とある不幸なソードアートオンライン   作:煽伊依緒

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第十話(第十一話)です‼

前回の後書きで書いたキャラ設定紹介話ですがだいぶ後になるかもしれません・・・・・・すみません。
今回も全力で書いたつもりなので楽しんでいただければ幸いです‼


第十話《秘めた想い》~黒の剣士~

~雪山~

 

「うう・・・・・・寒い・・・・・・」

 

上条は学ランの襟を正しながらそうぼやいた。

 

「だらしがないですね・・・・・・だからあれほど町で準備を整えてから来るべきですと言ったのに・・・・・・」

「いやいや、これでも学ランはすごいと思うぞ・・・・・・? いろいろな環境に対応できてさ」

「だからといってわざわざ学ランに着替える必要はあったのですか・・・・・・?」

「いや、俺はやはりこの服装がベストというかなんというかな・・・・・・というかそれを言ったらそっちはどうなるんだよ・・・・・・」

 

上条は苦し紛れというように神裂の方に話題をずらした。

ちなみに今の神裂の格好は現実世界と全く同じの、Tシャツにジーパンの片脚が大胆に切られているというとても雪山に来ていい格好ではなかった。

 

「これは私が術式を使うのに必要な服装であってですね・・・・・・」

「いや、ここで魔術なんか使えるのかよ・・・・・・」

「私のスキル欄に簡易な魔術が書かれていたので、今は暖を取るような魔術を使っていますよ・・・・・・?」

「・・・・・・まじかよ・・・・・・」

 

上条は心底驚いたというような顔をすると後頭部をポリポリと掻いてから前を向く。それから神裂が魔術を使っていたことに対しては自分自身も《イマジンブレイカー》を使っているのだから・・・・・・という理由で無理やり飲み込んだ。

因みに今上条達は推定五十層位の所の雪山に来ていた。

辺りは一面銀世界・・・・・・なのだが、せっかくの景色も日が落ちてから数時間が経過している今ではあまり綺麗には見れなかった。

そしてそんな時間にこんなところに来るのには理由がある。

その理由はもちろんレッドプレイヤーである。

 

「しっかしあれから何人レッドプレイヤー捕まえた・・・・・・? 一向に減る気配がしねえな・・・・・・」

「私の計算ではオレンジプレイヤーが五十人ほど、その中でレッドプレイヤーは未だに二十人ほどですよ・・・・・・」

「・・・・・・そうだったな・・・・・・というか毎回ぎりぎりで逃がすのがいけないと思うんだが・・・・・・」

 

そんな事をぼやきながら上条達は雪山を奥地へと進んでいく。

進むたびに踏みしめる雪の量は増えだんだんと進みずらくなる。

 

「というかおしぼりちゃんは無事にアイテムを揃えたのかな・・・・・・?」

「そんなに心配ならメールで聞けばいいじゃないですか・・・・・・というかそろそろおしぼりちゃんという名前はかわいそうに思えてきたのですが・・・・・・」

「・・・・・・そうだな、でもとりあえずはどちらともこっちを終わらせてからにするか」

 

そう言って上条は前を睨んだ。

目の前の入り組んだ岩場の影には複数人の武器を持ったプレイヤー、そいつらに囲まれるように身を震わせているプレイヤーが三人。

そして武器を持っているプレイヤーの半数がオレンジ色のカーソルをしていた。

 

「カオリ・・・・・・右の三人任せても大丈夫か・・・・・・?」

「ええ、大丈夫です。ですがトウマさん・・・・・・貴方は大丈夫なのですか・・・・・・?」

「ん? 俺なら心配するなって、むしろいかにも強者ですってやつをを三人も押し付けてるこっちに悪気が生まれてるくらいだ」

 

そこまで言うと上条は右手を強く握りしめて呼吸を落ち着かせる。

 

「カウントダウンで行く・・・・・・三、二、一・・・・・・今‼」

 

ダッっという雪を蹴る短い音が響いた。

それに反応したオレンジプレイヤーが武器をこちら側に向けるが―――遅い。

怒涛の速さで打ち出された刀がプレイヤーの武器と腹部を的確に当てていく。

また、上条も先手必勝とばかりにオレンジプレイヤー目掛けて拳を振るう。

 

