アイアンボトムグレイヴディガー~ショタ提督の苦悩~   作:ハルカワミナ

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Syota's kitchen ショタ提督の荒塩妬き(アラシオヤキ)

「古鷹、何か用があるなら荒潮の話を聞いてからで良いだろうか?」

 

執務室の前で古鷹に振り向く。古鷹が落ち着くまで、と思って歩いていたら執務室に着いてしまった。

まだ顔が赤いが、先程よりは話ができそうだ。

 

「いえ、青葉から何時くらいに来てくれるのか聞いてきてって言われたので……。」

 

見せ掛けの執務を行い、満潮の謹慎を解いたらおそらく……そうだな。二時くらいにはなるだろう。

頭の中で掛かりそうな時間を算出し、古鷹に告げる。

 

「大体二時、ヒトヨンマルマルくらいにはなるかもしれない。昼食後、ゆっくりしている時間帯が一番良いだろう。」

 

「わかりました!では伝えておきますね!」

 

まだ少しだけ顔が赤いが、元気な返事を返してくれた。

 

「あぁ、頼む。ではまた後でな。」

 

「はい、それでは失礼しますね。」

 

古鷹は一礼すると重巡洋艦の部屋がある棟の方向に去っていった。

 

「では入ろうか。中で話を聞かせてくれ、荒潮。」

 

「はぁい、わかったわぁ~。」

 

ドアを開けて、荒潮と共に入る。

執務室には時雨が居り、秘書艦用の机で書類の整理をしていた。

チラリと此方を見るが視線が異様に冷たい。

まるで冬の雨のように。

 

「君たちには失望したよ。」

 

腕に絡みついた荒潮をじっと見つめて溜息混じりに言葉を吐いた。

 

「うふふふふ。なぁにぃ?羨ましいのぉ~?」

 

……何やら時雨と荒潮の間で火花が散っているような気がする。

 

少しだけ胃の辺りがチクリとした。

ここは少し強く言わなければならないか。

 

「荒潮、いい加減に離れなさい。これでは話を聞く事もできないだろ

う?」

 

「はぁい、うふふふふ。そうねぇ、ずっと一緒に居てくれるものねぇ~。ねぇ、提督。」

 

ずっと、という言葉を甘い響きとなるように強調し、ようやく荒潮が離れてくれた。

 

「提督?どういう事かな?」

 

時雨が無理矢理笑顔を作っている風だが、コメカミがひくひくと痙攣しているのが判る。

……相当怒っているようだ。後でフォローを入れておかなければなるまい。

 

「後で説明する、今は満潮がどうしているか聞きたい。」

 

こう言っておけばしばらくの間は黙っていてくれるだろう。

案の定時雨から、他の艦娘がそんなに良いんだね。提督のスケベ……などと聞こえたが聞こえないフリをした。

椅子によじ登り、深く腰掛けて机に頬杖をつく。

 

……読みかけの漫画に登場したサングラスをかけた司令官がよくやるポーズで少しは威厳が出ないものかと真似をしてみた。

 

「荒潮、頼む。」

 

真剣に荒潮を目で射抜く。

 

「……満潮ちゃんだけれどぉ~、どうやら解体されるって思っているみたいよぉ?だから食事も取ってくれないしぃ、心配なのぉ……。」

 

「誰がそんな命令を出すんだ?」

 

大淀が解体命令でも出したのかと思ったが違うようだ。

どうやら自分一人で考え、ネガティブになっているのかもしれない。

 

「そうよねぇ~。だから提督とお話してもらいたくてぇ~。」

 

「判った。書類整理が終わったらすぐに向かおう。一時間後くらいを目処にしておいてくれ。満潮と話をできるようにしておいてくれるか。」

 

「わかったわぁ~。それじゃあ逃げないように捕まえておくわねぇ~。うふふふふ。」

 

妙に楽しそうに笑う荒潮。……少しだけ満潮に同情した。

しかしこれで満潮の謹慎を解きに動き回ることができるな、と考えた。

 

「話は以上だ。では頼んだ。」

 

