壊剣の妖精   作:山雀

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▼前回のあらすじ

 ジルグ殿について調べました。結果、よく分かりませんでした。


016. 異世知探

――――――

 

 

 ――唐突ですが、私が生きているこの世界についていろいろと考えていました。

 

 ……と言うのもですね、現在は新生部隊員の訓練期間の真っ最中です。

 私は当初意外に思ったものですが、実は部隊員それぞれがゴーレムに搭乗して一緒に訓練するという機会は殆どありません。初日のあれが最後です。

 むしろこの訓練期間は、ライガットさんに付け焼き刃ながら戦う為の力を身に付けさせる事が主目的らしく、彼がデルフィングに搭乗して訓練する光景を他の皆さんで眺めてデルフィングそのものについての理解を深めたり、ライガットさんに助言したりといったことが多いのです。

 他の部隊員の皆さんは若いながらゴーレム操縦については一角の人物が揃っているので、今更操縦訓練をみっちりやる必要性は薄いのでしょう。

 ナルヴィ隊長は戦闘訓練を行うデルフィングに適宜評価と罵倒を浴びせるのが常ですし、ナイル義兄様は適当にだらけながらその様子を見ています。ロギンさんは腕を組んで仁王立ちしてます。

 ジルグ殿は基本的に私達のいる場所に同席しません。彼は少し離れた演習場でエルテーミスの慣らし訓練を行っているそうですから、ひょっとしたら訓練日程の終盤になるまで合流しないのではないでしょうか?

 無論、私もデルフィングの副搭乗士として訓練に参加する時間もあります。早急にライガットさんの操縦に慣れないといけませんからね。ですが、私が諸事情により不在・お払い箱・死亡状態となった場合の機体運用を見越しての事なのか、私抜きでのデルフィングの操縦訓練もライガットさんは行っています。

 

(……ま、まあ不測の事態を想定しているのはいいことですよね、ハイ)

 

 その時デルフィングの動きを外から観察する機会があるのですが、私が搭乗している時と動きに然程違いがあるとは思いません。ナルヴィ義姉様は特に何も言いませんが、ナイル義兄様に訊いてみても「よく分からんがそういうものなのか?」とか言ってましたから義兄様も微妙な違いが掴めないようです。

 さらにライガットさんは、デルフィングが待機状態に入り活動限界時間を回復させている間は専らサクラ近衛大隊長にしごかれています。

 大抵は訓練用の剣で打ち合って、ゴーレム操縦時のイーストシミターの扱いを始めとする近接戦闘に絡む助言を貰っているようです。鍛錬を重ねるにつれて、ちゃんと上達してそれなりの動きが出来るようになってきています。

 

 ――と、言うことはですね。

 私の存在が不要となる訓練の時間、私自身は何をやっているのかという話になります。勿論ただ暇して遊んでいる訳にもいきませんので。

 ナルヴィ義姉様達と一緒にライガットさんの訓練を見学するというのもアリ……と言うかそれが本来求められる姿ですし、事実重要そうな訓練は見学しています。ですが折角自由に動ける時間なのですから、私自身も何かしら身に付けておきたいなーとか考えていたのです。

 

 そんな訳で、最近は一人でちまちま動いている事が多くなっています。

 まずは身体面での機能向上をと思い、以前から続けている歩行訓練は実施していますが、残念ながら結果に結びついているとは言い難いのが現状です。

 最初杖を突いて低速ながら歩けた時は、意外と直ぐ走れるようになるんじゃないかという淡い期待を抱いていたのですが、それは絵に描いた餅だったようです。

 さらに理不尽なことに、どういう訳か自分の足だけで立とうとすると、数歩も歩かない内にプルプルと震えてその場倒れこんでしまうのです。この数歩分が進歩だと言えないこともないですが……

 何なんでしょうね、根本的に身体が歩くことを忘れているか拒否しているとしか思えない現象なんですが……それが杖を突くだけである程度緩和出来るというのも納得いかない……

