今回は戦闘描写などはありませんが、その分緊張せずに書けたつもりでいます。
楽しんでいたたければ幸いです‼
軽い足音が響く。
それぞれの音は大小さまざまで、それに重たいものが何かにぶつかるような打撃音まで聞こえてくる。
「ったく・・・・・・それにしたってこの階段どれだけあるんだ・・・・・・?」
上条は先ほどから終わりを見せない上層へ階段に口をへの字にして言う。
「いや、いつもはもっとすぐに終わるはずなのにな・・・・・・おかしいな・・・・・・アスナ何か知っているか・・・・・・?」
「知らないわよ、というかちょっと前から一緒にいるのに君が知らなくて私が知っている情報なんてほとんどないわよ」
「それもそうか・・・・・・」
今、上条達はボス部屋から次の階層へと続く階段を上っていた。
だが、もうかれこれ十分くらい歩いているのに終わりが見えないのである。
「なあ、これなんかのバグってことはねえのか? なんだかさっきから同じ所ぐるぐる回ってる気がするしな」
「・・・・・・悔しいがあの男がそんなことするとは思えないんだ・・・・・・この世界はあの男の理想の世界なはずなんだ。だからバグなんていうものが存在すればすぐにでも削除にかかるだろうし・・・・・・まあでもそもそもあの男にとってバグなんてものは存在しないかもしれないがな・・・・・・」
「そうか・・・・・・」
そしてまた淡々と足音が響き渡る。
だが、その足音はだんだんと重く、遅くなっていっている。
「・・・・・・疲れた・・・・・・早くベットに行きたい・・・・・・」
「弱音を吐かないでくれ・・・・・・こっちまで辛くなってくるだろ・・・・・・」
「いやさ、でも俺等今日かなり頑張ったと思うんだが・・・・・・」
一日の間にボス戦を二度も体験、ボス部屋と街を二往復・・・・・・軍隊的には階級が一つ上がってもいいのでは・・・・・・? と上条は思っている。
「んなこと言ったってこの状況は変えようがないだろ・・・・・・現実逃避ばっかするなよ」
「・・・・・・はあ・・・・・・そうは言ってもさ・・・・・・」
だが、そんな時上条の現実世界で鍛えられた感覚がかすかな音を捉えた。
「ん? 獣の足音・・・・・・?」
「どうした・・・・・・? 飯屋の肉でも恋しくなったか・・・・・・?」
「いや、違う。足音がしたんだ・・・・・・明らかに獣の・・・・・・しかも足にまで毛が生えているような」
そう言うと上条は音のした方を指さした。
「・・・・・・⁉ 本当だ・・・・・・兎サイズだけど獣がいる・・・・・・⁉」
キリトは索敵スキルでモンスターを見つけたのか何もないところを指さして震えていた。
「どうするんだ・・・・・・?」
「・・・・・・攻撃しておくしかないだろ・・・・・・」
そう言うとキリトは片手剣を抜き右手に構える。
一応上条も右手を握っていつでも殴れるように構えておく。
「せあっ・・・・・・‼」
キリトの短い気合いの声とともに剣が薙ぎ払われ、肉が抉られるような音が聞こえた。
そして、何もないところから赤い血のようなポリゴン片が見え隠れする。
「仕留めたか?」
「確実とは言えないけど・・・・・・と言うか、透明化できるモンスターなんて聞いたことないぞ・・・・・・この先それが出てきたらどう対処すればいいんだ・・・・・・?」
キリトは口元に手を当てて考え始める。
「まあまあ、とりあえずそれはおいておいて次の階層へ行こうぜ? お前だって疲れてんだろ? 今考えたって何も出てこないだろ?」
「まあ、そうだな・・・・・・」
キリトはうつむき加減にそう言っていると、上の方から上条達をせかす声が聞こえた。
「キリトくーん置いてっちゃうからねー‼」
「ええっ⁉ちょっと待てって・・・・・・‼」
キリトはそう言って階段を駆け上がっていく。
まるで今起きたことを忘れてしまったように・・・・・・。
「どういうことだ・・・・・・?」
上条は考えた。一瞬魔術による干渉かと思ったがすぐに否定する。
(ここはアインクラッドだ・・・・・・現実世界における魔術が通用するとは思えない・・・・・・)
だが、上条にはそれ以外の選択肢が残っていなかった。
それ以外に思い当たるところなどは・・・・・・。
「なにをしているんです? 早く行かないと置いてけぼりを食うのはあなたなのでは・・・・・・?」
「ん? ああ今行く」
神裂にそう言われ、上条も後から続いていく。
