パンツ脱いだら通報された   作:烈火1919

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65.翠屋

 とことことなのはとフェイトとヴィヴィオとガーくんをパーティーに連れて翠屋まできたものの、どうにもこうにも店内に足を向けられないビビリなひょっとこ。 いや、だって桃子さんが怖いもん。

 

「俊くん、早く入るよー? ほら、お母さん店内から凝視してるじゃん。 なんかめっちゃこっち見てるじゃん」

 

「気をつけろなのは。 あれは桃子さんではない。 モ・モモコだ。 あの生物は人間に擬態し人と性行為をすることによって人類を征服するための兵隊を──」

 

「人の母親を化け物にしないでくれるかなぁ!? というかしれっとわたしを化け物扱いしたよね!?」

 

「大丈夫、化け物でも愛することができるから!」

 

「化け物を否定してよ!?」

 

 横でなのはがぎゃーぎゃー騒ぐが気にしない。 モ・モモコの動向のほうが気になる。 ぬ!? あやつ……携帯を操作しはじめたぞ?

 

 モ・モモコが携帯を閉じるのと同時に俺の股間の近くにセッティングしていた携帯がバイブで震えだす。

 

「あっ……んっ……! とか、やってる場合じゃねえんだよ」

 

「ヴィヴィオ、あれは友達がいない子特有の遊びだからマネしちゃダメだからね?」

 

「はーい!」

 

 フェイトが隣で俺と絶交宣言してるように思えるが気にしない。

 

 俺となのはやフェイトやはやてたちの絆を見縊っちゃ困る。 なんだかんだで俺が泣きながら謝れば許してくれるほどの絆だからな。

 

 バイブがそろそろ鬱陶しく思い始めたので携帯を取り出し送信者を確認する。

 

 ・桃子さん

 

 削除。

 

「それにしてもおそいなー、はやてたち」

 

「もうそろそろ来るんじゃない?」

 

 俺の呟きになのはが返してくれたとき、向こうのほうからドヤドヤと団体様がやってきた。 いわずもがなはやて達御一行である。

 

 これはありがたい。 事情を知らないはやてたちを先に行かせて、俺は中心くらいで隠れてやり過ごせば事足りることである。 世の中ってちょろいぜ。

 

 しかしながらそのためには、はやて達を先に行かせなくてはならない。 しょうがない、ここはシグシグあたりをほめて先に行かせよう。

 

 そう思いながらシグシグ──の隣にいたはやてについつい目がいってしまった。 薄いカーディガンがなんとも可愛らしい恰好である。

 

「はやて、そのカーディガンかわいいな」

 

「え? それほんまにいっとる?」

 

「うん。 そのカーディガン凄く似合うぞ。 その──ギガンテスみたいな色したカーディガン」

 

 ゴキッ

 

「いまのは素な反応だったから素直にムカついたで。 喜んだ自分がバカやった」

 

 くっ……!? あいつの拳がいま見えなかったぞ……!? ば、ばかな!? 純粋な勝負なら俺に分があると思っていたのに……!

 

「いまのはひょっとこが悪いな」

 

「あれはしょうがないですよね」

 

「斬刑に処す」

 

 すいません、一人殺人鬼混じってるんですけど。 吸血鬼でも殺しててください。

 

 はやてが倒れている俺を強引に立ち上がらせ、これまた断りもなく腕を組んでくる。

 

「バツや。 ほら、早く翠屋にいくで」

 

「いやまつんだはやえもん!? 俺翠屋に踏み入れたら死ぬ病なんだよ!? いや、マジなんだって!」

 

「大丈夫大丈夫、死んだら生体ポッドにいれて手元に置いてあげるわ。 それに翠屋はアンタのホームみたいなもんやろ? 大丈夫に決まって──」

 

 入店

 

 べちゃ(ひょっとこの顔に生クリームがかけられる)

 

「……ごめん。 アンタ人を怒らす天才やったな」

 