 兎にも角にも、歩くことすら満足に出来ないならば、それ以上の走行や戦闘の訓練なんて夢のまた夢というものです。地道に少しずつ毎日続けることにします。

 

 発声機能についても同様、依然として低空飛行ですね。なるべく文字を読む時は話しながら読むように心がけていますが、ちょっぴり話せるようになってからは殆ど進歩が無いです。 

 

 身体面では所詮その程度ですが、知識収集――即ちお勉強は一応それなりに収穫があるというのが不幸中の幸いというものでしょう。

 既にクリシュナやアテネスで一般的に使用されている西大陸語の基本は覚えることが出来ましたし、孤児院に通い詰めて子供達とほのぼの触れ合いつつ、書庫の蔵書も読み進めております。

 それだけではなく、お城ではゴーレムに関する資料をシギュン様から貸していただけることがありますので読ませて頂いてますよ。基本的な事だから知っておきなさいということなのでしょう。分からないことがあったらキチンと説明していただけるのもありがたいです。

 更には、ナルヴィ義姉様からも資料を拝借したり、時には直接指導を賜ったりもしています。実は彼女、軍養成学校時代は成績優秀で通っていたらしく、その時の勉強の名残である資料や教材を貸していただけるのです。

 何故か時々ナイル義兄様やライガットさんを交え、その辺りの一室を乗っ取って歴史講義などが始まってしまうのですが、なぜそんなことになってしまうのか……。

 あとは……そうですね、シギュン様のお部屋でクレオさんと一緒に資料を読んだり、読めない部分が在った時などには彼女に読んでもらったりもしています。勿論、戦術的価値の高いものやクリシュナの内情に関わるものは除いてですが、実はここ最近の私の一番リラックスできる時間なのです。

 時折、クレオさんが表情を険しくしながら何事かを呟いているのが不安なのですが……何か宜しくない資料が混ざっていたのでしょうか? 止めた方がいいですかって訊いても、反対に「もっと読ませて」っていってくるんですよね。どうしたものでしょうか……

 

 

 ――で、ですよ。

 そんな日々を過ごしながら一人思うことに、「そもそもこの世界って一体何なんだ?」ということがあるんです。

 これは孤児院に通うようになってから思い知らされたことですが、ここは以前の私の常識が通用していたようで全然通用していなかった世界だったのです。むしろなんで今まで気が付かなかったんだってレベルの。

 そも、この世界における歴史や文化につきましても、それらを理解するためにはこの世界に存在している“石英"と、この世界の人間が普遍的に保有している“魔力"というものについて知っておかなければならなかったり……

 

 それが冒頭の私のセリフに繋がる訳です。つまり、この世界そのものについてのおさらいを、今一度私はせねばなりません。

 そしてそれが、きっと“私”を知ることにも繋がるはずです。

 

 

――――――

 

 

 

 ――この世界を一言で説明してしまうと、「化石燃料と金属の代替として“石英”という謎物質が台頭し、それを操作する為の謎エネルギー“魔力”を人間たちが普遍的に保有している世界」らしい、ということになります。

 

 うふふふふふ……ホント、この事を知った時愕然としてしまいましたよ……やけに石材で出来た物が身の回りに多過ぎるなーとは思っていたんですよね……そりゃそうですよね、金属そのものが無いんですから……

 

 この世界――と言うより、このクルゾン大陸と呼ばれる大地は、掘っても掘っても石油や石炭の類が出てこないそうです。代わりに出てくるのは“石英”――これについては後述しますね。従って、この世界で油や繊維っぽいものを見つけたら、化学合成品ではなく全部天然由来の物品ということになります。

 金属については目に付かないだけでそこら中に存在しているのでは――とも思っていたんですが、探しても探しても見つかりませんでした。なんと砂鉄すら確認できません。刃物や針すら石で出来てました。

