壊剣の妖精   作:山雀

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▼前回のあらすじ

 鬼畜眼鏡と第一種接近遭遇を果たす。



013. 実戦訓練

――――――

 

 

 

(はー、すごー……流石にこれだけの数のゴーレムが一斉に動くとなると迫力がありますねー)

 

 私は王都ビノンテンから続々と出陣していくゴーレム部隊を見物しながら、デルフィングの副搭乗席で呑気なことを考えていました。

 

 赤髪眼鏡青年との出会いから一夜明けた今日この頃、アテネスとクリシュナが激戦を繰り広げている(と思われる)西部国境地帯へとトゥル将軍とバルド将軍が率いるゴーレム部隊が出陣していくのをお見送りしております。

 今回の行軍で投入するクリシュナのゴーレム総数は約百二十台。これは現在クリシュナが保有する台数の半分以上に相当する……筈です。

 この国と国民の皆さんの生活を護るため、是非とも彼らには奮戦していただきたいところです。

 なにより、私達の部隊も十日後には彼らの後を追って西部国境地帯へと進軍する予定となっていますから……私のことは無視しても、ライガットさんの肉体的・精神的負担が減るのは大変喜ばしいことですので。

 

 私は残念ながらお目当てのトゥル将軍のゴーレムが見つけられなかったのですが、ライガットさんはちゃんとバルド将軍を発見できたようです。デルフィングの左手を上げて見せてます。

 

「おっ、そろそろ時間なんだが……セフィ、満足したか?」

「……はい」

 

 むむ、残念だが仕方無い。ただでさえデルフィングの操縦訓練時間を確保するのには厳しいものがあるので、私が足を引っ張る訳にもいきません。大人しく諦めることにしましょう。

 ちなみに私達は今、王都の中からではなくビノンテン郊外に位置する、野外演習場にほど近い荒野にいます。実はこの後、その演習場で部隊訓練が予定されていますので、その前に……という訳です。その為、デルフィングには装甲が装着されていますのです。見栄えを表すると標準的、人間で言う中肉中背くらいのを。

 

(いよいよ噂のジルグさんという方と初顔合わせとなるのですが、一体どのようなお人なのでしょうか……せめて会話が成立できる人だと――)

 

 野外演習場へと移動するデルフィングの中で、私はそんなことを考えていたのですが……

 その途中で何気なくライガットさんが視線を向けたであろう岩陰に、自然では有り得ない赤色の巨像が――

 

(――ッ!? こいつッ!?)

 

 そして私が武器を持ったその機影を確認するや否や大きく視界がぶれ、落とし穴に落とされたような感覚。「何事かッ!?」とか考える余裕すら無く、身体があらゆる方向に揺らされます。

 ここまで来ると私も突発的に戦闘に入ったことくらい分かります。

 

(デルフィングは非武装――よってライガットさんが先制攻撃するとは思えません! ですので恐らくさっきのは咄嗟の回避行動――)

 

 ……のはずですが、心の準備も無い内にあちらこちらに振り回されている私はたまったものではありません! 情けないですがはっきり言って混乱してます!

 

(ッ、致し方ありません! 一旦ライガットさんにお任せして私は緊急回避です!)

 

 無論、この場から逃げ出すという訳ではありません。視界を閉ざし、身体を安定させる姿勢を心がけつつ深呼吸をし、全思考をリセットするのです。はっきり言ってサポート役として失格な動きなのですが――ごめんなさい、ライガットさん! そしてシギュン様ぁ! 頼みますので後でお仕置きは勘弁ッ!

 そうやって私は何とか意識を戦闘用に切り替え、多少デルフィングの動きが緩くなったタイミングで目を開き、状況の把握を開始します。

 

 少しばかり前方の高台に陣取るのは、右手に反りの入った長剣を、左手に突撃槍を持った赤いゴーレム。間違いありません、先日私がハンガーで見ていたアテネスの新型ゴーレム――

 

(エルテーミス……なんでこんなところに……はっ! まさか――)

 

 ……まさかまたクレオさんが脱出を企て、首尾良く機体を奪うことに成功し、今度こそライガットさんを亡き者にしてやろう……ということなんでしょうか!? くっ、シギュン様の圧巻ボディと私のお子様ボディによる説得では足りませんでしたか!

