とある不幸なソードアートオンライン   作:煽伊依緒

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第二十五話(第二十六話)です!

今回は戦闘シーンはほとんどありません・・・・・・。
それでも精一杯書いたのでよろしくお願いします!


第二十五話《お人好し》~兆し~

「はあ・・・・・・はあっ、アスナ・・・・・・」

「ご、ごめんなさい・・・・・・ちょっと動転しちゃって」

「・・・・・・まあいいけどさ」

 

ボス部屋から少し―――だいぶ離れたところにあった安全エリア内にて先に走り去っていった明日菜に追いついた。

荒い息を抑えるためにその場で深呼吸を繰り返しながら頭の中を整理していく。

 

「あれは、苦労しそうだな」

「うん、前衛に硬い人を集めてスイッチを繰り返していくしかないね」

「盾装備が・・・・・・十、十三くらいは必要かもな」

「盾装備、ねえ?」

「な、なんだよ」

 

キリトはアスナの何か探るような目つきに若干しり込みしてしまう。

その様子を見てかアスナはすぐにいつもの目つきに戻すと、ため息を吐いた。

 

「だって片手剣の最大のメリットって盾を持てることでしょ? 私はレイピアの速度を落としたくないからだけど。キリト君が盾持っているところなんて見たことないし」

「・・・・・・」

「あの子に作らせた剣も使ってないでしょ?」

「うううん・・・・・・」

「怪しいなあ」

「・・・・・・」

 

またしても探るような目つきをしてくるアスナ。

その目つきを見ないように目をつぶりながらキリトは腕を組んだ。

――――そろそろ限界。

と、キリトが思った時、アスナは目つきをふっと緩めるとニコッとほほ笑んだ。

 

「まあ、いいわ。スキルの詮索はマナー違反だしね」

「はあ・・・・・・」

 

キリトは安心したようにため息を吐きながら胸をなでおろした。

アスナが誰かに言いふらすとは考えにくいが、言ってしまえば他の人にも言う可能性が出てくる。キリトはそう考えていた。

 

「それじゃあ、少し遅くなったけどお昼にしましょうか」

「なっ、て、手作り⁉」

「え、ええ、ちゃんと手袋を外して食べるのよ?」

「お、おう・・・・・・!」

 

キリトはそう言いながら手袋を外すとアスナがバスケットの中から出したサンドウィッチを両手で受け取る。

紫色の堤に覆われたそれは大きさの割にはそこまで重くない。

 

「とりあえずそこの壁に腰かけながら食べましょうか」

「うん」

 

キリトとアスナは二人して安全エリアの隅の壁に腰かける。

そして、キリトは開けるのももどかしいように貰ったサンドウィッチを包みから出す。

その瞬間、柔らかそうなパンに数種類の野菜、食欲を誘う香りがキリトを包んだ。

 

「いただきます!」

「はい、どうぞ」

 

アスナにそう言われるが早いかキリトはサンドウィッチにかぶりつく。シャキッという野菜の噛み切れる音と、柔らかいパンの触感がキリトの口の中に広がった。

美味い。

中に入っている食材は数種類もあるのにそのほとんどの味が分かるほどにしっかりと味が付いていて、それでいてその味を全てまとめ上げるようなソースの味がサンドウィッチの中で混ざり合っていた。

続いて二口目、三口目とキリトは次々と口の中に含んでいく。

気が付けばあっという間にサンドウィッチはなくなっていた。

 

「・・・・・・美味いな。この味一体どうやって・・・・・・」

「ふふーん、一年間の計算の成果よ。アインクラッドで取れる約百種類の調味料が味覚再生エンジンに与えるパラメーターを全て解析して作ったのよ」

「・・・・・・料理スキルをコンプした人は違うな」

「ソース舐めてみる?」

「⁉ 良いのか⁉」

「ええ、もちろん」

 

そう言うとアスナはバスケットの中から紫色の液体の入った小瓶をキリトに手渡した。

さらさらとしている液体は見た目からでは全く味が想像できない。

 

「はい、どうぞ?」

「おう」

 

アスナに言われキリトが反射的に手のひらを差し出すとそこに紫色の液体がたらされる。

感触は水に近い、だろうか?