 これはひょっとしたら、化石燃料や金属がそもそも存在していない世界なのでは……とも考えたのですが、そうではないようなのです。シギュン様から「古代人は金属を使っていた」というお話をお聞きしましたので。そう言えばこの世界の人の血液はちゃんと赤いですから、少なくとも鉄分は存在しているっぽいんですよね。私だって血液の色素であるヘモグロビンのことくらいなら知ってるんです。……ただ、この世界の人の体内に流れている血液に鉄分が含まれているかを調べる方法なんて知りませんが。

 ……いや、全くそれらが存在しないとは言い切れませんよ? 私がこの世界に来てから一切その存在を確認していないというだけで、人知れず何処かの地中にでも眠っているのかもしれません。

 

 そこで私はシギュン様に「どうして現代の人達は金属を使っていないんですか?」と尋ねてみました。“石英”は超利便性が高い上にそれなりの産出量がある資源ですが、適材適所という物の考え方があります。

 ――彼女の答えは、「その理由は不明、そもそも私達は金属そのものを見たことが無い、金属という物質だって“石英と違って熱や油と相性が良い工作媒体である”ということくらいしか分かっていない」とのこと。

 私は次に、「どうして見たこともないのに金属の性質を知っているんですか?」と訊きました。

 ――「あくまで、古代文明に関する文献の情報が元である」というのがその返答。

 更に私は、「古代人が生きていた時代の金属製の発掘品とか残っていないのですか?」とも尋ねてみました。

 ――シギュン様はおっしゃいました。「古代文明の遺産として現存している物品がほぼ文献しか無い」と。

 え? 遺跡とか建造物とか石碑とかも残ってないんですか? 古墳時代の鉄器や青銅器すらも出土したことが無い!? ますます意味不明な世界ですね、ここは。

 ……まあ、文献だけでも残っていて幸いだったと考えるしかありません。そのおかげで金属という物が大まかにではありますがどういうものかとか、古代人が金属をちゃんと使っていたらしい、ということが分かるのですから。

 

 それでですね、私が元居た地球という世界の基準で考えてみると、金属での工作物が存在していたらしいということは、おそらく化石燃料も当時は存在して運用していたのではないかなーと考えられるのです。

 そして千年前――ひょっとしたら幾千年も前に、この世界の人の手が及ぶ範囲から、化石燃料や金属といった物質をまとめて一掃してしまった“何か”が起こったような……

 普通に考えれば有り得ない事でしょう。化石燃料に関しては地上から掘り尽くされてしまった後とも考えられますが、金属が消え去った理由なんて――うーん……“金属だけを分解・消滅させる微生物やナノマシンの類を開発してしまい、それが地上に蔓延した”とかでしょうか。

 あ、他にも有り得ますね。思いっきり簡略化して例えを挙げますけど、“この大陸が丸ごと、何者かの箱庭だったんだよ!!!”や、“古代人は異世界人!?”とか、“金属っていうけど、それホントに金属?”だとか、“そもそも古代人なんて全部デタラメ!”なんてのとか、かなりバカバカしくてスケールデカすぎな話になっちゃいますけれど。

 ……うーん、よくよく考えると最後の以外は割りと可能性としてあり得そう――って、いけませんね私は。転生なんて摩訶不思議な体験をしてしまったせいで冗談の閾値がかなり下がってしまっています。大抵の戯言さえ「本当かも……」なんて受け止められるようになってるし。

 でもそう考えると古代人の遺産が碌に残っていない理由とか、色々と説明出来てしまうのが……あ、でも“石英”はその辺りについて考察する上で、何らかの手がかりになりそうですね。

 

 

 ――そうですね、丁度いいので“石英”について確認してみましょう。

 “石英”は先程の話でも触れましたように、この大陸の地下等から採掘される、この世界の人達にとって極めて重要な鉱物資源です。

 “石英”とは言うものの、私が前に想像したような地球の“石英”――水晶やガラスなどといった物質とは全く別物。そしてひとえに“石英”とは言っても、そこには多岐にわたる性質の違いが存在していまして、それぞれの“石英”が違った用途で用いられています。その恩恵が有ればこそ、化石燃料や金属が存在しないこの世界であっても、それなりに発展した文明を築くことが出来たと言っても過言ではないようです。

 では、その“石英”なる鉱石資源はどういうものなのか。それを説明するためには、手間ではありますが“魔力”についても併せて知っておかねばなりません。

 

 ――そも、“魔力”とは何なのでしょう?

