少し前までの話で人物を大量に出しておきながら、全部出せるのか心配になってきています・・・・・・。
第十三話楽しんでいただければ幸いです‼
上条当麻は悩んでいた。
ただひたすらに、この状況を打破するにはどうすればいいのかを。
(人殺しに特化したレッドプレイヤーを複数人相手にするのは流石に無謀だ、ならどうするか。罠にはめる、毒を使う、・・・・・・どれもだめだな)
上条は必死になって頭を回転させる。
そしてそうしながらも敵のいた方向へとゆっくり進んでいく。
(とりあえず偵察だけでもしておかないと・・・・・・)
この時上条は自分のアイテムストレージから白色のポンチョに似たようなものを取りだし頭からかぶっていた。
自分のスキルと合わせて景色に紛れるためである。
すると、だんだんと近づくにつれて話し声が聞こえはじめる。
「おい、いいかお前俺等は必需品を集めに行くがそれまでこいつを見張っておけ、もし誰か来たのならまず俺にメッセを送れいいな?」
「ゲボアッ‼ りょう・・・・・・かい・・・・・・」
上条を発見した男は見張りをしておけと言った男の腹部を蹴りつけると静かに歩き出す。
こちらに向かって。
(ヤベッ‼)
上条は口の中で舌打ちをすると隠れていたところから上に登れそうなところを探し上り始める。
「ところでリーダー、あいつらどこ行ったんですかね~」
「おおかた追いかけてかなりの所まで行ったんだろ、ああいうやつは大概結晶を使うことを忘れて逃げるものだ」
「そうですかね~」
そんな会話をしながら複数人で下を歩いていくオレンジたち。
(助かった・・・・・・のか?)
上条はほっとしながらも安全のためオレンジたちが見えなくなるまでじっとしておく。
そして、見えなくなったと同時に斜面から滑り降りて地面に足を付ける。
「あんなのと戦ったら命がいくつあっても足りない気がしてきた・・・・・・」
上条はそうぼやきながら先を急ぐ。
今のでやることは決まった。
上条はゆっくりとした動きで歩き、登れそうなところをもう一度探って上に上る。
「チッ‼ なんで俺がこんなことしなくちゃなんねえんだ・・・・・・」
そこまで言うと見張りの男は座っていた場所で背中を壁に付けて眠り始める。
そこで上条は出来るだけ早く山の斜面から滑り降り、見張りの口をふさぐ。
「もがっ⁉」
「うるさい、静かにしてくれ」
上条は出来るだけ静かな声を耳元でささやくと物音を立てないように山の奥へと連れていく。
「俺が何をしたってんだ‼ 俺は何も悪くねえ‼ 全部あいつらが悪いんだ‼ あの人殺し集団が‼」
「・・・・・・じゃあなんだ、お前は今まで一度も人殺しも盗みもしたことがないと」
「ああ、そうだよ‼ 俺は少し前にあいつらに圏外で出会っちまってアイテムもほとんど盗られて・・・・・・お前はどうなんだよ‼ 死ぬのか殺すのかって聞かれて‼ お前はどっちを選ぶんだよ‼」
「俺は・・・・・・」
その時上条はあることを思い出した。
それは、上条がオレンジキラーになると言ってから初めてオレンジと出会った時のことだった。
初めて出会ったオレンジは人殺しをすでに何回かしたことのあるレッドプレイヤーだった。
そのレッドプレイヤーは自分のHPが減ることをいとわずにこちらに攻撃をしてきた。
もし、上条にイマジンブレイカーがなく普通の武器を装備していたらたぶん負けていただろうと思われた。
だが、その勝負は長引いた。
レッドは決して逃げずに突撃してくる。だが、上条には人を殺すという行為自体が出来なかった。
この右手を振りかざせば殺してしまう。その忌避感が上条の腕を鈍らせた。
上条の右腕は切り落とされてしまった。もしもその場に神裂がいなければ上条はその場で死んでいただろう。
その時神裂は聞いた。「なぜ貴方はそうまでして戦う事をえらんだのですか」と。
上条はその質問に答えられたかった。
答えは胸の中にあったのに、答えることが出来なかった。
「言えねえだろ‼ お前もしょせん俺と同じなんだよ‼ 他人よりも自分が大事で生きる事だけを目標に生きてる人間なんだよ‼」
「・・・・・・」
「なんとか言ってみろよ‼」
「そうだよな」
「あん?」
上条はそこで一拍置く。
もう覚悟は決まった。あの時言えなかった言葉を、ここで。
「そうだ、他人よりも自分が大事なのが普通なんだよ。それでも俺は他の人が不幸になっているのが嫌なんだ。俺が不幸をかぶっているはずなのに、周りまで不幸になっているのは。おかしいかもしれない、でも、俺はそう思えた。不幸になる人がいて、俺に特別な力があるのなら、そしてそれが右手を握るだけっていう簡単な事なんだったら、もう立ち上がるしかねえだろ」
