アイアンボトムグレイヴディガー~ショタ提督の苦悩~   作:ハルカワミナ

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艦これの闇


しあわせの価値

「ここは……?」

 

「お、気が付いたか電。ここは執務室だ、気絶した事は覚えているか?」

 

執務室のソファに寝かせていた電が目を覚ました。大淀も調べたい事があると出て行ったし、他の艦娘達も一旦解散させた。

……一部の艦娘はぶぅぶぅと文句を言っていたが……。

今執務室に居るのは私と電だけだ。

 

「はわわ!? 司令官さん!?」

 

「そうだな、お前の司令官だな」

 

ニコリと微笑んで電の頭を撫でてやると、また真っ赤になってしまった。

 

「電の……司令官なのです……。嬉しいよぉ……司令官、電はプロポーズお受けしますのです!」

 

「はぁっ!? いや、まてまてまてまて!」

 

……やはり勘違いをしている。此方に落ち度があるとは言え、誤解を解いて置かねばなるまい。

 

「嫌……なのですか? 司令官……」

 

じわりと電の眼が滲む。不味い、泣かせたら暁、雷、響から殺される。特に響はたとえ鉄底海峡の底まででも追ってくるだろう。

頭脳をフルスピードで回転させる。

 

「……嫌ではないのだがな。まだ少し早くはないだろうか?」

 

「司令官さん……それは電の魅力が無いからなのです?」

 

シュンとしょげる電。……そうだったな、電は背が低いのと胸が小さい事を気にして毎朝牛乳を飲んでいるのだった。

 

「電は魅力的だぞ。だから大事にしたいんだ。……もしそれで昨日の事を気にしていると言うなら、私も考えよう」

 

昨日、電に呪いを解くためと言われ、キスをされたのを思い出す。

望まぬ事ならばいつか電に本当に好きな相手が出来た時に初めてと言えるように事故として思わせてやりたい。

 

「……た事になんか……」

 

「ん? どうした?」

 

電がボソリと呟く。

 

「無かった事になんかしたくないのです! 電は司令官の事が好きなのです!」

 

……電よ、お前もか。

体質のせいで、と教えてやるべきか迷ったが、覚悟を決めた。

それで嫌われるならば仕方無い事と諦めよう。

 

「電、話がある。聞いてくれるか?」

 

「は、はいなのです! なんなりと、なのです!」

 

ソファの上で正座して畏まる電。そこまで硬くならずとも良いのだがな、と苦笑する。

木椅子を引っ張ってきて電と向かい合わせに座る。

 

「さて、幾人かの艦娘は知っているが今から放す事は第一級秘匿事項で頼む」

 

「は、はいなのです!」

 

そうして電に自分の体質と置かれている現状を話した。

最初は何度も頷き、真剣に聞いていたが、途中からボロボロと大粒の涙を零していた。

……少々酷だったかもしれないな。

自分が抱いていた好意を真っ向から否定するようなものだ。

 

「……というのが現状だ。……幻滅したか? だから、昨日の事も……」

 

「……のです……」

 

ボソボソと言葉を紡がれるが小さすぎて全く聞こえなかった。

仕方なく近づいてよく聞き取ろうとしたら電に手を引っ張られ、ソファに座らせられた。

 

「な、何をする! 電!」

 

「司令官の呪いを電が解いてあげるのです!」

 

「いや、これは呪いじゃなくてだな……ンムッ!?」

 

……電に唇を奪われた。

相変わらず電のキスは涙の味がするな……と脳の一部分が感じたが慌てて引き離す。

 

「待て、電。私の話を聞いていたか?」

 

「……聞いていたのです。電は司令官の事が好きなのです。体質とかそんな事関係ないのです!」

 

ポロポロと涙を流す電を綺麗だと思った。

 

「……艦娘に特別な感情を抱くわけにはいかないのだ。……辛いだろうが解ってくれないか?」

 

「解らないし解りたくもないのです! 電は司令官が着任した時からずっと見ていたのです……。前に居た鎮守府に比べたら……。電は地獄から救われたの……です」

 

そうか、電は初期艦。つまり他の鎮守府で建造され、此方に回された、という事だ。

もし不正があるならば具申して正さねばなるまい。

 

「……辛いだろうが、聞いても良いか?」

 

電はしばらく考えていたが、ポツリポツリと話し始めた。

 

