パンツ脱いだら通報された   作:烈火1919

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66.高町なのはのパーフェクト教導教室

 『殺す覚悟をもつくらいならば、殺さない覚悟をもつほうがいい。 どちらかひとつを持たないといけないというのであれば、わたしは殺さない覚悟を選ぶ』

 

 夕食前にスカさんやリンディさん、おっさんが海鳴に無事到着したので、高町家での夕食は混沌としていた。 とくにスバルとエリオの大食いが凄まじく思わずこちらの食欲が若干減ったくらいである。 そうして、俺たちは何事もなく夕食を終わり風呂に入り、後は寝るだけの時間になったわけなのだが──

 

「おっさん、そこ邪魔だ。 どけ」

 

「あ? おお、悪いな」

 

「何してんだ? 大人たちは外で飲みなおしてるんじゃねえのか?」

 

 飲酒が許されている大人たちだけが楽しめる特権である。 ちなみにスカさんはこれには参加していない。 なぜなら──

 

「いや俺もな、ちょっと教導官のお話しを聞こうと思ったわけだ。 管理局が誇るエースオブエースの教導、そして言葉。 局員としては是非とも聞いておきたいものだ。 だからこそ、スカリエッティもあそこにいるわけだしな」

 

 おっさんが顎をさす方向に目を向ければ、スカさんが真剣な表情で話しを聞いている──ように思える。 実際は紙袋を被ってるからわからないが。

 

 それにしても……なのはの教導かー。 俺もちょっと聞いておこうかな。

 

 おっさんの隣で壁に寄りかかりながら俺は耳を澄ませることにした。

 

 

           ☆

 

 

 夕食もお風呂も終わり、あとは就寝だけとなったこの時間帯に、私はリビングで六課メンバーとスカさんとウーノさん、それとアリサちゃんにすずかちゃんという面々と向かい合っていた。 ここに俊くんがいなくてよかった……、これから話すことはちょっと恥ずかしいことだし。

 

「それじゃ、この教導教室が終わったら残りの日数は自由に過ごしてもいいよ。 まだ早いけど、皆お疲れ様。 まだまだ六課解散まで日はあるから、もうちょっとだけわたしの教導に付き合ってね?」

 

『はい!』

 

「うん。 それじゃ、教導をはじめようか」

 

 そしてわたしは教導をはじめる。 教導といっても、何もデバイスを使って訓練をするわけではない。 むしろこれは学校の道徳の時間といったほうがいいかもしれない。 新人たちの質問にわたし達隊長陣、あるいはわたしが答えていくだけなのだから。

 

「あの、なのはさん。 質問があります」

 

 スバルが挙手をしたので、手を出して続きを促す。

 

「私達管理局って、犯罪者を相手にするんですよね?」

 

「まぁ、厳密にいうと治安維持だから犯罪者を相手取るわけじゃないかな。 その治安維持の過程で犯罪者を捕縛するってところかな」

 

「けど、犯罪者って基本的に危ない人ばかりですよね? それこそ、魔導師だったら殺傷設定とか平気でしてきそうなのですが」

 

「それは否定しないかな。 中には殺傷設定の犯罪者とかいたりするからね」

 

 犯罪者って基本的に追い詰められている人達ばかりだから、なにするかわからないし。

 

「危ないですよね~」

 

 スバルはそれだけいって、満足したのかお茶を飲みだした。

 

 ……あれ? 質問は? え、終わり?

 

「質問です、オナネタ……なのはさん」

 

「ちょっとまってティア。 いま完全に禁止ワード飛び出したよね? 明らかに越えちゃいけないライン超えたよね?」

 

「なのはさんは強さについてどう思いますか?」

 

 何事もなくはじめるティア。 少し距離を置きたくなってきた。

 

 それにしても強さかー……。 うーん、

 

「それじゃ逆に聞くけど、ティアは強さについてどう思う? ティアのいう強さってのは純粋な意味での力なのかな?」

 

「えっと、はい。 一応、そのつもりで聞きました。 力がないと、自分すら守ることができませんし」

 

