パンツ脱いだら通報された   作:烈火1919

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63.帰省の朝

『悪い。 はやてが夜中までゲームしててまだ起きてないから、お前らとの集合時間には遅れると思う。 一応、新人たちはこっちに連れてきてるし、はやてが起き次第あたしらも海鳴に行くからそっちはそっちで行っててくれないか?』

 

「まあそれはいいけど、ほんと俺たちってチームワークないよな」

 

『否定はしない』

 

「新人たちもそっちにいるなら、もう皆バラバラのタイミングで帰ることになるか。 お前らは海鳴の八神家に行くの?」

 

『まぁ……そうなるかな』

 

「じゃないと流石に高町家もキツイからな~。 でもほとんど高町家にはいるんだろ?」

 

『そりゃそうだろうな。 お前が家を解放してくれるなら話は別だがな。 新人達も行きたいらしいぞ?』

 

「おいおい、勘弁してくれよ。 流石の優しくてカッコイイパーフェクトな上矢俊さんでも家の解放は無理だ。 新人達にも言っといてくれ。 あと、スカさん達とおっさんは夜にリンディさん達と一緒にくるってさ」

 

『あたしも家の解放が無理なことくらいはわかってるけどさ。 まぁわかった、それじゃ海鳴でな』

 

「おう、それじゃな」

 

 携帯の電話終了ボタンを押して、作業に戻る。 トントンとリズムよく小松菜を切っていると、後ろに誰かの気配を感じたので振り返る。

 

「……おはよう……」

 

「えっと……おはよう、なのは。 ……寝不足?」

 

「ちょっとだけね……。 俊くんは寝不足じゃないの?」

 

「いや……俺はそこまでじゃないけど」

 

 後ろにいた人物は、俺の幼馴染である高町なのはなんだが……どうにもちょっと寝不足気味らしく目の下に軽くクマがあった。

 

「……なんで寝不足じゃないの?」

 

「ごめん、意味がわからない」

 

 確かになのは大好きストーカーとしては常になのはと同じコンディションであることが望ましいのだが、まさか帰省の前日に眠れなくて寝不足になっているとは思わなかった。 お前は遠足を楽しみにしている小学生か。

 

「……不公平」

 

 なのははそれだけ言って冷蔵庫の中から牛乳を取り出してコップに注ぎぐいぐいと一気飲みしはじめた。

 

 ……これはまずい。 何故だかわからないが拗ねている。

 

「あっ、そうだなのは。 昨日さ、俺のぼせて風呂で大変なことになってたみたいだけど……ヴィヴィオには見られてないよな?」

 

「ゴフォっ!?」

 

「うわっ!? きたな!?」

 

 まさかこの年になって幼馴染から牛乳をかけられるとは思わなかった。 しかも顔面に。 疑似顔射体験だ。

 

「お前……よくもやりやがったな! 俺だってお前の顔面を白濁液で汚してやろうか!? ごっくんさせるぞ」

 

「……覚えてないんだ」

 

「へ?」

 

「だから、昨日のお風呂の出来事覚えてないの?」

 

 俺の冗談のような本気も無視してなのはが問い詰めてくる。 覚えてないのかって──

 

「いや、正直あまり。 お前に足払いをかけられて……滑って転んで……体が重なって……」

 

「なんか卑猥だからその表現はやめて」

 

「最後らへんは本気で気持ち悪くてさ。 なんか吐きそうだったのと、お前が変なことを口走って笑ったのは覚えてるんだが……う~ん」

 

 思い出せそうな気はするんだけどなぁ……。

 

 そうして首を左右に揺すっていると、なのははほっと一安心したように胸を撫で下ろしていた。

 

「あ、覚えてないならそれでいいの。 そっちのほうが都合がいいし」

 

「あっ、そうそう思い出した」

 

「え゛!?」

 

 なのはが固まるのをよそに昨日のことを思い出す。 断片的ではあるものの、多少ながら覚えていることを繋げて──

 

「えっと、スターライトブレイカーをカートリッジフルで撃ち込んだらどうなる? みたいなことだったよな。 あれ? 違ったかな? いや、でもスターライトブレイカーって単語は覚えてるんだよな……」

 

 たしかなのはもそういってたはずだし。

 

