とある不幸なソードアートオンライン   作:煽伊依緒

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第二十三話(第二十四話)です!

今回もキリト主軸で突き進んでいきます。
戦闘シーンはないですが、頑張って書いたつもりなので楽しんでいただければ幸いです!


第二十三話《殺気》~ストーカー~

「へー、ここがアスナのホームか・・・・・・」

「着替えてくるから適当に座ってて?」

「あ、分かった」

 

キリトは穏やかな声でそう言い壁の向こうへと歩いていくアスナにそう返すと手近なところにあった椅子に座った。そして、今自分がいる場所をぐるぐると見渡してぽつりと一言。

 

「これ一体いくらかかっているんだ・・・・・・」

「ざっと四百万コルくらいかな?」

「な、アスナ戻ってきて――――」

「ん? どうかした?」

「えっ? いや、なんでもない・・・・・・」

「?」

 

まさか私服姿の副団長様がここまで可愛らしくなって出てくるとは思わなくて――――と言えるはずもなく、キリトは目をさらしながら顔を伏せる。

そして、その場で数秒ほどもじもじしていると副団長様からのご指摘が飛んで来た。

 

「ところでキリト君、いつまで着替えないで戦闘服でいるつもりなの?」

「えっ、あっ、すまん」

「別に謝らなくていいわよ」

 

キリトの慌てたような対応にアスナは冷静に言葉を返すとキッチンの方へと向かって行った。

キリトは妙に早くなっている自分の鼓動を落ち着かせようと深呼吸をしながらここまでのことを思い出していく。

ここは第六十一層の一角にあるアスナ宅。

そしてそこにS級食材の料理と言う名目でキリトは上がらせてもらっている。

町並みはとてもきれいで自分も住みたいなと思うくらいな街ではあった。

お金が圧倒的に足りなかったが

、ここまでの道のりを思い出しながらキリトはウインドウを操作し装備品をしまって、最後に服を黒一色の薄い私服に着替えた。

 

「キリト君、料理って何を作るの?」

「シェフのお任せコースで頼む」

「うーん、じゃあシチューにしましょう。ラグー、煮込むっていうくらいだし」

 

アスナはキリトにそう告げると、お肉出してもらえる? と付け足すように聞いてきた。

その仕草にキリトは一瞬慌てながらもウインドウを急いで動かしラグーラビットの肉をその場に実体化させる。

 

「ふーん、これがs級食材かあ・・・・・・」

 

アスナはまるで欲しかったおもちゃが与えられた子供のように目を輝かせながら大きな肉の塊をまじまじと見て感慨深げに頷くと、「よし!」と元気よく言って腕まくりを始めた。

因みにその目は料理が始まっても一向に輝きを落とす気配がなかった。

まず、アスナはウインドウを操作しナイフを取りだすと目の前にあった肉や、傍に出しておいた野菜にナイフを当てて自動で切り刻んでいく。

 

「全く、アインクラッドの料理は簡略化されすぎててつまらないわ・・・・・・」

「ハハハ・・・・・・これで簡略化されているのか」

「キリト君は・・・・・・うん、料理やらなそうよね」

 

アスナはクスッというような感じで目を細めながら笑うと、ウインドウを操作してナベを用意し食材を鍋に入れていく。

 

「・・・・・・別にいいじゃないか、男なんだし・・・・・・」

「あら? でもトウマさんもリアルでは料理するって言っていたわよ?」

「なに⁉ あいつ、料理できたのか・・・・・・」

「家に居候の大食いがいるから困っているとも言っていたわね」

「なぜに付き合いが短いはずのアスナがそんな個人情報を多く・・・・・・⁉」

 

キリトは驚愕を露わにしながらアスナに食いついていく。

付き合いが長いのに情報をほとんど知らないのは何か負けた気がしたからだ。

 

「だって、トウマさんも何度か家に招待したのよ? その時にね」

「なん・・・・・・だと・・・・・・?」

 

自分はS級食材という物体があったからこそ来れたようなものなのに、トウマはすでに何度も来ていた。

その事実が少し浮かれていた自分を冷静にさせていくことにキリトは気が付いていく。

そして、気が付いたせいか無意識のうちに数歩後ろに下がってしまうが、アスナは鍋に具材を入れているせいかキリトには気が付かなかった。

しかし、

 

「あれ? キリト君も招待したはずなんだけど・・・・・・?」

「え?」

 