「おめえが何言ってんのか全然わかんねえが、俺はもう嫌なんだよ。こんなことは、もう」
「それはお前がまだ自分を諦めきれてないからだろ」
「はっ?」
目の前の見張りは奇妙な声を上げて上条の顔を覗く。
そして、その顔を見て目を見開いた。
「おめえ何言ってんだ? たとえ俺が俺を諦めてなかったとしても、もう無理だ。あいつの元に着いちまった以上逃げられねえ。逃げれば圏内に引きこもるか死ぬかの二択しか残らねえ」
「じゃあ、なんでお前はそうしないんだ?」
「ああん?」
上条はしっかりと見張りの男の目を見て、言う。
「他人よりも自分が大事で、この状況にうんざりしている。さらに言えばお前はまだグリーンだ、圏内に逃げようと思えばできたはずだ。なら、なぜそれをしなかったのか。そんなことは簡単すぎるだろ」
「・・・・・・」
見張りの男は黙る。
誰かにその言葉を聞きたかったように。
「あいつらに一泡吹かせたかったんだろ? なら立ち上がれよ
上条は告げた。
その見張りの男に対して、徹底的な言葉を。
「・・・・・・そう・・・・・・なのかもな」
ぽつりぽつりと告げた男の声は泣きそうで、裏返っていた。
上条はその男が泣き止むのを待ち、手を差し伸べる。
「今ならまだ間に合う。あいつらは俺がどうにかするから、お前は捕まってるやつを解放してとっとと逃げろ。それが今お前に出来る事だろ」
「・・・・・・分かった。なら、そのあと俺はどうすればいいんだ?」
素朴な疑問というより必然的な疑問に上条は告げる。
「お前の好きなことをすればいいだろ。今ならまだなんにでもなれるだろうしな」
上条はそう言うと足早にその場を後にした。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ひとまずはこれでキリトは大丈夫なはずだ・・・・・・」
上条は先ほどオレンジたちが下りて行った方へと向かいながら一人呟く。
そして、先ほどオレンジ集団の中でリーダーと呼ばれていた男を思い出す。
「あいつは、俺が」
上条は地面を蹴る。
拳を握る。
もう倒す理由は出来た。後はもう立ち向かうだけだった。
「よーお、一人決意に燃えたってか? 甘っちょろいことだなあ」
「ッ⁉」
上条は突然聞こえてきた声に反応して走っていた体を強引に左に倒す、だが
「バッカじゃねえの?」
その一言とともに上条の腹部に背中側から剣が刺さる。
「なっ⁉」
「そんなことするくらい読めるってんだよお‼」
聞こえてきた声の方を向く余裕すらなかった。
単純なまでの技量が違う。
そんな事を考えさせるような攻撃だった。
「今までのあんたを散々見てきた俺にとっちゃあこんなんどうとでもないわけだ」
「な・・・・・・にを・・・・・・」
上条はひとまず自分の体に刺さっている剣を抜こうと力をかけるが抜けない、剣の刀身に返し刃が付いているのだ。
「んにゃろ・・・・・・‼」
「おうおうおう気合いでどうにかするってんならあきらめた方がいいぜ、そいつは俺が一応手塩にかけて育てた一級品だぜ?簡単には抜けねえよ」
「クソッ‼」
上条は剣を抜くことを諦めると真っ直ぐに目の前の男を見据える。
「俺的にはお前はもうちょい時間がかかると思ってたんだがなあ、俺の計算違いだったらしい」
「なにを言っている?」
「なんでもいいさ」
その声音は本来彼のものではないかのように端的に物事を述べていく。
「お前は倒すべき理由を見つけた。後は拳を握るだけなんだろ? だったらやることは明確じゃないか」
「ああ、そうだな」
目の前の名も知らない男に対して、上条も端的に述べる。
まるでもう勝負は決まっているかのように、端的に。
だが、上条は忘れていた。目の前の男がなぜ今まで捕まっていないのかを、なぜ生きているのかを。
「正直なところ、今の君じゃあ倒せないな」
「な、にを?」
「俺は精神論をごたごた言うつもりはない、だから一つ忠告しておく。これ以上の所に来れば君は間違いなく戻れない。知ってしまうということは何よりも幸福を奪うものでもあるからね」
思考が読めない、まず相手は何を言っているのかが分からない。そんな状況だった。
辛うじて上条にも理解できたのは、男が口調を何度も切り替えていることくらい。
「ッチ、もう少し位は行けるかと思ったんだけど・・・・・・やっぱこういうのは専門家に頼むべきだったかな?」
「なにを言っている?」
