国立アースガルド魔法学園 ~unknown solders~   作:エア_

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第一話だ


基本事項
第一話「始業」


 『春』

 

 ・・・小鳥はさえずり、蝶は舞い飛び交う。

 全ての生命がこの時期に眠りから目を覚ます。美しい日差しを浴び、その朝の象徴である太陽を拝みいまだに温もりを感じさせているベッドから起き上がった。

 『春眠、暁を覚えず』とはよく言ったもので、春の朝ほど布団から出たくないと思った季節は無い・・・・・・冬の寒さを除いて

 本来ならばここで二度寝をし、寝坊をして『遅刻だー、遅刻ぅ~』と叫びながらバターのぬったくられた食パンを口に咥え、学校めがけて猛ダッシュを繰り広げるというベタな展開になるところだが、如何せんこういう日こそ早起きしてしまうのは、自分が主人公体質ではないのだろうと悟らせてくれて非常にありがたいものである。

 ベッドから起き上がり先ずする事といえば、普通の人ならば顔を洗うやら、親に挨拶をするやら、昨日の寝ていた時間のメールの確認やらであろうか・・・

 

 しかし、俺たち魔法学園生徒は違う。

 

 魔法、この世界の科学技術の副産物として生まれたシロモノ。空間輸送の実験時に副産物として生み出された。とは言っても、魔法のように空を飛ぶ、変身する、といって多大な魔法は使えるのは使える・・・・・・しかし、使えるのは一種類、

 

 ―――空を飛べる奴は、火の玉を出せないし、

 

 ―――火の玉を出せる奴は、空を飛べないし、

 

 まぁ、つまりは『能力は一つだけよ』というものだ。

 しかも、それには適合というものがあり、一般人というカテゴリにいる人々はこの魔法は使えない。自分は使える為、このカテゴリには含まれてはいない。

 そして、適合した人は国が建てた施設、国立アースガルド魔法学園に行かなくてはならない。

 理由はいろいろと長々といえばあるが、尤もなところ、

 

『そんな危ない化け物共を野放しにされたら困る』

 

といった、ただの異端の目でしか見ていないような理由だ。

 さて、そんな異端児達は起きたら何をするのか?

 魔法・・・俗に言う固有スキルであるが、それをカード化・・・つまり物質、固定化である。

 魔法学園にかよう際、その固有スキルはカード化し、無意識下に置かないようにする。そうすることで突然の暴走も無く、一般人として社会に浸透できるのである。

「・・・・・・スタート・アップ」

 意識を集中させ、その自分自身をカードという枠にはめ込むように思考する。

『ready』

 するとどうだろうか。その左手にカードが現れ、さらには音声を発したのだ。

 これこそ、魔法という固有スキルをカードへの固定化する方法、『限定封印』であった。

「・・・ふぅ、成功だ」

 成功した為思わず一息ついてしまう。

 この工程には朝から途轍もなく精神を使うため大変である。

 この休みの期間はカード化させていなかったため今日する破目になったわけである。

 ―――次からは早くにしよう―――

 そう心に誓い、カードをポケットに入れた。

 カード化もすんだ事なので、顔を洗いに洗面所へと向かうため、部屋のドアを上げた。

 少し寒いと感じ、少し身体を震わせ春といってもまだ寒いんだなと思考しながら廊下に出た。

 自分の家は二階建ての一軒屋で、自分の部屋はその二階に位置する。そこから一階に降り、洗面所を目指した。

 階段を下りてすぐ隣に位置する洗面所、そのドアを開け中に入った。

「・・・り・・・陸?」

 ・・・何故確認をしなかったのだろうか。自分という奴にはホトホト呆れてくる。

 そう、目の前には女性がいたのだ、

 

 ・・・・・・一糸纏わぬすがたで・・・

 

「お、おはようさん」

「あ・・・はい、おはようございます」

 辛うじて出てきたその場に微妙にあっていない言葉に、少女は頭を下げ挨拶をした。

 その少女はブロンドの髪、サファイアのような蒼眼、肌はとても白い。まるで西洋人形のようであった。

 