 そういってはやては俺の顔に満遍なくついた生クリームを指ですくって舐める。 ついついそのあとを追ってしまう。

 

「ん? どうしたんひょっとこ。 マジマジとわたしの顔みて」

 

「いや、なんでもない」

 

「も・し・か・し・て・?」

 

「違うっていってんだろ!」

 

「あれー? わたしはまだ何もいってないけどなー? どんな言葉を想像してたのかなー?」

 

「うっ……!?」

 

 にやにやとした笑みを浮かべながらはやては俺の顔にまだついている生クリームを今度は舌先でチロっと舐めとる。 触れるか触れないかの微妙な距離感と、触れたか触れてないかの微妙な感触が俺の頭を支配する。

 

「顔赤いで? 外道ぶってる純情くん?」

 

「う、ううっせえぞ! お前なんか俺のテクニックで──」

 

「それじゃ、ここでそのテクニックってやつをみせてくれへん?」

 

 そういって俺の胸に手を置きながら、下から見上げるような恰好で、挑発的な笑みを浮かべたまま、軽く舌なめずりをしながらはやてはいった。

 

 鼓動が加速するのがわかる。 手汗で手が危ないことになってる。 それでも、はやてから目を離せない。 まるで魔法でも使われたかのように、はやてにだけ釘付けになっていた。

 

「お客様、そういったことは店内では控えてくださいねー。 他のお客様のご迷惑になりますし、その男の子、これからちょっと関節折る予定ですので」

 

 しかしそれも、唐突に俺とはやての間に強引に入ってきた女性の声によって終わることとなった。

 

「あ、ごめんなさい桃子さん。 いやー、俊をからかうのは面白くって」

 

「ふふっ、そんな火遊びばっかりしてると、いつか本気になっちゃったときに炎と化して大変なことになっちゃうわよ、はやてちゃん。 それとも、じつはもう炎に変わ

る寸前ってとこかしら?」

 

 そうはやてに笑いかけながら、ごく自然な動作で俺の関節を決める桃子さん。 翠屋が誇る美人パティシエである。

 

「皆もよく来てくれたわね。 なのは、ちょっと皆を大きなテーブルに移動させてあげなさい。 それとケーキも全員分用意してあるから食べて頂戴ね。 私は息子を調教……ちょっと調教してくるから」

 

「お母さんいま調教っていったよね!? 完全に誤魔化す気なかったよね!?」

 

「大丈夫よなのは。 俊ちゃんは立派な使い魔として戻ってくるから」

 

「何する気なの!? 俊くん既に震えてるんだけど!? 全話通して一番震えてるんだけど!?」

 

 なのはの救いの手は届くことなく、俺は桃子さんに引きずられていった。

 

 

           ☆

 

 

 なのはが呆れ半分、羞恥半分で全員を大きなテーブルに移動させると、そこには小学校時代からの旧友であるアリサ・バニングスと月村すずかがこれまた呆れながら座っていた。

 

「あいつは……どうしておとなしくできないの」

 

「まぁまぁアリサちゃん、あれが俊君の味だと思うし」

 

「ほんっと……あれといまだに付き合いがある自分が信じられないわ。 まあそれはいいとして、おかえりなさい」

 

 なのはの方を向きながら笑うアリサに、なのはも笑いながら返事を返す。

 

「ただいま、アリサちゃん! すずかちゃん!」

 

「フェイトもはやてもおかえり」

 

「「ただいま!」」

 

 そういって旧友同士、仲良く手を握り合いながら再会を喜ぶ。

 

「ヴィータさん、あの人たちって……」

 

「アリサ・バニングスに月村すずか。 ともになのはやフェイトやはやての小学校時代からの友達だ。 ちなみに魔法のことも知ってるぞ」

 

「なるほど、ということはひょっとこさんとも友達なんですね。 凄いですね、ひょっとこさん。 こんなに女性の人に囲まれて」

 

 感心するスバルに、ヴィータは頭を掻きながら答える。

 