「せあっ‼」

 

鋭い当たりを感じた上条は拳を振るった時に生じた体重移動を殺さずに一回転し、続けざまに腹部に拳を打ち出す。

 

「ゲアッ⁉」

 

腹部を殴られ、奇声を上げたオレンジプレイヤーは雪の上に倒れ込んだ。

その隙に上条は二人目へと攻撃を仕掛ける。

 

「くっ、来るなああっ‼」

 

二人目のプレイヤーは目を限界まで見開き、全力で手持ちの武器――両手剣を振り回して上条に迫る。

が、その武器を上条は軽やかに躱す。そして、両手剣ほどの長さの武器を狭いところで振り回せばどうなるか。

答えは明確だった。

 

「ちょっ‼ お前ええ‼」

「うわああ‼ す、すみません‼」

「おい‼ お前等前見ろ‼ 前――――‼」

『あっ‼』

 

馬鹿か―――上条はそう思いながら全体重を乗せて両手剣を持ったプレイヤーを殴りつけた。

 

「ゲボエッッ‼」

 

レベル130を超えた上条の腕力は尋常じゃない速度と強さを持ち、ほとんど見えなかった。

その結果後ろに控えていた二人のプレイヤーを弾き飛ばし、壁に叩きつけた。

 

「グガッ‼」

 

叩きつけられたプレイヤーは悲痛な声をあげ首を下げる、そして瞬時のうちにのしかかっているプレイヤーを押しのけえて逃げようとしたが、

 

「まったく・・・・・・そこまでですよ・・・・・・」

「・・・・・・クソが・・・・・・‼」

 

叩きつけられたプレイヤーは三人とも神裂の刀に行き手を阻まれ、降参するしかなかったようだった。

そしてボスと思わしき男が歯ぎしりをしてこちらを睨んでいたが、神裂はそれを一切気にせず話を始める。

 

「それではこの回廊結晶で黒鉄宮に飛んでもらいます。一応『軍』の人たちには状況を説明してあるので大丈夫でしょう」

「舐めやがって・・・・・・不意打ちのくせに気取ってんじゃねえよ・・・・・・!」

「言いたいことはそれだけですか?」

 

鋭い怒気を見せる相手に神裂はぴしゃりと言い放つと、

 

「あなたたちは不当な行いをした。理由としてはそれだけで十分でしょう。それともあなたたちは自分の上のカーソルを見てもそれが言えますか」

「けっ・・・・・・」

 

相手はそう吐き捨てると堪忍したように立ち上がると真っ直ぐに神裂を見て言った。

 

「なら俺等がここから逃げてもなんの罪もないよな?」

 

ダッと、周りにいた六人のオレンジプレイヤーは一斉に袋小路の出口目掛け走り出す。

だが、そいつらを上条達は追いかけない。

もう勝負は決まっていたから。

 

「なっ・・・・・・‼ 回廊結晶⁉」

「んな馬鹿な・・・・・・‼ 伏兵でもいたってのか⁉」

 

袋小路の出口で騒ぐオレンジプレイヤーに上条と神裂は一歩一歩近づいていく。

サクッサクッという雪を踏みつける軽い音が袋小路へと響いていく。

そして回廊結晶の目の前で止まっていたオレンジプレイヤーがこちらを振り向く。

 

「く・・・・・・来るな・・・・・・来たら、こうだぞ・・・・・・」

 

そう言ってオレンジプレイヤーは武器を抜き放ち、首を切る動作を見せる。

だが、その動作は酷く怯えていて震えていた。

 

「終わりだ・・・・・・観念しろ、お前たちは『軍』の奴等に大人しく従うんだ」

「こっちは六人、お前等は二人だぞ・・・・・・観念するのはお前等の方だぞ・・・・・・‼」

「あなたたちは先ほどの攻防を経て何も学習していないのですか・・・・・・? 彼はさっきも武器なしであなたたちを翻弄したのですよ?」

 