 

「おい! 待てッやめろッ!! 誰だ!?」

『――よく躱すね。ディフェンスは六十点以上八十点未満ってところかな』

 

 ……ホッ、ライガットさんの問いかけに答えたのはクレオさんではありませんでした。機体だけ見て早とちりしてしまいましたよ。

 ですが赤いエルテーミスから届いた声は、ごく最近私が聞いた声に非常によく似たものでありましてですね……

 

(さ、昨晩の眼鏡ぇ!)

 

 そうです、間違いありません! あの超絶怪しかった赤髪眼鏡の青年です! 確かに“また”とは言ってましたが、この再会シチュエーションはあんまりじゃありませんこと!?

 しかも言ってることからしてゴーレム操縦の試験官気取りです! いきなり登場して襲いかかってきたくせに最初から上から目線的な! 先制攻撃の件とい、鬼畜眼鏡確定です!

 

『そこに武器がある。お好きなのをどうぞッ!』

 

 鬼畜眼鏡のエルテーミスは挑発混ざりの言葉を吐きながら、高台からこちらに地表を滑りながら接近して来ます! 速い!

 確かにその言葉通り、少し離れた地面には銃剣付のプレスガンと直剣とシールドがありますが……

 

「ふッ……ざけやがってッ! 何が「どうぞ」だ!!!」

 

 ライガットさんが愚痴りながらも視線を走らせ、一番手近な位置にあった落ちていたシールドを拾い上げそのまま左腕に装着して構えます。

 

(ああっ、欲を言えば剣も欲しかったけど、エルテーミスがもうそこまで来てる!)

 

 一方、迫り来るエルテーミスはランスを放り投げ、両手持ちにした長剣を上段で構えつつ一足飛びに近寄ってきました。そのまま振り下ろされた剣をライガットさんはシールドで受け止めます。随分と細身の剣ですので弾けるはず……

 そう……弾ける筈だと思ったんですが、なんと気が付いたら左手のシールドが一刀両断されているではありませんか。

 

(おおっ、これが俗に言う斬鉄――って違う違う! 第一鉄じゃ無いですし、えーと損害は……無し! あぶなッ!)

 

 敵(?)のゴーレムが凄いのか、あの剣が凄まじく切れ味がいいのか、はたまたあの鬼畜眼鏡が凄いのかは分かりませんが、あの斬撃は絶対にデルフィング本体にもらうわけにはいきません。この堅固なフレームにどれだけ通るかは分かりませんが、部分修復すら不可能な本体をこんな場所で破損させられたらたまったものではありません。

 

「!? ちッ!!!」

 

 私がさっき考えたのと似たような結論に至ったのか、ライガットさんは素早くシールドの残骸を投棄した左手を前面に押し出し、続けて横薙ぎを放ってきたエルテーミスの右手をピンポイントで受け止めます。

 

『……ほぅ…………』

 

 鬼畜眼鏡もこの対応に感心したような態度で応じています。随分と余裕がありそうですね……

 

「……いい加減にしやがれ……このッ……ど畜生がッ!!」

 

 相手が手放した長剣を奪い取り、それをデルフィングが大きく振るいます。対してエルテーミスはさっき手放したランスで剣を迎撃……

 一瞬だけ互いの武器が交差しますが……結果は音をたてて半ばから破断した私達の長剣と、少しばかり切り込みが入った相手のランス。

 

「あぁッ!?」

『……やっぱり、ね……』

 

 驚愕するライガットさんと、今度は何かに納得した様子の声を漏らす鬼畜眼鏡。

 

(これは、素直に相手の技量がずば抜けていると見た方が良さそうですね……)

 

 私は鬼畜眼鏡のゴーレム戦闘が並外れた技量に依るものであると理解しました。お互いが同じ武器を使ってみせた攻防で、結果にこれだけ明確な差が出たのです。

 長剣は特に特別固かったり鋭い訳ではない、ゴーレムもスペック上はデルフィングの方が挙動に関しては上回っている筈。……となれば、あとは純粋に搭乗士の腕の差でしかありえません。

 

「くそッ!!」

 

