かれこれありながらもようやく二十話です!
未だ文章は拙い所が多いですが、精一杯やっていくつもりなのでよろしくお願いします!
《聖人崩し》
天草式十字正教のメンバーたちが後方のアックアを倒す時に用いた術式。
この術式を当てるために神裂火織は聖人としてアックアを押えつけ、上条は右手でアックアの魔術を無効化した。
「おおおおおおおおおおおおおおおおッ⁉」
アックアは叫び、《聖人崩し》をその身に受けた。
本来ならそこでアックアは自らの体にあった聖人、聖母としての属性が競合して暴走して死ぬはずだった。
「ぬう・・・・・・まさか私にこれだけの深手を負わせるとは・・・・・・」
人口の湖からゆっくりと出てきたアックアはそう呟くと周囲を見渡す。
周囲には先ほど出された避難警報らしきもので人はほとんど、いや全くいなかった。
「さて、ひとまずは私も態勢を整えるとするか」
「へーえ? そんな余裕あるの?」
「ッ⁉」
アックアはいきなり後ろから聞こえてきた声に驚き、急いでその場を離れようとするが。
「無理無理」
そう聞こえたと思った時にはすでにアックアの意識は刈り取られアックアはその場に倒れ伏してしまった。
「さて、肥料はまだ足りないかな?」
そんな声は誰もいない空間に静かにこだまして消えていった。
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「クッ!」
上条はアックアによる剣の攻撃を紙一重の所で横に倒れる様に転がって躱す。
そしてそのまま来たアックアの大ぶりな横なぎの剣筋を倒れ込む体を無理やり飛び上らせることで避ける。
「・・・・・・なかなかしぶといのであるな。貴様本当は覚えているのではないか?」
「何のことだかッ! さっぱりだ!」
上条は喋りながらも剣を振ってくるアックアから逃れる様に大きく後ろに下がる。
が、下がり過ぎたせいで壁に背中が当たってしまう。
当たった衝撃は大したことなかったがこれ以上は後ろに下がれないという状況が上条に衝撃を与える。
「フッ!」
「クッッアアア!」
上条は背中が壁に着いたことで一気に迫ってきたアックアの剣を避ける様に上に飛び、さらに壁を蹴ることでアックアの後ろに逃げ込む。
そして、そこであえて深追いはせずさらにアックアから離れる様に後ろに飛んでアックアの方を向く。
「左腕が治りきっていないというのによくそこまで動けるのである」
「まあ、色々とあったんでな。バランスのとり方はかなり練習したんだよ」
「ほう・・・・・・なら、それは私相手でどこまで持つのであろうな」
そう言うとアックアはまた上条に急接近しとてつもなく重たそうな剣を横なぎに振るってくる。
「ツッ・・・・・・!」
上条は一瞬アックアの動きに目がついていけず対応が遅れてしまう。
そしてわずかな隙はアックアにとっては十分な時間だった。
振るわれた剣は上条の服を切り裂くとすぐに、流れる様に回転して上段からの振り下ろしに変わり上条を切り裂くために降りてくる。
そして上条はそこから必死に逃げようと横に飛ぼうとした。だが、その飛んだ方向が悪かった。上条は間違えて右側に避ける様に飛んでしまったため、アックアの振り下ろした剣は上条の右腕にぶち当たる。
「ナッ・・・・・・クソッ・・・・・・!」
「・・・・・・これさえ元の世界に持ち帰れれば私の任務は終わったかもしれないのであるがな」
「ふざけ―――ッ」
「さっさと貴様が差し出さぬから私は今から貴様を殺さなければならないのだぞ?」
「ッツ!」
アックアは気迫を込めた顔で訴えるように呼びかける。
そして呼びかけたと思った時にはすでにアックアは次の攻撃に移っていた。
(早い・・・・・・ッ‼)
改めてアックアの速度を認識する。
さらには振るってくる剣の重さも、だ。
既に両腕が切り落とされ上条に攻撃手段はなくなった。左腕の復活までには後二分ほど待たなければならないだろう。右腕の復活まで考えればさらに数分の時間が必要になる。
「クソッ!」
上条は短く悪態を吐くと、上から迫ってくる剣に対して最小限の動きで躱せるように右方向に身を動かしてそれを躱す。
そして、ほんの一瞬アックアに生まれた隙を利用して後ろに下がろうとした、が。
「んなッ!」
「遅いな」
三メートルを超える大剣を持った聖人は一歩も後ろに下がることなく続けざまに上条を切り刻もうとしてくる。
―――これ以上食らえば命はない―――。
ドクンッ、と。
心臓が嫌な風に脈を打った気がした。そして―――。
「ぬんっ⁉」