神裂が呆れたように言うと、少し威勢を取り戻したオレンジプレイヤーは武器を構えなおして言い放つ。

 

「武器も持たない甘え野郎が俺等に勝てるとでも思ってんのか? 俺等は何回かあの有名なラフィンコフィンと戦って生き延びてきたギルドだぞ?」

 

そのオレンジプレイヤーは薄汚い笑いを顔に出しながらこちらを見下す。

 

「やはりあなたたちは性根まで腐っているようですね・・・・・・‼」

「あん? あんたみたいな奴には言われたくないな。オレンジ・・・・・・いやもうレッドって言っちまったほうがいいな、俺等レッドプレイヤー六人を前にして奇襲を失敗した時点で逃げなかったお前等みたいな馬鹿にはな・・・・・・‼」

 

そう言い切ったレッドプレイヤーに神裂は呆れたというように首を振りながら答える。

 

「まあいいです。ではいいですよね? あなた方は黒鉄宮へ行ってもらいます」

「なに馬鹿なこと言ってんだ? 死ぬのはお前らなの。ドゥユーアンダスタン?」

「これだから・・・・・・馬鹿な人は話を聞いてくれなくて困ります・・・・・・」

 

その神裂の言葉には何か深い意味が込められているように思えたが、上条には全く分からなかった。

 

「この人のレベル100超えてますが?」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「依頼ご苦労だったな。とりあえずこれは報酬だ、持っていくがいいさ」

「・・・・・・おっちゃん、いつもありがとな」

「いいや、レッドを捕まえてるお前等に比べりゃあ俺なんか大したこともねえよ」

 

そう言うと目の前の中年の男は豪快に笑うと上条の肩に手を置いて耳元で話をしてきた。

 

「近頃、二十階層辺りで不穏な動き見せてる輩を上が見つけた。危険度はそんなに高くねえらしいし、今はあまり手を出さなくていいらしい。とりあえず二、三日様子を見てくれってさ・・・・・・報告はまたここに来てくれりゃあ俺が対応する。んなとこだな」

「・・・・・・了解・・・・・・次は楽そうだな」

 

そこまで言うと男は顔を離し、普通の声で話し始める。

 

「まあな、でもまあ今回のは本当にお手柄だった感じだぞ? 上層部はそれでかなり上機嫌になったしな。これで少しは『軍』の評判も上がるってな」

「・・・・・・そうだと良いな・・・・・・」

 

上条はそこまで言うと顔を伏せて目を逸らした。

 

「どうした? 疲れでもしたのか?」

「いや、さ・・・・・・やっぱりいなくなんねえんだなあって思ってさ・・・・・・」

「・・・・・・そんなもんだ」

 

男は言葉を一度そこで切る。

そして、感慨深げに空を見つめて自分の顎を触った。

 

「リアルもこの世界もコミニュケーションの場所としては一致するところが多い、だからここで起きることはリアルでも起きてるってことだ・・・・・・まあ流石に限度はあるがな」

「・・・・・・あんた一体何もんなんだ?」

「ん?」

 

男はまたしてもそこで一度言葉を切ると、いつもと変わらない豪快な笑みを見せて、

 

「さあな、少なくともお前さんが知るこったねえだろうな」

「そうか、じゃあ今度は五日後くらいか? また頼むよ」

「わかったさ、それじゃあいい結果待ってるぜ」

「期待を胸に待っていてくれよ」

 

そう言って上条は手を振って転移門へと歩いていく。

そして、男は悲しそうな目で上条を見つめて呟いた。

 

「いつか大変なことに首を突っ込まなきゃいいんだが・・・・・・」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

剣劇の音が響く。

ここは約六十層の迷宮区中腹当たりだった。

 

「ふう・・・・・・疲れたな・・・・・・」

 

まさしく一仕事を終えたかのように言った黒の剣士はこれまた黒の剣を後ろの鞘に納めると、戦利品の確認をしてウインドウを閉じる。

そして少々ばかりではなくだいぶ頭がクラッと来たが剣士はそれを無視した。

 

「あいつ・・・・・・どうしてるかな・・・・・・」

 