 以前の私にとっては、魔法使いや魔術師だとか、そういったファンタジックな世界に存在する人や生き物達に宿る、超常現象を引き起こすためのエネルギー……等という認識でした。そしてこの世界での“魔力”はそれに似て非なるものなのです。

 この世界の人間は誰もが、生まれつきその体内に“魔力”と呼ばれる力を備えています。

 その魔力の強さや量には個人差があるものの、基本的に人が成長するにつれ魔力は強く多くなり、年老いて衰えると弱く少なくなるそうな。

 では、その魔力とやらを使うと一体何をすることが出来るのでしょうか? ――シギュン様曰く、「私達は魔力を使って、石英に命令を与えることが出来るのよ」とのことです。

 

 “石英”は大きく“無反応系石英”と“反応系石英”に分類されます。もうその名称でそれらがどのようなものなのかが想像が付きますが、人の魔力に反応してなんらかの作用を起こす石英が“反応系石英”、人が魔力を通しても反応しない石英が“無反応系石英”となります。

 “無反応系石英”の特徴は、採掘される量が多いことや剛性が強い――要は硬いということが挙げられます。その為、針やナイフ、銃弾といった小物から、ゴーレムのフレームや建造物等大物まで非常に幅広い用途で使用されています。

 “反応系石英”の特徴は、機能別に多くの種類が存在することや採掘量が少ないことです。

 その例として分かりやすいのが“発光石英”ですね。その名の通り、魔力を注ぐと光を発する鉱物です。私がこの世界で初めて目覚めた時に見た電灯らしきものは、この発光石英を利用した照明器具だったそうな。

 他にも魔力による『命令』を伝達する経路となる“伝達系石英”だとか、ぐにぐにとした柔軟性を持っていたりする“柔軟系石英”といった種類が存在するとか。

 

 その他の補足情報としては――石英の純度によって魔力の量に対する反応の強さや剛性、透明度や色彩に違いが出るということがありますね。

 その点で言えば、反応系石英の一種である柔軟(系)石英はかなり応用できる範囲が広い石英です。魔力を通すことで性質を変化させることが出来るので、意図的に車両のタイヤとかに加工出来るらしいです。便利なものですね。

 そして更に、生産量の少ない高純度の柔軟系石英は“石英靭帯”と呼ばれる、高い伸縮性を持つ部品へと加工され、多分野で重宝されています。

 早い話、この世界における機械の動力源――エンジン等の代替となっていると考えればほぼ間違っていません。車軸を回し、ゴーレムの四肢を動かす筋肉の役割を果たす重要な要素です。

 銃器――プレスガンもこの石英靭帯を用いたピストンによる空気圧縮の反動で銃弾を発射しています。ええ、火薬銃ではなく空気銃だったんですよね、実は。……そういえば火薬ってこの世界にあるのでしょうか?

 

 ただし、この石英靭帯を扱う上で問題となるのが個々の魔力の強さです。扱う人間によって力強さに違いが出たり、そもそも動かせなかったりという事が起きます。

 たとえ話として挙げますが、同じプレスガンを使用した場合であっても、魔力が成長している大人と未熟な子供では威力に顕著な差が出てしまうのです。

 特に強烈な勢いでピストンを作用させる必要のあるゴーレム用の大口径プレスガンを安定して扱える重騎士は、それだけで優秀な魔力を持っていることが分かるというものです。ゼスさんとかは異常レベルだそうな。

 

 

