予定より少し遅れましたが何とか出せた、と言う気がします・・・・・・。
楽しんでいただければ幸いです!
「あれ? こいつのステータスこんなに高く設定したっけ?」
何処からともなく音が響く。
そしてその音は確認するかのようにもう一度同じことを自分のうちに聞いた。
すると、
「ふむふむ、つまりこいつのステータスは今170レベくらいになってるってことか」
その音は納得するように音を発すると「どうしようか」と呟く。
150レベくらいまでは想像していたが、まさか170レベになっていたとは。
「今あの女の人が90くらいで、黒い人は100レベくらいだっけ?」
もう一度、その音は確認するように音を出す。
するとその音は「うん、うん」と音を出し悩むように「うーん」と唸った。
「うーん、ちょーっと彼に手助けしてあげようかな?」
そしてその音は楽しそうに音を響かせる。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「行くぞ」
ザッ、と周囲の温度が引いていくように変わる。
眼の前にいる男―――アックアは鋭い目を上条に向けてきた。
そしてその瞬間、上条は片腕しか治っていない体でキリト達から離れる様に右側に走り出す。
「ヌンッ!」
「ッツ!」
もう何度目かもわからないアックアの斬撃を地面にだいぶするようにして躱し左手を使ってすぐさま起き上がる。そして起き上がりざまに振りかざされる第二撃、第三撃目を体を回転させながら躱した。
「・・・・・・流石に体が太刀筋を覚えてきたのであるか」
「こんだけぶんぶん振り回されればッ! 当然だろ!」
喋りながらもまったく緩まない攻撃を多彩な動きで躱し続ける上条と、顔色一つ変えることなく剣を振り続けるアックア。両者の動きは拮抗しているように見えて上条の方が防戦一方になっていた。
それはもちろんあと少しのところで右腕が回復していないというのもあれば、アックアの連撃に全くの隙が無いという事でもあり、上条に疲れがたまってきている証拠でもあった。
「クソッ・・・・・・一瞬の隙もないっていうのか・・・・・・⁉」
「そんな事を考えている暇があるのか?」
「ツッ!」
上条は一瞬思考の海に溺れそうになり、隙が生まれたところを剣で切り上げられそうになるが、横から飛び込んできたキリトのソードスキルに剣は弾かれ上条を切り裂きはしなかった。
「悪い、キリト・・・・・・」
「気にすんな・・・・・・っと次来るぞ!」
キイイイイン、という金属同士が擦れあう甲高い音が響く。
一瞬のうちに肉薄したアックアの剣とキリトの剣が再度ぶつかり火花を散らした後互いに距離を取るように後ろに下がった。
「いい反応速度であるな」
「ヘッ、あんたに言われるのは少し気分が良いな」
「そうであるか・・・・・・だが、少し残念と言えば上条当麻に加担するあまりにその技術が潰えてしまうという事であるな」
「ハッッ!」
またしても一瞬。
上条が一度瞬きをした間にアックアとキリトはぶつかり互いの武器と武器を削りきるのではないかという勢いで火花を散らす。
だが、今度はアックアではなくキリトが前に出た。
激しく火花を散らしたぶつかりを終えた後、後ろに下がるのではなく前に突っ込む。
時間稼ぎではなくしっかりと相手をとりにいった動きだった。
「ハアアアアッ!」
「ぬんっ!」
連撃。
キリトはその瞬発力を全力で発揮してアックアを惑わしながら剣を振るいダメージを与えようとしていく。
しかし、その剣はアックアの肉体に当たる前にアックアの剣に弾き落とされダメージは入らない。
「良い動き、だがまだ足りない。貴様もしや奥の手でも持っているのであるか?」
「ッツ⁉」
キリトはアックアのその声に反応し体を少し硬直させてしまう。
しかし、アックアはそのわずかな隙を見逃さずにキリトに蹴りを放った。
そしてドゴオッ、という空気がつぶれるような音とともにキリトの体は銃弾のように飛ばされ壁に激突してしまう。
「別に私は騎士ではない、ゆえに貴様が手加減しようと構わないが貴様そのままでは死ぬぞ?」
「・・・・・・」
上条は飛ばされたキリトの元に走ると壁に張り付き今にも倒れそうになっているキリトの体を肩を貸しながら地面に立たせるとアックアの方に向き直る。
「キリトは休んでてくれ、俺がやる」
「待て・・・・・・トウマ、お前一人じゃ・・・・・・!」
上条はキリトの制止の声を振り切って前に進むと、アックアは感心したように声を上げる。
「ほう・・・・・・右腕が回復するまで待っていた、という事であるか」
