今回も戦闘シーンは少なめですが、楽しんで読んでいただければ幸いです!
「見ていてくださいアスナ様! この私がこのようなものに負けるはずがないのです!」
「・・・・・・」
クラディールは剣を高々と掲げアスナに向けて勝利を謳った。
しかし、そんなアスナは不安げに、またしっかりとした意思を持ってキリトの方を向いている。
そんな状況にクラディールはさらに機嫌を悪くし、軽く舌打ちをしながらもこちらの方を向いて剣を構えた。
「ひひっ」
うすら笑いともとれるクラディールの笑い声は気持ちの悪いものだった。キリトはそれを極力気にしないようにしつつ、男の剣をじっくりと観察していく。
(・・・・・・あそこに、一撃だな・・・・・・)
キリトは攻撃する算段をつけると目をつぶって息を吐くと心を落ち着かせる。
そして、ある程度落ち着かせると剣を背中から抜き出し右手で構えた。
カウントが減る。
気が付けば転移門の前という事もあってか自分たちの周りには人だかりができていた。
それは老若男女を問わなかったが、ほとんどの人間が見るからに強そうな装備をつけている。
「チッ・・・・・・」
見世物ではないと言わんばかりにクラディールは見物客を睨むともう一度軽く舌打ちをした。
しかし、彼の思いとは裏腹に転移門から出てくる人間すらこちらに集まり、さらに大きな人だかりができていく。
カウントはさらに減った。
残り五、四、三・・・・・・。
キリトは息を吸う。
そして、カウントがゼロになると同時に――。
「ハッ・・・・・・!」
「ひひっ」
両者互いにソードスキルを同時に発動させる。
青白く輝くキリトの剣と、緑色に輝くクラディールの剣。
その二つは吸い込まれるように互いの方へ近づいていく。
だが、その二つが交錯する直前。クラディールが不敵に笑ったかと思うと緑色に輝いたクラディールの剣はキリトの胴体を切り裂くべく進行方向を変えてくる。
(ツッ・・・・・・)
キリトは真っ直ぐに感じられる男の、クラディールの憎しみや殺気をこらえながらこちらも剣の進行方向を変える。
キイイイイン。
金属と金属が擦れる音が空間に響き渡った。
キリトは自分に向かってきた剣を自分の剣を当てることで躱すとそのまま男と立ち位置を交代する。
だが、
「なッ・・・・・・」
「ふう」
サクッと、軽い音がしてキリトのすぐ後ろにクラディールの剣の先端が刺さったのだ。
見れば、クラディールの剣は先端十センチ程が切れてなくなっている。
「ば、ばかな・・・・・・」
クラディールが震える声でそう言うと、そんな声を裏切るように剣は激しい音を立てながらポリゴン片となって散った。
ガックリと膝をつき、倒れ伏すクラディール。
全力で自分の勝利しか考えていなかったのだろう。
「武器を変えて仕切りなおすなら付き合うけど、もういいんじゃないか?」
「クッ、・・・・・・クソオオオオオ!」
クラディールは雄叫びを上げるとウインドウを操作し小さな剣、刃渡り二十センチほどのナイフを手にこちらに向かってきた。そしてその顔はとても恐ろしく、憎しみにあふれた顔だった、が。
キンッと。
今度は短く軽い金属の音がした。
「なっ・・・・・・」
「クラディール。血盟騎士団、副団長として命じます」
いつの間にかレイピアを高々と掲げたアスナがキリトとクラディールの間に割って入っていた。
そしてアスナは静かにレイピアを鞘に戻すと告げる。
「別の任務があるまでギルド本部にて待機。また、処遇についても今後団長と話を行わせていただきます」
「なっ、そんな・・・・・・待ってください! アスナ様!」
「これは決定事項です。速やかにギルド本部に向かいなさい」
「・・・・・・ぐぬぬぬッ」
クラディールはアスナにそう告げられ何も言い返せなくなったクラディールは怒りを露わにしながら歯ぎしりをすると、もはや隠す気すらないとばかりにキリトに対して殺気を放つ。
そしてひとしきり放ち終えると、とぼとぼと転移門に向かって歩き始める。しかし、その様子は怒りを表している様にも見えた。
「転移、グランザム」
不機嫌そうな声でそう告げるとクラディールの姿は青白い光に包まれ、見えなくなった。
と、その直後にキリトの体に圧力がかかる。
「だ、大丈夫かアスナ?」
「ええ、ごめんなさい。迷惑をかけてしまって」
「いや、俺は大丈夫だけど・・・・・・」
キリトは倒れ込んできたアスナを支えながらそう言うと、不安げな顔をしながらアスナの顔を見る。
アスナの表情は暗く、疲れているようにも見えた。
「私が規律を求めすぎたせい、なのかな?」
