アイアンボトムグレイヴディガー~ショタ提督の苦悩~   作:ハルカワミナ

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その女ドSにつき

所変わって此方は鎮守府

 

陽が少し傾きかけ、朱が刺す時間に鎮守府についた。

 

「鎮守府まで護衛してくださってありがとうございます」

 

あきつ丸に礼を言う。

 

「レイカ、あきつ丸さんにお茶でも飲んで行ってもらってはどうです?」

 

「えぇ、そうしてもらいましょう。私も着替えたいですし」

 

青葉に同意してニコリと微笑む。

正直この口調も化粧も早く落としてしまいたい。

 

「良いのでありますか?」 

 

「ええ、御予定が無ければ是非。青葉? 鳳翔……さんが今の時間ならバーの方に居る筈。私が願っていたと伝えてくれれば融通して貰えると思う」

 

鳳翔といつもの癖で呼び捨てにしかけたが慌てて敬称をつける。今なら鳳翔がバーで仕込みをしている時間だろう。

 

「りょーかいしました。ではあきつ丸さん、青葉と行きましょうか」

 

「海軍はバーまで施設内にあるのですな。自分、酒は好きなのでありますがまだ陽があるうちは……」

 

あきつ丸が逡巡しているが青葉がグイグイと引っ張っている。

 

「大丈夫ですよぅ。青葉の目当ては甘味なんです。あきつ丸さんも気に入ると思いますよぉ?」

 

「何!? 甘味……でありますか。それは是非とも御相伴にあやかりたいであります」

 

甘味という言葉につられてあきつ丸がヘロヘロと引きずられて行く様に苦笑する。

陸でも海でも女性の食の好みは変わらないのだな。

そういえば陸軍の糧食は酷い物だと聞いた事がある。

もしやあきつ丸も食についての娯楽は少ないのであろうか。それならば、できるだけ楽しんでいってもらいたい。

……鳳翔ならクレープアイスでも作るのはお手の物だろうしな。

 

後で覗いてみるか。

さて、衣笠の部屋に行こう。提督服があそこにある筈だ。

鎮守府内を早足で歩くが、何やら少々騒がしい……。何だ?何かあったのだろうか。

 

「あ、提督! 帰ってきたの?」

 

廊下で衣笠に声をかけられる。どうやら私を探していたらしい。

 

「あぁ、少しトラブルがあって早めに切り上げた。すまない、また日を改めて……」

 

「そんなの良いから! 執務室に提督の知り合いだってお客さんが来てるの! 今探しに行こうかと」

 

客……?その様な予定はなかった筈だが……。

衣笠にさきほどあきつ丸が青葉に引っ張られていたような格好で、今度は私がグイグイと引っ張られる。

 

「ちょっ……と待った! 衣笠! この格好では!」

 

少なくとも女装している格好では提督として人前に出るのは色々問題がありすぎるだろう。

 

「良いから! あまり待たせると提督のクビが飛んじゃうかもだし!」

 

……そんなに階級の高い人間が来ているのだろうか。

咄嗟に頭に浮かんだのは先程の陸軍大将殿だ。

もし鎮守府まで乗り込んで来たと言うならば、刺し違えてでも……!

執務室の前まで半分引きずられるような形で連れて来られた。

 

「衣笠です。お連れしました」

 

衣笠が執務室の扉をノックした。

 

「どうぞ」

 

天津風の声が中から響く。声の調子から相当緊張しているようだ。

衣笠はドアノブに手をかけたまま迷っている。代わりに私が開けた。

 

「……お待たせ致しました。何か御用でしょうか」

 

あの陸軍の将校だとしたら顔も見たくない。下を向き、そろそろと入る。

 

「遅い! んっ、なっ……!? い……いや……て、提督は何処だ!?」

 

いきなり上から怒声が降りかかった。

驚いて顔を上げると、長門が居た。

私の鎮守府には居ない筈の艦娘だ。

 

長門とは長門型戦艦1番艦で超弩級戦艦、所謂ネームシップと呼ばれていた存在だ。

ビッグ7と呼ばれる事も誇りであるらしい。

艦船時代としては大和型が就役するまで日本海軍の主力として活躍していたと言う。

戦後まで沈まずにいたが、その後アメリカが接収。核実験の標的艦にされてビキニ環礁に沈んだという話だ。

……戦いの中で沈まなかった事が心残りだと悔やんでいると、同期に聞いた事がある。

普段は同期の秘書艦をずっと務めていた筈……。という事はもしや!?

 

そのまま視線をずらす。

長門の隣には白い提督服に身を包み、華奢な体と長い黒髪、人を射抜くような視線を持ちシニカルな笑顔を浮かべた見知った顔が居た。

 

「落ち着いて、長門。目の前に居るのがここの提督よ。アナタまたそんな格好しているのね。随分とお似合いだけれど、化粧の腕まで良くなったの?」

 

開口一番、皮肉が飛び出してきた。

 

「……罰ゲームでな。久しいな。壮健であったか?」

 

一瞬衣笠にさせられたと口から零れてしまいそうだったが、女性のせいにするなど矜持に反する、

グッと我慢してその言葉を飲み込んでおいた。

 

「えぇ、アナタも元気そうね。……見た目は、だけど」

 

くつくつと笑い、客用に設えたソファに腰を下ろした。

改めて、目の前の見知った顔を見る。

釣り目がちな瞳、腰まで伸びた艶のある髪。色は共に黒く、日本人形を彷彿とさせる。

……体型もだが。

提督服をアレンジした短めのスカートにニーソックスを履いている。

上層部からの指示だそうだ。……あの爺共はこういう事には五月蝿いらしい。

 

私と同期だが、成長を全くしていない目の前の相手も、もしや同じような体質の持ち主であるかもしれない。

階級は少将。名前は……設楽(しだら)だ。容姿も相まって海軍の広告塔として爺共にこきつかわれると、よく個人回線の無電でボヤいていた。

設楽とは音楽の手拍子の意味だと聞いた事がある。音楽家の家系だったのだと。

 

「設楽、随分と早かったのだな。到着は明日かと思っていたぞ」

 

「それよりもアナタ、その格好でその喋り方はありえないわ。私を楽しませる気なら女性になりきって欲しいものね」

 

言い忘れていた。

 

この女、性格はドSである。

 




めんそーれ♂様がロリ提督を描いてくださいました。大感謝です。

【挿絵表示】


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