パンツ脱いだら通報された   作:烈火1919

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20.スカさんとお話し

 大人三人がゆうに入れる台所で、男性3人とゴスロリ服を着た男の子1人の声が聞こえてくる。

 

 指示を出しているのは黒髪に日本男子の平均身長をわずかばかり超えている男性である。 その男は自分も手を動かしながら淀みなく他の者に指示を出していた。

 

「スカさん、トンカツ用の肉にはハチミチを塗っておいて。 そうすることによって冷めてもおいしく出来上がるから。 ザッフィー、手羽先は二度揚げでよろしく。 エリオはパスタもってきて」

 

 自身はサーモンのカルパッチョを作りながら指示を出すと、そこに恐る恐るといった感じで、スバルとティアが近づいてきた。

 

「あのー……はやてさんが手伝ってこい、というので来たのですが……私達にできることありますか?」

 

「ああ、それはちょうどいい。 それじゃ、このカルパッチョを運んでくれ。 おーい、そろそろテーブルのほうに移ってくれ~!」

 

『はーい!』

 

「うわぁっ! ティア、このカルパッチョおいしそうだよ!」

 

「ほんとだ……!」

 

 あくまで男性との距離を取りながら皿を受け取ると、二人は喜色満面でテーブルへと皿を運んでいく。 男性から呼ばれた者たちはゾロゾロとテーブルへと席についた。

 

 普段はなのはとフェイトとひょっとこしか座らないのでそこまで大きいのを買っておらず、テーブルには6人しか座れないのだが──

 

「え~っと、来客ようにもう一つだそっか。 フェイトちゃん、どこにあるっけ?」

 

「え? 私知らないよ?」

 

『なのは~、右奥の部屋に来客用のあるから取ってきてー』

 

「あ、はーい!」

 

 二人でクエスチョンマークを台所から男性の声が飛んでくる。 その声でようやくどこに置いたのかの場所がわかり慌てて取りにいくことに。

 

「……なんで自分の家のことなのにわからないんだ?」

 

「まあ、家のことは大抵アイツがやってるし。 アイツのほうが詳しいやろ」

 

 ヴィータの呟きにはやてが答える。

 

「おまたせ~、テーブルもってきたからみんな座ってー!」

 

「ところで、なのはちゃん。 席順はどうするん?」

 

「あっ……どうしよっか」

 

 ここでようやくなのははその考えに至った。 主席のテーブルは6人までしか座れない。 そして今日来ている者たちは合計で14人。 引き算すればわかると思うが、半数以上の者が主席テーブルには座れないのだ。

 

「まぁ……こういうときは大抵年上に主席を譲るのが当然なんやけど……」

 

「なのはさんの横がいいです!」

 

「なのはさんの上がいいです! もしくは私がなのはさんの下で!」

 

「といってるように、新人二人が譲らんのでな~」

 

 はやて自体はこのことを嬉しく思っている。 六課は自分の身内で固めた部隊だ。 隊長陣たちは身内なので仲がいいのは当たり前なのだが新人たちとの温度差がはや

てには気がかりだったのだ。

 

 それもいまでは雲散霧消しているわけだが。 なのはには悪いが、なのはに感謝しているはやてである。

 

「えっと……とりあえずティアとは一緒になりたくないかな」

 

「ひどいなのはさんっ!? あの一夜はなんだったんですかっ!?」

 

「どの一夜っ!?」

 

 ティアがなのはに突撃して抱きつく。

 

 そうこうしているうちに、ザフィーラとスカリエッティが料理がのった大皿を運んでくる。

 

『おおーー!』

 

 思わず漏らす感嘆の声。

 

「へ~、前みたときより結構レベル上がってそうやな」

 

「あいつ、料理にかんしては真剣に勉強してたもんな」

 

 テーブルに置かれた料理をみながらはやてとヴィータが話し合う。

 

「……もしかして、ここまでの料理が作れるひょっとこさんて凄い人なんじゃ……?」

 

「うん……それは思ってきた」

 

 新人二人が料理をみて呟くと、何人か首を縦に動かして同調する。

 

「こ、これっ! か、カルボナラーです!」

 

『おしいぞー、エリオ。 カルボナーラだよ』

 

「あ、カルボナーラです!」

 

 若干緊張気味でぎこちない足取りで、エリオがカルボナーラを運んできた。

 

 ゴスロリ衣装を身に纏いながら

 

「……もしかしなくても、ここまで見境ないひょっとこさんって頭がおかしい人なんじゃ……?」

 

「うん……それは知ってた」

 

 新人二人がエリオの姿をみて呟くと、全員が首を縦に動かして同調した。

 

 ひとまず料理を作り終えたので俺もテーブルに着くことに。

 

「……あれ? 俺の席がないんだけど」

 

「ああ、あっちにあるぞ」

 

 律儀にみんなが待っている中で、ヴィータが窓の方を指さす。

 

 そこにはダンボールで作られたテーブルがポツンと置いてあった。 コップに入ったお茶と一人分取り皿に乗せられたご飯が哀愁を誘う。

 

「いやいやいや、せめてそっちのテーブルに……」

 