『これは、セーフととらえたほうがいいのかな……それともアウトととらえたほうが……。 もういっそのこと、スターライトブレイカーで脅したほうが』

 

「やめて、なにがアウトでセーフかよくわからないけど、スターライトブレイカーで脅すってのは完全にアウトだと思うから」

 

 この娘、怖い。

 

「まぁとにかくあまり覚えてない。 それとさ、八神家と新人たちは遅れて海鳴行くってさ。 なんでもはやてが夜中までゲームしててまだ起きてこないんだってさ」

 

「ふふっ、はやてちゃんらしいね」

 

「あいつらしいといえばそうなんだけどさ」

 

 なんだかなー、どうせだったら皆で翠屋に行きたかったかな。

 

「ところで俊くん。 朝食はなにかな?」

 

 なのはが俺の手元を覗き込みながら聞いてくるので、少し横に移動し答える。

 

「シンプルにお茶漬けと出し巻き卵と和え物にしようかな~と思ってる」

 

「ふむふむ……手伝おっか?」

 

「う~ん、それじゃネギを切ってくれる?」

 

「りょうかーい」

 

 包丁を取り出しまな板に置いてあるネギを切りだすなのは。 ……怪我しないよな?

 

「そんな心配そうに見なくっても大丈夫だってば。 どれだけ心配性なの?」

 

「好きな人を心配してなにが悪い。 恋する者の特権だろ」

 

「はいはい、それよりもフェイトちゃん起こしてきてよ。 ヴィヴィオと一緒に寝てるみたいだし」

 

「フェイトがこんな時間まで寝てるのか? なかなか珍しい。 まあそろそろ朝食もできるし、起こしてくるよ。 あ、ネギを切ったらもうなにもしなくていいから」

 

 それだけいってエプロンをはずしフェイトとヴィヴィオが寝ている部屋に向かった。

 

 早く戻らないと……なのはちゃん料理スキルないしな。

 

 

           ☆

 

 

 コンコンと部屋をノックするも、フェイトとヴィヴィオのぱつきんコンビは寝ているのかこちらに返事をよこしてはくれなかった。

 

「よし、二人とも寝てるな。 これで堂々と部屋に入る口実が出来たわけだ。 まあ、流石になにかあるなんてことはないと思うけどさ」

 

 失礼しまーす、そう小さく声を出しながら室内にはいる。 相変わらずなのはとフェイトの匂いがするいい部屋だ。 こうやって全裸になれば──二人が抱いてくれるような錯覚に陥ってしまう。

 

 服を脱ぎ、両手を左右に大きく広げ、ターンを決めながら二人の匂いで肺を満たす。 まるでなのはとフェイトにこの裸を見られてるような感覚と抱いてくれているような錯覚が俺の脳を揺さぶり、麻薬のように蕩け去る。 これが二人の魔力というわけか。

 

「あぁ……フェイトに見られてるようで興奮するぜ」

 

「……えっと……こっちはげんなりしてるんだけど」

 

 見られてた。 比喩でもなんでもなくガン見されていた。

 

 いそいそとパンツと羽織りものをはおりながらをフェイトに爽やかな挨拶をすることに。

 

「おはようフェイト。 今日も可愛いよ」

 

「おはよう俊。 今日も気持ち悪いよ」

 

 これが朝の挨拶だなんて認めない。 こんな鮮やかで爽やかな挨拶なんて認めない。

 

 フェイトと挨拶しているともぞもぞと布団が揺れ、ひょこりと寝ぼけ眼でぽけっとしているヴィヴィオと目があった。 フェイトは少し前から起きていた様子だけど、ヴィヴィオは完全にいま起きましたって感じだ。

 

「パパ~……?」

 

「ヴィヴィオー、おはよー」

 

 

「おあよー……」

 

 そういいながら抱きついてくるヴィヴィオを柔らかく受け止め抱っこする。 寝起きのヴィヴィオは甘えん坊である。 ……寝起きじゃなくても甘えん坊だけど。 そんなヴィヴィオにちょっと苦笑を漏らしてしまう。 いったい……いつまでこうやってヴィヴィオを抱っこすることができるかな? なーんて、ちょっと考えすぎだろうか。

 

「オハヨウ! オハヨウ!」

 