「うん、確かにそうだよね。 力ってのは重要だよ。 自分の正義を通すとき、自分の信念を貫くとき、誰かに負けたくないとき、直接的にかかわってくるのが力だもんね。 理想を説くには力がいる。 むしろそれが絶対的な条件といっても過言ではないよ。 理想ってのは、実力者だけが口にすることができる代物なんだから」

 

「それじゃ……なのはさん達も力が全てだと思いますか?」

 

「ううん、そうは思わないよ。 力が全てだなんて考え方は絶対にしない。 けどね──力がないとどうしようもできない場合は存在するんだよ。 言葉だけじゃ、届かないってときは確かに存在するんだよ」

 

 例えば、PT事件とか

 

 例えば、闇の書事件とか

 

 私は、そんな“場合”を体験してきたつもりだ。

 

「わたしの知ってる人でね、『理想を説くには力がいる、しかし力がないときはどうするべきか? よし、理想を騙して現実に引き摺り下ろそう』というありえない考え方をする人がいるんだけどね。 その人は魔法を使うことができなくて、けど隣にいた人は魔法を使うことができて、それじゃぁ自分はどういった行動をすればいいか? そう考えていたのを覚えているよ。 『魔法が欲しい』そういわれたこともあったよ。 そしてこうも言われたよ。 『魔法が使えない俺の分まで皆を助けてくれ』って。 だからわたしは、力だけが全てとは思わないけど、力は大切だと思ってる。 力ある者は、自覚しないといけないんだよ。 ティアの場合は、“自分は強い。 充分に戦える”と思ったほうがいいかもね。 大丈夫、わたしも支えていくから頑張ろうね」

 

 って、ちょっと離れすぎちゃったかな?

 

「まあ、ちょっと離れたかもしれないけど、力に関してはそんな感じかな。 過信はダメだけど、自信はもとう。 それじゃ、次はダレかな?」

 

 そう首を回したところで、キャロが手をあげる。

 

「なのはさん、さっきの犯罪者の話ですけど……もしも殺傷設定できたときはどうするべきですか?」

 

「殺傷設定できたらどうするべき……ねぇ。 キャロはどうするべきだと思う?」

 

「えっ、わ、わたしですか? え~っと……相手が何であろうと傷つけたくないです」

 

 うん、心の優しいキャロの答えだね。 なんか安心した。 これで『それはもう、ボコボコにするに決まってるじゃないですか』 なんて言われたらどうしようかと思っていたよ。

 

「うん、それでいいと思うよ。 管理局は治安維持や世界の平和、人々を守ることが目的なんだから。 人を殺すのが目的じゃないんだ。 だから本当は殺傷設定なんてものはいらないけど……そういうわけにはいかないのが世の中なんだよね。 ただ、わたしは皆に殺傷設定を使ってほしくないな。 殺傷設定を使わずに切り抜けてほしいかな」

 

「まぁ、そんなことをいうと犯罪者や殺傷設定を使いたがるバカたちになにか言われるかもしれないな」

 

「そうだね、ヴィータちゃんの言うとおりだよ。 わたし達は戦場にいるようなものだからね。 きっと、『甘いことをいうな』 だの 『殺す覚悟がない奴はくるな』 とか 『だからお前たちはダメなんだ』 とか 言われるかもしれないね。 確かに、その人たちの言い分は理解できるところもあるよ。 けどね、わたしはそんな人達に正面から言い返すことができるよ」

 

 なのはは深呼吸して、凛と言い放つ

 

「──それでも救うのが管理局です。 管理局は皆を笑顔にするために存在しています。 ってさ」

 

『…………』

 

「わたしは管理局に誇りをもってるよ。 殺すことは誰だってできるし、簡単にできるんだ。 けど、人を救うことほど難しいものはないよ。 伸ばされた手を振り払うのは簡単だけど、手を握るのは難しいということだね。 だけど、その難しいことを目標に掲げている管理局ってすごいよね」

 

 いつか高校時代にこの話をしていたときに誰かさんが言った言葉を唐突に思い出す。

 

