アイアンボトムグレイヴディガー~ショタ提督の苦悩~   作:ハルカワミナ

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誰得ショタ提督情報……性毛が全く生えていません。髪、顔の毛以外つるつるです。


男にも 気をつけなければ いけないな

何人かの艦娘と挨拶混じりの軽口を交わし、自室に戻る。

 

服にも油の臭いが付いているみたいなので新しい制服と下着を用意した。

洗濯室に持っていく為、朝に着替えて置いておいた汚れ物を布のバッグに詰める。

鳳翔や雷に頼めば喜んで洗濯してくれるかもしれないが、流石にそれは遠慮したい。

 

この鎮守府では女性用と男性用に洗濯室が別れている。女性用……というか使うのは艦娘がほとんどな為、数が多く優先度も高い。

それと比較して男性用洗濯室は必然的に設備も古く、部屋も狭い。

 

着任当時、大井に一緒に洗ってあげますよ、と言われ、言葉に甘えてしまった事があるが、ポケットから艦娘のハンカチが出てきて危く泥棒の嫌疑をかけられる所だった。

後に大井に平謝りされて解決となったが、思えばその頃だったな。大井の態度が少しだけ軟化したのは。

今となっては笑い話だがその時は人生が終わるかと思ったものだ。

……後に気付いた事だが、案外わざとじゃないかもしれないと思ったのは、北上と仲良くしていたからかもしれないが。

 

風呂から上がってから一まとめに汚れ物を洗おうと思い、洗面器とシャンプー、タオル、替えの下着や服を別の袋に詰める。

 

……ナイフと拳銃の存在を忘れていた。

風呂にこのようなものを持ち込むのは無粋以外の何者でもないだろう。

そう考えて、鍵付きの机の引き出しに閉まった。

まだ昼間だ、廊下の往来もある。誰かが忍び込んで盗難することは難しいだろう。

 

意気揚々と自室を出たが、ふと足を止める。

男性用大浴場と提督用のシステムバスのどちらに行こうか迷った為だ。

大抵、何処の鎮守府もそうだが規模の大小はあれど提督には個人用の浴場が提供されている。

女性の提督も居るし、他人に肌を見せたくない提督も居るだろうとの大本営の判断だ。……中には柴犬など人間以外の提督も居ると聞いているが、デマだろう。

以前雷に突入を許してしまったのも、この個人用の風呂に入っていたせいだ。

 

……まだ昼だ、この時間なら男性用大浴場には誰も居ないだろう。

それにシステムバスを使うならお湯を張らなければいけない。

どうせならできるだけ早く身体を綺麗にしたいと思い、大浴場の方に足を向けた。

……夜に大浴場を使うのはあまり気が向かない。何故かと言えば周りは筋骨隆々の青年や壮年ばかりでほとんど筋肉が付いていない自分の身体は随分と貧相に思えるのだ。

 

悔しいッ!でもッ!ビクンビクン!

などと手拭いをかじったりしない、絶対に、無い。

……最近は妙な視線を感じる事があるしな。

いつだったか齢18だと言っていた整備班の少年と一緒になった時があった。

湯船に二人で浸かると、自分にもこんな弟が居たと、深海棲艦の攻撃で亡くしたと、あの時海に遊びに行かせなければと嘆いていた。

不憫に思い、話を聞きながら慰めて居たが何かが琴線に触れたようだ。

少年が泣き出してしまい、ついいつも艦娘にやるように頭を撫でたら手を握られた。

 

確か……何と言われたかな……。そうだ、思い出した。

僕は君に会うために産まれてきたのかもしれない、と言われたのだった。

流石にそれは言いすぎだ、家族を亡くした事を思い出して感情が昂ぶっているだけだと注意したのだが……。

 

その時から整備部に行くと視線を感じるようになった。

衆道の気は此方には無いが、あのまま流されていれば布団を同衾する仲まで行ってしまったかもしれない。

そんな妙な雰囲気を持った少年だった。

 

……が、幸い今は昼だ。

夜戦任務の為に出ずっぱりな人間も今日は居なかった筈だし、ゆっくりと湯に浸かれるだろう。

男性用浴場に着くと、思ったとおり誰も居なかった。

電気のスイッチを着け暖簾をくぐり、木とすりガラスが嵌め込まれた引き戸を開けた。

カラカラと小気味良い音を出して引き戸が滑る。

誰も居ないと分かったのは明かりが消えていたからだ。誰も暗闇で風呂に入りたいとは思うまい。

節電は大事だ。税金の無駄遣いはなるべく抑えなければ。

服を一枚一枚と脱ぎ、籠に入れる。

指に巻かれたガーゼが気になったが、すでに血も止まっている。いつまでも着けて置くと不便だし、不衛生でもある。

手当てをしてくれた満潮に感謝しつつ、ガーゼをゴミ箱に捨てた。

スポンジと自前のシャンプー、ボディソープと洗面器、それとタオルを持ち風呂の引き戸を開ける。

 

一瞬、濃密な湯気が身体を撫でて顔を背ける。

湯気のいカーテンが開けられると浴場が姿を現した。

男性用浴場は10人程度入ると一杯になってしまう広さだが、一人で入るには充分すぎるほどの広さだ。

 

まずは洗い場で体を洗いに行く、それが礼儀だ。いくら風呂の湯はポンプとフィルターで循環させているとは言え、汚れた湯など誰もが嫌がる。

シャワーのコックを捻り、頭から湯を浴びる。

温かい湯が乾いた体をなぞるのが少しだけくすぐったいが気持ち良い。

髪を洗い、続けて体を洗った。

 

湯船に浸かった後でもう一度洗えば炒飯の臭いも完全に消えるだろう。

タオルを硬く絞り、湯船に浸かり頭の上に乗せる。

 

湯船にアヒルが浮いているが、これは中に果物の皮が入っている。

軽巡洋艦の艦娘、夕張に頼んで作ってもらったら事の他好評だったらしく、厨房で風味が良い果物を料理に使った時アヒルの中に余った皮を詰めて浮かべるといったリサイクルが出来ている。

 

夕張がメロンの皮を入れたときは不評だったが……。

 

その後、改良を重ねて入浴剤化したものが鎮守府近辺で売られている。

売り上げは夕張のポケットマネーとして良いと言ったら、随分張り切ってすごい物を作ってしまった。

 

……この話は湯船でリラックスしていると上手く話せる自信が無い。

また風呂から上がったときにでも話すとしよう。

 

今日はアヒルに柚子が入っているようだ。和の香りが漂っている。

ゆらゆらと揺れるアヒルを見ていると何か不思議な感覚に陥るような気がしてくる。

嗚呼、と深い吐息をつき、湯船に身体を伸ばす。

縁に身体を預け目を瞑る。湯口から流れ出る湯の音を聞きながら心地よい温かさに包まれていた……。

 




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