恐る恐ると言う感じで口をつけて飲む。

すると、

 

「こ、この懐かしい味・・・・・・醤油⁉」

「ええ、後はこっちがマヨネーズね」

「マヨネーズも⁉」

 

先程と同じようにキリトは手を差し出し、たらされた液体を飲む。感触自体は変わらないがこちらは緑色をしていた。

 

「ほんとだ、マヨネーズだ」

「ふふ、サンドウィッチのソースはこれで作ったのよ」

「本当にうまいな・・・・・・これ売りだしたらすっごく儲かるぞ」

「そ、そうかな・・・・・・」

 

アスナはそう言うと少し照れたように顔を赤く染め、若干うつむいた。

当然、キリトはその様子には気が付かなかったが。

 

「いや、だめだ」

「えっ? どうして?」

「俺の分がなくなったら困る」

「・・・・・・もう」

 

アスナは頬を少し膨らませた。そして小さく「気が向いたらまた作ってあげるわよ・・・・・・」

と、呟いた。

 

「だあー、疲れたな」

「そうだな~」

 

と、その時突如として声がした。

キリトとアスナは同時にハッとなり、勢いよく立ち上がる。

安全エリアに他のプレイヤーが入ってきたらしい。

そのプレイヤーたちは赤色の甲冑を着ていたり、バンダナをつけていたり、刀を装備していたり―――。

いわゆるクラインのいるギルド「風林火山」であった。

 

「ん? おー! キリトじゃねえか! しばらくだな!」

「クライン・・・・・・」

「この前の洞窟以来か?」

「ああ、多分そうだ」

「あれはきつかったな――――、ってそうじゃなくて、それは置いておいてだ」

「どうしたクライン? 急いでいるのか?」

「ソロのお前が誰とパーティー組んでんだ、ろ?」

 

クラインはキリトの方に向けていた視線をアスナの方にスライドさせていく途中で体が固まった。

 

「ああ、一応知っているとは思うけど紹介しておく。ギルド「風林火山」のクライン。こっちがギルド「血盟騎士団」のアスナだ」

 

キリトが二人を示しながら紹介すると、なぜかクラインの後ろにいたメンバーまでもが固まったり震えたりしだした。

因みにクラインは全く動かない。

 

「おーいクライン? どうした? ラグってんのか?」

「・・・・・・」

「?」

 

何を言っても動かないクラインに、遂にアスナまでもが心配そうな表情をしながらクラインの顔を覗く。

しかも、口パクでキリトに「大丈夫なの?」と聞いてきた。

と、その時。

 

「く、クライン二十四歳、独身、恋人募集ちゅ―――」

 

ボカッ、と。

気が付けば体が勝手に動きクラインのみぞおちに拳を叩き込んでいた。

無意識だったせいかソードスキルは出なかったが。

 

「ゲハッ!」

『リ、リーダー!』

「あっ」

 

キリトは無意識に突き出た腕に対してしまったと思いながらアスナを守るように、詰め寄ってきた「風林火山」の面々と対峙する。

「風林火山」メンバーたちは腕を組んだ状態でアスナを囲むように立ち並んだ。

 

「ツッ・・・・・・」

『・・・・・・』

 

緊張が場に走った。

まるでモンスターと戦闘をしているかのような緊迫感がキリトの体に降りかかる。

キリトは分かっていたのだ、こいつらの目的は――――。

 

『アッ、アスナサンじゃないですか‼』

 

一斉に襲い掛かるように飛び込んでくる男たちを必死に体で受け止めた。

まるで飢えた野獣のような男たち(五人)をキリト一人で支えるのはレベルという差があってもきつかったが、アスナのためと思ってキリトは踏ん張り続ける。

 

「ま、まあ悪い奴等ではないから、リーダーの顔や趣味はともかく」

「何だって?」

「グギッ⁉」

 

見れば、五人のメンバーの脇からバンダナを巻いたおっさんがキリトの足を踏みつけていた。

キリトは踏みつけながらニヤニヤ笑っているクラインに精一杯の笑いを返した後、手を掴んで取っ組み合いを始める。

 

「ハハッ、どうだッ!」

「・・・・・・クラインッ!」

「顔とか趣味がどうしたってッ⁉」

「こんにゃろッ・・・・・・!」

「プッ、フフ・・・・・・」

 

ふと、小さく笑いだすアスナ。

そんなアスナを見てクラインはキリトの肩を掴んで組むと、小さく声をかけてくる。

 

「おい、キリト。どういうことだよ」

「い、いや。その・・・・・・」

「こんにちは、しばらくその人とパーティー組むのでよろしく!」

『ええええ――――』

「キリト、テメエ!」

「まっ、ちょっ、待てって」

 

