には妖精が見える人間とそうでない人間がいる。
生目は後者だ。提督が全員妖精が視えるわけではないが、つい先日妖精を見る事ができる眼鏡を開発したらしい。
……まだ試験段階だと聞いているが、実装されれば飛躍的に艦娘の運用能力が上がるだろう。
中には妖精などとくだらんと毛嫌いする頭の固い提督も居る様だが。
「そうか、では借りていくぞ。この鎮守府界隈は治安もそこそこ良いのでな、好きに見ると良い。ただ一つ気をつけて欲しいのは陸軍の人間が来ていることだろうか」
「陸軍? またそりゃあなんでこんな辺鄙な所に」
生目が少し驚いたような声をあげるが私に分かる筈も無い。
「さぁな、ではすまないが行ってくる。島風! 行くぞ!」
「駆けっこしたいんですか? 負けませんよ?」
キラキラと戦意高揚状態になった島風を撫でる。
んふふーと気持ち良さそうな声を出して目を瞑る島風を促すと、ドックへ向かってくれた。
「……大淀、設楽。バックアップは頼む」
声をかけると大淀と設楽が頷いてくれた。
……生目は、まぁ良いだろう。後で礼として軍学校時代の設楽の写真でもやるとしよう。おそらく出回ってはいない筈のな。
「わかったわ。……無事で帰って来ないとこの鎮守府貰うからね? 大淀さん、長門を此処に呼んで貰う事は可能かしら」
「はい、では館内放送をかけます」
設楽と大淀を後に、作戦司令室を出る。
さて、私も高速艇に乗り込もう。
不安が無いわけではないが、艦娘達も居る。今はあの娘達を信じよう。
「提督、おっそーいー!」
高速艇の前に着くと島風が艤装をつけた状態で待ち構えて海に立っていた。
……なるべく急いで来たつもりなのだがな。
「あぁ、すまないな。では行こうか。これは早いらしいぞ? 島風よりも、な」
「そんな事ありませんよーだ! 島風が一番速いんだから! ね! 連装砲ちゃん!」
島風が連装砲ちゃんと名づけているマスコットに話しかける。
あのマスコットも今は実弾を装填しているのだろう。
天津風と同じく、島風も連装砲を友達として扱っているのだ。
これ、と指差した高速艇を見ながら、目の前で挑発的な態度を取る艦娘の驚く顔を想像して笑みが零れてしまった。
さて、では乗り込むか。
改めて見ると、アメリカのステルス戦闘機、F-117から羽根をもぎ取って高速艇の上に載せたと言えばしっくりくるだろうか。
その前寄り、艦首の方向に某宇宙戦争に出てくるロボのような形をした単装速射砲が載っている。まさか全天周型レドームレーダーも兼ねているわけでは無いだろうが……。生目ならやりかねん。
ロープで固定された高速艇に飛び乗り、その縛を解いて操舵席へ入る。
操舵輪の前に設置されている椅子に座るとディスプレイに緑色の文字が浮かび上がった。
「おはようございます。メインシステムパイロットデータの認証を開始します」
音声と共にディスプレイにゲージが表示され、その下に認証データ完了までと書かれた数字が見える。……今は夕暮れに近い時間なのだがな。
30%……40%……と増えていっているな。ゲームの様な演出は生目がやりそうな事だ。
そういえばアーマード艦CORE等というゲームの開発にも奴は関わっていたな。
艦娘達を操作して任務を達成するのは現実と同じだが、ゲームでは艦娘を操作して敵を倒す3Dシューティングとなっているらしい。
私はゲームなどやる暇が無いので、もしこれを見ている提督諸氏……。興味があれば鎮守府内のゲームが詳しそうな艦娘に聞いてみて欲しい。
もしかしたら部屋に招き入れて一緒に遊んでくれるかもしれない。
「データリンクエラー、メインシステム稼働率80%で起動します。一部の機能に制限がつきます。これより作戦行動を開始します」
エラーだと?
……あぁ、私が生目本人では無いから仕方無いのだろうな。
納得してディスプレイに映し出されたタッチパネルを操作する。
たとえエラーが出ても速度さえ出ればそれで良い。
そういえば何故艦娘を高速艇に乗せないのかという疑問が出てくる事がある。
答えは簡単だ。
艦娘の艤装が艦として艦船に乗ることを拒絶するのだ。
当然だ、駆逐艦の上に駆逐艦を積むようなものだ。
艦船と認識されない、海上に浮かぶモノならば乗る事はできるようだが……。
例えば筏やボートのような。
いつだったか他の鎮守府で艦娘の吹雪が大和を曳航する時にボートを使って曳航したという。
眉唾だが、事実として認識されているのでもしかしたら、この先艦娘が艦船に乗れる様になるかもしれない。
音声認識でも操作できるみたいだな。横に掛けてあったヘッドセットを装着する。
「提督、おっそーい!」
ヘッドセットを着けた瞬間島風の声が聞こえる。
どうやらこれで艦娘にも指示が出来るようだ。
新しい玩具を買ってもらった子供の様に気分が高揚する。
「あぁ、待たせたな島風。それでは駆けっこをしようか」
「私には誰も追いつけないよ!」
「ほほう、じゃあ何か賭けるか? 私は間宮のパフェ券を1枚賭けよう」
「ふふーん! 提督ご馳走様! じゃあ私に勝てたら何でも言う事聞いてあげる!」
ん?今なんでもって……。
まぁ良い。島風に勝ててから考えよう。
ウォータージェットエンジンに火が入る。
航空機のような高周波混じりの音をあげて、エンジンが唸る。
ゆっくりと岸から離れ、充分に距離が離れた所でAIに命令する。
「提督、その艦五月蝿いだけでおっそーい!」
島風が馬鹿にしたように煽ってくる。
「目標、南方海域! 最大戦速!」
瞬間、後方で鳴る音が変わりグイグイと座席に体が押し付けられた。
少し前に居た島風が慌ててスピードをあげるが、楽に追い抜いてしまった。
「……うそ……!?」
此方の艦船から上がる水しぶきをモロに受けてしまった島風が絶句する。
……しまった、島風は護衛だからな。あまり離れるわけにもいくまい。
少しスピードを落として後方に居る島風を待つ事にした。
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ロリ提督とショタ提督の挿絵はプロローグの方に置いてあります。