無理矢理デル(二人乗り)に乗り込む主人公。
―――――
「――4年ぶりだな……だがお互いに再会を祝う暇はなさそうだな、ライガット! 答えろ! どうやって
「ゼスッ……! 聞くのはこっちが先だ! 何でホズルの国に攻め込んで来やがった!?」
――私は今、未知のロボットの中で若者二人の熱い言葉の遣り取りを盗み聞きしております。
(戦場交渉っぽい場所に勝手に付いて来てしまいましたけど、いいんでしょうか?)
勿論、良くはない。
―――――
こちら、名無しの少女です。
えっとですね。幸いなことに私が乗り込んだこのロボット――ゴーレムとか言ってましたっけ? 戦闘ではなく交渉を任とした機体だったようです。銃とかじゃなくて旗を装備してこうして敵方らしい機体と向き合ってます。
ちなみに敵方のゴーレムは案の定、あの黄色いロボットでした。ハンガーで見た味方の機体と比べると、かなりスマートで身軽そうです。どちらかと言うと、あっちの機体の方が好みですね。トラウマありますけど。
この機体に乗った後、操縦なんかは金髪のお兄さんがやってくれたようですので、私はずっと視界に映る情報を頭の中で整理する作業に没頭できました。歩くだけでも視界が相当揺れて若干気持ち悪くなりかけたのを堪えながら。
え? 他にすること? HAHAHA有る訳無いじゃないですか。
その時気付いたんですが、なんとこのゴーレムとやらのインタフェース、思いっきり日本語です。英語もサブ表示でセットで。いやー、動き始めた時に見えた視界にいくつかウィンドウが浮かんでいたんですが、漢字とカナ文字がはっきり見えた時はびっくりしました。
……ということは、少なくともこの機体の表面上のOSは日本製もしくは日本語版ということになるんですよ、ええ。日本語をロボットの制御システムの使用言語に使う地域としては日本以外まず有り得無いでしょうし。
それじゃあ、ここは実は地球上のどこかで、日本の何処かだったのかというと……ところがどっこいそうとはすんなり思えないんですよね。
ゴーレムのカメラを通して見える外の映像は一面の荒野。ここが日本だとしたら、核戦争で焼き尽くされた後の未来くらいの情報が無いと納得出来ない環境です。
まあ、私が居た世界とはそもそも全く別の世界のようなので、一々細かい私の生前の記憶を基準にして考えても全く意味が無いと言ってしまえばその通りなんですが。
それでですね、金髪のお兄さんもこのOSで機体を操縦している以上、それなりに日本語に精通している筈なんですが、外見は思いっきり欧米の方ですし、言葉は日本語じゃなくて相変わらず聞いたことのない言語喋ってますし。
……そうなると、このパイロットらしきお兄さんがすんごく怪しい存在に思えてならない。個人的に。
たぶんですが、この「搭乗者NO.03」として機体に登録されてるのがこのお兄さん。で、その表示の下に出てる<予測運用スキル>の値が7%。
この項目、字面からしてシステムが判定した機体操縦の熟練度とか、そういったニュアンスの内容だと思うんですが、基準値は知りませんけど明らかに低過ぎます。だって7%ですよ! たった7%! ……あ、さっき8%に上がってたんでした。
日本から盗んできた機体をそのまま使ってるとか、変な妄想までしちゃいましたよ、私。某国民的ロボットアニメシリーズの主役機なんて、半分くらいは主人公である少年がどこかから強奪するのが定番だった気がします。
――とまあ、交渉が始まるまでいろいろと考えていたんですが、現在は意識を耳に集中してます。何にせよ情報を集めないと話になりません。幸い、この身体になってから記憶力と頭の回転の早さはかなりのものです。
そしてお話を聞いてわかったことですが、相手の黄色いゴーレムのパイロットのゼスさんは、このゴーレムのパイロットのライガットさんと旧知の仲のようです。どうして敵味方の関係になってしまったのかは置いておきますが、かなり親しい仲であったことは間違いないでしょう。
今私が居る、この国の名前がクリシュナ。んで、ゼスさんの国であるアテネスは何故この国を侵略しにやって来たかと言うと、東にある大国オーランドがこの国を利用してアッサムという土地で内乱を起こして、それがアテネスにとって不利益を被る話に繋がっていて、一応は大義名分になっている、と。
「うわぁ……」としか思えない話です。立場の弱い国家が大国に一方的に利用された挙句、別の国に侵攻されるって。
しかも会話の雰囲気からすると、お二人ともクリシュナのホズル国王というお方とは面識がある上でその人柄をよく把握しているようで、さらに呼び捨てにするほど気安い関係のようです。
(この二人と国王の関係って一体……?)