「本来なら、あいつもあの二人同様にここでバイトしながら大学に行くはずだったんだけどな。 まぁ、あいつ的にはついていく気満々だったようだが」

 

「鬱陶しいものだな」

 

「シグナムー、もうちょっとオブラートに包んだほうがいいわよ?」

 

 シグナムのストレートな物言いに、シャマルは困り顔でそう注意する。 オブラートに包むだけで、止めろと言わない辺り、シャマルもたまに同じ思いを抱くのかもしれない。

 

 シャマルの注意に耳を傾けたシグナムは顎に手をあて、軽く考えたあと──

 

「ゴキブリだな、あいつは」

 

「それ悪化してるわよ」

 

 どうやらちゃんと考えたほうが、ひょっとこの評価は悪い方向に変わるらしい。

 

「しかしながら、あいつもあれで結構大変な男ではあるがな」

 

 人間形態のザフィーラが悲鳴が聞こえてくる方向に視線を向けながら溜息を吐く。

 

 それに同意するようにヴィータも頷く。

 

「そういえば少し前にあいつが漏らしてたな。 『魔法を使えるだけで天才だ。 使えない俺からしてみれば、こんなに羨ましいことはない』って」

 

「魔法を使えるだけで天才……ですか?」

 

「世の中には、言葉だけじゃどうにもならないことのほうが多い。 あいつは魔法が使えないからな、私達以上に痛感してると思うぞ。 まぁ、そこらへんも含めて今日の『高町なのはのパーフェクト教導教室』で質問してみればいいんじゃないか?」

 

 ティアの疑問にそう投げ出すヴィータ。

 

「けどバカですよね?」

 

『バカというかキチガイだけどな』

 

 スバルの何気ない疑問に、守護騎士全員は口を揃えて言った。 チームワークは抜群である。

 

 

           ☆

 

 

「へー、この娘がなのは達が電話で話してたヴィヴィオちゃんね」

 

「えっと、こんにちはヴィヴィオです!」

 

「挨拶できるなんて偉いわねー。 やっぱりなのはとフェイトの教育と、神様が人類を陥れるために創ったとまで言われているアイツの姿をみているからなのかな」

 

「それとはやてちゃんたちのサポートがあるからかもね」

 

 アリサがヴィヴィオを抱きながら、旧友の頑張りについて触れると、すずかがそれをサポートしているであろう他のメンバーに目を向ける。

 

 向けられたはやてや守護騎士たちはちょっとだけ照れたような顔を浮かべる。

 

「しかしまぁ……あのなのはがこんなに教え子を持つなんてねー」

 

「な、なにがいいたいのアリサちゃん? もしかしてわたしじゃ力不足と思ってるの? そ、そんなことないからね!」

 

「いや、べつにそこまではいってないけど……。 それにしても──」

 

 そういって、新人達をぐるりと見渡すアリサ。 そして、ニッコリと笑いかける。

 

「私の親友は最高の上司でしょ?」

 

『はい!』

 

 間髪いれずに返事を返す新人達。 スバルとティアの声が大きすぎて思わず目を瞑ってしまうほどであった。

 

 そんな中、アリサの膝の上にいたヴィヴィオが誰かを発見したと同時に、膝から飛びのいて男のほうに向かって猛ダッシュを決めてくる。 男は──ひょっとこはへろへろの状態でありながらも、なんとかヴィヴィオを受け止めることに成功し、ついでとばかりに飛びついてきたガーくんを受け止めることができずに倒れてしまった。

 

「おうふッ……!? ガーくん、お前の場合飛びつくっていうより、完璧に蹴りにきてる感じだから。 飛びつくと跳び蹴りは違うからな」

 

「パパー、おかえりー!」

 

「オカエリー!」

 

「ただいま二人とも。 あー、死ぬかと思った。 というより、一度死んで転生してきたわ」

 

 そんなことを言いながら、ヴィヴィオを連れてなのは達がまつテーブルに足を運ぶ。

 

