今回も戦闘描写多めです!
未だに自信がありませんが、全力を尽くしてみました!
楽しんでいただければ幸いです!
今、歴史は変わった。
いや、前から変わってきた中でここがひときわ大きな転換点だったというだけだろうか・・・・・・?
どちらにせよ、歴史は変わった。
一人の少年の中には一人の少女から受け取るはずだったものが別の少年から入り、またその少年には人の善悪、心の在り方などを教えることになった。
―――計画通り。
正確に言えば完璧に計画通りではなくいくつかルートを変更させることになったが今となってはそれすらもよいブーストだったと言える。
ここからだ、長く永遠なる時間の中でたかが数日をこれほど待ちわびたことはなかった。
さあ、ここからが私の時間だ。
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笑っている。
顔が自然と笑っている。
上条自身笑うという行為は取っていないはずなのに、自分が笑っているということが分かる。
そして、隣にいる男もそれは同じようだったようで、
「トウマ、行くぞ!」
すっかりと生気の戻った顔でキリトは言う。
その掛け声に「おう」と返事をすると、上条はしっかりと自分の右手を握りしめる。
「うおおおお‼」
前に出たキリトが五体満足だったゾンビの下半身と左腕を二刀流で同時に切り飛ばす、そしてすかさず上条は前に出て顔面を右こぶしで殴りつける。
「ぎぇええええええええええ」
すると、ゾンビは奇妙な叫び声を上げながらもポリゴン片となって虚空へと消えていく。
あとは、両手を切断したゾンビだけ。
そう思った。
「おい・・・・・・まさかここに来て増えるとか・・・・・・ないよな」
「RPGじゃあるまいし・・・・・・仲間を呼ぶとかさ、確かにそういうモンスターもいたけど‼」
両手を切断したゾンビの後ろからぞろぞろとゾンビが出てくる。
そいつらは全てにおいて五体満足で、中には鎧をつけていたり、剣を持っていたりするゾンビもいた。
「嘘だ・・・・・・」
「クソッ、やるしかないだろ‼」
上条はがむしゃらに叫ぶとキリトの方へ振り向く。
するとキリトは青ざめていた顔を覚悟を決めた顔に変えると、叫び返す。
「ああ‼ やってやるよ‼」
キリトは二振りの愛剣を構えると目の前のゾンビの集団を睨む。
上条はそんなキリトを見ながらも周囲の状況を見渡し、場所が十字路でそれなりに広い場所であることを確認する。
(食い止めるならここ、これ以上行かせちゃだめだ)
上条は静かにそう思うとしっかりと右こぶしを握る。
「トウマ、俺が前衛で前に出るから弱ったやつから倒していってくれ」
「分かった‼」
キリトはそう言うと敏捷力にものを言わせてゾンビの群れに突進し、瞬く間に一体、二体と切り裂き続ける。
上条もまたそれに倣い、キリトが倒し損ねたものや、あえて倒さなかったものなどを一体も残らず倒していく。
右手で切り裂き、左手で突き刺して下がり、上条がとどめを刺す。
そんな事を何度も繰り返していく。
ただ、ひたすらに。
単純作業というものは思ったよりも人を疲弊させる。さらに言えば、今回上条達がやっているのは単純作業の中に未知なものの危険性を常に考えるという事。
それは思ったよりも早く二人を疲弊させ、連携を乱していった。
「しまっ!」
「つっ・・・・・・‼」
キリトが切り裂いたゾンビを上条は確かに右拳で殴り飛ばした、そのはずなのにその右腕は盛大に空振りし上条はその場でよろけてしまう。
「うおおおお‼」
その上条のミスをキリトはカバーしようと上条をタックルして後ろに下がらせる。
だが、そんな事をすればどうなるのかは簡単だった。
「うわあああああ‼」
たとえ痛みが襲ってこないと分かっていても、体は、頭はゾンビの開ききった口に恐怖を覚え叫び声を出させる。
ぐちゅり、そんな音がしたのか、それとも上条の耳が勝手にそう判断したのかは分からない。
だが、現実としてキリトの右腕にゾンビが噛みついているのは事実だった。
「クソッ‼」
上条は尻餅をついた状態から勢いよく立ち上がるとキリトに噛みついていたゾンビを全力で殴りつける。
「ぎゅれれれれぇぇぇ⁉」
「キリト‼」
上条は左手で右腕を押えていたキリトに肩を貸しながら元の十字路に戻り始めた。
これ以上の連戦は不可能、一時的に体制を整え直すべきだと。
「キリト、何か体に異常をきたしていないか?」
「いま、の所はな・・・・・・でも視界の端に見たことない状態異常エフェクトが付いてる。これは・・・・・・」
「それは、とりあえず後だ。あいつらが突進してくる前にここから逃げるぞ」
「ああ、そうだな」
キリトは何か引きずる思いがあるのかその場に名残惜しいような視線を向けてから上条とともに元来た道を引き返し始める。
幸いゾンビたちの進行速度は遅く、突進もしてこなかった。果たして最初の一匹の突進は何だったのだろうか・・・・・・?