「いやいや、こっちの話さ。まあ時期に君にも分かるだろう。ただ、分かっても解らないかもしれないけどね」
「?」
目の前の男は上条のその反応を見て首を少し傾げるとやれやれといった感じで首を振る。
「まさかここまでとは、あの方がああいうふうに思うのも少しは理解できるね。まぁ、それでも僕はこういう形にしちゃったんだけど」
「さっきから、何をごたごた言ってんのか知らないが結局お前は何が言いたいんだ?」
「そりゃあ、ま・・・・・・」
「?」
異変があった。
今までしゃべっていた目の前の男が突然糸が切れたかのように頭を垂らす。
そして、次の瞬間。
「お前は、俺の敵か」
「はっ?」
「そうか、なら」
目の前の男は冷徹に言う。
「殺す」
そこには未練も躊躇もなかった。人としての心をすべて捨てたような、そんな感じさえ上条に感じさせる。
そして、そのプレイヤーを確実に殺すために鍛え上げられた攻撃は飛び道具でも、毒などの攻撃でもなく。
ただ単純に鞘から剣を抜いて突進する、だった。
「なっ‼」
対する上条は不意打ちのような攻撃に一瞬対処が遅れる。更に、今の上条の腹部には返し刃のついた剣が一本刺さっており、それが刻一刻と上条のHPを削っているのも事実であった。
「クソッ‼」
「・・・・・・」
上条は悪態を吐きながらも足元に積もっていた雪を少し蹴り上げながら、後ろへと下がる。
その間に少しでも剣を腹部から抜こうとするが叶わない。
さらに、上条が蹴り上げた雪も何の意味もなさずに男の顔面のマスクにかかっただけだった。
マスクに雪が付いたこともまったく気にしない男は鍛え上げたであろうソードスキルで上条の体を狙う。
が、
「ゲハッ‼」
「・・・・・・⁉」
上条は寸でのところで自分の体を強引に曲げて腹部に刺さった剣をソードスキルの延長線上に乗せたのだった。
どうやら、剣の耐久性は男の持っていた剣の方が強いらしく上条の腹部に刺さっていた剣は刀身部分から切れていた。
「クッ・・・・・・‼」
上条はまるで痛みに耐えるような声を上げながらゆっくりと返し刃のついた剣を体の反対側へと押し込む。
カランという、剣が地面に落ちる乾いた音が響く。
これで、状況は好転した。上条と男の間にHP量の差はあるが、上条と男のレベル差を考えればそれも大した問題ではないはずだ。
そう、思っていた。
確かに、目の前の男が今までのオレンジたちと同じであればそうだったかもしれない。でも、その男は
「なんで、笑ってんだお前は・・・・・・」
マスクの上からでも分かる。それくらい明確にそいつは笑っていた。ただ単純にこの戦いを楽しむかのように。
生死をかけた戦いをただの遊びとでもいうように。
すると、少年と呼ぶには低く、青年というには高い声が聞こえる。
「お前には分からないか? この感覚が。この高揚感が‼」
「ふざけてる・・・・・・」
上条は思わず呟く。だが、彼自身知っていたはずなのだ。この世界には、このアインクラッドにはクリアよりも人殺しを優先するような輩がいることを。
「お前は今まで何人の命を絶ってきた? どれだけの人のアイテムを盗んできた? どれだけの人がそれで悲しんだか。お前は分かっているのか?」
上条は問う。顔では平常を装って、目の前の男に問いを投げかける。
「分かんねえな、そんな事今ではもうどうでもいいことの一つだ。俺がこれを続けるのは快感が味わいてえだけだからな」
「そうかよ」
「お前も味わってみろ、この感じを、この胸の高鳴りを‼ そうすれば俺の言いてえことも理解できるはずだ」
「俺には分かんないよ、人殺しをする気持ちも盗みを働く気持ちも」
上条はそう言いながら顔を伏せた。静かに悔しがるように。
「ああ、そうだろうな。お前みてえな野郎には分かんねえだろうな」
そこで区切れた。徹底的な何かが。
もう終わったと、交渉は尽きたと。
後はもうすべきことは決まった。
上条は拳を握る。
男は剣を握りしめる。
それだけで十分だった。何かを始めるには十分すぎるほど十分だった。
「はあっ‼」
「・・・・・・ッ‼」
男の剣が淡く輝き上条が男に迫る。
戦いの火ぶたは再び切って落とされた。
いかがだったでしょうか?
楽しんでいただけていれば幸いです‼
今回の話もほとんど上条さんオンリーです。途中でオレンジやらがぞろぞろ出てきましたが、基本的には上条さんが多かったと思います・・・・・・。
いつも通り、誤字や脱字、よりよい表現などありましたら感想までよろしくお願いします‼
作品が進むたびに作者の考えとは全く違うほうに進んでいく・・・・・・。