アイアンボトムグレイヴディガー~ショタ提督の苦悩~   作:ハルカワミナ

40 / 69
疑念と和解

「クッ……!」

 

天龍の体を左腕で抱きしめながら机の上に置いた拳銃に右手を伸ばす。

冷たい鉄の感触が指先に触れると同時に天龍を後ろに庇い、闖入者に狙いをつけた。

 

「オイ!?提督!大淀に何してるんだよ!?」

 

……自分の体では庇いきれていない天龍がドアを開けて入って来た人物を視認したようだ。

慌てたような声で疑問と戸惑いがぶつけられ、手に持った銃ごと腕を掴まれた。

 

「天龍!?放せ!大淀は!」

 

天龍に腕を上げられ大淀につけた狙いが外れる。

 

「提督!しっかりしろよ!?あれは大淀だぜ!?」

 

話が全く噛み合っていない……。

まるで出来の悪いコントのようだ。

 

コホンと咳払いが一つ、聞こえた。

 

「提督……落ち着いて下さい。私の話を聞いてくれませんか?」

 

両手を上げて敵意が無いといった風体を示す大淀。

此方は鼓動も呼吸も荒く、落ち着かないが無抵抗の相手に銃を向けるほど堕ちてはいない。

疑念はあるが、話を聞かないと判断もつかないだろう。

銃を握る手を緩めると天龍も腕を放してくれた。

 

「なぁ、提督……、一体どうしちまったんだよ?どうして俺達艦娘に銃なんか向けるんだよ。」

 

混乱しているらしい天龍の弱気な声が此方の心をグサリと突き刺す。

謝罪か、それとも言い訳を並べようかと迷っていると大淀が口を開く。

 

「天龍さんは提督のお体の事は、まだ何も?」

 

その言葉にコクリと頷く。

天龍だけが理解不能といった表情を浮かべている。

 

「お、おい……。オレを置いていくんじゃねーよ……。」

 

不安気な声を漏らす天龍を余所に大淀が頭を下げた。

 

「二つ、謝る事があります。申し訳ありませんでした……。提督に薬の事を黙っていた事、無理矢理提督の唇を奪った事です。」

 

眼鏡の端から覗く表情は真剣そのものの大淀だが、天龍から素っ頓狂な声が漏れた。

 

「はぁ!?ちょ、ちょっと待てよ!それって提督とキ、キスしたって事か!?それに薬ってなんだよ!?」

 

慌てたらしい天龍が大淀の肩を掴み起こすとガクガクと揺さぶる。

ガックンガックンと大淀の頭が揺れて、まるで振り子の様だ。

少しだけ、昨日強引に唇を奪われた怒りの感情が勝っているのだろう、止める気はあまり起こらなかったのが不思議だ。

 

「提督も何処か悪いのか!?薬を飲むほど悪化してるってガンとかじゃないよな!?」

 

自動首揺らし機、もとい、天龍が此方を向き、矛先を変えようとしたところで言葉を放つ。

 

「……薬の事を詳しく教えてくれ。それと私が何故この様な体になっているのかも、な。医務室の件は薬のせいなのだろう?」

 

天龍の腕から抜け出した大淀に問いかける。

まだダメージは残っているようで、眼鏡がずれているがしっかりと頭には届いたみたいだ。

 

「その件については軍上層部からの秘匿命令が出ていますが、もう気付かれている御様子ですね……。」

 

やはり軍上層部か……。何人か心当たりのあるものの姿を心で描き、物思いに耽る。

大淀がふぅと溜息をつき、眼鏡を直して話し始めた。

 

「他に提督の体の事を知っている人物はどなたです?できればその方達にもお話しておきたいのですけれど。」

 

続けて言の葉を受けたが、正直に言ってしまって良いものか迷った。

最悪の可能性として考えられるのが、余計な情報を知ってしまった艦娘と私への罷免だ。

 

顔に脅えの色が出てしまったのか、大淀に考えを読まれたようだ。

 

「……少なくともこの情報は部外秘です。外で洩らさなければ誰も罰を受ける事はありません。」

 

言い切られてしまった。私はどうなっても良いが艦娘達が罰を受けるので無いのなら信用しよう。

 

「……最悪の場合、刺し違える心算だったのだがな。」

 

床に刺さったナイフに視線を送る。

大淀は複雑な表情で、そのナイフを床から引き抜くと両手で差し出しながら言ってくれた。

 

「……提督には血生臭い事は向いていません。できれば綺麗なままで居て貰いたいのですけれど。」

 

……綺麗でもないが、それが艦娘の望みなら演じてやろうと思った矢先、更に言葉を続けられた。

 

「最も、その綺麗なものを汚して穢してしまいたいという欲望もあるのですけれど。」

 

言い終わった瞬間、眼鏡がキラリと光る。やはり大淀は大淀だった。

大淀からナイフを受け取ると天龍の情けない声が響いた。

 

「オレを置いていくなよぉ……。」

 

あぁ、すっかり存在を忘れていた。

ナイフにキャップを着け、元の万年筆にカモフラージュする。

安全であることを確かめるとポケットにしまい天龍の頭をポンポンと撫でてやった。

 

「そのようなモノを一体何処で手に入れられたのです?」

 

大淀に問いかけられた。

 

「……恩人から少し、な。」

 

逡巡して、江田島中将の顔を想い浮かべながら喋ると大淀に皮肉られた。

 

「……随分と提督の事を解ってらっしゃる御様子の方ですね。お名前を伺っても?」

 

一瞬、大淀に調べてもらえば江田島中将の所在がハッキリするだろうかとも考えたが、ふと恩人に迷惑がかかる可能性が懸念として頭に浮かぶ。

 

「今は言えない……。すまんな。私にとって、唯一の絆なのだ。察してくれると有難い。」

 

苦々しく口を開くが、大淀は赦してくれるだろうか。少しだけ不安になった。

 

「解りました、提督。それで御身体の件を知っている娘達を集めていただくことは可能でしょうか?」

 

しかしそれは杞憂だったようだ。全く別の話題を振られ、少しだけ胸を撫で下ろす。

未だに天龍の頭に手を置いていたことを忘れていた。少しくせっ毛がちな髪の感触を撫で、確かめてから返事を返す。

 

「分かった。信用するぞ、大淀。」

 

……まだ信頼する、とは言えないが……。

その意図を知ってか知らずか大淀はしっかりと頷いた。

 

「では、何処か希望の場所はあるか?」

 

「執務室でお願いします。おそらくは其処が一番安全かと。」

 

何が安全か、は教えてくれなかったが大体の想像はついた。防音と、もし艦娘が暴走してもすぐに非常招集をかける事ができる。

 

頷くと天龍と視線が合い、投げかけられる言葉。

 

「お?ようやくオレに作戦をくれるのか?」

 

「いや……。すまんがそういうわけではない。」

 

「……。」

 

空気の読めない天龍に脱力すると同時に、その様子に気分が軽くなるのも感じた。

ありがとう、と天龍に心の中で呟いておいた。

 

……面と向かって言うと調子に乗るしな……。




アホの娘可愛いですね。

閲覧・お気に入りありがとうございます。
誤字・脱字・文法の誤りなどありましたらお知らせくださいませ。
勉強させていただきます。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。