○???サイド
この世界の大気に含まれている魔力が少しばかり濃度を増した。
『
二つの世界の境界がさらに曖昧になり、魔力の濃度の濃い『
しかし、一体なにが引き金となったのだろう。
ダークマターが滅びたことだろうか。
それとも、式見蛍の持つ能力によって――?
――そう。式見蛍の能力だ。あの
しかし、彼の持つ理力と世界の歪みにどんな関連性が――?
……いや、それを私が考える必要はないだろう。それは『聖戦士』たちや『
そう。私が考えるべきは、彼の価値のことだ。
今回の事件で、彼は私の想像していた以上の『力』を見せてくれた。あれなら私の助けがなくても、ダークマターを倒せていたことだろう。
――私は一度、放棄しようとした。彼の価値を見極めることを。
思ってしまった。彼を失いたくない、と。――しかし、あれほどの『力』を見せてくれたのなら、もう
起こすとしよう。彼らのための事件を。
与えるとしよう。彼らの活躍の場を。
その結果、彼らがどうなるか、世界がどうなるか、そして私がどうなるか、まったく予想はつかないけれど。
あるいは、あのとき『
――決断は、もう終えた。
さあ、この私――『
○神無鈴音サイド
あれから蛍のアパートの前で蛍たちと別れ、私は真儀瑠先輩と二人で最寄りの駅へと向かい、電車に乗った。
自分の家にほど近い駅で電車が止まると、先輩に「じゃあ」とだけ告げて、電車を降りて自宅を目指す。
その少女と出会ったのはその帰路の途中だった。
年の頃は私と同じ十六歳くらいだろうか。
背中に流されているまっすぐな黒髪に、不安げな色を宿した黒い瞳。
身に
美少女、という表現がぴったりと当てはまる少女だった。
声をかけてきたのはその少女のほうから。どこか、おどおどとした表情で。
「あの……、すみません。ここは、どこでしょうか……?」
どうやら道に迷ったようだった。私は電車から降りた駅の名を挙げ、その付近だとつけ加える。
しかし彼女はそれに困ったように首を傾げ、
「すみません……、聞き覚えがなくて……。あの、じゃあ……、あなたの名前は……?」
変な質問だな、と思いはしたものの、
「私は神無鈴音って言うんだけど、あなたは?」
本当に軽い気持ちで私は少女に名を訊き返した。しかし彼女はその質問に本格的に困った表情に――というか、泣き出しそうな表情になった。
「分からないんです。私は、誰なのか……」
「それって、もしかして……」
私は思わず息を呑む。
この少女は記憶喪失なのではないだろうか、と思いあたって。
不安なのだろう。とうとう少女は泣き出してしまった。涙の滴が地面に落ちる。
「お、落ち着いて。とりあえず、私の家に……」
私の言葉にうなずく彼女。私はそれを確認すると少女の手を引いて歩きだした。彼女はしゃくりあげながらではあったけれど、ちゃんとついてきてくれた。とりあえず、私の家で落ち着いて話を聞く必要があるだろう。放っておくという選択肢は、私の中には存在しなかった。
歩きながら、ふと思う。
記憶喪失の女の子を拾ってしまうなんて、まるで蛍みたいだな、と。でも、彼が同じ立場に立たされても、結局はこうするんだろうなぁ。
なんとなく、蛍がユウさんと同居している理由が分かったような気がして、こんなときに
――『プロローグ 風のはじまる場所』―― 閉幕