今回こそは‼ と思ってようやく出せました。
楽しんでいただけたら幸いです。
死にたくない、そんな感情を抱くのは人なら当たり前のことだろう。
だが、目の前にいた人間(正確にはデータの集合体)は死ぬという感情そのものが消えている気がした。
まるで、自分は死んでも神様の手で生き返られるんですというような。
そいつを見て思った。
ああ、こんな奴に出会わなきゃよかったと。
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「はああっ‼」
「・・・・・・」
掛け声とともに上条が右手を振るい男がそれを躱しながら横なぎに剣を振るう。
それを上条は左に避けて躱し、交錯するタイミングで男の腹部に蹴りを入れる。
すると、当たった部分の体が若干赤くなりポリゴン片を少し生み出す。
「チッ」
そして、男はそれだけ言うと再び距離を取って剣を構えなおす。
さっきから同じような事を何度も繰り返している。
上条が何をしようにもこれ以上でもこれ以下にもならない。
ただ、ひたすらにこの行為だけが行われていた。
(何かに誘導されている? だとすれば何に? どのようなタイミングで?)
上条はそんな事で頭を悩ませながらも男の行動を読み続けていた。
「ケッ‼」
「クソッ‼」
そんな事を考えていると男は上条のそんな状態をあざ笑うかのように挑発的な攻撃を仕掛けてくる。
(踏み込めば負ける、頭では分かっているけど・・・・・・‼)
上条はそんな葛藤を頭の中でしながら必死に手足を動かし男の攻撃を避け続ける。
男は複雑で分かりづらいステップを踏みながら上条に迫り、また上条はそのステップを紙一重の所で見切って避ける。
そんな極限ともいえる戦いは時間にして数分行われた。だが、上条の体には数時間とも思われる感覚を味あわせた。
「・・・・・・ッ‼」
「ふっ‼」
そんな中、上条は遂に男のステップを見切り間違えた。
右に飛ぶと見せかけて左に飛んだ男に対して、上条はその男の絶好の間合いに入ってしまう。
「しまっ・・・・・・‼」
「フィニッシュだ‼」
男が振りかざした剣は青色の光を徐々に蓄える。そして、鮮やかな青色を描きながら男の剣は上条の体へと振りかざされた。だが、そのシステム的にアシストされた男の剣を上条の目はしっかりととらえた。
それはレベル100台という上条の身体能力でようやくできたことであった。
「せあああっ‼」
「・・・・・・なっ⁉」
上条は振りかざされた剣の側面を右手で叩きつけるとその右手を軸に男の上へと飛び上り、空中で一回転しつつ踵をソードスキルの硬直状態で動けなくなっている男の頭へと叩きつける。
「くっ・・・・・・‼」
男は蹴られた反動で地面へと体を倒しながらうめき声をあげる。
また、上条は叩きつけた反動でさらに体を一回転させながら地面に着地する。
「チッ‼」
そして、男は舌打ち交じりに地面を転がりながら勢いよく立ち上がり上条と再び対峙する。
「なかなかやるじゃねえか」
「そいつはどうも」
「だが、もう一息足りねえな」
「・・・・・・?」
男はそう言うと剣を足元に突き刺した。
その途端、何かが切れるような音が小さく響き上条の下から一気に小さな釘のようなものが飛び出てくる。
「ヤベッ‼」
出来る限り後方に下がろうとしたが、小さな釘は上条の両足に何本か突き刺さる。
そして、その釘が刺さったと同時に上条の体は力がなくなったかのように地面に倒れ込む。
「な、にが・・・・・・」
「なにがってただ単に麻痺毒なわけだが?」
「麻痺、毒か」
「そんな状況じゃお前は動けねえよなあ?」
「チッ・・・・・・」
上条はこちらに向かってくる男に自分がイマジンブレイカーを持っているということを悟られないように必死に平常を装いながら返答する。
「でもな」
だが、男はそこで言葉を切った。
遠くを見るように、上条から三メートル程離れた場所で。
「お前が状態異常を打ち消せる特殊能力を持っていることは調査済みなんだよバーカ‼」
瞬間上条は右手を両足に触れて釘のようなものを抜く。
だが、男の方が圧倒的に早い。男は上条が釘を二本抜く前に突き刺していた剣を抜くと上条目掛けて投げつける。
すると、上条が最後の一本を抜くと同時に男の剣が上条の右腕を切り飛ばした。
「しまっ・・・・・・‼」
「今度こそフィニッシュだ」
麻痺毒のエフェクトは消え、上条は自由に動けるようになったが代わりに最大の武器であるイマジンブレイカーを失った。
「さあ、どうすんだ? お前は自分の武器を失った。俺にはまだストレージの中に得物がゴロゴロあるんだが?」
「・・・・・・クソッ‼」
上条はそう叫ぶと勢いよく立ち上がり左手を構える。
その様子を見て男は上条に対してストレージから取り出した先ほどよりも短めな刃渡り七十センチメートル程の剣を取りだして構える。
「いいのか? 今のお前じゃあ絶対に俺には勝てねえぞ?」
「右手がないからか?」
「そうだよ、右手がなければお前はただの役立たずだろ? そんな奴が俺にかなうとでも思うのか?」
「俺は右手があるからお前等みたいな奴等と戦ってるわけじゃないぞ」
「ん?」
目の前の男は全く分からないといった感じの顔でこちらを見返す。
挙句の果てには首まで傾けていた。