突如アックアは振りかざそうとした剣を途中で止め一気に後ろに下がった。
「貴様、今のは・・・・・・なんだ」
「今、の?」
上条は自分の右腕に視線を向ける。アックアに切断された右腕。
そこには確かに何もなかった。何もないはずなのに何かある感触があった。ほんの一瞬、アックアに殺されそうになった時、何かが底にあった感触が不可思議な思いを上条に味あわせた。
「貴様・・・・・・やはりその右腕。何かあるのか」
「・・・・・・んなこと分かんねえよ」
上条は暗くなった顔でそう告げる。
その顔には恐怖があった。
今のは何か、全く持って分からないものがあった感触がした。それは確かに確証ではない。疲れた自分が勝手にあると認識してしまっただけかもしれないし、本当にあったのかもしれなかった。
「だが、それでも私のするべきことは変わらないのである」
「ツッ!」
考える時間をくれない。
アックアはそう言った瞬間に文字通り目にも止まらぬ速さで上条の元へと近づき―――剣を振るう。
「ウッ、ツッ・・・・・・」
上条はそれをブリッジをするようにして躱し、剣が振り切られたところで右に全力で転がる。
転がった瞬間、上条がもともといた場所に大剣が突き刺さった。
ズンッ、という剣の破壊力を示すかのような音は上条を避け切ったという感触から危機は去っていないという意識に引き戻す。
「クッ・・・・・・!」
もう何度目かもわからない歯ぎしりをしながら上条は足だけで地面を蹴り後ろに飛ぶ。
が、それすらも見越していたかのようにアックアはとんでもない速度で上条に肉薄し―――剣を横なぎに振るう。
そして―――、
キ――――ン、と。
金属と金属がぶつかる物凄い音がした。
―――そこには。
「悪いな、トウマ。遅くなった」
「キ、リトか?」
「ああ、まあ他にもいるんだがな」
キリトはそう言うとソードスキルを使って防いだ一撃を放った人物に目を向ける。
その人物――――アックアは見下ろすようにキリトを見ると目を細めた。
「魔術師ではない・・・・・・? であれば能力者であるか? だが今の一撃は一体どういうものなのだ?」
「・・・・・・こいつ意志がある・・・・・・⁉」
「貴様、人をなんだと思っている。よもやただの石像と思っていたわけではあるまい」
「んな風には思ってなかったけどさ」
キリトはそう呟くとソードスキル後の硬直が取れた体で愛剣である漆黒の剣を構えなおす。
また、その姿を見てかアックアも同様に三メートルを超す大剣を構えなおした。
「貴様もそいつ、上条当麻の助けをするのであるか?」
「上条・・・・・・? ああ、トウマのことか」
「そうだ、そして助けるのかと聞いている」
キリトは少し緊張がにじみ出ているような顔で、はたまたアックアの顔は自分が絶対優位の位置に立っているが少しの不安因子がある―――と言うような顔だった。
「仲間なんだから、当然だろ」
「仲間、であるか」
あたりまえのように言い切ったキリトに対してアックアは険しい顔を変えず、目だけを鋭くとがらせていく。
「仲間・・・・・・であるか」
「・・・・・・何だって?」
「いや、何でもあるまい」
アックアがぽつりと言った言葉に上条とキリトは顔にクエスチョンマークを浮かべる。
そんな様子を軽く一瞥するとアックアは険しかった顔を何かを決めた顔に変えてこちらを睨みつけてきた。
「だが、結局援軍は一人、もはや私に《聖人崩し》は使えない。そのものが相当の手練れでなければ私に勝てはしないだろう」
「うおおおおおお! 俺もいるぜえええ!」
と、アックアがそう言った途端。
上条達の上から声が聞こえ、全身を赤色の甲冑で包んだ男が真っ直ぐにアックアに飛びかかっていく。
「まだいたのであるか」
「クライン! 来るのが早い!」
たったそれだけ、たった一言だけアックアはそう呟いて動き始め、キリトはアックアの動きに合わせて動き始める。
だが、キリトの方が少し遅い。
その直後キイイイイイイイイン、という金属同士が激しくこすれあう音が響く。
キリトがアックアを追いかけた空中でソードスキルを放ち、クラインに当たりそうになっていたアックアの大剣の軌道を逸らそうとしたのだ。
「ツッ・・・・・・!」
しかし、アックアの大剣はキリトのソードスキルで多少は軌道をずらしたもののクラインの体に当たることは避けられず、クラインの左肩に剣が突き刺さった。
突き刺さったクラインの左肩からは赤色のポリゴン片がキラキラと輝きながら虚空へと消えていく。