「ガーくんもおはよう。 調子はどうかな?」

 

「ゲンキ! ゲンキ!」

 

「きゃ!? ガーくん羽をバサバサしないで!? 羽毛が髪に……」

 

「……ゴメンナサイ……。 ガークンキヲツケル……」

 

「あ、ごめんねガーくん!? そんなに気にしてないから大丈夫だよ!」

 

 ばさばさと羽を動かしたことにより、フェイトの輝く髪にガーくんの羽毛がついてしまった。 それによってガーくんの声のトーンが下がり若干泣き目になる。 それ

に気づいたフェイトが必死にフォローするけど……ガーくんの調子はダダ下がりである。

 

「そんなに気にするなよ、ガーくん。 よくあることだ。 そう、俺の白濁液がフェイトの髪につくのと同じことさ」

 

「ごめん、その例えの意味がわからない。 一度もそんなことないよね」

 

「大丈夫だよ。 のんでもらうから!」

 

「前提がおかしいっていってるの!」

 

「でも……流石にアンモニア臭のする液をかけるのはちょっと……」

 

「まず液から離れようよ!?」

 

 流石に朝からヘビーな内容なようだ。 ちょっとフェイトが嫌そうな顔をしている。

 

「ごめんごめん、今度から聖水と呼ぶから許してくれ」

 

「問題解決にはなってないけどね……」

 

 しゃがみ込み、フェイトの髪についている羽毛を取りながら謝るもののフェイトにはお気に召さなかったらしい。 女心は難しいというものだ。

 

 向かい合う形で羽毛をとっていく。

 

「いつみても思うけど、フェイトの髪って綺麗だよな。 もふもふしたい」

 

「ちゃんとお手入れしてるからね。 もふもふはいつかさせてあげるよ。 なんだか取りにくそうだね、もう少しよろっか?」

 

 そう言って俺の返事を待たずに寄ってくれるフェイト。 この気遣いが嬉しいよな。

 

 しばし無言で髪を触り、髪を触られる時間が続いた。

 

 ヴィヴィオは既に俺に抱っこされながら寝始めて、ガーくんはガーくんで一人反省会をしている。

 

「んっ! うぅんっ!」

 

 そんな時間も第三者の声によって終わりを迎えることとなった。 声のした方──扉の前に目を向けると俺のエプロンを着ているなのはが包丁を持って立っていた。

 

「俊くん、ネギ切り終えたよ?」

 

「ありがとうなのは。 けど、できれば包丁は置いてきてくれたほうが嬉しかったかも。 心臓に悪いから。 いやマジで」

 

 下手したらレイハさん持ってるときより怖い。 だって包丁に非殺傷設定とかないもん。 完全に殺傷設定だもん。

 

「あ、ごめん。 素で忘れてた」

 

「転んだら洒落にならないからね。 ほんと気を付けた方がいいよ」

 

 なのはが包丁を適当な所に置きこちらに近づいてくる。

 

「あれ? ヴィヴィオ寝てる?」

 

「うん、二度寝しはじめた」

 

 ヴィヴィオの頭を撫でながらなのはに返すと、

 

「けどもう起こしたほうがよくない? 朝食もできるし。 ヴィヴィオー、起きないとダメだよー?」

 

 と、そう声をかけながらヴィヴィオを起こしにかかった。

 

「やー……」

 

 たった一言だけ返事して、俺の服を人質と言わんばかりに握りしめながら再度寝始めるヴィヴィオ。

 

「もー、帰省するんだから早く起きなきゃダメなの!」

 

「まぁまぁ、なのは。 どうせ皆遅れるんだし、もう少しゆっくりしててもいいじゃないか」

 

「そうだよ、なのは。 ヴィヴィオの寝顔かわいいよ?」

 

「もー、俊くんもフェイトちゃんも甘いよー。 たまには厳しくしないといけないのにー」

 

 俺とフェイトの言葉に頬を膨らせながら怒るなのは。 しかしそういいながら、顔は笑顔である。 わかるぞ、その笑顔の理由。 寝顔のヴィヴィオ可愛いもんな。

 

 しばしガーくんも交えてヴィヴィオの寝顔を皆で見るために時間を費やすことにした。

 

 どうやら海鳴に帰る時間帯は、皆と一緒になりそうだ。


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