アイアンボトムグレイヴディガー~ショタ提督の苦悩~   作:ハルカワミナ

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叶わぬ願い

 食堂に着くとそれなりに混雑していた。

 

「……わりと混んでいるな」

 

 キョロキョロと4人が座れそうなスペースを探す。

 幸い、窓際のテーブルが空いているようだ。あそこなら余裕で座れるだろう。

 

「衣笠、あの窓際のテーブル確保してて~」

 

 青葉が私の視線に気付いたらしい、人差し指でテーブルを差す。

 

「りょーかい! 衣笠さんにお任せ♪」

 

 言うが早いかスッと移動し、人ごみを綺麗にかわしながら椅子に座る。

 ヒラヒラと手を振る衣笠に青葉は親指を立て、ニッと笑った。

 

「やるじゃーん」

 

 鈴谷も感心したように言葉を漏らす。

 

「ふふ、では衣笠の分も用意しないとな。私はコップとスプーンを用意しておこう」

 

 こういう場合は分業したほうが早い。

 朝は鳳翔が食事を運んでくれたが、普通はセルフサービスだ。

 人間も艦娘も同じ食堂を使うので食事時は本当に忙しない。

 最も朝の場合は少し時間が遅くなってしまったので空いていたのかもしれないが。

 

 4つのコップに水差しから水を注ぎ、銀製のスプーンと共に盆に載せる。

 不便なので右手が使えないものかと動かしてみたが、少々痛むくらいで問題は無さそうだ。

 三角帯で吊っている右手を外し、両手で盆を持ち衣笠が座っている席へ向かう。

 

「あれ? 提督、腕大丈夫?」

 

「あぁ、そんなに痛みは無いみたいだ。落として割ってしまうほうが問題だろう?」

 

 見咎めた衣笠に聞かれたので、コップを置きながら答える。

 

「では私も鈴谷達と並んでくるよ、もう少し待っていてくれ」

 

「はーい、ありがとね!」

 

 背中で言葉を受け、今度は私が手を振った。

 

 列に並ぶと大淀と満潮が居た。

 

「お前達も食事か、奇遇だな」

 

「ええ、補給物資のリスト化と艦隊運営計画の候補をいくつか纏め終わりましたので」

 

 言葉を返してくれたのは大淀だけだった。

 満潮はこちらに視線を送るだけで無言を貫いている。

 

「そうか、助かる。ところで満潮、お前に少し話がある」

 

 相変わらず無言だが、構わず続ける。

 満潮が振り向き、サイドで結った髪がふわりと揺れた。

 この間演習で少々問題行動を起こしたと報告があがっている。

 執務室に呼び出しても理由をつけて応じないのだが、このままでは上に軍規違反と取られる可能性がある。

 こんな場所だが早めに解決しておかなければならない。

 

「……で、何?!」

 

 イライラした様子を隠そうともせず、同じくらいの身長の私を睨む。

 

「あぁ、こんな場所でする話でもないのだが」

 

 ワンクッション置いて前置く。

 

「満潮お前、この間の演習相手に何やら暴言を吐いたと聞いている。向こうの大尉サマが何やら散々喚いてきたぞ」

 

 あの時はキィキィと甲高い声を電話で数十分聞かされてゲンナリした。

 

「腹が立つ事はあっても演習は同じ艦娘相手だ。もう少し礼節を守った態度を取ってくれないか」

 

「……うるさいわね」

 

「……何?」

 

 聞き間違いで無ければうるさいと言われたみたいだ。

 

「つまらない話はそれだけ? 食事が不味くなるからやめてくれない?」

 

「待ちなさい、満潮。話は終わっていない……!」

 

 クルリと背を向けた満潮の肩を掴もうと手を延ばす。

 パシィと食堂中に響き渡る音、食堂に居た全員が注目するほどの。

 じんじんと痛む左手と此方に振り返った満潮の姿で、手をはたかれたのだと認識する。

 

「満潮、後で話がある」

 

「ウザイのよッ!!」

 

 静かに怒りを込めて言葉に乗せる私と真っ向から怒りの感情を言葉に乗せて放つ満潮。

 

 しばらく睨みあったが注目されるのが嫌だったのか、踵を返すと満潮は食堂から駆け足で出て行ってしまった。

 その後姿を見つめていたらすさまじい胃の痛みが襲って来た。

 

「ぐ……ッ!?」

 

「提督!?」

 

 脂汗を流して鳩尾に手を当てる私に大淀が駆け寄ってきる。

 

「……どうぞ、痛み止めです」

 

 近くにあったコップに水を注いで薬包紙と共に渡してくれる。

 

「あぁ、ありがとう。大淀」

 

 さらさらと薬を口に流し込み、水で飲み込む。

 冷たい水が胃に回る感触があり、少しだけ落ち着く。

 

「提督、大丈夫!?」

 

 青葉と鈴谷も駆け寄ってきた。

 

「だ、大丈夫だ」

 

 こんなところで大事にしたくない。大丈夫だと手を上げて制止した。

 いまだ注目されているようだ、ここは弁明しておくしかあるまい。

 

「あー、すまない。持病の胃痛でな。騒がしくしてすまない、食事を続けてくれ」

 

 食事中の皆に聞こえるように声をかける。

 中にはあまり納得をしていないような表情の艦娘や人間も居たが、しばらくすると再びざわざわと喧騒が戻ってきた。

 ズキズキと痛む胃に意識が行く。

 これは刺激物は控えた方がいいだろう。

 

 楽しみにしていたのだがな、甘口ハンバーグカレー……。

 

 想像の中でカレーを美味そうに食べる自分を思い描き、叶わぬ願いと諦め今日何度目かの深い溜息をついた。




満潮とショタ提督、両方にそれぞれ叶わない願いを含んでいます。
割と史実が壮絶な艦娘なので興味が出た方は調べてみてくださいね。
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