アイアンボトムグレイヴディガー~ショタ提督の苦悩~ 作:ハルカワミナ
我輩は孤児である。
祖父と父母の顔は知らぬ、私が物心つく前に海難事故で亡くなったと聞かされている。
曽祖父はレイテ沖で戦艦扶桑とともに名誉の戦死をしたと祖母に聞いた。
齢8歳になるまで祖母に育てられたが、その祖母も晩年は体を壊しがちで病を患って死んでしまった。
祖母は極力私を海に近づかせないようにしていたのだが、潮騒の音が聞こえないと愚図る私に相当に手を焼いていたようだ。
祖母が亡くなり、四十九日も過ぎぬままのある日、私は小船で海へと漕ぎ出した。
海に出れば祖父母と父母の声が聞こえるような気がして衝動的に行ったことだった。
折しも強風に呷られ、鯨のようなものにぶつかり船体を破損し、あわや海の藻屑となるところであったが、江田島と名乗る海軍司令官に助けられ今に至る。
聞けば中将だと言う。
その後、親戚と名乗る人間達から四十九日も済んでないのに問題を起こすとは、とかうちでは面倒見きれない等言われ祖父母と父母が残してくれた遺産を食い潰そうとしたのを守ってくれたのも江田島中将だった。
その後、海軍が設立したと言う全寮制教育施設にまで紹介してくれた。
施設では苦しい時もあったが海軍士官学校を卒業できたのも私の命があるのも江田島中将のおかげであろう。
感謝してもし足りない。
そのようなわけで海軍士官学校を卒業したとき礼を述べようと軍部に問い合わせたのだが、そのような人物は居ないと一蹴に伏されてしまった。
どういうことだろうか?童話の足長おじさんのような人物が現実に存在するとは思わないのだが……。
まだ月に一回ほどだが手紙が届く。
達筆で思わず読むときには正座をしたくなるような筆跡だ。
と、そんな事を思い出して夜の鎮守府近辺を歩いていたら警官に声をかけられた。
「あー、キミキミ。子供がこんな夜遅くに歩いていちゃ危ないよ?お家は何処?」
失礼である。……と思ったが年若い警官だ、まだ私の事を聞いていないのだろう。
これでも齢19なのだがな……と身分を証明できるものを見せる。
「ハッ! これは失礼いたしました! しばらくお待ち下されば車でお送り致します!」
態度が先ほどまでとは180度変わる。
最敬礼で微動だにしない姿に苦笑し、かしこまらなくても良い、ただ夜の町を歩きたいのだ、と告げて歩く。
思えば施設に入ってから成長がとまってしまったかのように殆ど身長は伸びなかった。
周りでは子供少将やらショタ提督やら呼ばれているが、はぁ……威厳が欲しい。
「こんなナリでも少尉なのだがな……」
誰に呟くでもなくひとりごちたが返事をしてくれたのは夜の蟲達だけであった。