「――ホズルを説き伏せて降伏させてくれ!! 貴様なら出来るはずだ……!!」
「そ、そんなの納得できるか!! まずお前が兵を退いてアテネスを言いくるめろよ! それが筋だろ!?」
「二十五の若造の俺にそんな権限ある訳無いだろ……いつまでも理想や理屈を無責任に叫んでいればいい馬鹿学生ではいられないんだ……残念だが開戦したが最後、結果が出るまで止められん!」
ふむ、二十五歳ですか。そして、お気楽な馬鹿学生で居たかった、と。お二人の関係は学生時代の友人同士ってところですか。ホズル国王ともその絡みですかね。だとしたら国王は相当若い年齢で王位に就いたことに……。
あとゼスさん、パッと見厳しくてお堅い感じがしますが、相当優しい人ですね。自国のことではないのに、自分ではどうしようも無いことは分かっているのに、それでもクリシュナという国に対して同情を感じているのか、こうしているのも不本意ながら仕方無いって感じです。
「く……あんな条件飲めるかよ……!」
ライガットさんがそんな言い方をするってことは、降伏条件としてアテネスからクリシュナに突き付けられているものが、余程不条理で我慢ならないものなのでしょう。クリシュナ全土の強制植民地化とか、その辺りでしょうか?
「条件……?」
(? その詳細をゼスさんは知らない、のでしょうか?)
ライガットさんが更に説得を続けようとしたようですが、チラリとどこかに視線を向けたゼスさんは急に会話を打ち切ると、搭乗席に入って即座にゴーレムの銃をこちらに向けてきました。多少強引にでもこちらを降伏させたいようです。
「――5つ数える! 戻ってホズルを降伏させるか……ここで戦うかを決めるんだ……!!」
「ッ!」
「攻略第2陣に控えているボルキュス将軍は残虐で戦争の天才だ! 200台近い大兵団で押し寄せてくるぞ!!? もう時間が無いんだ! 下手に防衛するな! 降伏しろ!!」
(色々教えてくれてありがとうございます。優しすぎますゼスさん。……その話が本当なら、本格的な戦争になると相当まずい事になりそうですね)
このクリシュナという国が間近に滅亡する未来は確定していて、ゼスさんは少しでもクリシュナという国で血が流れない、「マシな滅び方」の為に自分が出来る事の中で動いているっぽいです。やり方は兎も角私の中で彼の好感度は一方的に鰻登りです。
あとゴーレムの単位って「台」でいいんですか、そうですか。
「はじめるぞ! 1ッ……!!」
「くっ……」
(って、なんでまだゴーレムの外に居るんですかライガットさん!?)
相手がゴーレムの中に戻っちゃって、穏便な交渉は決裂したんだからその時点でこっちも搭乗席に戻れば良かったのでは!? もう遅いですが!
「2ッ!! ……3ッ……――4……」
ライガットさんは動かず、ゼスさんのゴーレムの方を見ているだけです。ゼスさんのことを信頼しているのか……あ、ゼスさん数え方遅くなってる。やっぱり内心撃ちたくないようです。
「5ッ! ライガットッ!!」
――などとと考えていた私は、やはり甘過ぎたのでしょう。気付いた時には、旗の柄とゴーレム右肩の装甲が粉砕され、吹き飛ばされていました。
(――あ……)
今までどこか他人事でしたけど『このゴーレムを撃つ』=『私死亡』じゃないですか。
ゴーレムの肩から衝撃で振り落とされたライガットさんを横目で見ながらも、私は完全に放心状態で、何も出来なくて――
「うわああああぁッ!!!」
叫び声が搭乗席に響き、視界が激しく動きます。振り落とされたライガットさんが、自力でなんとか中に戻ったのか、この場から脱出を開始します。
そうです。旗の残骸なんか、とっとと放り出して……しかもゴーレムがまだこっちを撃って――危な――死ぬ――死――ッ!