「えっ?」
アスナがぽつりとこぼしたその言葉にキリトは虚を突かれながらも何とかアスナに聞き返す。
すると、アスナはキリトに預けていた体を起こすとキリトの方に向き直った。
「最初のころ団長に声を掛けられて私は血盟騎士団に入ったの」
「ああ」
「攻略のため、だったのかな。私はギルドに規律を求めたの、でもね最強ギルドなんて言われるようになってから皆可笑しくなっちゃった」
「・・・・・・」
疲れたように笑う。
眼の前の茶髪の少女は手を後ろに回しながら乾いた笑顔で微笑みかけてくる。
「ごめんね、こんな話するべきじゃ無かったよね・・・・・・」
「・・・・・・アスナが、アスナがいなかったら、きっと・・・・・・」
「えっ?」
「きっと、攻略はもっと遅れていたよ。ソロでダラダラやってるオレが言えたことじゃないけど・・・・・・だから、その分俺みたいな奴と一緒に休んでも・・・・・・たまには、いいと思う」
本音、だったのだろう。
キリト自身ソロでの不都合も知っているつもりだったのだ。
だからこそ、アスナのように集団で輝いている人間が物凄くまぶしく見え、トウマのように陰で輝いている人間がうらやましく思えた。
「・・・・・・ふふっ」
「?」
キリトが神妙な顔でそう告げた直後、あっけにとられていたアスナの顔は小さく笑い始め―――それは口元を手で覆い隠すまで大きくなった。
「な、なんだよ」
「いいえ、一応ありがとうと言っておくわ」
「ああ、こちらこそ」
「それじゃあ、今日は思いっきり楽させてもらおうかな!」
「え?」
「フォワードよろしくっ!」
「え、ええ~⁉ フォワードは交代だろ⁉」
「今度私もやってあげるから」
「えええ⁉」
キリトの驚きを置いてアスナは一人で迷宮区の方へと歩いて行ってしまう。
そして、キリトは驚愕の声を上げながらアスナを追いかけていく。
その仕草はとても安心したようなものだった。
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タッタッというような軽く地面を蹴るような音が短く響く。
今、目の前にはレイピアを持った茶髪の少女が片手剣と盾を持った骸骨モンスターと戦っているところだった。
少女――――アスナは骸骨モンスターの剣筋を踊るように躱し、レイピアを使って次々に骸骨モンスターにダメージを蓄積させていく。
盾なしのレイピアと言うだけあってかアスナの身のこなしや剣筋はキリトであっても若干見えなくなるほど鮮やかで鋭く突き刺さり、モンスターを圧倒していた。
「キリト君! スイッチ行くよ!」
「お、おう!」
掛けられた声でボーッとしていた自分を起こすと戦闘へと視線を置いた。
その時丁度アスナのレイピアの攻撃が骸骨モンスターの盾とぶつかり互いにノックバックした。
「スイッチ!」
その掛け声に応じて、キリトはアスナの前に割り込むようにして入るとノックバックのおかげで前ががら空きになった骸骨モンスターの胴目掛けて四連撃のソードスキルを叩き込む。
青白く光ったキリトの愛剣はシステムのアシストを受けて吸い込まれるように骸骨モンスターの胴を切り裂くと四本の筋をその場に生み出した。
が、
「ギギッ!」
HPを削りきれなかったのか骸骨モンスターはモンスターとしてのアルゴリズム通りその場で硬直していたキリト目掛けて剣を振るう。
「クッ!」
しかし、キンッと。金属がはじけあう音がする。
なんと後ろから割り込んできたアスナが目の前に迫っていた骸骨モンスターの剣をレイピアのソードスキルではじき返し、もう一度どちらもノックバックしたのだ。
「せああああッ!」
今度こそとばかりにキリトはもう一度単発型のソードスキルを立てに切り裂くように放ち、今度こそ骸骨モンスターをポリゴン片と変えた。
その直後、手に入った経験値とお金であるコルの二つがドロップしたことを示すウインドウが目の前に現れ、OKボタンをクリックする。
「キリト君、疲れている?」
「えっ? どうして?」
「だって、普段の君ならあんなへましないでしょう?」
「いや、まあ・・・・・・しないかもしれないけど」
「もしかして・・・・・・いや、だった?」
アスナは申し訳なさそうな表情をしながらキリトに尋ねてくる。
きっと今日一緒にクエストに来ていることや、先程のクラディールのことなどを言っているのだろう。
「いや、全然。むしろいてくれているおかげで助かっているよ」
「そう・・・・・・なら、良かったわ」
「おう」
そう言いあいながら先に進んでいく。