「そうだ、キリト今のうちにその傷口見せてみろ。俺の右手ならそれを直せるかもしれない」
「‼ そうだったな」
そう言うとキリトは左手で押えていた傷口を上条に見せる。
「なんだ・・・・・・これ・・・・・・」
「・・・・・・⁉」
その傷口はポリゴン片が見えているはずなのにあえてそれをグロテスクな方へ誘導したような感じだった。
さらに言えば、その傷口から広がっている(現実なら血管)部分が青く変色していっていた。
「おいおいおい、これマンガやアニメなんかのゾンビかとかいうやつか・・・・・・?」
「こんなものを茅場が・・・・・・? いや、そんな馬鹿な」
上条とキリトは互いに互いの言いたいことを口に出したが、すぐに本題を思い出し上条が右手を開く。
「これに触れればいいはずだよな」
「ああ、たぶんな」
キリトはそう言うが苦々しい表情は隠しきれていなかった。
先ほどのゾンビのことや、茅場晶彦のことを考えているのだろうと上条は思うと、躊躇なくキリトの右腕に右手を置く。
すると、今までキリトの腕全体に広がっていた青い変色が消えて元の肌色になる。
そして、上条の手には確かに何かを壊した感触が広がった。
「あ、状態異常エフェクトも消えた。やっぱりゾンビにかまれたのが原因か、でもいったい何の状態異常だったんだ?」
「・・・・・・キリト、悩むのは後にしないとまた噛まれるぞ」
「うん? ああ、そうでしたっと」
キリトは軽くそう言うと背中からもう一度愛剣を取りだして構えを取る。
もちろん、上条も右こぶしを固く握って目の前の敵を睨む。
が、二人は忘れていた。
状態異常というイレギュラーなことによって今まで忘れていなかったことをここに来て忘れてしまっていた。
「ぎゅれれれれれえええ‼」
「つっ‼」
「しまっ!」
いきなりのゾンビたちの突進によって上条とキリトは互いに左右に分かれてしまう。
そのせいで余計に二人の中から余裕が消えていく。
武器があるキリトと、武器が右手しかない上条。どちらがピンチかと言えば一目瞭然だった。
その光景を見て、キリトの中には20層近辺での出来事が再び思い出された。
自分の不手際のせいでギルド全員を殺した。あの、苦く、苦しい思い出を。
そして、あの時の二の舞になるのでは、と。
「トウマ‼」
「つっ‼」
上条はそんなキリトの思いに気が付かずに単身でこの場を切り抜けようとする。
だが、もちろん右腕一本の上条は防戦一方だった。
「クソッ‼」
キリトは悪態を吐きながらも二振りの愛剣を振り続けるのを止めない、キリトが止めてしまったら上条も死んでしまうと、また、同じことを繰り返す。
「トウマアアアア!」
「‼‼」
その時上条は必死に右腕をゾンビに叩きこみ、時には右手を使って回避をしてゾンビ同士で噛みつかせたりもした。
それだから、上条は気が付いていなかった。どんどんと自分がキリトから離れてしまっていることに。
だからようやく気が付いた。キリトが上条に叫びかけてくれなければもっと離れてしまうところだった。
だが、逆に回避できた攻撃を回避できるかどうかは分からない。
「っつ‼」
キリトの方を向いてしまったわずかな時間。それがいけなかった。本来であれば右手で対処できたはずの攻撃を気が付くのが遅れ、後ろに尻餅をついてしまう。
それも、キリトからは十メートル近く離れてしまっているところでだ。
「トウマ‼‼‼」
「くっ‼」
上条は尻餅をついた状態で後ろのゾンビの顎に右手でアッパーをし、現実では少し辛い関節の動かし方をしながら前から襲い来るゾンビを殴りつける。だが、対処できたのはそいつまでだった。
「はっ‼」
足がもつれそうになりながらも前に起き上がろうとする。後ろにゾンビが二匹以上いたのは確認済みだった。それでも、前に目掛けて振るった右手にかかった力と、自分の足の力だけでは完全には起き上がれず、前のめりの状態になってしまう。そうなったらどうなるか、そんなことは誰にだってわかることだった。
「トウマっ‼」
「ツッッ‼」
倒れてしまったからだを無理に仰向けに直すように右腕を振るうとその勢いでゾンビが一体横側に行きポリゴン片と変わった。でも、上条は確認していた、ゾンビは二体以上いると。
右手を横に振るってしまったせいでもう右手は使えない。
どろり、という音すらしそうな血や得体のしれない緑色の物体で汚れている歯がゾンビの口から見える。
すると、とてつもない寒気が上条の中を走っていった。もう、死ぬのだろうかと。
「どおおおりゃあああああ‼」
「⁉」
「お、お前は‼」
突如として飛び込んできた赤い鎧をまとい、赤い鉢巻を額に巻いた街中でよく見かけるサラリーマンの様な男。
そんな男のことをキリトはよく知っていた。