「俺は右手があるなしに関わらず、お前等みたいな奴のせいで他の奴が傷つくのが許せないだけなんだよ‼」
「さっきも似たようなこと聞いたな」
「ああ、言ったよ」
上条は冷静に返す。相手の流れに飲まれないように。
「これだけは俺は譲らない。俺はお前みたいなやつを許さない」
「そうか」
冷徹に、静かに、言葉を繋げる。
「やっぱ話し合いなんてもんは無理だな、その右手が面白そうだから生かしておいてやろうと思ってたけど殺すは」
「そうかよ、俺もお前とは話し合えそうにないな」
そして、もう一度二人は間合いを測り始める。
今度こそ確実に殺すために。
だが、そこに―――――。
「トウマ‼ 避けろ‼」
「⁉ キリト⁉」
「・・・・・・⁉」
その声は男にとっても意外だったようで思わずバックステップを取ってしまったらしいが、実際飛んで来たのはただの丸いものだった。
「なんだあれは・・・・・・」
「チッ‼」
上条はその正体が分からないのに対して、男は瞬時にその存在を看破したらしく行動を起こし始める。
すると、その丸いものはほんの少しの時間をおいて煙を出し始めた。
「煙幕か‼」
上条が一人でそう叫ぶといきなり口元と腕を掴まれて引きずられ始める。
「もがっ‼」
「少し静かにしててくれ」
耳元でそう小さく聞こえたキリトの声はなんとなく怒気を込めた勢いがあったため上条は大人しくキリトの指示に従う。
そのまま数メートル離れただけで煙幕は晴れ元の風景が上条の目に入ってくる。
そして、キリトはそこで上条を掴んでいた手を離すと口を開く。
「急げ、今の俺等じゃあいつには勝てない。この機会を逃さずにさっさと撤退するぞ」
「おい、キリトあいつをほおっておけばまた新しい被害者が生まれるかもしれないんだぞ⁉」
「でも、今はだめだ。お前も満身創痍だし俺も寝不足がたたってあんま動けない。だったら状況を整えるために一時撤退するのが最善だ」
「でもさ・・・・・・」
上条は語尾を濁すように言いながら目を伏せると、唇を噛み締める。
そんな上条の姿をキリトは遠い目をしながら見つめる。
まるで遠い日の自分と姿を重ねる様に。
「今決めてくれ」
「えっ・・・・・・?」
「ここで逃げるか戦うか。お前が決めろ。俺はそれに最後まで付き合ってやる」
「本当にいいのか? 俺が決めても」
「いいって言ってるだろ、早くしないとどちらもできなくなっちまうぞ」
「・・・・・・ありがとなキリト」
上条のその言葉にキリトは何も答えずに背中を向けた。
もう次にくる言葉は分かっているとばかりに。
そのキリトの姿を見て上条は生え直っていた右手を握る。
今度こそ決着を。
上条はもう一度それを決意した。
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「まったくよお、良く逃げずに戦うなんて行動とれたよな。二人なら俺に勝てると思った? そんなん無理に決まってんじゃん」
「やってみなきゃわかんないだろ」
「そうかよ、とりあえずそこの黒ずくめ野郎は殺すぞ、もともと俺等が捕まえたもんだしな」
そこまで言うと男は剣を抜き放ち構える。
それに並ぶようにキリトも剣を抜き、上条は拳を握る。
最初に行動に出たのは男の方だった。
キリト目掛けて釘のようなものを何本か放った。
そして、それをキリトが体を捻りながら躱す。そしてそれと同時に上条は走り出し、男の背後に飛び込む。
「へえ、挟み撃ちか一応は考えたのかねえ」
男が感心したようにそう呟くと上条はストレージから回廊結晶を取りだしてその場に設置する。
「なっ・・・・・・お前等そう来たのか」
「そう行くさお前が状態異常を使うようにな‼」
そう叫びながらキリトは男の元へと走り込んでいく。
すぐさま剣と剣が重なり合い、激しい火花を散らし始める。
そして、キイイインという金属同士がこすれあうときの音が辺りに響き渡る中、上条は静かに山肌を上ると回廊結晶を避けてキリトたちのいる側へ回っていく。
そおしてキリトたちのいる側へと回ると男目掛けて上条は右手を握りしめる。
「うおおお‼」
「・・・・・・‼」
男が突然の上条の出現に驚き、慌ててバックステップを取ろうとして左に移動方向を変える。
が、上条はそれを見越していたかのように男の顔面を山肌からジャンプしながら殴りつけた。
「ぐああっ‼」
上条に殴られた勢いでその男は回廊結晶の中へと消えていった。
もちろん、回廊結晶の行先は黒鉄宮の牢屋に設定してあるので男はそのまま牢屋いきなはずである。
そして、すぐさまキリトは回廊結晶の出入り口を閉じた。
「・・・・・・これでいいよな」
「ありがとう・・・・・・キリト助かった」
あんまりにもあっさりとしたその戦いは疲れ切った上条やキリトの頭には何一つ疑問を持たせなかった。
だが、よく考えれば色々とわかったはずだった。
それをこの時の二人は気が付けなかった。
気が付いていればもう少し対応は違っていたはずなのに・・・・・・。
いかがだったでしょうか・・・・・・?
久しぶりにキリトの描写を書いた気がします。久々に書けて作者もちょっと嬉しかったりしました。
さて、いつも通りに誤字や脱字、よりよい表現などありましたら感想までよろしくお願いします‼