 ――以上長々と語りましたが、これだけでもいかにこの石英という謎物質がこの世界の文明を支え、そして戦力を向上させるのに重要か、ということが分かります。石英が存在しなかったとしたらこの世界、石器時代まんまの生活様式だったかもしれません。本当に石英が在ってよかった……

 それ故に、この“石英”や水資源を巡って、この世界の人間達は大昔から幾度も幾度も争い続けているそうです。基本的に石英という物品は一度破損・消耗したらより小さいサイズの物品に加工して運用することしか出来ない、要はリサイクルがし難い消耗品ですからね。おそらくは、今のアテネスも……

 

 

 ……ああ、そうでした。人が保有する魔力というものについてはまだ補足しなければならないことがありました。

 この世界の人間が普遍的に保有している筈の魔力を持たずにこの世に生まれ落ち、そのまま成長する人間が、実は極稀に居ます。

 そう、ライガットさんや(たぶん)私のような人間の事です。

 

 確率的には百万分の一とも言われる可能性の下に生まれた私達は、魔力無者(アン・ソーサラー)と呼ばれる存在であり、反応系石英を一切扱えず、その為大抵の場合は「能無し」などと世の人々に蔑まれてその生涯を送ることになります。

 古い話では、自分の子供が魔力無者(アン・ソーサラー)だと判明した場合には、その親が間引き(・・・)を実施する慣習もあったということです。ちなみにこの情報源はナイル義兄様で、その話を私にした後、速攻でナルヴィ義姉様に殴られてました。……そう言えば自分は殺されはしないまでも、親に捨てられたという身の上(捏造)だったのをすっかり忘れていましたね。

 以前、「銃を使えない」とライガットさんが自重気味に話していたのはこういう理由があった為だったんですよね。

 どういう条件で魔力無者(アン・ソーサラー)が生まれてくるのかははっきりしていないようですが、ライガットさんの弟さんも魔力無者(アン・ソーサラー)であり、逆に彼らのご両親は普通に魔力が扱えたそうですから……劣性遺伝とかいう形質なのでしょうか? いつかライガットさんに子供が出来たら、その子も魔力無者(アン・ソーサラー)として産まれたりするのでしょうか?

 

 

 そして、ここからはこのクリシュナのある魔道技術士のお考えらしいんですが、どうも古代人という人達は魔力を一切持っていなかったんじゃないかって仮説が存在するのですよね。へー。

 なんでそんな考えが出てくるのか? なぜならここクリシュナで、古代人の謎に迫る大きな鍵となる物がつい最近発見されたからなのです。

 

 ――そう、詳細不明の古代巨兵(アンダー・ゴーレム)、デルフィングのことです。

 

 王都周辺の石英採掘場で偶然発見されたこのデルフィングですが、発見当時はほぼ無色透明の大型無反応系石英の中に封印された状態だったそうな。推定される製造時期は今から千年以上前。

 どうにかこうにか搭乗席らしき箇所を開放して見ると、中にはミイラ化した古代人搭乗士の遺体が存在していました。あ、さらに奥には私も居たんですけどね。

 ……で、その古代人の遺体とデルフィングを詳しく調査した結果、魔力を扱った形跡が一切無かった為にそのような仮説に至ったとのこと。

 お城の重騎士さんたちが搭乗席に入り込んでデルフィングを動かせないか試行錯誤していたらしいですが、結局このゴーレムを動かせたのは偶然乗り込んでしまった魔力無者(アン・ソーサラー)であるライガットさんのみ、と。うーん、確かに言われてみればそれっぽいような……

 

 でもそうなると、どうして金属を用いた文明を築いていたと思われる古代人が、わざわざ石英を用いてデルフィングを製造したのかという疑問に当然行き当たるわけです。金属があるならそれで作ればいいじゃんという話ですよね。

 デルフィングの大きな短所である短い活動時間は、機体内部の冷却というか熱量がネックになっているのがそもそもの原因と思われています。これは金属を用いればある程度改善出来る問題だとは思われますし……

 

