アイアンボトムグレイヴディガー~ショタ提督の苦悩~   作:ハルカワミナ

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そうですホットケーキは大好物です。
ただ欲を言わせてもらえれば……なEDからタイトルネタを引っ張ってきています。(本編とはなんら関係がありませんので元ネタをご存じなくても安心してお楽しみ下さい)


未確認で深海系

暁から生地の入ったボウルを受け取り、軽く混ぜる。

生地の硬さを確かめる為にお玉で一掬いして生地の上に垂らし、のの字を書いてみる。

 

……少々生地が硬いが問題はないようだ。

手早くホットプレートに4つほどくっつかないように間を空けて生地を垂らす。

 

……一つだけ生地が垂れておたまじゃくしの尻尾みたいな部分ができてしまったが。

 

「へぇ……司令官、手際がいいわね」

 

手元を覗きこむ暁に感想を述べられた。

同じ事を満潮に言われたな。

普段の私はそこまで手際が悪いと思われているのだろうかと思い、苦笑する。

甘い香りが漂い、プツプツと穴が開いてきた所でひっくり返す。

ホットプレートはフライパンで焼くより楽だ。

フライパンだと熱を持ちすぎて一回焼くごとに濡れ布巾を底に当てて冷まさなければすぐに焦げたりするしな。

 

焼いているうちに鳳翔がさきほど持って来てくれたバターをバターナイフで切る。

良い香りが漂い始め、試しに引っくり返してみると両面とも綺麗に茶色く焼けていた。

皿に盛り、上にバターを乗せてメープルシロップをかけてやる。

暁、響、雷、電の順に目の前に置いてやった。

 

「イ級みたいで可愛いのです!」

 

電に尻尾つきのホットケーキを出した時に言われてしまった。

 

「……イ級か、可愛いか……?」

 

疑問の声が漏れてしまった。

イ級とは駆逐艦に相当する深海棲艦だ。

鎮守府近辺でも何度か目撃されており、おそらくはほぼ全ての艦娘や提督が最初に目にする敵ではないだろうか。

……そういえば私が幼少時代に溺れたのも鯨ではなく、イ級にぶつかったからかもしれないな……。

 

しかし……どの様な感性をしているのだろうか、私の秘書艦は。

フォークとナイフを持って「いただきます!」と声を合わせて食べ始めた4人を横目に二枚目のホットケーキを焼き始める。

まるで雛鳥に餌付けしている様だな、と思い、笑いがこみ上げる。

しかし、不快では無い。むしろ心地よい。

 

「司令官! 美味しいわ!」

 

「Хорошо(ハラショー 訳:素晴らしい)」

 

「司令官の手料理美味しいわ!」

 

「イ級ちゃん美味しいのです!」

 

4人の感想がそれぞれ述べられる。

電の言動が気にかかるが……。

出撃した時にイ級に齧り付いたりしないか少しだけ心配になった。

 

……案外誰かのために何かモノを作るのが私にとって幸せなのかもしれないな。ホットケーキを頬張る4人を見て、笑みが零れた。

平和な世界になれば、喫茶店など開くのも良いかもしれない。

鳳翔に声をかけたら付き合ってくれるだろうか。

甘い香りと甘い妄想を胸に抱きながらホットケーキを焼いていった。

 

きっちり三枚ずつ食べ終えた所で暁達のお腹も膨れたようだ。

……粉物は腹に溜まるしな。

生地はまだかなり余っているので、このまま他のお菓子を焼いてみることにした。

 

「鳳翔、持ち手が付いているタイプの落し蓋を持ってきてくれないか?」

 

「はい、分かりました。でも落し蓋で一体何を?」

 

「ふふ、それは出来てからのお楽しみだ」

 

鳳翔に頼むと怪訝な顔をされたが厨房にとりに行ってくれたようだ。

その間にメープルシロップを生地の中に入れる。

 

「司令官!? 何をしてるのです?」

 

電が驚いたようで声を上げるが、大丈夫だと声をかけ、生地を練る。

軽くお玉に掬い、ホットプレートの上に垂らす。

ここまではホットケーキと同じだ。

鳳翔が落し蓋を持ってきてくれたので礼を言って受け取った。

プツプツと穴が開いたら生地を引っくり返して落し蓋で上から押さえる。

ぎゅううとこれでもかと言うほどに押さえる。

 

これでもか、これでもか。

 

「ペッタンコになったのです……」

 

「あぁそうだ……ペッタンコだな……」

 

電が感想を漏らし、その言葉に同じ言葉で返す。

……決して電の胸を見ながら言ってはいけない。

 

「あらあら、そういう事なんですね」

 

鳳翔は私が何を作っているのか気付いたようだ。

押し固めて焼いていると良い香りが漂ってきた。

そろそろ良いだろうと思い、皿にあける。

カランと乾いた音が響き、茶色く焼きあがったメープル煎餅が出来上がった。

 

「お煎餅ってこうやって出来るの? 司令官」

 

暁が焼きあがった煎餅を興味深そうに見ながら尋ねて来た。

 

「いや、これは私のオリジナルだ。他の煎餅をどう作っているのかは見た事が無いから分からない」

 

祖母が昔作ってくれたものに、自分なりのアレンジを加えたものだ。

 

「ねえ、司令官! 一口食べてみたいわ!」

 

雷が興味津々と言った風に手を伸ばして来た。

さきほどお腹が一杯になったのではないのか……。

苦笑するが、欲しいと言うならば食べさせてやろうではないか。

煎餅を手に取り、まず半分にパキリと割る。その半分にしたものをまた半分に割って4人に渡した。

味は悪くないはずだ。

 

「あ、結構優しい味がする」

 

雷がまるで料理評論家のような事を言ったので思わずふきだしてしまった。

 

「雷、そういう時は素直に美味しいと言ってあげれば作った人は喜ぶよ。美味しいよ、司令官。正直驚いている」

 

響がポリポリと煎餅を齧りながら雷を注意する。

 

「ありがとう、響」

 

礼を言うだけに留めておく。頭を撫でてやりたいが、調理中に頭や髪を触るのは褒められた行為では無いしな。

 

そうだ、熊野達にも持っていってやろう。

そう考えて二枚目を焼き始める。

 

「司令官さん、美味しいのです! ……司令官さんの手作り……電はずっと食べたいのです……」

 

「電……」

 

電がボソリと呟く声に反応して名前を呼んでしまった。

しばらく視線を交わし、妙に甘ったるい雰囲気が漂うが響にじぃと見つめられている事に気がついて慌てて我に返った。

きっと煎餅に入れたメープルシロップの香りのせいだ。きっとそうだ。

 

「ほ、鳳翔? 何か包む物があるだろうか。青葉達にも持って行きたいのでな」

 

「はい、ちょっと待っていて下さいね」

 

雰囲気を変えたくて鳳翔に声をかけるが他の艦娘の名前を出したのは失敗だったかもしれない。

 

「司令官さんはやっぱりもてるのです……」

 

電が肩を落としてしょげている。……恋愛感情は持てぬと言ったばかりなのだがな。

生地を引っくり返してグッと上から押す。

やはり、酷かもしれないがハッキリ言っておくべきかもしれないな……。

 

「電、あのな……」

 

「あら? あなた……」

 

食堂に入って来た艦娘に声をかけられ、話の腰を折られてしまった。

そういえば今は15時を過ぎたくらいだろうか。食堂もにぎわい始めるな……。




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