迷宮区に入ってから三時間ほどが経過しただろうか。キリトたちは迷宮区のだいぶ奥までたどり着いていた。
「ええっと」
「ねえ、キリト君あれって・・・・・・」
「ん?」
キリトは見ていたマップから顔を上げると数十メートルほど先にそびえたつ大きな門を見つけた。
その大きさ、豪華さからするにあれは――――。
「ボスの部屋、だな」
「そうよね・・・・・・」
キリトもアスナも少したじろいでしまう。
まさかこんな早くボス部屋に辿り着いてしまうとは思っていなかったのだ。
少なくとももう少し遅く、明日か明後日くらいだと。
「どうする? 少しだけ覗いていく?」
「ボスモンスターはその守護する部屋からは絶対に出てこない。少し、覗いていくか・・・・・・」
「大丈夫・・・・・・?」
「ボスの姿くらい見ておかないと攻略の立てようがないし、一応転移結晶だけ持っておこう」
「ええ」
アスナとキリトは互いにポーチから転移結晶を取りだすと互いに得物を持っていない方の手で結晶を持ち、互いに互いを見やった。
そして、無言で頷き合うと覚悟を決めた目つきで同時にドアを押す。
ギイイイイという立て付けの悪い扉がゆっくりと開いていくようにその扉は開き始め、たっぷり十秒ほどかけて全ての開いた。
『・・・・・・』
互いに息をのむ。
ごくりと言う唾液を飲み込む音すら出せないようなそんな緊張感。
言うに言えない、そんな重圧がキリトとアスナの体にかかっていた。
「何も、出ないな」
「ええ」
キリトは構えを解くとゆっくりと中へと入っていく。
「ちょ、ちょっと・・・・・・」
「流石に、ここまで来てボスの姿を見ずに帰るのは出来ないだろ」
「そうだけど・・・・・・」
と、その瞬間。
今まで真っ暗だった空間に青白い炎が付き始める。
『えっ?』
反円状に設置された大きなトーチのようなものの先端に青白い炎が順についていき、その部屋の中心を照らしていく。
灰色と青色にあふれた部屋。
その中心にそいつはいた。
「なっ」
一言で言うなれば、頭が牛の人間。当然人間と言ってもスケールは三倍以上あるが。
また体中が青く、頭に角が二本生えていて大きな太刀のようなものを担いでいる―――くらいだろうか。
そこまでキリトは考えて、青いその怪物が息を吸い込み始めていることに気が付く。
「やばっ!」
「キャッ!」
キリトはいち早くその場から逃げ出すべく、アスナの手を取って走ろうとする。
が、逆にそれがよくなかったのかもしれない。しっかりとったと思っていた手はするりとほどけ、互いに体に変な体重をかけてしまった。そのせいで二人ともその場に倒れ込んでしまう。
「あっ」
アスナはその時何が起こっていたのかよく分からなかったらしく、声を上げることなくこちらを見てくる。
そんなアスナに苦笑いを返しながら口パクでごめんと返す。
「グオオオオオオオオオオオオオオオ!」
ボス部屋どころではなくフロア全体を揺らすのではないかと言うほどの雄叫び。
それはキリトとアスナに耳をふさがせるには十分すぎるほどの声量であった。
キリトとアスナは無意識のうちに両手で耳をふさいでしまう。
「しまっ・・・・・・」
そして、ふさいだ後に気が付く。叫び終えたボスモンスターがこちらを睨み、剣を構えたのを。
「逃げっっ!」
「きゃあああああああああ!」
「グゲッ!」
キリトは大急ぎでその場から逃げようとした。だが、直前に起き上がったアスナがキリトを踏みつぶし、悲鳴を上げながら無効に走って行ってしまった。
「いててて・・・・・・」
踏みつぶされた頭をさすりながらキリトは起き上がる。
そして思い出す。
眼の前の怪物が剣を構えていることに。
「あ、こ、こんにちは」
「グッ、ハアアアア」
「ひっ!」
怪物は口からピンク色を帯びた息を吐くと、こちらを睨んでくる。
その姿を見てキリトは全てを悟り、急いでおきあがる。
あんな攻撃を真正面から受けて平気なのはきっとあいつだけだと思いながら―――。
「ぎゃあああああああ!」
後ろから放たれた特殊攻撃のブレスに怯えて、黒の剣士は同じく悲鳴をあげながら逃げて言った閃光のアスナ様を追いかけていった。
いかがだったでしょうか・・・・・・?
戦闘シーンは少なめでしたが楽しんでいただけていれば幸いです。
ようやく原作一巻が終わりそうです。
作者的にはここら辺の下りが原作の中で好きなのですが・・・・・・上手く書ける自信ありません・・・・・・。
それでも、精一杯書くつもりなのでよろしくお願いします!
それでは、いつも通りに誤字や脱字、よりよい表現などありましたら感想までよろしくお願いします!