「やめろおおおおッ!!!」
(ひいいいいいいいいいッ!!!)
銃声が響く中、地を蹴り加速し続けて兎に角遠くへ――安全な所へ逃げ――!!
ライガットさんと私の考えはこの時、錯乱しつつもほぼ同じことを考えていたようです。
―――――
――暫く(と言っても数分ほどですが)走り続けたゴーレムは、崖の一部が入り組んだ目立たない位置に膝をつき、隠れるように停止しました。と言うか隠れてます。
「はぁ、は……は……く……撃ちやがった……ゼス……あの野郎ッ……!」
(し、死ぬかと思った……助かった……ライガットさん、お陰で助かりました……!!)
私の個人スペースらしい場所から身体を持ち上げ、涙目でライガットさんの御御足をペチペチと叩きます。一応は感謝の気持ちです。
「はー……? あ、お前そう言えば居たんだったな……大丈夫だったか?」
「――(コクコク)」
存在自体忘れられてたのには目を瞑ります。お互いそんな余裕はありませんでしたからね。
……さて状況を説明しますと、交渉が完全に決裂した流れでどうやら交戦状態に入ってしまったようです。遠くから銃声らしきものが響いています。
私達は追われることなく見逃されたようです……このままここで隠れているのが無難でしょうか。武器も無いようですし。
<キィンキィンキィンキィン>
「……ん?」
「――? (……はい?)」
妙な効果音に注意を向けたライガットさん。私も釣られて彼が何を見ているのか確認します。
(……ああ、どうやらこのロボットの活動限界が近づいているっぽいですね。とりあえずこの場に逃げ込むのが間に合って良かったです。安心は出来ませんが)
私の視界の端――ライガットさんの見ているモニターだと右側の位置で一際目立つ色のウィンドウの枠が点滅しているのが見えます。
その名も<循環式内蔵冷却炉>。最初からずっと視界の隅に浮いてたんですが、ここの<予測臨界緊急停止>って小項目の時間表示がたったの5分。
あいにく不勉強なもので「臨界」と聞くと核とか原子力とか連想するしかないんですけど……え? なんですか? このゴーレムとやらの動力源ってひょっとして核なんでしょうか? ハンガーにあれだけあった機体全部? だとしたらなんて物騒な!
まあそれはさておき、この警告音の意味を推測するなら「機体の冷却が間に合わなくなってこいつオーバーヒートしそうだから、その前に強制的に止めるよ! だからおおよそあとこのくらいの時間しか動けませんよ! 注意してね! パイロットのキミ!」ってことなんだろう。たぶん。
(それにしても、この大きさのロボットにしては活動限界時間短くないでしょうか? 最初から30分も無かったような……)
そんなことを考えてこのロボットについての知識を深めていた私の耳に、ライガットさんのとんでもない一言が聞こえました。
「……? これだけヘンな色なんだよな……西大陸語に訳せよ、バカヤロウ………」
「――? (……ん?)」
は? 今なんとおっしゃいましたか、ライガット殿?
えっと、……もしかして、ライガットさん日本語読めない!?
……ということは機体の操縦が出来るだけで、モニターに表示されてる項目の意味が分かってない!?
「数字は分かるんだ……5?」
(う、うわあああああああ!?)
まずいです。これはまずいです。激ヤバです。いや、状況は変わってないんですが。
この場所は一先ず敵に見つかりにくい場所というだけで、最初に交渉していた場所より都市からはむしろ離れています。もし完全にこの機体が動けなくなった後で敵に見つかってしまったら、この機体は逃げることも抵抗することも出来ずに蜂の巣にされるでしょう。
そして、ライガットさんはこのロボットが動けなくなるという事実とその刻限を知らない。
(と、とにかく機体が動ける内にあの城塞都市に逃げ込むよう、なんとかライガットさんに伝えないと!)