いや、知らなければならなかった。始まりの街でおいていってしまった男。
「クライン⁉」
「よお、キリトじゃねえか。いや~間に合ってよかったぜ」
「⁉」
上条は驚きながらキリトを見ると、キリトはいったんゾンビの前から立ち退くとウインドウを開いて武器を片手剣に変える。その時間僅か十秒。
しかもちょうどクラインは上条のすぐそばにいたゾンビを相手取っていたためキリトが二刀流を使っていたのを正確にはとらえていない・・・・・・はずだ。
「ま、とりあえず話は後だ。後から援軍も来るし、とっととこの場を立ち退いちまおうぜ?」
「いや、でもあいつらは俺等でも苦戦するような相手だぞ⁉」
「ん? なんだおめえらもしかして迷宮区に入る前にアレ受け取らなかったのか?」
キリトはそんなことをクラインに尋ねながら横にいたゾンビを切り裂く。そいつでこの場にいたゾンビは全てだった。
すると、クラインは首にかけていた十字型のネックレスを上条達に見せながら話を続ける。
「ほら、ゾンビ避けアイテム。避けっつってもゾンビが特殊攻撃をアイテムを持っているプレイヤーには行わなくなるっつうだけのアイテムだけどな」
「なんだそれ・・・・・・」
「お前さんたちやっぱり持ってなかったのか」
「いや、そんなアイテムいつ出てきたんだよ」
「出てきたって言われてもな、突然朝の七時くらいにメッセが来てそこに入ってたんだよ。今まで音沙汰なしだった運営――――茅場晶彦にしちゃあ強引なやり方だとは思ったんだが、特殊攻撃無効って書かれちゃあこっちも使わないわけにはいかないしな」
「メッセ?」
キリトがそう言うと丁度ぴったりのタイミングで上条とキリトの手元にメッセージが届く。
上条とキリトは互いに目を合わせてお互い確認したようになると右手を振ってウインドウを開いた。
そして、今届いたメッセージを開いていく。
「確かに、ゾンビ避けアイテムだ。でも、なんで俺等だけ?」
「さあな、通信の誤差とも考えられるが・・・・・・」
「あの茅場がそんなこったするはずがない、か」
クラインは多少考え込むようなそぶりを見せながらウンウン頷くと、にへらと笑いながらこちらに話し続ける。
「でもよ、現実にそんなこと起こっちまったんだしこれ以上話し続けてもしょうがないんじゃね?」
「・・・・・・かもしれないな、とりあえず今日の所は街に帰ろう。これ以上ここに居続けても仕方ないし」
「だな、まあ帰るか」
上条のその言葉と一緒に上条とキリトはマップを開いて帰り道を歩き始める。
と、クラインはそんな二人を見て口にする。
「お前さんたちは街まで自分たちで帰れるのか?」
「さすがにそこまでじゃないはずだ、たぶん大丈夫だろう」
「そうか、まあなんつってもソロのお前さんがPTを組んでるなんてなあ、人間は日々成長する。か」
「・・・・・・・人をなんだと思ってるんだ?」
「はは、まあまたなキリ坊。今度会うときはボス戦か」
「そうだな、まあどうせまたすぐだろ」
「はは、違いねえ」
クラインはそう言うと後ろ向きになり、手を振りながら歩いていく。
「あ、そうだクライン。マッピングしたマップいるか? お前等もこれから迷宮区に挑むんだろ?」
「いや、遠慮しておくぜ。それはお前さんたちの戦果だろ?」
「マップ情報で商売する気はないんだけどな・・・・・・」
キリトは嘆くようにそう言うとクラインと同じようにしながら帰路につく。
その姿を見て上条は慌ててキリトの後ろを追いかける。
「なあ、キリト」
「ん? なんだトウマ」
「・・・・・・俺もお前と同じように特訓がしたい、頼めるか?」
「構わないが、何をするんだ?」
「それはな――――――――――」
ここから一か月の間、ボス戦を間に挟みながら上条達は特訓をし続けることになる。
もちろん、その間オレンジプレイヤーを捕まえるというある種仕事じみたことは中止にして、だ。
「あ、そう言えば最近カオリに会ってないなあいつどうしたんだろ」
「ん? カオリ? 誰のことだ?」
「え? ああ、あいつはな、あれ? 誰のことだっけ?」
「おいおい、この年でボケか? トウマ早すぎるだろ」
「いやいや、そんなことないはずなんだけどな・・・・・・まあそのうち思い出すだろ」
「だな、とりあえず今は早く帰って寝たいな」
「その前に飯な」
「ははは、だな」
そんな話し声が迷宮区の中に響いていく、傍で聞いている人間は誰もいない。
いかがだったでしょうか・・・・・・?
感想にも書いたのですが、上条さんの右腕消失のことは今後明らかにしていく来たいと思っているので、楽しみに待っていただければ幸いです・・・・・・‼
いつも通り、誤字や脱字、よりよい表現などありましたら感想までよろしくお願いします‼