二十階層辺りで表の舞台を去ることを宣言し自分の前から消えた男のことを考える。

そして、比較的裏の世界に近いところにいるはずの彼ですらその男のことを耳にはしない。

誰かに情報操作されているのか、それとも・・・・・・。

 

「フレンド登録にはまだ残ってる・・・・・・死んではいないはずなんだ・・・・・・」

 

希望がある・・・・・・そう思えるのなら楽観的かもしれない。

裏の世界に行くということはトッププレイヤーですら互角の戦いをするプレイヤーと戦う可能性が出てくるということである。

もちろん彼には《イマジンブレイカー》というある意味反則じみたスキルがあるかもしれない。

だが、

 

「それだからこそ心配だ・・・・・・だってあのスキルは・・・・・・」

 

そこまで言ってその先を口に出すことが出来なかった。

何者かに口をふさがれたというわけではなくただ単純に彼が悔しく、言えなかっただけなのだが。

彼は知っていた、そしてその男もその実態を知っている。

だからこそあの男は自分以外の誰も連れて行こうとしなかった。

一緒に連れて行ってしまえば守れないかもしれないから。

守れなかったとき、あの男は悔やむ、本人が望んでいてもいなくても関係なく。

ただ悔やみ続けてしまう。そしてもっと深いところに落ちていく可能性がある――――と。

 

「くそっ・・・・・・‼ 今そんな事思い出してどうする‼」

 

そして、その剣士は頭を振ると考えるのを止めようとした。だが、無理だった。

その剣士は知っていた。この悩みは消えないだろうということを。

あの時、あのタイミングで男について行けなかった自分では到底横にはならべないということを黒の剣士は知っていた。

だから、ただ祈ることしか出来なかった。

男が死なないように、その男の周りも苦しまないように・・・・・・と。

そして、いざ男が危機に陥った時自分がいの一番に駆けつけて男を助けてやれるようにと。

そのためにも彼は戦い続けた。

 

「まだだ・・・・・・俺はまだ行ける・・・・・・」

 

そういうと彼は元来た道を戻り始めた。

だが、彼は忘れていた。

否、彼は気付いていなかった。

ただ無意識のうちに彼もまた大事なものを守るために大事なものを切り捨てているのだということに。

また、この事を考えるのはただの心を紛らわすためだと頭の奥底では気が付いていた。

だが、剣士は迷いを振り切った。

たった一人ですべてを守るために・・・・・・。

 

「さあ・・・・・・行くぞ・・・・・・」

 

時刻は午後八時を回っていた。

そうなると彼はもう今日だけで十二時間以上戦っていることになる。

さらに言うと、彼はそれをもう数週間も続けていたのである。

朝起きて戦い、帰る前に武器の手入れをし、帰ると泥のように眠る。

食事は最小限に留め、戦い続けた。

そんな彼のレベルはそろそろ100に届きそうだった。

出てきたモンスターを片っ端から切り捨てる彼の姿はある意味で英雄じみたようにも見えた。

だが、また他の所からではただの愚か者にしか見えなかった。

 

「早く・・・・・・あいつに追いつかないと・・・・・・」

 

そう言いつつ彼は歩き出す。ふらつく足に力を入れ、踏ん張って前に一歩を踏み出す。

だが、そこで彼は力尽きた。

少し前まではそんな彼を止める人がいた。

しかし、今はいない。

止めてくれる人がいなくなった彼はもう止まらなくなってしまっていた・・・・・・。

 

「だめだ・・・・・・今・・・・・・寝たら・・・・・・立ち上がらないと・・・・・・」

 

そして彼は全力を使って立ち上がって歩き出す。

ふらつく足を何とか普通に歩かせ、前へ進む。

でも、彼は知っているはずだった。

この世界の敵はモンスターだけではないという事。

また敵の敵が必ずしも味方では無いということも・・・・・・。

 

 

 




いかがだったでしょうか・・・・・・?

最後の方の黒の剣士さんが少し鬱っぽくなっているのはご了承ください・・・・・・。

誤字や脱字、よりよい表現などありましたら感想までよろしくお願いします‼

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