「ねぇ、飛鳥ちゃんって必殺技はないの?」
ネオスクールに入学して初めての休日。暇なので漫画を読んでいるとベッドに寝転んでいる雨音が質問してきた。
「必殺技? いきなり何だ?」
俺は漫画を読むのをやめず返事する。今、良いところなのに邪魔するなよ。
「ほら、私って能力を使う時に技名を言うじゃない? そういうの飛鳥ちゃんにもないのかって?」
「あるわけないだろ。俺はまだ能力を開花していなくて徒手空拳で戦っているんだぞ」
まぁ、能力が開花しても技名なんか叫ぶ気はないが。だって恥ずかしい。
「いやいや、素手でも必殺技は出来るでしょ。プロレスのジャーマンスープレックスみたいな」
「……あんな派手な技が実戦で使えるとは思えないが」
大体、今ある格闘技は普通の人間相手に使う前提で作られている。
武器を持った相手に対する格闘技はあってもネオに対する格闘技は存在しない。下手な技術を覚えるよりも圧倒的な身体能力で戦う方がやりやすい。
「そりゃ、私もジャーマンスープレックスみたいな派手な技がネオ相手に通じるとは思えないよ。私が言いたいのは特殊な技がなくても必殺技は出来るってこと」
なるほどな。技名はともかくとして何か決め技になる技はあっても損はないか。
「もしくは能力が開花した時のために必殺技名を考えるとか」
「……俺にどんな能力があるか分からないのに考えられる訳ないだろ」
俺はイレギュラー。前例もないから俺がどんな感じに成長するか誰にも想像できない。
「じゃあ、どうやってドラゴンだって分かったの?」
「知らない。俺の体を調査した研究者が言っていただけだ」
大体、俺は自分の能力になんて興味がない。適当にダラダラと寝て過ごしていたいだけだ。
だから能力が開花しないなら、それでも良いと思っている。
まぁ、あいつらはそう思ってないだろうけど。
「ふぅん、そうなの……」
何か意味深な言い方だな。何か思うところでもあるのか?
「でもドラゴンだって言うなら火とか口から出るようになるんじゃない?」
「さぁな。確かにありそうな話ではあるが」
火が口から出るだけなら火のネイチャーでも出来るけどな。
俺としては火よりもドラゴンの鱗とかが欲しいな。防御力が高い方が俺が怪我する可能性が減るし。
それに下手に特別な技を覚えるよりも今まで通りに徒手空拳で戦う方がやりやすい。
「ブゥー。さっきから適当な返事ばかり。面白くないんだけど」
雨音が頬を膨らませながら不機嫌そうに言う。
「……て言うか、何で急にそんな話を始めたんだ?」
「折角の休日なのに暇だからだよ! 飛鳥ちゃん、デートに誘っても断るし!」
俺に言わせれば折角の休日に外出する方がおかしい。休日とは遊ぶためではなく休むためにあるのだから。
それに思ったよりも授業がハードで疲れている。あの先生、実技になったら妙に俺に絡んでくるし。主に肉体的な意味で。
「だったら他の友達と遊びに行けばいいだろ?」
「……私に友達がいると思う?」
雨音が急に真剣な様子になって聞いてきた。
確かに雨音は常に俺の近くにいるけど他の人と話しているところを見たことはほとんどないな。
雨音が俺以外に絡む相手と言えば灰崎妹……じゃなくて雫くらいだ。でも雫は兄にベッタリだからな。
つまり俺以外に遊ぶ相手がいないということか。いや、俺も雨音と遊んでないけど。
「だったら折角の休日だし他のクラスメイトを遊びに誘って仲良くなってきたらどうだ?」
そうすれば俺が雨音の相手をする時間が減って助かる。
「う~ん、私って昔から可愛いから他の女の子に嫌われるのよね。それに近付いてくる男は皆、下心を持ってるし」
あー、確かに。リーゼントとかそんな感じだよな。
何て名前だっけ? え~と杉、杉……杉本? 何か違う気がする。
一緒のクラスになってから一週間、事あるごとに絡んでくるけど何故か名前が覚えられない。
もしかしてリーゼントには名前を覚えられない能力でもあるのだろうか? そんな能力、聞いたことないけど。
まぁ、リーゼントのことなんかどうでもいいか。
「だったら俺も下心があるから無理だ」
「じゃあ、今すぐ夜の営みをしよう。まだ朝だけど」
「……何でそうなる?」
さっき下心がある男は無理みたいなことを言ってなかったか?
それとも自分から誘う分にはいいのか? よく分からない。
「だって折角、この学校は不純異性交遊が認められているのにヤらないのは勿体ないでしょ? それに暇だし」
「暇だからって、することか?」
この学校では俺の常識が通じない。そろそろ俺も染まった方が楽になれるのだろうか?
いや、この一週間で分かったことだが普通クラスの人は常識がある。まだ常識を捨てるには早い。
「うん、することすること。最近の高校生はこういうの早いんだよ。知らないの?」
「知らない」
即答する俺。
知ってはいるが俺には関係ない。
「て言うか、逆に聞きたいんだけど何で可愛い私と同じ部屋で過ごして理性が持つの? 普通の男なら一夜も持たないよ」
「さぁ? 雨音が俺のタイプじゃないからじゃないか?」
いや、本音を言うと結構タイプなのだけど。
でも雨音とはそういうことをヤる気になれない。と言うより何か後が怖いのでヤりたくない。具体的に言うと搾り取られそうで。それはあの先生も同じだな。
恐怖が性欲を抑えているのだ。
「やっぱり飛鳥ちゃんってホモ?」
「違う。俺は普通に女の子が好きだ」
俺は色んな意味で普通だ。
研究者達には他のイレギュラーに負けず劣らず変人だと言われたが。心外な話だ。
「じゃあ何で私に手を出さないの?」
「……もしかして俺が雨音の納得する答えを言わないとひたすら繰り返すつもりなのか?」
「まぁ……そうだね。することなくて暇だし」
面倒くさい。どうしたものか。
「だったら雨音も漫画を読むか?」
そう言うと俺は今読んでいるとは別の漫画を取り出して雨音に渡す。
「う~ん、漫画か。私、漫画ってあんまり読まないんだよね。そんなことより、やっぱりエッチなことしない?」
雨音は漫画をベッドの上に置くと強硬手段といった感じで俺に抱き付いてきた。
雨音が今着ている服は薄手のパジャマだ。しかも、この胸の感触。ノーブラか。
雨音の柔らかい感触が直接、体に伝わってくる。
「どう? 私の体、気持ちいいでしょ? 少しは私のことを押し倒す気になった?」
俺の耳元で雨音が色っぽい声で呟く。
これはヤバい! さすがの俺でも理性が持たないぞ!
今、漫画が良いところなのに雨音のせいで集中できない。
「……午後からデートしてやるから今は大人しく漫画を読んでいろ」
「ここまでしても駄目なのか。こうなったら全裸になって無理矢理に」
「やめろ」
「イタッ!」
このままだったら本当にやりかねないので俺は読んでいた漫画で雨音の頭を叩いた。
「そろそろ静かにして漫画を読ませろ」
「う~ん、まぁ……デートできるだけでもラッキーか。じゃあ、飛鳥ちゃんに貸してもらった漫画でも読もうかな」
そう言うと雨音は漫画を読み始めた。
ハァー。雨音のせいで俺の睡眠時間がかなり減ってしんどい。
十一話終了。
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