と、各々が和気藹々? していたところにまたしても近づいてくる者がいた。

ガシャガシャと金属が擦れる音を派手に立てながら近づいてくるプレーヤーたちの気配は安全エリアに入る直前から感じ取れた。

 

「ッ! キリト君!」

「ん・・・・・・!」

 

シュワアン、というような間の抜けた音を立てながら十人以上のプレイヤーたちが安全エリアに入ってきた。

そのプレイヤーたちはみな同じような黒い鎧に槍や剣を構え、だいたいのメンバーが盾を持っている。

 

「軍の奴等・・・・・・? 第一層を支配しているあいつらがなんでこんなところに・・・・・・?」

「・・・・・・ッ⁉」

 

クラインの声にキリトはハッとなって気が付く。

先頭を歩いているプレイヤー。

引き連れている他のプレイヤーにはない赤い帯のようなものを肩に取り付けている。

 

(コーバッツ中佐・・・・・・⁉)

 

トウマから聞かされた。

オレンジやレッドを捕まえた後、引き取り人として毎回対応してくれる男だと。

毎度毎度トウマの心配をしてくれる気の優しいおじさんだと。

 

「よーし、お前等。休めえ!」

『アアアアっ・・・・・・』

 

コーバッツはそう言うとゆっくりとキリト達の方へ歩いてくる。

その足取りは堂々と、かつ何かに怯えている様にも見えた。

 

「私はアインクラッド解放軍。コーバッツ中佐だ」

「・・・・・・キリト。ソロだ」

「君たちはこの先ももうマッピングしたのかね?」

「ああ、ボス部屋の前までならマッピングしてある」

「ふむ、ならそのマッピングデータを提供してほしい」

「なッ⁉ ただで提供しろってか⁉ テメエマッピングする苦労が分かって言ってんのか!」

 

叫んだのはクラインだ。

しかし、その場にいる誰もが同意するかのように顔を上下に振っている。但し、キリトを除いてだが。

 

「我々は! 一般プレイヤーに情報や資源を平等に分配するとともに! 秩序を維持し、一刻も早くこの世界から全てのプレイヤーを解放するために戦っているのだ! ゆえに! 君たちが我々に協力するのは当然の義務である!」

「貴方ねえ・・・・・・!」

 

アスナが怒気を放ちながらコーバッツに詰め寄ろうとする。

そしてキリトは淡々とアスナの体を左腕で制するとウインドウを開きながら呟く。

 

「どうせ街に戻ったら公開しようと思っていたデータだ。構わないさ」

「ちょっ、そりゃ人が良すぎるぜキリト⁉」

「いいんだよ・・・・・・」

 

日ごろお世話になっていた人に感謝の意を込めて、そんな思いを少しは込めながらキリトはウインドウを操作し続ける。

そして、マップデータをコーバッツのウインドウに送った。

送られてきたことを確認したコーバッツは「ふん」と一度息を吐くと、「協力感謝する」とだけ言って部下の元へと戻っていく。

 

「おい! ボスにちょっかい掛ける気ならやめておいた方がいいぜ!」

「・・・・・・それは私が判断する」

「ッ⁉ 仲間も消耗しているみたいじゃないか! 止めて置け!」

「私の部下たちは! この程度で倒れる軟弱物ではない! 貴様等! さっさと立え!」

『ウアアア・・・・・・』

 

悲鳴とも取れそうなうめき声を立てながら軍のプレイヤーたちは立ち上がるとコーバッツの後ろについていく。

 

「大丈夫なのか・・・・・・?」

「・・・・・・一応、ついて行ってみるか」

「えっ?」

『二ヒヒ』

 

キリトはアスナの疑問の声にこたえて、ニヤリと笑う「風林火山」の面々に対してため息を吐きながら言葉を発する。

 

「どっちがお人好しなんだか」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

もうちょっと、もうちょっと。

音が響いた。

その声の抑揚はとても楽しそうだ。

 

「彼も、育っていると良いなあ・・・・・・」

 

そんな音が、響いていく。

 

 




いかがだったでしょうか・・・・・・?

今回は出来るだけ原作に近い形で書かせていただきました・・・・・・。
楽しんでいただけていれば幸いです!

さて、今回はこの辺でいつも通りに、誤字や脱字、よりよい表現などありましたら感想までよろしくお願いします!

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