そして、空中での少しの攻防が解けるとキリトはクラインを守るようにアックアと対峙した。
「・・・・・・奇襲のつもりであるか? 私相手によくそのような手に出られたのであるな」
「ヘッ・・・・・・奇襲じゃねえよ、そんなん武士の名に傷が着いちまうじゃねえか」
「ほう、貴様にも貴様なりのプライドと言うものがあるのだな」
アックアは少し感心したようにそう言うと視線をクラインからキリトの方に戻す。
上条もまたその仕草につられるようにキリトを見てみれば、キリトはかなり苦々しい顔をしていた。
「どうした、まさか今のだけで意気消沈したわけではあるまい」
「・・・・・・そんなわけないだろっ!」
キリトはそう叫ぶと単身でアックアに突撃していく。
その姿は少し前、雪山でオレンジプレイヤーたちに捕まった時のキリトに少し似ていると、上条は感じた。
だから、
だからこそ、
「止めろおおおッ!」
「一人で来るとはなかなか肝が据わっているのである」
ゆっくりと告げる。
そしてアックアはそう告げると、大剣を構えて飛びかかるキリトを迎え撃つような姿勢をとった。
と、いうが実際に見えたのはこの一瞬までだったのだろう。
一瞬にして上条の視界から消えたアックアはそのまま向かってきたキリトを横一線に切り払うように剣を振っていたのだ。
そして上条はそれをキイイイインという甲高い音が聞こえたことによってようやく理解する。
まさにアックアは次元が違った。
しかしそれに何とか対応し、防御の姿勢を取れたキリトの反応速度はずば抜けたものだという事も同時に理解する。
その時、ある意味でお互いに違う次元にいる二人の戦いだと、上条は察した。
「ふむ、今のを防御できるとは、なかなか歯ごたえのあるやつであったか」
「・・・・・・早すぎる」
キリトはそう呟くとアックアを睨み付ける様に見ながら荒くなっていた呼吸を静めていく。
ほんの一瞬、瞬きの間ですら気を緩められない。
しかし、そんなとてつもない空気の重圧をまったく気にしないかのようにアックアは動いた。
「ッツッ・・・・・・!」
言葉にならない言葉を吐き捨てキリトは黒色の愛剣を自分の左側に、体を全力で右側に逸らす。
そして次の瞬間キリトの元いた場所、いや今も愛剣がある空間にアックアの大剣が空気を引き裂く轟音とともに振りかざされる。
「・・・・・・外したのであるか」
アックアはまるで十円ガムを買って当たりが引きなかった時の様な声を発しながらキリトから一度距離を置くべく後ろに飛んでいく。
そしてそんなキリトとアックアの攻防を見て、上条は唇を噛み締めながら自分の両腕を見る。
左腕は完全に回復したのに対し、右腕の回復にはまだもう少しの時間がかかるようだった。
そんな事を確認した後、もう一度キリトとアックアの戦闘に目を向けなおす。
しかし、向けなおしたときにはすでに戦闘が再び再開される直前のようだったらしく、そちらを向いた直後に金属通しが擦れあう甲高い音が洞窟に響いた。
「クッ・・・・・・!」
「はあ・・・・・・」
幾度も幾度も剣を交じあわせるたびにキリトの顔には疲労が見え始め、アックアの顔には余裕と落胆が見え始めた。
「どうした? 剣筋が鈍っている様だが?」
「クッソオオ!」
キリトは叫んでいた。
しかし、その叫ぶキリトの背中を見て、上条は自分では及ばない域にキリトがいるという事を悟った。
キリトの反応速度はそれほど尋常だったのだ。レベルがキリトよりも上位である上条から見ても。
「オオオオオッ!」
キリトは叫ぶ。
その背中、その心。上条がまだ見たこともないキリトの心の奥の奥。そんなところを垣間見た気がした。
何かに怯え、何かに抗うように。ただひたすらに剣を振るい続けている。
「遅いのである」
「ハッ・・・・・・!」
ふと、思考を現実に引き戻す。
一瞬にしてキリトの背後に回り込んだアックアは大剣を横一線に振るって攻撃してくるところであった。
しかし、すでに疲労困憊のキリトにはその攻撃は回避も、ブロックもできない。
そしてまた今こうして気が付いている上条も一足遅かったのだ。
「ッ・・・・・・!」
それでも、キリトに幸運はあったのかもしれない。
いや、上条当麻と言う避雷針があったから余計にかもしれないが。
「七閃」
ゴバッと、地面を蹴る音が聞こえた。
その音はアックアが地面を蹴りその場から回避した音でもありながら、地面を何かが切り裂いた音でもあった。
「遅くなりました。なぜ彼がこんなところにいて死にそうになっているのか私には分かりませんが、やはり助けなければなりませんね」