そこから離れた時、上条もまた何のことを考えていたのか忘れてしまっていた。
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「ということでとりあえず今日一日お疲れ様でしたー‼ かんぱーい‼」
『・・・・・・かんぱーい‼』
その直後ガラスや木でできたグラスがぶつかり、鈍い音が広がる。
ボス部屋から次の階層へと移った後、上条たちは街についてから追いついてきた他のボス攻略組と出会った。そこで情報屋や有名ギルドの隊長などから状況を聞かれ、結局≪ボス攻略お疲れ様会≫などという名目で宴が開かれた。そこでは質問攻めにさせられたのだったが、キリトや上条は隅っこでグラスをこっそりとぶつけていた。
「いや、流石にこれは参るな・・・・・・キリト、お前ボス攻略後は毎回こんなもんなのか?」
「んなわけあるか・・・・・・俺は恨まれてるからな」
「でもさ、キリトなら別にあそこに行ってもいいんじゃないのか? 手柄なんて全部アスナに取られているが・・・・・・?」
「いいんだよ、俺はビーターなんだ気にすることじゃない・・・・・・」
そう言うとキリトはどこか寂しそうな表情を顔に作った。
「こりゃ、またアスナは名声が上がるな・・・・・・今度はどんなになるんだろうな・・・・・・?」
キリトは無理やりでも重たくなった空気をどうにかしようとしていたが、上条にはキリトのそれが空回りしているだけのような気がした。
そう思っていると、キリトは一人静かに立ち上がった。
「おい、どこ行くんだ?」
「便所だ便所、お前も来るのか?」
その時のキリトの顔は忘れられなかった。
悲しみや憎しみ、怒りなど全てをまとめ上げたかのような顔。
何かをしようとして成し遂げられなかった顔、そんな風にも上条には見えた。
「いや、いいこっちはこっちで盛り上がってるしな」
「・・・・・・そうか、分かった。長くなるかもしれないからアスナが変な風に思ったら言っておいてくれ」
「・・・・・・早く戻って来いよな、じゃないと食い物なくなるぞ?」
「はは・・・・・・ありがとな、んじゃちょっくら行ってくるさ」
キリトはそう言って盛り上がっているみんなの周りを回るようにして店の外に出た。
そして、ウインドウを操作して何かすると静かに歩き始めた。
「・・・・・・」
「いいのですか・・・・・・? 追いかけなくて」
先ほどまでキリトが座っていた席に神裂は座りながらそう聞いてきた。
「俺にはあいつの慰めにはならない気がするんだ。俺なんかよりも人間の深い闇を知ってる・・・・・・そんな気がしてな」
「そうですか・・・・・・ではアスナさんが適任という事なのですね」
「・・・・・・? そうかもな一応昔からの付き合いっぽいし・・・・・・」
「はあ・・・・・・それが本音ならあなたは本当にあれですね・・・・・・」
「・・・・・・? あれってなんだよ神裂」
神裂は首をすくめて横に振ると席を立った。
「トウマさん、私の名前はカオリです。間違えないでくださいね」
「ああ、悪い・・・・・・カオリ」
そして、神裂は少し微笑むと身を優雅に翻して言った。
「アスナさんを連れ出しましょう、今はそれが一番いいです」
「・・・・・・どうやってだよ・・・・・・」
上条は店の中央に集まっている野次馬や情報屋の群れを指さした。
「決まっているでしょう」
神裂はウインドウを慣れた手つきで動かすとコートを二着取りだして、片方を上条に投げてきた。
「えっ・・・・・・? まさか・・・・・・」
早くフードをかぶってくださいね・・・・・・、そんな風に口を動かした神裂は風のごとく走って飛び上り、中央にいたアスナの体を抱え、また野次馬などを飛び越えて店の外へと向かう。
「ええっ⁉なになに⁉」
「アスナ・・・・・・落ち着いてくれ・・・・・・」
そんな神裂を見て我先に店の外へ飛び出していた上条は、出てきた神裂と並走しながらアスナに話しかける。
「えっ・・・・・・トウマさん・・・・・・? じゃあこの人はカオリさん・・・・・・?」
「ええ、私ですアスナさん。突然すみませんがやけになったヒーローを止めてきてもらえると助かります。たぶんこの先の洞窟に向かったと思いますので」
上条と神裂は街門前までくるとアスナを下した。
「で、でも・・・・・・私そんなこと・・・・・・」
「あなたしかいませんよ、今の彼を止める事が出来るのは。頑張ってくださいね」
そう言うと神裂はアスナに背を向けて歩き出す。
