アイアンボトムグレイヴディガー~ショタ提督の苦悩~ 作:ハルカワミナ
雰囲気に合う曲をチョイスしています。
作戦司令室の扉を開けると大淀が無電機から延びるヘッドホンを耳に当てながら、電探を覗いていた。
「大淀、邪魔するぞ」
一言声をかけて、コンソール型の机に映し出された海図を見ると艦娘達がいるであろう海域に艦娘を表す青の印と深海棲艦を表す赤い点が明滅している。
ビアク島に近いのが春雨達、近くの赤い点。そこに向かう金剛達とは少し距離が離れている。
GPS等といった技術はとうの昔に廃れ果てた。
今、ここに映し出されているのは実際の布陣では無く、無電から推測され、計算された位置だ。
焦燥感に駆られ、ギリと歯軋りが鳴った。
「……提督、金剛さん達が遠征隊を発見次第、保護、帰投します。まずは気を落ち着けて下さい。頭に血が上っていては冷静な判断もできなくなります」
座りながら此方を振り向いた大淀に言われ、一目で焦っているように見える自分の姿に反省する。
「……まさか深海棲艦の姫が居る海域とはな……。すまない、大淀。私がお前を避けていなければ防げた事故だ」
「いえ、私もスパイと取られても仕方の無い事をしていました。大淀型の艦娘は大抵、大本営と通じています。でなければ日毎に変わる任務等を受けられませんので」
大淀と向き合って謝りあうと、設楽に呆れた様な声をかけられた。
「何、アナタ達喧嘩でもしてたの?」
「……あぁ、私の体調の事を正確に知ったのは今日の事だからな。それまで疑心暗鬼に捉われていた」
面目無いと言った感情が溢れ出す。
おそらく言葉にもその感情が乗っているだろう。
「ねぇ、あなた暫く私の鎮守府に来ない? 少なくとも療養が必要じゃないかと思うのだけれど」
設楽が此方の身を慮ってくれるのだろう、そんな事を言い出した。
だが私はそれに首を振って答える。
「この鎮守府の艦娘達は私の体の事を知っても、それを何とかしてくれようとしている。……今はその様な気分にはなれないな」
「ッ! でも……」
設楽がそれでも言葉を続けようとした瞬間大淀が叫んだ。
「金剛さん達からの暗号電文入りました! 解読機にかけます!」
縋るような目を大淀に向ける。
「……これは!」
「なんだ、どうした!? 大淀!」
大淀に詰め寄ろうとしたのを設楽に止められた。
……そうだったな、まだ薬が抜けていない。
艦隊の頭脳とも言える大淀が暴走しては手に負えない。
「……春雨、文月、敷波が大破、赤城、翔鶴も中破し、なおも執拗な追撃を受けているとの事です……」
その言葉に今度こそ抑えきれないほどの血が頭に上る。
まるで熱い鉄を血管の中に流されたように。
航空母艦の艦娘は中破以上になると艦載機が発艦できない。つまり航空戦力は全く期待できないということになる。
「大淀、救援艦隊を。6隻編成で大和、武蔵、鈴谷、熊野、利根、島風と私が出撃する」
「駄目です! 危険です、鎮守府の守りが薄くなります!」
大淀が必死に止めるが熱に浮かされた頭では考える事も面倒だ。
「鎮守府の守りについては此処にいる設楽に一任する」
そう伝えて近くの無電に手を伸ばす。
同期の海軍司令に連絡を取るつもりで。
直通のホットラインを利用すると直ぐに繋がった。
「おうどうした。珍しいな、お前から連絡するなんて」
「あぁ、すまないがPG-823、ミサイル艇を貸して欲しい。今直ぐに、だ」
懐かしい声だが挨拶もそこそこに言葉を放つ。
「またいきなりだな、確かにあるが……」
「ちょっと待ちなさい! あなた何考えているの!?」
設楽が我慢ならないと言った態度で声を荒げる。
「ちょっと待て、設楽がそこにいるのか?」
「あぁ、視察に来ている。それがどうかしたか?
生目の名前を出した途端に設楽がウンザリと、いや、アングリと口を開けそのどちらもが混ざったような顔で絶句した。
「うげ……」
設楽が勘弁してくれと言った声をあげる。そういえば設楽は昔、下着の類を生目に盗難されていたのだったな……。
しかし、今はそのような事はどうでもいい。
「す、すぐに行く! PG-823だな! 一時間以内に届けてやる!」
……興奮したような生目の声に押され、受話器を離した。
それと同時に通話が切れてしまったが、さすがに一時間は無いだろう。
生目の鎮守府からここまでは、艦娘の中で一番早い島風でも三時間はかかる。
それよりも此方の二人をどうするか。
「どういうつもり?」
「どういうつもりですか!」
大淀と設楽の声が重なる。
「すまない。……が、一生で最初で最後の願いだ。聞いてくれるとありがたい」
「……ふぅ。先に大和さんと武蔵さんを先行させましょう。少し遅れて航空巡洋艦の3人を。島風は提督の護衛です」
哀願するような瞳で大淀を見ると折れてくれたようだ。手元のコンソールを叩いて、ドックの艤装使用許可を出している。
「ちょっと待ちなさい! 幾らなんでもそんな事聞けるわけないでしょう!」
「すまない、設楽。どうしても果たさなければいけない約束があるのだ。それに未練を抱えたまま沈んだ艦娘がどうなるかという仮説はお前も聞いた事があるだろう」
「深海棲艦になるって噂ね。確かに聞いた事はあるわ。でも出撃するなら私の高速魚雷艇を使えばいいじゃない! 信用されてないようで頭に来るわ」
設楽が此方の襟をグイと掴む。
「違う。お前を信用しているからこそ、この鎮守府を任せたい」
「じゃあ何故!?」
設楽の瞳に怒りが燈っている。
「……お前の魚雷艇は何人で動かしている?」
「20人ほどだけれど……あっ!」
気付いたようだ。船を動かそうとすればどうしても人員が要る。
「生目は技術研とも繋がりのある半科学者だ。アイツの持っている小型ミサイル艇は人工妖精としてのAIを積んでいる。それならば私一人で動かせる」
「アイツ……こりずにまたそんな事しているのね」
軍学校時代に生目の作った機械で恥ずかしい事態となった過去を思い出したらしい。
設楽が爪を悔しそうに噛んだ。
「ドックの出撃準備が整いました。後は艦娘に命令をお願いします。提督」
「解った。その6人を此処に来るように緊急招集をかけてくれ。口頭で作戦を説明する」
大淀に答えて、ビアク島近辺で明滅している艦娘達を示す青色の光を見た。
……誰一人沈めはさせない。
例え自分が犠牲になっても。
心の中で死神が鎌を構えて笑っている姿が視えた。
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ロリ提督とショタ提督の挿絵はプロローグの方に置いてあります。