その人は片足だけ根元からバッサリ切られているジーンズをはき、Tシャツをおへその上で縛っている。そのためなのか異様に胸部が強調されていた
だが気になる。
胸部が気になるのではなく、彼女が腰から下げている日本刀と思わしき刀。
刃渡りが一メートルほどの刀だ。
上条はその刀に違和感しか覚えられなかった。
それでも上条が違和感に気が付く前に状況は動く。
「神裂火織であるか・・・・・・少々時間を掛け過ぎてしまっていたようだな」
アックアはそう言うと剣をしっかりと構えて神裂と呼んだ女性を睨みつける。
それに対抗するかのように神裂はアックアを睨み返し、日本刀をいつでも抜ける様に構えた。
「
神裂がそう告げた時、アックアの目は驚きによってか大きく見開かれた。
しかし、何度か瞬きをするとその驚きすらなかったかのように元の表情に戻っていく。
「貴様もそこの上条当麻同様記憶がないのであるか? それともこの前までの出来事が私の記憶違いであるのか?」
「何を言っているのかわかりませんが、もたついているのでしたら私から行きますよ!」
神裂は何かを悩んでいるようなアックアに先手を掛けるような形で日本刀に手を当てながらアックアに肉薄していく。
「・・・・・・ぬるい」
「⁉」
神裂が目にも止まらぬ速さで撃ちだした刀をアックアは剣をその場に置くような軽い力で受け止め、体の左側の方へと受け流した。
だが、アックアの攻撃はそれでは終わらない。
刀を受け流された神裂が一度下がろうと右足に力を入れた僅か一瞬、アックアは体を捻り神裂の胴体を左足で蹴り飛ばしたのだ。
「があッ!」
神裂は体をくの字に曲げながら勢いよく飛び上条の近くの壁にぶち当たった。
その勢いは凄まじく、すぐ近くにいた上条が思わず飛びのいてしまうほど。
「神裂!」
「ぐあ・・・・・・」
一瞬飛びのいてしまったのをかき消すような速さで上条は神裂に近づくと、壁から剥がれ落ちる様に倒れてきた神裂をぎりぎりのところで復活した左腕を使って支える。
利き手ではない腕で支えるのは多少なりともつらく、上条は少しふらつくが両足に力を入れて踏ん張る。
そして神裂に蹴りを入れた状態なままで止まっているアックアを睨み付けた。
「どうした極東の聖人。昨日の貴様はもう少し戦いようがあったのであるが?」
「てめえ・・・・・・」
見下すような視線。
その視線は鋭く真っ直ぐに上条の心を貫いていく。
そしてまた、その視線を受けるたびに上条は右こぶしを握り締めようとする。
当然、右腕が完全に復活していない上条に握りしめることは出来ないが。
「この程度なのであれば私は負けることはないのである」
「・・・・・・」
アックアはそう言うと蹴りの体勢の時に突き刺したのか、地面に斜めに刺さっていた剣を一気に引き抜く。
そしてそれを構える。
左腕で支えていた神裂をゆっくりと立ち上がらせながらその動作を見た。
しかし、単純なそんな動作にも上条を凍り付けるような重圧がかかる。
「さあ、上条当麻。言い残すことはあるか?」
「クソッ・・・・・・!」
もうすぐ、もうすぐ右腕も復活する。
それまで時間を稼ぐ。
上条は思考する。
右腕がなければどうあってもアックアに対抗することは出来ないと。
「上条当麻。貴様の遺言はないと取った」
「ツッ・・・・・・!」
上条は歯を食いしばる。
自分の左側をチラリと見た。
そこにはHPゲージが半分も削られている神裂の姿があり、その奥には苦々しい顔をしたままのキリトとクラインの姿。
「さあ、終わりだ。上条当麻」
「・・・・・・ッ!」
アックアは淡々と告げる。
自分の使命を全うするというような、ある意味機械の様でそうでない。
そんな感触をもたらせる声で、告げる。
「行くぞ」
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「なんだが面白い展開になってきてるね」
自分のうちに問いかける。
すると何十、何百、何千というような数の声量が返ってきた。
「うん、やっぱりみんな思うところはあるわけだ」
その音は告げる。
「もう少しかな?」
その音を最後にその空間はまた静かになった。
いかがだったでしょうか・・・・・・?
今回は前回の続きと言う感じで書かせてもらいました。
一応前回の後書きで書いたとおりにあの人物を出せて色々とホッとしている作者です・・・・・・。
そんなこんなで楽しんでいただけたなら幸いです!
それではいつも通り、誤字や脱字、よりよい表現などありましたら感想までよろしくお願いします!