机上のペンを手に取り、仕事に取り掛かるという意思表示をする。

少し冷たく思われるかもしれないが、これからやる事を悟られてはいけない。

……時雨が怖いわけではない。断じて、ない。

 

「うふふふふ。つれないところもぉ~、好きよ……」

 

去り際に荒潮がヒラヒラと手を振り、執務室を出て行った。

 

「提督、荒潮と随分仲が良くなったみたいだね。僕の目の前であまりいちゃつかないでほしいな、うん。」

 

時雨が悲しそうに呟く。

 

「荒潮とは何もない。ただ、話を聞くくらいなら何時でも聞くと言っただけだ。」

 

これは誤解を解いておかねば後に響きそうだと考え、弁明する。

……嘘は言っていないつもりだ。

 

「ふぅん、提督も鼻の下を随分伸ばしていたじゃないか。」

 

まだ疑っているような時雨。

 

「本当だ。やましい事は何一つない。」

 

その間にも手を動かし、友人の提督に近況報告にカモフラージュした手紙をしたためる。

時雨が何やら言いたげだったが、一度手を止め、時雨の瞳をじっと見つめる。

釈然としない風だったが、納得はしてくれたようだ。

 

「時雨、春雨を呼んできてくれないか。南方への輸送任務の書類があった。」

 

思った通り、遠征任務の書類までは弄られていないようだ。

時雨はチラリと此方の机の上を見ると全てを察したようだ。

こういうときは頼りになる。

 

「うん、分かった。僕の居ないところで無理はしちゃ駄目だよ、提督。」

 

無理という単語を妙に強調して時雨は執務室の出入り口に向かう。

そんなに信用が無いのだろうか、とくすりと笑みが漏れた。

パタリと音を立てて執務室のドアが閉まり、静寂が訪れた。

しばらくその静寂に魂を囚われていたが、のそのそと行動を始める。

 

執務机の一番上、からくり仕掛けの引き出しを開く。

引き出しには全て鍵がついているのだがここだけは別だ。

この引き出しだけは一度ある作法をしてから開けないと上部の偽の引き出ししか開かないような造りになっている。

明石に頼んで内密に作って貰ったものだ。

まるゆもこればかりは気付かなかったようだ。

 

……守り刀としての短刀と昨日使ったピストルがあった。

何故だろう、大淀が昨日の事を知っているならば回収されてもおかしくないのだが……。

 

それとも銃ごときは怖くないと高をくくっているのか、黒幕が鎮守府外に別に居るのか……。

 

自分としては後者の可能性に賭けたい。

他に考えられる希望としては、この仕掛けが破られていないという事。

つまり、明石が大淀とグルでは無い可能性がある。

希望の数は絶望よりも多いほうが良い。

例え希望が絶望に変わるとしても……。

 

小さいが鉄の冷たさを感じるピストル……ジュニア・コルトという名前だが小型で子供や女性でも容易に扱える。

弾倉を抜き、銃身をスライドさせ弾を抜く。

発射口を覗いて見ても詰め物の細工はされていないようだ。

これならば暴発して手を無くす危険はないだろう。

 

同じ引き出しから25ACP弾を取り出し弾倉に装填する。

 

3発ほど入れたところでフルリロードとなった。

弾倉が小さいので6発しか入らないのだ。

銃身を引けばもう一発ストックする事ができるのだが、生憎自分はすぐに撃ちたがるトリガーハッピーでも無い。

 

一番怖いのは事故だ。安全は何よりも尊ぶべきもの。

そう考えながら弾倉を銃身に装填する。

カチリと軽い音がして、ただの鉄の塊が人を殺すための道具になる。

 

願わくば使われない事を祈り、そっと制服のポケットに忍ばせた。




しょたていとく の そうび
E:万年筆型ナイフ
E:ジュニア・コルト後期型 弾6
ステータス:ゆうわくフェロモン 

からくり箪笥は実在の物を参考にさせていただきました。
UA10000有難うございます。
これからも更新頑張っていきますので温かく見守って下さいませ。
プロローグにめんそーれ♂様から戴いたショタ提督イメージ画がございます。気になる方は是非。

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