「ああ、キリトには時間を稼いでくれて感謝している」
上条はそう言うと今しがた回復した右手を握りしめるとアックアを睨み付ける。
そして―――。
「行くぞアックア」
上条は走り出す。
これ以上自分のために仲間を傷つけさせるわけにはいかない。
そんな理由を拳に乗せて上条はアックアに全力で肉薄する。
「ぬんッ!」
三メートルはあるであろう大剣をアックアは様々な方向から振るい、上条を切り刻もうとしてくる。
だが、上条はその全てをかなりすれすれのところで躱してさらに踏み込んでいく。
「うおおおおおお!」
「ぬっ・・・・・・!」
さっきまで余裕だったアックアの顔に一瞬の険しさが広がった。
それはいきなり上条がアックアの攻撃の全てに対応したという事からか、それとも上条が見せる動きに翻弄されてか、真意は分からない。
それでも、上条は関係ないと割り切る。
相手が怯もうが、余裕でいようが、怖気づいていようが、ただ一つの上条の目的とは違うのだから。
ボゴッ! そんな音がアックアの右頬から響いた。
それは上条の右手がアックアの肉体を初めてとらえたという事でもあり、この戦いで初めて相手にダメージを与えたという事でもある。
「・・・・・・少しはやるようになったのであるな・・・・・・しかし、その学習能力はいったいどこから・・・・・・」
「学習能力?」
「いや、何でもない。私が貴様をここで殺すことに変わりはないのである」
「チッ!」
アックアは喋り終えるとすぐに肉薄していた状態から剣を横なぎに振るい上条の体を上下に切り裂こうとするが、上条はそれを大きく空中に飛んで避け、真下を通り抜けた剣の側面を右腕で叩きつける。
上条のその行為によってアックアの連撃は一時的に止まりわずかな隙が生まれた。そしてその隙を見逃さずに上条は地面に足を着くと足の筋肉を限界まで使ってアックアの胴体を右手で殴りつける。
「ぐっ・・・・・・」
上条は全体重を使って放ったパンチの後、すぐさまその場を離れて態勢を整える。しかし、態勢を整えた後によくよく見てみれば上条が胴体だと思っていたところにはアックアが右腕を添えており、ダメージはさほどは入ってはいないようであった。
「クソッ!」
「こちらとて簡単にやられるつもりはないのである」
アックアはそう言うと伏せていた頭を上条の方へ向けなおす。
そして、射殺されるのではないかと言うほどに鋭くなった目をこちらに向けて剣を構える。
「流石に忘れてもらっては困りますね」
「ああ、お互いにな!」
アックアが全神経を上条に向けて上条を殺そうとしていた時、いつの間にかアックアの後ろに回り込んでいた神裂とキリトはアックア目掛けて両脇から襲い掛かる。
「なっ⁉」
上条にも予測できなかった二人の奇襲をアックアは苦々しい顔をしながら後ろに飛んで躱し、カウンターで剣を振るうがそれは何にも当たらずただ虚空を切り裂いた。
「トウマ、行くぞ合わせてくれ」
「ああ、分かった!」
上条は横に戻ってきたキリトと神裂と頷き合うと後ろに下がったアックアに追撃を掛けるべく三人一気に肉薄していく。
その顔に恐怖などの負の感情はなかった。
「うおおおおおおお!」
上条は叫んだ。
終わらせるために。
全員一緒に笑って帰るために。
「ぬううううっ‼」
右からのキリトの斬撃、左からの神裂の連撃、正面からの上条のパンチ。
威力の大小はあったがどれにしてもアックアにダメージを与えられることに変わりはない。
上条たちは全力を持ってアックアに攻撃の隙を与えないように攻撃を止めなかった。
しかし、その連撃の全てをアックアはいなしてその場にとどまり続ける。
そして――――、
「グハアッ・・・・・・」
「キリト!」
ソードスキルを使った直後の硬直状態。そのタイミングでアックアのパンチが飛んで来た。
無防備なキリトの胴体に弱気とも本気ともとらえられる一撃が突き刺さりキリトの体が壁まで飛ばされる。
そして、キリトの方を向いてしまった上条と神裂は続けざまにアックアの蹴りと、パンチを食らう。
剣をすぐに震える間合い出なかったことが幸いしたのか斬撃を体に食らわせられはしなかったがそれなりの衝撃とダメージが各々を襲った。
「・・・・・・この程度であるか? これでは昨日までの方が強かった気がするのだが」
「だからっ、昨日ってなんだよっ・・・・・・」
アックアは肩の荷を下ろすように息を長く吐くと相変わらずの鋭い目を上条達に向ける。
そして、確信を得たというような顔で喋り始めると――――、
「これは記憶障害が起きていると考え―――⁉」
「え⁉」