アスナはそう言うと、一度ナベ掴みを外してからウインドウを開いて中を覗き込んだ。

そして数秒後、いつもと変わらない顔のままキリトの方を向く。

 

「うん、やっぱり招待しているよ? だいたい二か月くらい前の時かな?」

「あ、まじか」

「ええ、そしてら確かキリト君「俺にはやることがあるから」とか言って一人で迷宮区に行っちゃうんだもん。

しかもしばらく迷宮区からでてこないし・・・・・・結局なんだったの?」

「ええっと、それは・・・・・・」

 

自暴自棄になって迷宮区でレベリングしてました! などと言えるはずもなく。

キリトは腕を組んで悩むような態勢を取る。

というか、それをするのが精いっぱいであった・

 

「はぁ、まあいいわ。これからおいしいものが食べられるし、詮索はしないでおきましょう」

「理由が理由なきもするけど・・・・・・」

 

キリトは少し肩を落としながら頭を掻くと、アスナはにこやかに笑っていた。

そして、そんな笑顔にキリトもまた自然と笑みを返してしまうのだった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「ふー、美味かったな・・・・・・」

「ええ、美味しかったわね」

 

小一時間後、出来上がったシチューを全て平らげて食後のティータイムに二人は入っていた。

久々に流れる穏やかな時間にキリトは落ち着きを感じながら意識をこの空間に馴染ませていく。

 

「ねえ、キリト君。今のこの状態、どう思う?」

「・・・・・・それはアインクラッド全体のことを指している?」

「ええ」

 

ゆっくりとした落ち着いた空気の中で、アスナはキリトに聞いてきた。

アインクラッドの現状について、つまりこれは―――。

 

「みんな慣れてきている。この状態に、ね」

「ああ、俺も思い出さない時があるくらいだからな。最前線で戦っている奴等も少ないだろうし」

「でも、私はねキリト君」

「ん?」

「帰りたい。帰りたいってしっかり思えるの。だって私、こんなところで死にたくないの、ちゃんと元の世界に戻ってやり残したことをやり遂げたいと思っているの」

「うん・・・・・・」

 

キリトはアスナの訴えに親身になって頷いた。

その気持ちは痛いほどよく分かると、その気持ちはなくてはならないものだと。

 

「でも、俺はアスナみたいな人がいなければもっと攻略は遅れていたと思うよ。ソロでダラダラやってるオレが言えたことじゃないけど」

「え?」

「要するに、アスナがいてくれて助かってるってことだ」

「う、うん・・・・・・」

 

アスナはうつむき気にそう言うと頭を軽く振りながら顔を上げて、こちらをしっかりと見てくる。

そして、先程一瞬見せた寂しそうな、嬉しそうな顔はどこかに行き、落ち着いた顔で声を発した。

 

「あー、あー止めて。前にそういう顔をした人から何度か結婚を申し込まれたわ」

「ブフッ!」

「フフッ、その様子じゃ他に親しい女の子なんていないんでしょ」

「・・・・・・誘導尋問か何かか・・・・・・?」

「さあ? どうでしょう」

 

アスナは口元に手を当てながら穏やかに笑うとカップに口をつけて一口中身を啜ると、息を一つ吐いてからこちらに向き直る。

 

「ねえキリト君。さっきトウマさんのことを言ったけど、ギルドに入る気はないの?」

「・・・・・・」

「七十層辺りを超えてからモンスターのアルゴリズムに変化が生じてきてる。それはキリト君も分かっているでしょ?」

「ああ、確かにな」

「元ベータテスターが集団に馴染めないのは分かるけど・・・・・・」

「安全マージンは十分にとってるからさ、大丈夫だと思う」

 

キリトはカップに口をつけて最後の一滴まで飲むと、カップを机に置いてからアスナの方を向いた。

 

「それに、俺はビーターだからな。そこいらのギルドじゃ加入できないだろ」

 

笑いながら言う。

嘘だ。

自分は少なくとも一つだけ、自分を入れるであろうギルドを知っている。

それを言わなかった理由は、色々あった。

そこに入れば死ぬ確率は減るだろう。

レベルの高いプレイヤー、しっかりと規律を守っているところからも統制が取れていることがうかがえる。

それでも、きっと怖いんだ、と。

もうきっと、あんな思いはしたくない。

誰かの命を守りぬける自信がないのなら誰の命もあずからないで、ソロで行く。

きっと、そう決めているのだ。

キリトはそう思うと、力なく腕を机の下に垂らした。

 