「……前の鎮守府は艦娘をモノとしか見れない司令官さん……でした。電も司令官さんの姿は見た事はありません。秘書艦もつけず執務室から全て電話で指示をしていたのです。」

 

……艦娘を人間として見れない提督も幾人かいると言う。

 

陸軍から海軍に編入された提督が顕著だという話だ。

陸軍にも良い人間は居るのだが、どうにもあの丸眼鏡の厭らしい媚び諂った笑顔を浮かべる中将の姿が思い出される。

 

「戦意高揚状態にさせる為と補給と入渠で、資源を使わせない為に建造したての駆逐艦から艤装を取り、高錬度の空母や戦艦の艦娘の盾にし、大破した駆逐艦の艦娘はそのままそこで沈められていたのです……」

 

電がしがみついたまま、カタカタと震える。

 

ギリと歯軋りをしてしまった。

 

……キラ付け、と呼ばれるやり方だ。駆逐艦をエサにすることで同行していた艦娘にMVPを取らせ、戦意高揚状態にしてから難関海域に向かう。

提督の間ではほぼ常套手段になっていると聞く。

……特に元帥クラスは何人の艦娘を沈めるかでギャンブルの対象にもなっていると。

ギャンブルの名前はKiller漬けというらしい。

 

「電も、あの時この鎮守府に呼ばれなければ今頃は……。電を送り出してくれた漣ちゃんや五月雨ちゃんが良かったねって……良かったねって……言って送ってくれた顔が忘れられないのです……!」

 

……漣も五月雨も初期艦だ。恐らく全てを諦めた表情だったのだろう。

そんな人間を何人も見た事がある。

 

「みんな……みんな、出来れば助けたいのです……」

 

隣に座る電が静かに泣き出す。

これも一種の呪いかもしれないな……。

助けてやりたいが、その鎮守府の漣や五月雨は恐らくすでに沈んでいるのだろう。電もおそらくそれは解っている。

キラ付けの手法が禁止されない限り、無くなりはしない。

電にしてやれる事はこの鎮守府で誰も沈めない事、誰も沈めない様な鎮守府が少しずつでも増えてくれれば今の電の様な艦娘が出てくる事も無い。

それからもう一つだけできる事がある。覚悟を決めよう。

 

「……辛かったんだな。だが、その鎮守府のやり方を止めるには私では力不足だ……。すまない」

 

「大丈夫なのです……! それでも電は救われたのです。司令官さんに……ムムーッ!」

 

電の髪留めに手を当て、言葉を紡ぐ唇を奪った。

思えば私からする事は初めてだな……。

 

「司令官……さん……?」

 

しばらく唇だけを重ねただけのキスをし、離すと電が眼を見開き、戸惑いの声を洩らす。 

 

「すまない、嫌だったか……?」

 

頭から手を離し、聞くと電はフルフルと首を振った。

 

「そうか……。呪い、解けたか?」

 

ハッとする表情の電。

 

「……まだ解けてないのです。もっとゆっくりじゃないと解けないかもしれないのです……」

 

真っ赤になり、はにかんだ表情でおずおずと唇をねだる様はそのまま押し倒してやりたい欲望が沸き起こったが、必死で自制する。

 

「そうか、ただ……一つだけ言っておく。ずるい奴だと思われるかもしれないが、これは呪いを解くためだ。良いな……?」

 

予防線を張る。ここまでやっておいて何を今更と、頭の中で嘲笑う声が聞こえるが艦娘と結ばれてはいけない、すでに恐怖心というか刷り込みの様になっている。

だが、コクリと頷く電。おそらく此方が艦娘と一線を超える事を何よりも恐れている事は気付いているのだろう。

せめて、幸せな記憶となる様にしてやりたい。

電の辛い記憶を溶かす為に口付けを交わす。

心臓の音と執務室の時計の秒針が同じくらいの速度になるまで唇を合わせていた。

ゆっくりと離すと電が礼を言った。

 

「司令官……ありがとう、なのです」

 

「あぁ、こちらこそ、な……。そうだ。言い忘れていたが電。お前が私の初めての相手だぞ」

 

……恐らく此方の顔も赤くなっているだろうが、自分の唇を人差し指でトントンと指し示す。

 

「ふふ、それは、とても……幸せなのです……」

 

泣き笑いの様な顔をする電の額にキスを落とした……。

 

 




電ちゃん?ケッコンカッコカリしてますが何か。
ここではぷらづまちゃんは出てきません。

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