但し、店とは反対方向にだが。
「ということだからアスナ、よろしく頼んだ。後は任せる。」
「・・・・・・わかったわ・・・・・・キリト君を連れて帰ってくればいいんだよね?」
「ああ、そうだ」
上条がそう言うと背中を向けていた神裂が話し始めた。
「言い忘れていましたが、捕まえた暁には一回殴って説教をしてあげてください。彼にはそれくらいが丁度いいでしょう」
「・・・・・・分かりました」
アスナはそう言うとウインドウを開き、体に武装を取り付けた。
「できるだけ早めに戻ります」
そう聞こえたと思うと、アスナの体は走り始めていた。
静かな風を残してだが。
「さて、私たちも走りましょうか?」
「えっ・・・・・・? なんでだ?」
すると神裂は静かに指をさす。
店の方へと。
「宴会の主役を取られて大層ご立腹な人間にミンチにされたいのならこの場に残っていても構いませんが・・・・・・?」
「・・・・・・」
上条は思う。こんな時くらいいいじゃないかと。
「やっぱり不幸だ――――――‼」
そう言うと一目散に走り始める。
店とは反対方向にある転移門広場へと。
(足跡を見分けるスキルもあるって聞いたことがあるし、とりあえず時間稼ぎのために他の階層に逃げよう‼)
上条はそう思い、転移門に駆け込み手を伸ばす。
「神裂‼ 早く‼」
「あ、はい‼」
神裂の手を掴み転移門の中まで入れると、階層名を叫んだ。
数瞬後体が光に呑まれて元いた場所、一階層下の所に着いた。
「とりあえずは撒いたよな・・・・・・」
「ええ、撒いたでしょう・・・・・」
上条と神裂は転移門から出て近くの壁に寄り掛かる。
そして、アスナとキリトの事を考えた。
「あいつらはどうしてるんだろ・・・・・・」
「さあ、状況がよくなっていればいいのですが・・・・・・」
だが、上条の不幸というものはこんなところでは終わらない。
「ん? お前等何してんだ・・・・・・?」
「えっ・・・・・・?」
「そんな・・・・・・」
突如として現れた。
話しの元凶が、目の前にだ。
「キリト・・・・・・お前ってやつは・・・・・・」
「はあ・・・・・・」
「えっ⁉ 何⁉ 俺そんなにまずいことしたか・・・・・・?」
キリトが慌てた感じで上条達に問い詰めようとしている中、神裂はキリトの手を取って転移門に向かう。
その顔は怒りに満ち溢れていた。
「ええっと・・・・・・カオリ・・・・・・さん? これは一体・・・・・・?」
「いいから私の言うことを聞きなさい」
キリトが言おうとしていたことを遮ると神裂は怒涛の勢いで端的に言った。
「いいですか? まず一つ上の階層に戻り、南の方向へ行きなさい。そしてその先にある洞窟へ行ってきなさい。
いいですね?」
「ええっとちょっと状況が読めないんだけど・・・・・・」
「い、い、で、す、ね?」
「はいいい・・・・・・‼」
キリトはそう言うと上条の方をチラリとみて口パクで聞いてきた。
〔これどういう状況・・・・・・?〕
〔帰ったら説明する・・・・・・〕
そこまでするとキリトは強引に転移門の中に入れこまれ、もはやほとんど脅迫に近いような感じで上の階層の名前を言わされる。
すると、店を出るときの顔よりもさらに複雑に顔をしてキリトは光の中に呑まれて行った。
「・・・・・・疲れた・・・・・・」
「ええ、疲れました・・・・・・」
神裂は上条の隣まで来ると上条と同じように壁に背をもたれかからせ、フードをかぶった。
「これからどうする・・・・・・?」
「とりあえず宿に戻りましょうか・・・・・・」
そう言って神裂は立ち上がろうとした。
だが、出来なかった。
なぜなら、転移門が次々と青く光り、大勢の人がやってきたからである。
「ああ‼ いたぞみんな‼ アスナさんを返せ――――‼」
「返せ――――‼」
怒涛の勢いで迫りくる男たち、神裂は疲れ切った目でこちらを見つめると、
「逃げますよ・・・・・・」
そう言って上条を起こし走り始める。
最後に上条は置き土産として一言しゃべった、
「・・・・・・とてつもなく不幸だ・・・・・・」
いかがだったでしょうか・・・・・・?
前書きには書きませんでしたが、上条さんの不幸度が足りない気がして今回は不幸っぷりを出させてもらいました・・・・・・。
誤字脱字や、よりよい表現などありましたら感想までよろしくお願いします!
この作品に今まで「残酷な描写」というのははたして出てきたのでしょうか・・・・・・?