「そんなことないでしょ? キリト君の実力ならきっとどこのギルドも喜んで入れてくれるでしょ」

「はは・・・・・・買いかぶり過ぎだろそれは」

 

力なく笑う。

それに対して目の前の少女は元気よく笑っていた。

まるで高い所にある綺麗な花のように。

 

「まあという事はキリト君はひとまずギルドに入る気はないのね?」

「ああ、そのつもりだ」

「なら、しばらく私とパーティー組みなさい」

「はい?」

「今週のラッキーカラー黒だし」

「いやいやいや、その理由はおかしいだろ⁉」

 

キリトは思わず椅子から立ち上がって叫んだ。

流石に今の話の流れからそう来るとは思っていなかった。

するとアスナは食器の中にあったナイフを手で起用に回しながらキリトの方を盗み見て告げる。

 

「いいから、キリト君も一人よりやりやすいでしょ?」

「俺はソロでいいんだよ・・・・・・というか、そうなったら護衛のトウマはどうするんだよ」

「置いていきます」

「そこは連れてくるっていう選択肢じゃないのか⁉」

「トウマさんしばらく用事あるって言ってたし」

「それはそれで護衛なのか怪しいぞ」

 

キリトはそこまで言って頭を冷やそうと椅子に座り込み、カップを啜――――ろうとして中身が空なのに気が付く。

そこで、お茶を継ぎ足そうとポットに手を伸ばすと、

 

「んっ」

「・・・・・・」

 

キリトがカップを無言でアスナの方へ押すと、アスナはそこにお茶を入れてこちらに返して来てくれる。

それに口をつけてキリトは一口飲んでから、ゆっくりと息を吐いて、吸い込んだ。

 

「最前線は危ないぞ」

 

ヒュインッ、という音が目の前に響く。

とんでもない速さで突き出されたのは銀色に光るナイフだった。

ほんの少し顔を上げてみれば物凄く怒っていらっしゃるアスナサンの顔が。

 

「・・・・・・ギルドに怒られたり―――」

「しません」

「・・・・・・団長が――――」

「ありません」

「・・・・・・」

 

キリトはそこで黙って腕を組み、「うーん」と唸った。

正直、アスナと二人っきりでパーティーを組めるのは嬉しい。

しかし、場所が最前線だ。

万が一のことがあればアスナにも被害が及ぶ。

最悪の場合は死ぬという可能性すらあり得る。

そんな事を考えながら前を片目で見てみると―――、

 

「ひっ!」

「どうしたの~?」

 

穏やかに笑っているはずなのに目が笑っていない。

おまけに手にナイフを握っているせいか余計に怖かった。

 

「わ、分かった・・・・・・」

「やった!」

 

一変、先程までの怖い顔から純粋に喜んでいる顔になり、キリトも少しホッとする。

そしてホッとしたのもつかの間目の前にパーティー招待のウインドウが表示され〇ボタンと×ボタンが下の方に並んであった。

 

「・・・・・・」

 

キリトは無言のままにため息を一度吐くと、〇ボタンを押した。

その瞬間自分のHPバーの下に新たなHPバー、アスナのHPが表示される。

 

「それじゃあ、明日からよろしくね」

「・・・・・・本当に大丈夫か? 安全は保障しきれないぞ」

「君以上に安全を保障できる人なんてなかなかいないはずよ?」

「俺はそんなに強くないよ」

「いいえ、君は強いよ。私よりも全然」

 

アスナは笑ってそう言った。

その笑顔を見て、キリトは何もかも許せるような気持になってしまったのだった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「・・・・・・来ない」

 

翌朝、最前線である七十四層の転移門前でキリトは柱に腰を下ろしてアスナを待っていた。

既に約束の時刻より二十分、キリトが来てから三十分以上は経過している。

 

「流石に昨日あれだけ言ってこないってことはないと思うけど・・・・・・」

 

キリトがそう言った直後、転移門が青く光り中から人影が飛び出してくる。

因みにキリトはあくびをしながら言葉を発していたため気が付いていない。

 

「どいて―――!」

「えっ?」

 

ドサア、単純に何かが地面を擦れる様な音がその場に響いた。

幸いにもその音はあまり響かず、周囲のプレイヤーには気が付かれていないようだったが、

 

(な、なんだこの状況、というかこれはなんだ・・・・・・?)