 武器を失ったこちらはもうこれ以上、エルテーミスの間合いに留まる訳にはいきません。折れた剣を牽制として投げつけながら、ライガットさんは素早く距離をとろうとしますが……エルテーミスも残っていたプレスガンを拾い上げてこちらを狙っています。

 

「! やばいッ!!」

 

 それを察知したライガットさんは機体をあちこちにステップさせながら、連射されている銃撃を尽く避けています。あうぅ、視界が揺れて……でも凄い……

 

『ははは! すごいすごい、ディフェンスの評価を改めよう。七十点以上百五十点未満だ!』

「くっそがあああああ!!」

 

 わざと外して遊んでいるのか、素直に感心しているのか分かりませんが、ライガットさんの技量を賞賛する鬼畜眼鏡。そしておちょくられていることか、一方的にやられていることに憤慨するライガットさん。おそらく両方だろうなあ……

 

「! しまっッ――」

 

 その時、足場に選んだ地面がよろしくなかったのでしょう。デルフィングが着地した際に崩れてしまった地面に足を取られ転倒してしまいました。

 

「……くッ」

 

 慌ててデルフィングを起こそうとするライガットさんでしたが、エルテーミスは既にこちらに銃口を向けています。当たるも八卦当たらぬも八卦――

 

「ッ……?」

 

 思わず身をすくめた私ですが、恐る恐る見るとどういう訳かエルテーミスは近場の大岩の影に隠れてしまています。どうやら少々離れた高台でピンク色のファブニルがシールドを構えながらエルテーミスを銃撃しており、エルテーミスもプレスガンで応戦しているようです。これが天の助けというやつでしょう!

 

『……お久しぶりです、ジルグ殿。……このような訓練は許可していませんが……私も参加させてください……』

 

 ナルヴィお義姉様ああああああ!

 そうです、あの可愛らしいカラーリングのファブニルはナルヴィ義姉様の機体のようですよ。実に危機一髪、バッチグーなタイミングでの介入で――ん?

 

(ジルグ殿? ジルグ殿と申されましたかお義姉様!?)

 

 私が不意に聞こえた人名に驚いている間も、戦闘は続いています。

 

『大変良いポイントからの攻撃ですね、ナルヴィ殿。模範的過ぎて虫唾が走ります。ロギン君も、その撃ち方では狙いが分かり易すぎます』

 

 どうやら高所からの狙撃を実行しているのはナルヴィ義姉様だけではなく、ロギンさんもだったようです。ちょっと見難いですが、少し離れた別の高台に土色のファブニルが隠れていました。

 

『ですが教科書通りの援護射撃でこちらの身動きは止まりました。――で!』

 

 ヌッ――という感じでいきなりエルテーミスの直ぐ傍に湧いて出てきたのは緑色のファブニル。ほぼ接射に近いエルテーミスの銃撃をシールドで防ぎながら接近し――お互いのゴーレムがランスを寸止めし合った状態でピタリと静止しました。

 

『――このまま続けたら俺は即死、あんたのゴゥレムは頭部破損か……美味しくねぇな……』

 

 案の定、あの緑色のファブニルはナイル義兄様の機体だったようです。隠密機動でしょうか、ゴーレムの足音に全く気づけませんでしたよ。そしてセリフがカッコ良いです義兄様。

 

『視界ゼロで妹さん達と戦うつもりはありませんよ、ナイル殿。このゴゥレムの慣らしにはちょうどいい訓練でした』

 

 そう言うと、ランスを放り出し搭乗席を開放して搭乗士が機体から出てきました。やはり、昨日の夜の赤髪眼鏡の人ですね……

 

(あ、あの人がジルグ殿……)

 

 ようやく落ち着いた状況に溜息を吐きつつ考える。うーん、予想とは大きく外れたジルグ殿の人物像に私、困惑しています。牢獄送りになっていたというからどんな強面かと思っていたんですが……

 

「……悪いがちょっと出てくる。機体はこのままで頼む」

 

 ライガットさんはそう言い残すと、ハッチを開放してデルフィングの肩へ登っていってしまいます。初対面なのか、直接顔を見てみたいのかもしれません。

 そのまま見つめ合う二人……珍しくライガットさんは緊張してますね、どアップの映像ではっきり見えます。そしてジルグ殿は不敵な微笑みを向けています。

 