『殺す覚悟というのは自己満足と自己防衛であり、その行いによって周囲から得られる反応は“殺人者”というレッテル貼りだけである。 やっぱ無理だわ~。 俺には無理だわー。 俺絶対に人を殺す段階になったらガタガタ震える自信があるわ。 殺しても平然としてる奴や、普通に生活できる奴って絶対にイかれてるぜ。 イかれチンポだわ』

 

 ……いや、最後の部分とかは思い出さなくてもよかったんじゃないかな、わたし。

 

「まぁ、これはなのはちゃんの考えやから決してこれを真似しろってことやないんやけど、いまのなのはちゃんの言葉を頭の片隅にでもおいといておくと嬉しいかな」

 

 はやてちゃんがそういって紅茶を飲む。

 

「えーっと、もう質問はないかな?」

 

 ぐるりと新人たちを見回す。 どうやら新人達にはもう質問はないようだ。

 

 それじゃ解散しますか。 そう思っていると、予想外の方向から手が上がってきた。

 

「ちょっといいだろうか、高町先生」

 

「あ、はい。 どうぞ」

 

「うむ……。 管理局は人を救う組織というが、それは犯罪者であってもかわらないのだろうか? もしも管理局に犯罪者が助けを求めたら管理局は助けるのだろうか?」

 

 そうスカさんが手をあげながら聞いてきた。 紙袋がちょっと怖いのは内緒。

 

「助けを求める以上、わたしは犯罪者でも助けたいと思ってます」

 

「それが裏切られることになろうとも? 助けた犯罪者が裏切ったとしてもだろうか?」

 

 スカさんの声色は真剣そのままだった。 まるで何かを確認するように、何かに縋るような──そんな印象を受けた。

 

 だからこそ、私も真剣に答えることにした。

 

「それでも──助けを求める以上、わたしは助けたいと思います。 裏切られたら、そんなことをしないように更生させます」

 

「……その答えが聞けて満足だよ。 うん……そろそろ決断するときだね」

 

 スカさんの声は少し小さくて、まるで自分に言い聞かせるようなそんな声量だった。

 

 う~ん、後でウーノさんにでも聞いてみようかな?

 

 こうしてわたしによる、高町なのはのパーフェクト教導教室は終了となった。

 

 

           ☆

 

 

「ひょっとこ、泣くなら他所で泣け。 気持ち悪い、俺の隣で泣くんじゃねえよ」

 

「泣いてねえよ、これはアレだ。 俺の先走り汁が垂れてるだけなんだよ」

 

「どっちにしろ離れろ、バレるじゃねえか。 それにしても……成程な。 これがエースオブエースと未来を担うエース達か。 管理局も安泰だな」

 

「当たり前だろ、なんせ俺の奴隷たちだぜ?」

 

「間違えるな、お前があのエースたちの奴隷なんだよ」

 

「やめてくれよ。 『俊さん! そこからここにインサートです! ほら、カモン!!』 がリアルになっちゃうじゃん。 嫌だよ、同性の上司をオナネタに使うような女のアワビに突っこみたくねえよ」

 

「まぁ……俺もあの嬢ちゃんがこんなことになるとは思ってなかった。 しかしひょっとこ。 お前もあのエース達には学ぶべきものが多いな」

 

「あいつらは教本みたいもんだからな。 俺にはないものを沢山もってる。 なのはやフェイト、はやて達が管理局に誇りをもっているように、俺はあいつらの幼馴染になったことを誇りに思うよ」

 

 ほんと……敵わないなぁ。 主人公体質にもほどがあるだろ。

 

「まったく……あんなことを言われたんじゃ、俺もしっかりと大人を見せないとな」

 

「おう、頑張れよ」

 

「お前が問題行動しなければいいだけなんだけどな」

 

 そりゃ無理だ。

 

 

           ☆

 

 

 高町家の自室で、家からもってきたノートパソコンを操作しているとコンコンと扉がノックされた。

 

「はーい、開いてますよー」

 

 時刻は23:30。 既になのはの教導も終わり、全員が就寝していると思っていたのだが……誰が起きているんだ?