 

とりあえず目の前にあった物を掴もうとするが、妙に柔らかくて揉みがいが有る。

フニャフニャしていて、それでいて手にまとわりついてくるような―――

 

「ひっ、ひああああ!」

「うごげああああ!」

 

唐突だった。

気が付いた時には数十メートルほど飛ばされ何とか破壊不能オブジェクトの柱に体をぶつけて止まったが、柱が無ければそれ以上飛んでいただろう。

 

「ん? ・・・・・・えっと、お、おはようアスナ」

 

キリトは吹き飛ばされた反動でふらっとする頭を起こし、よく見るとそこには胸を押さえるアスナの姿が。

そして、それに気が付いてから自分が何をしたのかが芋づる式に分かっていく。

のしかかってきたのはアスナで、自分が掴もうとしていたのは―――。

そこまで思ってから背筋に寒気を感じたが、時すでに遅し。

アスナはよく見なくても分かるほどに怒っていた。

 

「ひっ・・・・・・!」

 

だが、キリトが小さく悲鳴を上げた直後に転移門が再び青く光り始める。

すると、それに気が付いたアスナは素早く立ち上がるとキリトの方へと走ってきて後ろに隠れた。

 

「なっ」

「しっ、静かにして」

「は、はい」

 

キリトがそう言うと、青く光っていた転移門の中から銀色の輝く鎧を身に着けた男がその中から出てきた。

その男は周囲をきょろきょろと見回すとこちらの方を向いて歩いてくる。

 

「アスナ様、勝手なことをされても困ります」

「か、勝手な事って何よ!」

「そんな素性も知れぬような人間と一緒に最前線の迷宮区に潜るなどと無茶をおっしゃらないでください」

「じゃあなんでクラディール、貴方が私を連れ戻しに来るのよ!」

「私は貴女様の元護衛。後任の者がしっかりと役目をこなしているかどうかを確認しに来たのですが――、いないようですね」

「いつもいつも貴方みたいにくっついてこない人なのよ!」

「それは護衛失格と言うものでしょう。そんな簡単な事すらもできないとはやはり私がアスナ様の護衛を―――」

「キャッ、離して!」

 

目の前に現れた男―――クラディールとアスナはほとんどキリトの入り込む余地がないほどの勢いで喋っていた。

そして、そのままアスナの腕を掴んで連れて行こうとする。

アスナはそれに抵抗するようなそぶりを見せたが、筋力値の問題なのか、それとも状況が状況なのか、こちらの方をチラリと見るだけで終わってしまう。

 

(どうすればいい、このまま帰ってもらうほうが安全的には良いか。でもそれじゃあアスナとの約束は―――)

 

キリトはそこまで考えて、アスナの方を見る。

そして、その顔を見ただけでキリトは半ば無意識のうちに男の腕を掴んでいた。

 

「なっ」

 

まさか掴まれるとは思わなかったのだろう。若干驚愕の声を上げながらクラディールはキリトの方を向いた。

 

「悪いな、お宅の副団長様は今日は俺の貸し切りなんだ」

「き、貴様ごときにアスナ様の護衛が―――」

「あんたよりはまともに務まる。アスナの安全は俺が保証する」

「クッ! 大口を叩きやがって!」

 

クラディールはそう言うと視線をアスナの方に向けるが、アスナはクラディールの腕を振りほどいてキリトの背中に隠れた。

 

「チッ! おい小僧! そこまで言えるからにはそれ相応の実力があるんだろうなあ!」

 

クラディールはそう叫ぶとウインドウを操作すると、キリトの元にデュエルの申し込みがやってきた。

キリトは周囲に人が多く、デュエルをやれば見世物になるであろうことを確認してからアスナの方を向く。

しかし、アスナはキリトの予想に反して何のためらいもなくと言った感じでコクリと頷いた。

 

「いいのか?」

「うん、構わないよ」

 

アスナがそう言ったのを聞いてキリトはウインドウの〇ボタンを押し、所劇決戦モードを選択する。

が、その時。

ふと殺気を感じた。

昨日感じた殺気と同じ――――憎しみが凝固したような、そんな殺気を。

 

(まさか、昨日もついて来ていたのか・・・・・・?)

 

眼の前の男を見ながらそう考える。

その男の顔は怒りであふれかえっていた。

 




いかがっだったでしょうか・・・・・・?

今回はかなり原作に近づけて書きました。
原作よりはるかに劣ると思いますが、楽しく読んでいただけていれば幸いです。

さて、いつも通りに誤字や脱字、よりよい表現などありましたら感想までよろしくお願いします!


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