そう考えて再びライガットさんの足首を叩こうとした矢先、すぐ近くから地面を打つ重い音が。
(あ……)
私はそそくさと元のスペースに引っ込みます。
このロボットの前方直ぐそこには、あのゼスさんのものと思われる黄色いゴーレムの後ろ姿。戦闘中なのはゼスさんのお仲間だったようで、ここまで追って来たようです。
そのまま私達に気付かず何処かに行って欲しかったのですが、残念なことにそのゴーレムはこちらに向き直って銃を構え――
「くッ」
次の瞬間、黄色いゴーレムは私の視界から消え去りました。
銃声が響くのは背後下方。目に映るのは上から下に流れる景色。
(――え?)
どうやら、ライガットさんがこの子を咄嗟に跳躍させたらしい――そう、一拍遅れて理解しました。凄い高さです。怖っ。
続いて一瞬の浮遊感とともに、上からかかっていた圧力が反転し、バンジージャンプをした時のあの独特の感覚が私を襲います。
(あー、このまま着地したらショックでこの子の足潰れるんじゃ? あ、ライガットさん凄い顔してるー)
モニターにカメラでもついてるんでしょう。バッチリ確認できます。
「ぐおッ」
「――ッ」
着地の衝撃にたまらず、息を詰まらせます。
私がめまぐるしく変わる状況に混乱し、機体の周りで激しく土埃が舞う中、視界が私の意思に依らず地面を舐めるように動き回ります。
(一体何を……?)
素早く右腕を伸ばして拾い上げたのは……大剣?
そのまま右手を肩部の位置まで持ち上げて、ギュインと機体の向きが変わる。それと同時に、小規模に石が砕ける音が散発的に聞こえてきます。
(大剣を盾代わりに銃撃を防いでる……?)
あの状況の中で攻撃を回避して、落下しながら地面に落ちてた大剣を確認して、咄嗟にそれを使って防御に使用した? ……お、おぅふ。
どうやらライガットさんは戦闘に関するセンスが良いと言うか、機転が効くと言うか……今も空いてる左手に
「撃たせるかぁッ……!!」
そう叫びながら、ライガットさんはこの機体を操って黄色いゴーレムとの距離を詰めます。黄色ゴーレムは盾で防ぐようですが、構わずに槍を振って――ん?
(あれ……?)
案の定防がれた槍を、今度は上から叩きつけるように振り下ろします。素人目ですけど、
あと一つ分かったことが。このゴーレム、着地時の姿勢制御はライガットさんの手動ではなく、周囲の地形を認識して自動で処理して、衝撃をちゃんと吸収できる姿勢をとって機体や私達の負担を軽減しているようです。<緊急自動姿勢制御>って時々表示されます。何この子すごく賢い。
ゼスさんはその攻撃を避けて再度銃撃をしてきますが、ライガットさんは素早く機体の姿勢を調整して、逆手に持った大剣と槍で防ぎ切ります。
そのままジリジリと睨み合いが続きます。銃を装備していないこちらとしては攻撃するには近寄らなければなりません。ゼスさんもそれは承知して遠距離戦をしたいのでしょうが、大剣が邪魔で攻めあぐねているようです。
<キィンキィンキィンキィン>
「……?」
鳴り続けているアラームに誘われるように、ライガットさんの視線が例のウィンドウに向きます。
後4分か。もっと細かい残り時間分からないものだろうか……。
(んー、あ。秒単位に出来ました。丁度180秒ですか)
ちょろっと私が単位の部分を意識したら変更できました。よしよし。
「何だ? 数字がいきなり大きくなったと思ったら今度は勢いが……178…177…数が減ってる……ま、まさか!?」
おお、ライガットさんちゃんと気付いてくれたようです! ビンゴですよ!