 そして何よりも忘れてはならないのはそのプロポーションである。

 

 全く無駄な肉は付いておらず、しかし女性の象徴は無いわけではなく、全てがちょうどいいといっていいほどに洗練された身体を形作っていた。それは一種の美である。

 そんな少女は、両者の今の現状を理解したのか、両頬を見る見るうちに赤らめさせていった。

「~~~~~~~~!」

 何故自分は速くドアを閉めなかったのか、何故自分は速く弁解しなかったのだろうか。それは多分簡単なことだったのだろう。

 

 その美しい姿に言葉も発する事が出来ず、見惚れていたのだ。

 

「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

 そんな俺は、その少女から顎を蹴り抜かれ、意識を落とすのであった。

 

◆□◆□

 

 赤く腫れ上がった顎をさすりながら通学路をぬけ、登校する少年の姿があった。

「も、申し訳ありませんでした陸! つ、つい咄嗟に!」

 そしてその隣を申し訳なさそうについて行き、頭を深々と下げるブロンドの美少女がいた。

「・・・いや、だからそれは俺が悪いのであって、ガレットが悪いわけじゃないんだからさ・・・逆に怒ってよかったんだぞ」

 そう諭すように告げる少年だが、ガンとして意見を変えないブロンドの少女、ガレットはそれでも!と詰め寄りその蒼眼で少年を見つめた。傍からみれば二人は彼氏彼女の関係・・・恋人同士に見えるだろう。

「とにかく! この話はおしまい! さっさとしないと学校に遅れちまうぞ!」

 少年はそう言ってガレットから離れ、早歩きで学校に向かった。別に嫌いなわけではない。所詮思春期入った男子高校生・・・恥ずかしいのである。

 

―――その覗きこんで来た顔に鼻の下を伸ばしそうになったからだ。

 

「あ、待ってください!」

 ガレットもすかさず追いかけた。

 周りでその一部始終を見せられていた男は血の涙を流したとか・・・。

 

 ・・・そんな通学路をぬけ、学園大通りを二人は歩いた。

「それにしても、陸は今回の組分け試験はどうでした?」

 思い出したかのように呟くガレットに、はぁ、とため息を少年はつき、半眼で少女を見つめた・・・その表情には呆れが入っているように見受けられた。

「またそれか、何回も言っているだろ? 俺は多分E組だって」

「うぅ、だって冗談だと思ったのですよ?」

 他愛ない会話をし、二人は学園大通りにある大きな上り坂を進んでいた。

「俺はもともとそんなに才能は無かったんだぞ?」

「しかし、それでも」

 なかなかにこのガレットと呼ばれる少女は自分の意見を変えたくないのかショボンとした顔をしている。

 それを見た少年は中指の爪先を親指のハラに沿え、思い切り力を込める・・・所謂デコピンである。準備ができ、ガレットに向かってデコピンを放った。

「うにゃ!?」

 可愛らしい声を上げ、ガレットは涙目になりながら痛みを発している己の額に触れた。

 すこし赤みをおびている・・・余程痛かったのだろう。

「もっと明るくしろよな・・・・・・もうすぐ御対面だぞ」

 親衛隊に・・・そう少年が告げた瞬間、額をさすっていたガレットは石化した。

 ひょいっと一歩、ガレットから少年が離れるとナイスタイミングといっていいほどに坂の上から鉢巻をし、法被を着た男と女が大量に少女を襲った。

「ちょ、陸待って『ガレットさぁあああああああああん!!』うわ! 何するのですか! やめ」

 そこで少女の声は途切れた。

 少年はその塊に埋もれたであろう少女に手を合わせ『南無南無』と呟くと何事も無かったように学校へと向かったのであった。

 

◆□◆□

 