グサッ、とアックアの心臓に何かが突き刺さる。
それはよく見れば、いやよく見なくても矢だった。
「な、にが・・・・・・⁉」
矢が心臓に当てられたアックアは一度ビクンと痙攣するとその場にがたりと崩れ落ちる。
そして、崩れ落ちたアックアに追い打ちをかける様に何本もの矢がアックアの体に刺さっていく。
「クソッ! なぜ、体が動かない!」
アックアのその状態に呆気にとられた上条達は驚きのあまりその場から動けなくなってしまう。
しかし、そうしている間にも飛んでくる矢は数を増やしアックアの心臓や脳と言った急所に的確に当たっていく。
「なぜ―――!」
パリン、とアックアの体がポリゴン片となって消えた。
あれだけ上条達を困らせたアックアが一瞬にして殺された。
その事実に上条達は驚き、動けなくなる。
「いやーや~っと仕留められたわ~」
そんな時、何もなかったはずの所から人が現れる。
その人の手には大きな弓が一つあり、服装は猟師そのものだった。
「貴方は・・・・・・?」
「ん? お前さんたちここら辺の人間じゃ~ねえな? 俺の顔見て分かんねえってことは」
「ああ、俺達はこの前この層にやってきたんだが・・・・・・」
「そうか、ならしょうがないな」
男はそう言うと右手を後ろに回し、後頭部をポリポリと掻くと苦笑いをしながらこちらを見る。
そして未だに唖然としている上条達にさらに苦笑いを浮かべるととりあえず一礼してから言葉を口にした。
「ああー、ええっととりあえず自己紹介させてくれ。俺の名前は――――」
男が名前を名乗る。
その名前はあのNPC店員から聞いた名前と同じだった。
「ああ! そうか、何となく分かったぞ」
「え? 何が分かったんだ?」
「つまり、あれだ。今戦っていた、えーと、アックア? っていうやつの残HPが一定量を切ると、たぶんこの猟師のNPCが起動してとどめを刺してくれるっていうクエストだったんだろ」
「・・・・・・まじ?」
「あくまで予測だけどな」
キリトはそう告げると一連の出来事で疲れ切ったのか肩を落としながら前を向く。
そして、キリトと上条の会話に何の反応も示さなかったNPCに話しかける。
「なあ、あんたは――――さんでいいんだよな?」
「ああ、俺は猟師の――――だ。それで? あんたらの名前は?」
「俺はキリト、でこっちはトウマ。それからカオリ――、奥で固まっている奴等は後で自分達から名乗ると思う」
「りょーかい、それで? キリトたちは俺に何か用事でもあるのか?」
NPCの猟師は何事もないように話を続ける。
その流れは不自然なようにポンポン進んでいくような気もしたが、それは仕様なのだと思い上条は心にとどめて置いた。
「ああ、あんたの妹さんがお前のこと心配で心配で帰りを待ってるからって俺等に依頼を出したんだよ」
「えっ? ちょっ、今日何日だ?」
NPCの猟師にそう言われ、キリトは今日の日にちを伝えると猟師の男は青ざめたような顔をするといきなり慌て始める。
「やばいやばい・・・・・・これじゃあ妹に殺されちまう・・・・・・どうしよう」
「それよりも、心配されてるんだから早く帰った方がいいと思いますよ」
「ハッ! それもそうだな! じゃあお前等色々とありがとな! お礼なら後で俺の店まで来てくれ!」
猟師の男はそう言うと颯爽と出口のある壁をよじ登るとご丁寧に上るための綱をつけて走り去っていった。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
三人は互いに互いの顔を見合うと、同時に叫ぶ。
「疲れた」
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「ねえ、あんなに介入しちゃってよかったの?」
何処からか楽しそうな音が聞こえる。
「いや、何だか《彼》が思ったより成長しなかったからめんどくさくなっちゃってねえ」
それに対してつまらなそうな音が後に続く。
「まあ、いいわ。それでもまだ成長する余地はあるんでしょう?」
「もちろん」
楽しそうな音に即答するように別の音は続いた。
「ここからが楽しみなんだよ♪」
つまらなそうだった音は楽しそうな音に変わり、そう告げた。
いかがだったでしょうか・・・・・・?
作者的には味気なかったなあ・・・・・・と言う思いもあったのですが、これで出させていただきました。
これもきっと何かの伏線なんだ! と思って気長に待っていていただけると嬉しいです。
では、いつも通りに誤字や脱字、よりよい表現などありましたら感想までよろしくお願いします!