――私が余計な事をしたせいでしょう。ライガットさんの意識が逸れてしまい、急に接近してきたゼスさんのゴーレムに気付くのが遅れてしまいました。
シールドバッシュで強か右腕を殴られ、大剣が手から離れます。そのまま右腕を抑えられて、銃身を胴体に押し付け――
(あ、この位置丁度私の正面――)
ガンという恐ろしい音と共に、衝撃が全身を突き抜ける――やはり接射か。
二発、三発と続く衝撃と同時にカメラの映像が激しく乱れる。表示される<緊急破損箇所検索>を流し読み。……撃たれた箇所のフレームは相当頑丈に出来ているらしく、機能性は損なわれていないようですが、このままでは――
「ッ、うあああああーーー!!!」
目を見開いたライガットさんは、右のレバーを思い切り押し込む。同時に甲高い駆動音が機体内部に響いてくる。
(おお!! 凄!)
なんと、抑えられていた右腕を無理矢理押し込んで銃の砲身を逸らしています。逆にこっちを抑えていた黄色ゴーレムの左腕は関節部で断裂している……腕部のパワーはこっちの機体が圧倒的に優っている証拠ですね。助かりました。
そのままライガットさんは一歩踏み出して、左腕の
「ま、また離れられた……ま、まずい……」
ライガットさんが愕然としながら呟きます。そうですよね……盾と腕一本奪ったとはいえ、ゼスさんの方は右手に持っている銃が健在で、こっちは盾として使っていた大剣を手放してしまっています。相対的に状況は悪くなったと言えるでしょう。
当然ゼスさんもそのことは承知しているのか、バックステップを踏んでこちらとは距離を離そうとしています。
「くッ……離れられたら何も出来ねッ……!」
それを見たライガットさんは前進して距離を詰めようとするのですが、誘いを兼ねていたのか黄色ゴーレムはこちらに銃口を向けて……あ、まずい。
「っくそッ!」
慌てて今度は
「えッ!?」
「―― (あ……)」
銃撃を覚悟していた私が見たのは、右脛の部分を粉砕しながら崩れ落ちる黄色ゴーレム。走行の慣性がまだ残っているのか、摩り下ろすようにパーツをまき散らしながら地面を滑っていき、そのまま沈黙してしまいました。
私は何が起こったのか気付きませんでしたが、ライガットさんはそうではなかったようで……視界が動いて後ろを振り向くと、そこには鈍色のゴーレムが銃と盾を構えながらこちらに走り寄って来る姿が見えます。デザインから見て、ハンガーに居たのと同じタイプ……つまりは味方です。あのゴーレムが黄色ゴーレムの右脚を狙撃したのですね。
『ライガットだな? 無事か?』
「あ、ああ、誰だ? ……味方か?」
……って、確認してるってことはこのゴーレム敵かもしれないんですか? 迂闊……。
『ああ、そうか……! 君は石英拡声器が使えないのだったな。私はバルド将軍の部下ダンだ。君を助けに来た……間に合って良かった』
鈍色のゴーレムから男の人の声が響きます。その言葉を聞いたライガットさん、露骨にホッとした表情になった。彼も私と同じく怖かったのでしょうね、一気に親近感が湧きましたよ。
バルド将軍ですか! ダンさん派遣してくれて助かりました! お二人のお名前覚えておきます!
……あと拡声器が使えない=外部に声が届かないってことでしょうか? ちょっと搭乗席内の音声を外部出力する機能が無いか漁ってみますかね。
(……にしてもセキエイ? セキエイって、あの石英でしょうか?)
確か、水晶の主成分というか構成鉱物そのもの。私も昔お土産で貰ったことあります。透明で綺麗でした。
ライガットさんは幾分リラックスした表情で活動限界時間の残り時間を見てます。あ、先程よりペースが遅くなりましたね。やっぱり激しく動き回るとそれだけ負担が大きいようです。
『私の後ろにさがれ!』
そう言いながら私達を庇うように前に出た鈍色のゴーレムは、仰向けに倒れた黄色ゴーレムに銃口を向けて発砲し始めました。……ってちょ、ちょっと待って!
(その人は、殺すべきでは……ッ!)