(……ですが、ゴーレム操縦の腕がピカ一なのは今のではっきりしましたね。許可も事前通知も無しに実戦形式の戦闘訓練を開始するあたりといい、相当の曲者ってのも確かですが……)

 

 たった今の出来事で分かったジルグ殿をそう評する私。ヘタすれば死んでたんじゃないかな? でも、「そうなったらそれまでのこと」とか言い出しそうですね、あの鬼畜眼鏡。

 

 

――――――

 

 

「――綺麗にスッパリか……一体どうやったらこんな……いや、俺はそれ以前か……」

「……刃……振る……だけ……駄目……」

「……ああ……」

「…………角……度と……あと……当てる……時……剣……引く……か……押す……」

「……すると、どうなる?」

「……斬れ……る……?」

「何故に疑問形……そして何故にそんな事を知っている? ……お前、包丁すら握ったこと無いだろう……」

 

 先程の戦闘でジルグ殿に両断されたシールドの断面を見つめながらの会話である。

 私の拙い説明に「なるほど……いや、でも……」と唸っているライガットさんと、その隣で見ている私。さっきの訓練(?)が終了して、各ゴーレムや装備品が回収されてからずっとこうしてます。確かに凄かったですからね、あれは……

 あの時ジルグ殿が使っていた長剣――破損した状態のものを先程拝見しましたが、かなり日本刀に近い武器ですね、やはり元日本人としては格好良いと言わざるをえない。シールドを潰されたのではなく両断されたのも納得です。

 

 ……それに加え、分かった事が他にも幾つか。

 

 まず部隊の皆さんの使っていたゴーレムについてです。

 ピンク色のファブニルがナルヴィ義姉様のゴーレム。プレスガンとシールド持ち。背中のホルダーに直剣を装備。汎用的って感じ。

 土色のファブニルがロギンさんのゴーレム。シールド無し近接武器無し、若干砲身が長いプレスガン持ちだから、たぶん遠距離戦主体。

 緑色のファブニルがナイル義兄様のゴーレム。ランスとシールド持ちでプレスガン無しという漢らしい武器構成です。さっきのエルテーミスに迫った機動からして近距離戦主体ですかね?

 あの鬼畜眼鏡のエルテーミスは……さっきの様子からするとオールマイティーになんでもこなせる。相変わらずの機動性が遠距離近距離両方の戦闘で鬼のような強さを発揮しています。今度あの機体について詳しく調べてみましょう。ええ、そうしましょう。

 最後に我々のデルフィング。近距離戦闘性能(パワー)は凄い。遠距離戦闘時は銃が使えないので無力……はぁ……

 各員の力量もそれに準じている印象です。ただし私とライガットさんを除く。仕方ありません。まだ素人から抜け出しきれていませんので。

 単純に陣形を考えるなら、ライガットさん(+私)とナイル義兄様が前衛、ロギンさんが後衛、ジルグ殿が遊撃、ナルヴィ義姉様は指揮官だからたぶん後衛で状況に応じて……とか? でも、デルフィング以外は得意不得意はあれど、遠近どちらでも戦えるんじゃないですかね。

 

 次に強敵にあたって、部隊で連携するということの重要性。

 デルフィング一機でほぼ翻弄され続けた相手を、首尾良く三台のファブニルで連携して動きを抑えるところまで実践してみせてくれました。

 今はまだ無理ですが、デルフィングもあの中に加わって部隊で戦闘をこなせれば負担は軽減され、より多くの戦果が見込めるでしょう。あくまで要訓練、ですが。

 

 しかしそれ以上に大きな問題が浮き彫りになりました。

 ライガットさんの操縦技能についてはノータッチです。特に近接戦闘における攻撃がまだ未熟なのは、あの鬼畜眼鏡に言われています。悔しいけどたぶん的を射ていると思う。

 この様子だとライガットさん自身もちゃんと気付いているでしょうから、私がどうこうするまでもありません。

 問題は私に関すること。率直に言って、私はライガットさんによるデルフィングの戦闘機動に付いていけていないのです。今回なんか、前半は殆ど目を閉じて丸まっていただけです。

 いくら私が乗ってるだけでデルフィングの動きが良くなる(かもしれない)という状態とは言え、適宜ライガットさんをサポートできればより好ましいのは当たり前というものです。