「―――であるかして、―――」

 始業式、何処の学校でもありそうな長々とした校長の演説。右耳から左耳へと流しながら俺はガレットを見た。

 ボロボロではないがどこか疲れた様子だった。

「(誰のせいですか!! 誰の!!)」

 眼が合うとキッと睨まれた。おかしいな、自分は何もしていなかったのに。

・・・・・・まぁ、それが原因だろうけど。

「・・・おいおい、お前、ガレットさんになんかしたのか? 目茶苦茶睨まれてるぞ」

「・・・・・・武蔵か、あぁなんで睨んでるのか知らないけど、ご立腹なんだよ」

 後ろから声を掛けられたため後ろを振り向くと少しチャラそうな男、武蔵(たけくら) 志郎(しろう)中学からの友人で親友である。

「・・・いや、大体想像できるけど、多分お前が悪い」

「やっぱりか」

「わかってんなら早急に謝っとけよ? あの人、どうせ最上級クラスのAだぜ?」

 俺たちとは違うんだよ。と志郎は言った。

 ・・・・・・たしかにそうだ。

 

 ガレット=サイミントン

 

 彼女はこの学園始まって以来の才女である。

 筆記、実技ともに歴代最高点を叩き出し、教師を圧巻させたほどだ。

 武蔵のいう、俺たちとはちがう・・・その言葉は正しいであろう。

「―――であります。」

『気をつけ、礼』

 おっと、校長の話も終わったらしい。

 礼をして、皆と共にさっさと冷たい体育館から出て、日が当たり、暖かくなった教室へと戻った。

 

◆□◆□

 

「まったく、今度は見捨てちゃ駄目ですよ? メッ! ですからね?」

 生徒達が教室へ戻る中、ブロンドの少女、ガレットが黒髪の少年、陸に注意をしていた。

・・・十中八九、いや、百パーセント、朝起こった『ガレット見捨てられ事件』なのであろう。

「わかった、今度は頑張る・・・・・・次からは一人で登校しよう」

「いえ、十分に聞こえていますよ? 陸」

 ボソリと呟いた言葉をもその耳で聞き逃さなかったがレットはニッコリと笑顔を魅せる。

 しかし、怒っているはずなのに笑顔の少女は、顔こそ笑顔なのだが眼は笑っていなかった。

 何処かしら威圧しているように感じる。

「あ、あぁ、次はちゃんとする・・・うん」

 その何かわからない威圧に負け首を縦に振るう少年・・・人はそれを見れば『哀れだ』と声にするであろう。

 その後、少女は自分の席に戻り、少年は解放された。

「・・・お前も、案外幸福者なんだよな」

「・・・案外ってなんだよ。案外ってさ。それと、今の光景を見て幸福そうに見えたんなら眼科をおすすめするぞ? 武蔵」

 右隣席の茶髪の少年、志郎が項垂れている少年に声を掛けてきた。

「いやぁ、お前ガレットさんといやぁ、『地上に舞い降りた天使』って言われるほどの美少女だぜ? そんな人に声掛けて貰えるんだ。幸せ者だろ? あと眼科はワルハラ機関で十分足りてるっつうの」

「・・・あぁ、たしかに」

 

 【ワルハラ機関】

 

 それはいまや常識といわれる世界最高峰の医療専門機関。

 通称『医療の搭』と呼ばれている。

 最新技術から民間療法まで幅広い医療情報を兼ね備えている機関だ。

「お? そろそろ始まるぜ? 組分けが」

 志郎が陸にそう告げると教卓上にスクリーンが現れた。

 そのスクリーンは一度光ったかと思えばすぐにその映像をあらわにした。

『―――諸君、私は校長の伊吹(いぶき) 隆一郎(りゅういちろう)だ。これから君ら二年生には組分け審査を受けてもらう』

 映像に映った白髪の、どこか威厳のある老人は、先ほど始業式で長々とスピーチをしていた校長そのものであった。

『さて、事前に組分けは終了している。つまり結果はどう足掻こうが既に決定されているのだ。焦るな、受け入れろ、そして抗え・・・以上だ』

 そう短い文を言い終わると校長はパッと消えその映像は生徒達の名とクラスが書かれていた。

「なかなかに演出が凝ってたな・・・校長」

「あぁ、そうだな・・・っと、お前の名前があったぞ。武蔵」

 生徒達はその映像に群がっていて見つけにくいが陸は志郎の名前を見つけたらしい。

「うへぇ、E組かよ。今回は頑張ったつもりなんだけどなぁ」

「・・・・・・いや、開始5分で眠ったお前に頑張ったなんて言わせない」

陸の的を射るようなツッコミを返されウグっと呻く志郎

「・・・・・・で? 相変わらずガレットさんは当り前にAクラスか?」

話を逸らそうと志郎は話題を変えた

「・・・まぁいいか、どれどれ? ・・・あった、予想通りA組だ」

 陸はそんな親友を許したのか急に変わった話題に乗った。

 二人が見るはスクリーンの中央よりやや左斜め上、そこには、

 