ゼスさんは確かに敵国の人間ではあるみたいですが、思慮深くてこの国と戦争をすることに全面的に賛同している人間だとは思えないので、このまま殺してしまうと非常にまずいことになる気がしてなりません。せめて無力化して身柄を預かるに留めた方が……
「おッ!? おいッ……待てッ!!」
ライガットさんも私と似たような考えなのか、この子を動かして鈍色のゴーレムを止めようとしています。彼の場合、友人(?)の命が奪われるのは見て見ぬ振りできないのかもしれません。ああしてわざわざゴーレムの外に出てまで説得しようとしています。
ですが、ダンさんも頑なにそれを受け入れようとはしていません。曰く、戦闘中で捕虜にもとれない。増援の危険があるためここを離れると。
……ダンさんの言い分は正しい。確かに納得は出来ます。が、今この状況でそれを説明しても聞き入れてはもらえないでしょう。しかし、ライガットさんは諦めるつもりは無いようです。
(ならばせめて、武器を破壊して攻撃手段を奪――)
そう私が考えた時です。何かを撃ち出すような音がしたと思ったら、鈍色のゴーレムがぐらりとよろめきます。見ると、胸が砕かれて穴が……え?
(……何が?)
私が訳も分からずに固まっている間に、ライガットさんが搭乗席に戻ったのか、視界が倒れていた筈の黄色ゴーレムの方へ向き直りました。視線の先には、こちらに銃口を向けるゴーレム……そう、ゼスさんが発射した弾がダンさんのゴーレムに命中したのでしょう。
私達のゴーレムは助走をつけ、左手に握ったままだった
「――降伏しろよッ! 馬鹿野郎!!!」
ライガットさんが貶すように叫びますが、その目はどこか虚ろです。
『……め……どもめ……』
「何!?」
間も無く、黄色のゴーレムから声が響きました。それも若い女性のものっぽい。
(ゼスさんじゃ、ない……?)
てっきり私達のゴーレムを追ってゼスさんが来たものと思っていましたが、ただ偶然遭遇してしまった、別の人のゴーレムだったようです。私が密かに衝撃を受けているなか、女性の言葉が続きます。
『蛮族どもめッ……!』
「!? ば、蛮族? 何を言ってやがるんだ……?」
『捕まって……辱めはうけんぞッ……!』
その女性の声をただ聞きます。嫌な、とても嫌な予感が私の中に――
『……ゼス様……ともに戦えて光栄でした……クレオ……あんたは早く除隊した方がいい……どう考えても軍人に向いてない……』
その言葉は、紛れも無く仲間に向けた今際の際の言葉で。
「おいッ!? まて……よせ、やめろッ」
「――ッ!」
私は必死で声を張り上げて止めようとしますが、私の喉からは一音も出ることはなく。それ以前に
――カンッ
その小さな、何かを打ち付けたような音だけが最後に荒野に響きました。
――――――――――
――ゴーレムの体躯全体が脱力したように沈み込み、頭部の赤いラインが消失。同時に、私の視界から外の景色が取り払われます。今は<緊急停止>の文字だけが、私の目に映っています。
「…………ここで、待ってろ」
真っ青な顔になったライガットさんはそう私に言い残すとハッチを開放し、外に飛び出しました。私は思い通りにならない身体をなんとか引き摺り、搭乗口まで持っていきます。
少し離れた地面には、ダンさんの鈍色のゴーレムが倒れていました。
出来ることなら……と淡い期待はありましたが、大きく開いた穴から中を確認したライガットさんががっくりとうなだれてしまったので、それは有り得ないのでしょう。
この場でついさっき、二人が死んだという事実。
今まで碌に「人の死」というものに関わってこなかった私にとってそれはあまりに受け止めがたい衝撃であって。
それも戦争という非日常の中で失われた命を目の当たりにしてしまったせいなのか、ひどく身体全体が重く感じられます。
私は光が途絶え、暗くなった搭乗席の中で身を縮めて、ただ無為に時を過ごす他ありません。
(私は……一体何なんでしょうね……)
額を膝に押し付けながら、ふとその事に思い至りました。
自分が何者で、どうしてここに居て、これからどうなるのか……
私は、まだ何一つ知らなかったのです。
▼今回のまとめ・追記事項
1.デルの異常さにまだ気付かない主人公
2.アクションは若干アニメ版混ざり
3.トラウマはどんどん増える
次回、宜しくお願いします。