 

 そう思いながら扉が開くのを待っていると、ゾロゾロと四人の人物がはいってきた。

 

 スバルに嬢ちゃんにキャロにエリオ。 いわゆる新人たちである。

 

「んー、どした?」

 

「いや……ヴィータさんがひょっとこさんにも話を聞いておけって」

 

「んじゃ帰ってくれ。 お兄さん、色々と忙しいから」

 

「右手がですか?」

 

「右手もだ」

 

 まったく……ロヴィータちゃんってば、なんて面倒なことをしてくれたんだ。 俺はお前らとは違うんだよ。

 

「話を聞くって言ってもなー。 あんまり個人的なことは勘弁してくれよ。 俺が桃子さんに逆レイプされかけたこととかさ」

 

「されたんですか?」

 

「されたらいいよね。 エロゲだとそういう展開になるんだけど」

 

 現実って厳しいよな。

 

「あー、それじゃ、っておい嬢ちゃん。 勝手に部屋を物色するな。 犯すぞ」

 

 部屋を歩き回る嬢ちゃんを強引にスバルン達の所に戻す。 うろうろうろうろしやがって、お前はクマか。

 

 もうアレじゃん。 キャロとエリオとか眠そうにしてるじゃん。 もう寝かしたほうがいいくらい欠伸してるじゃん。

 

 はぁ……さっさと済ませよう。

 

「それじゃ、俺からは一言。 ──俺のようにはなるな」

 

 俺の声に先ほどまでぽけぽけしていた新人たちが真剣な目を向ける。 楽にしてても大丈夫だけど……それだけロヴィータの言いつけを守ってるということか。 師弟関係は抜群というわけだな。

 

「俺のようになるなよ。 魔法が使えないくせに、虚数空間に落ちる女性を捕まえようとする無茶をやるような人間にはなるなよ。 生体ポッドの女の子にむけてシャンパンファイトをする人間になるなよ。 救えもしないくせに、格好つけるような人間にはなるなよ。 誰かの服を掴んでいないと歩けない人間になるなよ。 ──人間もどきになるなよ」

 

「……人間もどきですか?」

 

「ああ、人間もどきだ。 絶対になるなよ。 俺はそれで地獄をみた人間を知ってる。 死にたくなるぞ」

 

 それだけいって、後は黙る。

 

 正直、もう喋ることがない。 自分の語彙力の乏しさに絶望するよ。

 

 しかしそれは新人たちも同じのようで俺の言葉のあと黙ってしまった。

 

 おいおい、俺がこいつらを叱ったみたいな雰囲気じゃないか。 お兄さん、こういった雰囲気苦手なのよね。

 

「まっ、俺の話なんて適当に聞いとけ。 むしろ聞くな。 聞いたってなんの役にも立つことがないんだ、お前らは一人でも多く救えるような立派な魔導師になれるようになのは達に色々と聞いてこい。 それより明日は海に行くんだから、そろそろ寝るよろし」

 

「それもそうですね。 それじゃ、私達はこれで寝ることにします」

 

 スバルンの言葉を皮切りに、全員が立つ──ことはなかった。 エリオの隣にいたキャロが完全に寝てしまったのだ。 そしてもう既にエリオもカウントダウンにはいってる。

 

 なんということだ。 ここでエリオとキャロが寝てしまい、俺の部屋で朝を迎えたならば確実にフェイトに殺される。 バルディッシュで首がトブビッシュだ。

 

「はぁ……まったくエリキャロの二人は。 これでなのはとフェイトの部屋に合法的に入れるようになってしまった」

 

「ひょっとこさん、目が危ないですよ。 いまにも襲いそうな目になってますよ」

 

「インサート女どもは貝合わせでもやってろ。 俺はこれから理想郷に行ってくる」

 

 エリオをおんぶし、キャロをお姫様抱っこしながら意気揚々とドアを開ける。

 

「ようこそひょっとこ。 ここがお前の理想郷だ」

 

 最高速度でドアを閉めた俺であった。

 

 こええよ、ドア開けたらおっさんが目の前にいるのは色んな意味で恐怖を感じるよ。

 


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