 ガレット=サイミントンの名前があった。

 

「うわぁ、みてみろよ。A組の横に金星があるぜ。」

 志郎が指差すほうを見ると、言った通り名前の横に金色に輝く勲章のような星が貼り付けられていた。

「あれってたしか首席のそれも全部において満点取った人にしか、貰えないんだろう? スゲェよなぁ」

「・・・あぁ、すごいな」

 多くの生徒がガレットに群がり、彼女を尊敬の眼差しで、はたまた欲望の孕んだ眼で見つめていた。

 そんな生徒の輪に入らず一歩後ろで二人は眺めていた。

「すげぇなぁ」

「・・・・・・あぁ」

 もはやその言葉しか出ない二人は、そこに居る事自体が億劫になったのか、教師の眼を盗み教室を後にした。

 

◆□◆□

 

「んー、やっぱり春はいいねぇ。自然と体が癒されるよ」

「そうか? よくわからんなぁ」

 教室を抜け出し、屋上に着いた二人は途中の自動販売機で買った炭酸飲料を口に含ませながら春の訪れを感じていた。

「まったく、そんな事も分からないんじゃ、一生モテねぇよ。陸」

 才色兼備の文字が似合うこの茶髪の少年、武蔵は黒髪の少年、陸に向かってそんな事を告げた。

「・・・別に、元からちやほやされる事は毛頭もないから安心しろ」

 身体をゴロンと寝そべらせ、空を見上げる陸。

 武蔵は少し寂しそうな顔をしながら隣に腰を下ろした。

 そんな二人が眺めていると、急に武蔵が立ち上がった。

「・・・・・・なぁ、お前は夢なんてもん・・・あるか?」

 朝日を背に、志郎はそんな事を陸に聞いた。

「何だよ、藪からジョイスティックに」

「俺はゲームコントローラーか何かかよこの野郎」

 少し冗談を混ぜながらも二人の顔は真面目な表情になった。

「こんな管理された世界に何の未来がある? あるのはどうせ単純作業だけ・・・生きた心地がしねぇっつうの」

「そうは言うけどさ、武蔵は何がしたいんだよ。先ずはお前が言ってみろよ」

 そう陸が聞き返すと「参ったな」と呟きながらこう言った。

 

「俺は・・・・・・世界を変えたい」

 

◆□◆□

 

「・・・世界を、変えたい?」

「あぁそうさ。俺はこんな夢のない世界はいけないと思うんだ。だから少しずつ、少しずつでいいから変えていきたいんだ」

 その決意した瞳を朝焼けへと向ける武蔵はそんな、それこそ夢物語を語った。

 ・・・自分とは違い、目標を持ち、その夢へ向かって進もうとする姿は陸には眩しく思えた。

 だからこそ、陸は、

「そうか・・・・・・俺は夢とかは今は無い・・・でもな、親友のお前が焦り過ぎて目的を見失わないよう、自分の道を進めるよう祈っているさ」

 親友にこう告げたのであった。

 すると恥ずかしかったか、陸は直ぐにソッポを向き、武蔵はヘヘッと鼻の下を指の背で擦り、笑った。

「何が可笑しいんだよ」

「いんや? 俺は良い親友持って良かったってさ」

「うわっ!? 行き成り肩組むな!」

「HAHAHA☆ 良いではないか好いではないか~」

 嫌そうな顔をしながらも、心からそんな事は思っていないというのが眼に見えて分かる少年と、親友の優しさに感動した少年は屋上で笑いあっていた。

 

 そんな二人は、E組の生徒だったりする。

 

 

 

 


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