 そのため早急な改善が望まれるのですが、その方法は……もっと戦闘訓練に参加して、ライガットさんの操縦の癖を身体で覚えて、視界の動きに慣れるしかありません。分かり易く言えば、意識をシンクロさせるのです。

 外からデルフィングの動きを見るのもいいかもしれませんね。確か私抜きのライガットさん単独での戦闘訓練も実施予定でしたのでその時に観察させていただきましょうか。

 そして普段ゆったりペースでしか動いていないのも原因の一つなのは自明の理ですので、やはり身体鍛錬は継続、と……走れるようになるのはいつのことやら。

 

 前途多難な状況に頭を抱える内心頭を抱える私。そこに息を切らせて走ってきた様子のシギュン様が姿を現しました。大方、ライガットさんがジルグ殿に襲われた(?)と聞いて飛んできたのでしょう。五体満足で立っているライガットさんを見て露骨にほっとしてます。

 

「無事?」

「やばかったらもっと騒いでるよ」

 

 心配するシギュン様にライガットさんは「平気だ」とは返していますが、内心はどうなんでしょう?

 

「……ライガット、ジルグ殿の入隊に賛成してるって本当?」

「……ん? ああ……セフィも構わないって言ってたし、それに俺らがいいと言ったからって、どうなる話じゃないだろうがな」

 

 ライガットさんから視線を私に移すシギュン様。……ええ、分かってますとも。たぶん「余計な事を!」とか考えてるのですよね。お叱りは今夜でしょうか?

 そうなんです。あの突発訓練で流石に彼の入隊を問う声が上がる中、ライガットさん(と私)は入隊に賛成の立場を表明したのです。

 

「どうして……? 彼は敵よりも危険よ……?」

「……だろうな、間違いなく。……でもよ……あいつが怖くて強いのは分かったし……アテネスを追い払うためなら何だってやるって決めたんだ……!」

「……です……」

 

 その通りです。彼ほどの人材を眠らせておく余裕は今のクリシュナにはありません。敵として相手取る事態は考えたくもありませんが、どちらにしろ彼はいずれ戦線に投入せざるを得ないでしょう。

 多少の危険性に目を瞑れば、ジルグ殿という戦力は魅力的です。あの扱い辛そうなエルテーミスを初乗りであそこまで動かせる人って他にいないんじゃないですかね?

 

(どうにかしてジルグ殿とコミニュケーションをとって、彼の考えていることが掴めればなんとか……無理かなぁ……)

 

 鬼畜眼鏡なんて呼び方をしてしまいましたが、結果的にあの訓練にも一応ちゃんと意味はありましたし。殺されかけたのは別としてですがね!

 また後でジルグ殿について調べてみましょうか。何か交流する上でヒントになるようなものがあったら……

 

「まーた仏頂面して、なんとかなるって……たぶん……ほら……」

「……のびる……」

「ははははは……」

 

 ……私が真面目に今後の事を考えているというのに、このバカップルもどきは何をやっているのでしょうか。

 シギュン様の頬を弄んでいるライガットさんも、弄られているシギュン様も嬉しそうにしちゃって……ほんのり顔に喜色が出ているのちゃんと分かるんですから。

 あー……また他の人達が二人に視線を向けています。……あ、ちょっと遠目ですがホズル陛下じゃないですかね、あの人影? もうしーらない。

 

「……たのに……」

「え?」

「奴は斬れたのに……俺は斬れなかった……」

 

 イチャイチャが終わったと思ったら、今度はシールドを観察しながら唐突に苦悩し始めてしまいましたよ、この人は……

 

(これは……まあ、いい目標が出来たと思えば……)

 

 そうですよ、あんなに分かり易い到達点を示してくれたのです。お陰で戦闘訓練にも熱が入りそうですし、あとはいい先制が就いてくれれば成長が期待できます。

 

(……指南役の教官、ちゃんとした人がついてくれるといいなぁ……)

 

 ひょっとしたらジルグ殿が教官として……というげんなりする未来を想像しながら、私は視線を宙に這わせるのでした。

 

 




▼今回のまとめ・特記事項

1.次回から楽しい楽しい訓練期間が始まります。
2.主人公の近況も併せてお送りいたします。


次回、よろしくお願いします。

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