『こないでくださいっ!』

 

「えぇっ!? 俺なにかしたかなっ!?」

 

 料理を手に取ってなのは達が出したテーブルに移動しようとしたところで、そのテーブルに座っていたキャロ・フェイト・ヴィータ・エリオ・ウーノさん・スカさん・ザッフィーに却下された。

 

 ……あれ? いまさっきまではここまで拒絶されてなかったのに。

 

 そんなことを思っている間にはやてから、いただきますの音頭が行われる。 それを皮切りに各々が嬉しそうに料理を食べてくれるのだが──

 

「……う~ん、スバルとエリオの食欲は予想外だな」

 

 勢いよく食べる二人を前に、俺が作った料理がどんどんなくなっていく。 料理がなくなること自体はとてもうれしいことだ。 なんたって、料理は食べられてこそ意味があるんだし。 しかしながら、ここまでの勢いで食べられると……

 

「……料理を作るほうに徹しようかな」

 

 すでに消えつつある料理を眺めながら台所へと向かう。 今回の主役は六課の面々だし、楽しんでもらえるならそれでいいや。

 

 食べる側から作る側に早々シフトチェンジした俺のところにスカさんがやってきた。

 

「どうしたの、スカさん? 酒とかタバコとかないよ?」

 

「いや、そういうわけじゃないんだがね。 君一人では大変そうなので手伝おうと思ってね。 それに、色々とあそこにいたら私も危ない身なのだよ」

 

「窃盗したから?」

 

「もっと大きなことさ」

 

 そういいながらスカさんは隣にたって、俺のかわりにジャガイモの皮をむいてくれる。 それにしても窃盗より大きなことってなんだろう? 盗撮? それとも小さい女の子に声をかけたとか?

 

 手を動かしながらも思案する俺の頭の中に、スカさんの声が届く。

 

「君からみて、フェイト君やエリオ君はどうみえるかい?」

 

「どうみえるって?」

 

「こう……なんといえばいいのだろうか。 その……人生を謳歌している、みたいな感じで」

 

「そうだなぁ……二人の表情を見ればわかると思うけど、毎日楽しそうに過ごしてるんじゃないのかな?」

 

「そうか……」

 

 スカさんはそれだけ言って、作業に徹する。 先ほどまでとスカさんの態度が違うのでこちらとしては驚くばかりである。 何か悪い食べ物でも食べたのだろうか?

 

「スカさんどうしたの? なにか悪い食べ物でも食べた?」

 

「いや……ちょっと思うところがあってね。 君は考えたことないかい? “もしここで~ならば違う生き方もできたんじゃないのか”と。 今日、六課のみんなを見ていたらそう思ってしまってね」

 

「まあ、それは考えたことあるけどさ」

 

 そんなこと考えていても、仕方がない気がするけどね。 セーブやロードがついてるような生易しいゲームじゃないんだから。

 

「そんなこと言ってたら前になんか進めないよ。 それに実際、神様が出てきて『君は不幸な人生だったね。 私が昔に戻してあげるから、いまよりよりよい未来になるように、よりよい人生になるように頑張りたまえ』なんて言われても困るよ。 単純に面倒くさいし、思い出補正もなくなってしまう」

 

「ふむ……そんなもんかね。 それにしても、君にも思い出というものがあるのかね?」

 

「失敬な、これでもなのは達と過ごしてきたんだ。 色々な思い出はあるよ。 嬉しかったこととか、悲しかったこととかね」

 

「ほう……差支えなければ教えてもらうことは可能かい?」

 

 冗談なんか一切ない気配でスカさんが聞いてくる。

 

「よしてくれよ。 野郎の過去話ほどつまらないものはないさ。 どうせ聞くんだったらお話し大好きな女性陣の過去話でも聞くことだね。 ぶっ飛ばされる覚悟は必要かもしれないけど」

 

 肩をすくめながらおどける俺にスカさんは苦笑を漏らす。 さすがのスカさんもあの女性陣のお話に突撃するようなことはしないみたい。

 

「確かに野郎の男性の過去話なんて私たちにはそこまで関係ないことだね」

 

 そのとき、ウーノさんがスカさんを呼ぶ声が聞こえてきた。 どうやらウーノさんが質問攻めにあってるみたいだ。 流石は女の子だよな。

 

「ほら、ウーノさんがお待ちかねだぜ。 頑張ってくるんだ、スカさん」

 

「うぅむ……私はこういったことにあまり強くないのだが……」

 

 トボトボと歩くスカさんの背中は少しだけくたびれたような、ゲソっとしてるように感じた。

 

 広い台所に一人きり。 後ろには華やかな女性陣の声。

 

 もしも神様がいるとしたら、神様は管理局の局員以上に忙しい身なんだと思う。 だからこそ、あのときだって忙しかったからこそ、あんな事件が起こったのだ。

 

 いまでも覚えている、白黒(モノクロ)の世界から色を取り戻してくれた彼女の笑顔を。

 

 いまでも覚えている、元気に手を振りながら飛行機にのった両親のことを。

 

 

 いまでも覚えている、栗色の髪の女の子に恋をしたあの日のことを。

 


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