『おかえりなさーい』

 

「ただいまー、っと。 おお! アリサにすずかではないか! 久しぶりだな! 大学どうよ?」

 

「いや……うん、久しぶりね……大学は順調よ。 ねぇ、俊?」

 

「あ?」

 

「ヴィヴィオちゃん……いまアンタのことをパパって」

 

「パパだけど?」

 

「……成程。 薬でヴィヴィオちゃんのことを操ってるというわけね……」

 

「ちょっとまて、どういったらそこにたどり着くんだ。 普通に考えて、なのはとフェイトがママなら俺がパパに決まってるだろ。 もうアレだよ? パパのいうこと聞きなさい状態だから」

 

「それ明らかに反抗されてるわよ。 いや、それにしても……えー……」

 

 ひょっとこの隣でニコニコと笑顔を浮かべているヴィヴィオを見ながらアリサは眉根を寄せる。

 

「でもアンタって基本的にクズじゃない」

 

「人間なんて基本的にクズみたいなもんだろ」

 

『ひょっとこさんすげえ、いま平然と私達までクズ呼ばわりしましたよ』

 

『でもあいつに言われても悔しくないよな』

 

『ひょっとこさんよりクズじゃないとわかってますしね』

 

「俊、アンタ……」

 

「やめろ!? その慰めるような雰囲気を出してこちらに詰め寄るな! 俺が悲しくなってくるじゃないか!」

 

 あまりの不憫さに同情し、ついついひょっとこに近づこうとするアリサだったが、ひょっとこはその手を振りほどき、ヴィヴィオの体を抱き上げる。

 

「俺はヴィヴィオが味方ならそれでいいもん! ヴィヴィオはパパの味方だよねー?」

 

「うん! パパのみかたー!」

 

 ヴィヴィオの返答に満足して、ようやくなのはの隣に座り込むひょっとこ。 その膝の上にはヴィヴィオが座っている。

 

「あ、ちなみになのはやフェイトやはやてはノーカンね」

 

「なんや俊。 わたしらはとっくにアンタの味方ということ?」

 

「当たり前だろ。 可愛い幼馴染を助けてくれよ」

 

「はいはい、助ける機会があったらな」

 

 自分の分のケーキを取りながら、ひょっとこははやてに話しかける。

 

「はやて。 お前さ、店内でああいうのはよくないと思うぞ。 というかだな、マジで止めろ。 お前にあんなことされて俺のようにならない男なんて不能以外の何者でもないからな」

 

 イチゴショートのイチゴをヴィヴィオにあげながら、フォークでケーキを一口分すくいヴィヴィオの隣でひょっとこを見ているガーくんにあげる。

 

 はやては意地悪い笑みを浮かべながら、ひょっとこのほうに身を乗り出して聞いてくる。

 

「あれー? なのはちゃんやフェイトちゃんが大好きなんじゃないのー? 俊君もしかして浮気かいな?」

 

「お前だって大好きだよ。 というか、お前だけじゃなくって皆大好きだよ。 好きというカテゴリーにおいて、俺は皆を区別するつもりは毛頭ないよ。 優先はするけどな」

 

「……そういうのは卑怯やと思うで……」

 

「え、なんで? べつにいいじゃん。 区別とかつけるとロクなことにならないでイタッ!?」

 

 ひょっとこは自分の左手に痛みを覚えてそちらのほうを向く。

 

「ん? どうしたの、俊くん? わたしの顔にクリームでもついてる?」

 

「あ、あれ……? いま、なのは側から左手の甲を抓られたんだけど……」

 

「もー、そんなことあるわけないじゃーん。 まーた、痛い妄想でしょー?」

 

「そ、そうかな……? そ、そうだよな」

 

「……バーカ」

 

 なのはの小声に気付くこともなく、首を捻りながら、自分の勘違いだと思うことにしたひょっとこ。

 

 そんなこんなで、翠屋の一角では終始話し声が絶えることはなかった。


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