 ……私は何となく、古代人が“金属で製造できなかった事情があった”か、“金属で製造しても意味が無かった”んじゃないかなーって気がするんですよね。……自分で言ってても意味が分からないですし、その根拠は無いんですが。

 ちなみにシギュン様は、“何か最後の使命(作業)を果たす為だけに突貫で作られた”ような印象を受けたそうです。はー、流石にあのお方の視点は参考になりますね。

 あとは、機体に使用されている石英を作るのに必要な精製とやらの過程にえらくギャップを感じるとか。部分的に凄かったり稚拙だったり……ふーん、なんだか自分達でもよく分かっていないもの使ってを無理矢理製造したみたいですね。あの折りたたみ式モニタ兼タッチパネルとかどういう仕組なんでしょう?

 あとシギュン様は、魔力をライガットさんから供給されていないのにも関わらず、魔力を通して石英に命令するのと同じ動作が出来ることにも疑問を持っているみたいです。曰く、「古代人は石英に命令を与えることが出来ない代わりに、石英に命令を記憶させる事が出来たんじゃないか?」って。

 

 そしてさらにヒントになるのが、いつぞやの私がデルフィングの視覚を通してこの世界の人間を見た時に表示された、『不特定生物』という補足情報です。

 デルフィングは、ライガットさんはちゃんと人間として認識しているのに、シギュン様達は何故かUMAの類として認識しているんですよね……あの時は目を疑いましたよ。

 その基準として考えられるのは――やはり魔力の有無なのでしょう。魔力を持っているか否かで人間かUMAを判定する……?

 実に不思議なことに、デルフィングは『魔力を持たない人間にしか扱えない』のにもかかわらず、『魔力を検知できる』機能を持っているのですよ。一体何のために?

 うーん、そう言えば私も起きて間もない頃は他人と顔を合わせた時になぜだか違和感あったんですよね。その内だんだん治まってきましたが。あれって魔力を感じる器官が私にも存在するとか? でも今は特に何も感じないし……

 

 ――おまけに、デルフィングの装甲にわざわざ刻まれていたという古代文字……その意味するところは、『運命に抗おう』だそうです。意味深な……

 

 

 つまり、私やシギュン様の考え、デルフィングから得られる情報を統合して考えてみるとですね……

 

 古代人達は当時、何か悲観的な運命を間近に控えていて、その運命を打破するためだけに石英製ゴーレムであるデルフィングを突貫で作り上げた、ということになるんです。

 そしてその使命を受け持った筈のデルフィングはその後、石英の中に封印されて今に至る訳なんですが。

 デルフィングがその運命とやらに対抗できたかは兎も角、その後金属と化石燃料を扱っていた古代文明は滅亡し、石英と魔力を扱うことで後に発展することになる文明が新たに誕生した、ということになるんですが――うーん、なんだか古代人が何か得体のしれない存在と戦って負けたみたいな……

 果たして、今に繋がるその“使命の結果”は、デルフィングに本来求められていたものだったのでしょうか? 今となっては、それが何だったのかはもはや誰にも分かりません。

 

 

 ――それから、デルフィングの副搭乗席で千年以上眠っていたらしい私って一体何者なんでしょう? 

 あの私専用に誂えたような副搭乗席は、私がデルフィングという存在と基本セットであることも示していますから、“使命”の際に私も同行していたとは思うんですが……千年以上、いろいろと問題はあるもののこうして健在でいられた理由とやらも、今になってもはっきりしていませんし。

 うーん、同様に私がデルフィングに乗ることで果たせる“役割”というのもイマイチはっきり判明していないんですよね、相変わらず。

 

 

 まあこうやっていろいろと考えることはある訳なんですが、私はやりたいように動くだけです。

 このクリシュナの危機を乗り越えてやることが無くなったら――この世界の謎を解き明かすべく考古学を志すというのもありかもしれませんね。

 




▼今回のまとめ・追記事項

1.実はここってこんな世界だったんですよ
2.作品解説考察捏造回



次回、宜しくお願いします。

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