アイアンボトムグレイヴディガー~ショタ提督の苦悩~   作:ハルカワミナ

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非理法権天

「提督、出撃命令と聞きましたけれど……」

 

大和以下五名が作戦司令室に揃う。

執務室では無く、此方に来させるのは珍しい事であると自覚しているようだ。

少し挙動不審な様子でキョロキョロと辺りを所在無さげに見回している。

 

「あぁ……。絶対に成功させて欲しい任務がある。大淀、頼む」

 

「はい、では提督に代わりまして私が任務の詳細を説明します。まず、南方海域にて深海棲艦の姫に足止めをされている艦娘達の救助を最優先でお願いします。その後、速やかに戦闘海域を離脱、鎮守府まで帰投。敵航空戦力は健在なので、大和型のお二人には三式弾を装備してもらいます。あくまでも救助が最優先です」

 

大淀が淀みなくスラスラと任務の概要を説明している。

 

「あのぅ、救援艦隊でしたら私達のような足の遅い艦は不向きだと思うんですけど……」

 

大和がおずおずと口を挟む。

まぁ、当然だろうな。この疑問は。

大和と武蔵は所謂超弩級戦艦だ。船足はそれに応じて遅い。

 

「問題無い。言うなれば大和、武蔵の両名は姫への牽制、救助後のしんがりを務めてもらうことになる。危険な任務だが、やって貰えるだろうか?」

 

「了解しました。この大和にお任せ下さい!」

 

胸に手を当てて全てを任せろと言ってくれる大和。盾として扱ってしまうことを心の中で詫びた。

 

「では時間差で出撃してもらいます。最初に大和型のお二人。続いて利根、熊野、鈴谷。……最後に島風と提督です」

 

「「「「「えぇっ!?」」」」」」

 

出撃する6人の艦娘達が一斉に此方を向いた。無理も無いな。

 

「高速艇を借り受けた。おそらくだが、深海棲艦は積極的に私を狙ってくる可能性がある。その理由については終わったら鎮守府の皆に話すつもりだが、な」

 

そう言って厨房から届けてもらったオレンジジュースをコップに注ぐ。

 

「……ブラッドオレンジのジュースだ。眠気が覚める」

 

普通のオレンジジュースよりは少し赤い液体を艦娘達に薦めた。

 

「ありがとうございます、頂きますね」

 

「んぉ、提督気が利くじゃーん!」

 

「島風一番多いのー!」

 

「ありがたい、補給は大事だ!」

 

大和と鈴谷と島風と武蔵が手を伸ばす。

……騙して済まないな。

全員に行き渡ったところで作戦の成功を願って、と声をかける。

艦娘達がジュースを飲むと途端に戦意高揚状態になった。

私の血をジュースに混ぜたのだ。

 

「流石間宮印のオレンジジュースだな」

 

これも嘘だ。

生理的に受け入れられない艦娘や味覚が優れている艦娘も居るからジュースに混ぜて飲ませると設楽に教えられたからだ。

アナタならそんな事は無いでしょうけれど、と皮肉も言われたが。

どういう意味だと怒ったら、さぁねとシニカルな笑みを浮かべるだけだった。

艦娘達の様子を見る限り、武蔵は私の血の影響が色濃く見られる。

 

「……ふっ、痛快だ! 武蔵、突撃するぞ! ついてこい!」

 

ふはははと高笑いしてドアを開け放ってドックに向かう武蔵。

 

「……すまん、大和、武蔵に追従してくれ。後、大淀……、ドアの修理費は経費で落ちるだろうか?」

 

「落ちません」

 

大淀に聞いてみるがニッコリと笑い返答する姿に少し肩を落とす。

大和に命じ、武蔵がハメを外さないようにと言いつけて武蔵に追従するように出撃させた。

その時、作戦司令室の無電が入った。

 

「よう相棒、まだ生きてるか? ……じゃないな、御所望の品、届けに来たぞ」

 

直通回線の無電を取ると生目の声が聞こえた。まさか!?幾らなんでも早すぎる!

 

「早すぎると思っているだろう? 当然だ、輸送機に積んで来たからな! 鎮守府近海を空けておいてくれよぉ!」

 

そういえばこの音は……航空機か……!

耳に響く高周波の音が窓ガラスを揺らす。

慌てて外に出るとズングリとした輸送機が旋回していた。

もしやXC-2型輸送機か!?実働していたのか……。

……しかしどうやって降ろすんだ? ここにはまともな滑走路はないぞ?

と思っていたら輸送機のハッチが開けられ、海面スレスレをゆっくりと飛んでいる。

まさか!?

 

……そのまさかだった。

ズルリとPG-823の船尾が姿を表すと同時に着水、派手な水しぶきを上げながら水上を滑る様にすすむPG-823。

XC-2型輸送機は再び高度を上げて来た方向に戻って行った。

……着水と同時にウォータージェットエンジンを最大回転させて衝撃を減らしたのか……。

 

しかし、無茶をする。

一歩間違えれば大事故だったぞ、あれは。

速度を落としながら旋回して、ようやくドックの前に停泊したPG-823高速ミサイル艇に駆け寄る。

 

ウォータージェット式の船舶は低速走行がとても難しいが、岸にぶつける事もなかったのはAI補助のおかげであろうか。

……しかし形状がおかしい。艦橋が無いのだ。唯一目を惹くのは艦中央に配置された高速速射砲みたいなものだ。

見知った顔が降りてきて、こちらに手を挙げた。

 

「生目、すまんな。……しかし、これは何だ?」

 

どう考えても私が見知っているミサイル高速艇ではない。

 

「ん? あぁ、あの輸送機には30トンしか載らないのでな。元々改造していたコイツを更に肉抜きした」

 

なんて事は無いといった顔で飄々と答える。

 

「ステルス性は上げて空気抵抗は下げてある。最大速力50ノットは出るぞ。その代わりミサイルは撃てなくなったがな。まぁ深海棲艦に人間が作った兵器は効かないんだ。あろうがなかろうがどちらでも良いなら無くても構わないだろう?」

 

自慢げに笑いながら此方の肩をパシパシと叩く。

……馬鹿だ馬鹿だと思っていたが、危険な意味で馬鹿だったな、コイツは。

 

「ところで設楽は?」

 

手をわきわきさせながらニヤリとしている姿が最高に気持ち悪い。

黙っていれば美形として通るのだが……。

少なくとも今の姿を設楽が見たら嫌悪すると思うぞ。

もしかしたら長門の影に隠れるかもしれないが。

 

「あぁ……。案内しよう」

 

残念なイケメンの生目を連れて、建物に戻った。予定が少し狂ったので島風と利根達への指示も変更せねばなるまい。




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ロリ提督とショタ提督の挿絵はプロローグの方に置いてあります。

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