所変わってはやての私室からいつもの部屋に移動してきた俺達。 さっそくロヴィータちゃんにミロカロスを渡そうと思っていたのだが、全く違う件で俺は思わぬ苦戦を強いられていた。
「ごめんってばヴィヴィオ。 もう許してくれよ~」
「ダメー! ヴィヴィオ絶対にゆるさないもん! パパのこときらい!」
ヴィヴィオを置いてはやての私室に行ったのがまずかったのか、つい先ほどまでなのはの腕の中で泣いていたヴィヴィオが頬を膨らませながら怒っていた。 隣ではガーくんが寄り添うように付き従っている。 ソファーに座り俺のほうを見るヴィヴィオは、かなりご立腹のようだ。
でもそっかぁ……。 俺のこと嫌いなのかぁ~……。
「うっぐ……! ひっく……! もう生きてく自信がなくなった、ごめんなヴィヴィオ……。 ヴィヴィオに嫌われたパパは一人寂しく死ぬことにするよ……」
瞳から多量の水分を流しながらヴィヴィオの頭を一撫でし、その場から去っていこうとする俺を、
「あっ……! だ、だめ! パパいっちゃやっ……!」
ヴィヴィオは両手で服の袖をめいっぱい掴むことで止めてきた。 涙を流しながら振り向く俺に、ヴィヴィオは
「えっとえっと……、今日ね、パパがヴィヴィオとず~っといてくれるなら……ゆるしてあげてもいいよ……?」
そう上目使いで首を傾げながら聞いてきた。 なにこの天使。 なのはやフェイトやはやてとは違った天使さを感じるんですけど。 見てください、これが俺の愛娘です。
勿論、俺の答えは決まっている。
「本当に許してくれる?」
「うん!」
「ヴィヴィオー! 大好きだぁー!」
「わぷっ!? パパ息が苦しいよぉ……」
あまりの可愛さについつい強く抱きしめすぎたみたいだ。 これも全部ヴィヴィオが可愛いから悪いのだが。
そんな二人の光景を遠くで見ている者達が3名いた。 一人はDS片手に呆れた顔でひょっとこを見るヴィータ。 そして後の二人はヴィヴィオの可愛さに鼻を押さえているスバルとティアである。
「ヴィヴィオちゃんって得ですよね。 娘だからどんなお願いだって出来るし、5歳児だからなのはさんとフェイトさんにダダもコネることが出来ますよ」
「けどなー、もう少し厳しくしたほうがいいと思うぜ?」
「でもヴィヴィオちゃんくらいの年の子供って、あんな感じで独占欲強いですよね」
「そりゃそうだ。 集団行動をまだ習ってないからな。 六課の全員とも、小さい頃は独占欲が強かったんじゃねーの? この年で強すぎると問題が起こるけどな」
『ねぇはやてちゃん……? このふざけた婚姻届はなんなのかな……?』
『大丈夫やで、なのはちゃん。 結婚式にはちゃんと呼んであげるから』
『少し……頭冷やそうか……』
「あんな感じでな」
ヴィータが指さす後方で、ドス黒い空気を纏った二人が対話するたびに窓ガラスが割れていく。 エースともなればあんなことも可能になってくるのだろうか。 だとしたら私には到底無理な気がする。 知らず知らずのうちに心が拒否反応を起こしてしまうティアであった。
「いや、お二人も凄いけど一番すごいのは……」
『アーイソガシイソガシ。 シュウフクモラクジャナイナー』
『(お前は一体何者なんだ……)』
全員の心の声が一致した瞬間であった。
割れた窓ガラスもコンマの世界で直していくガーくんに、流石のスバルも冷や汗を掻く。 ガーくんのおかげで窓ガラスが無事なことにはかわりないので突っ込みを入れることが出来ないが。
「ところでヴィータさんは何してるんですか?」
いまだDS片手に突っ立っているヴィータにティアが質問すると、ヴィータは苦虫を噛み砕いたような顔でひょっとこのほうを指さした。
「あいつにミロカロス貰う予定なんだけどさ。 どうもタイミングが合わなくてな」
ひょっとことヴィヴィオの他に先程まで混ざっていなかったはずの人物が輪に加わっていた。 ちょっとだけしょんぼりした顔でDSの画面を眺めるヴィータであった。
☆
俺とヴィヴィオが遊んでいると、フェイトがひょこひょこと隣に座ってきた。
「あ、フェイトママだ。 フェイトママも遊びにきたのー?」
「うん、そうだよー。 ヴィヴィオ、だっこしてあげようか?」
「うん!」
俺の手からフェイトの手に渡るヴィヴィオ。 フェイトはヴィヴィオをしっかり抱いた後、そっと肩に寄りかかってきた。 鼻腔を擽る女性特有の香りと、落ち着く心。 その二つをしっかりと自覚しながら、俺は思う。
なんでフェイトは俺の左手を力の限り抓っているのだろうか。
「? どうしたのパパ? 顔がつらそうだよ?」
「あはは、なんでもないよヴィヴィオ。 ちょっと可愛い天使が悪戯してきただけだしさ」
「その可愛い天使に内緒で、舌を絡めるほどのキスをはやてとしてたのはどこの誰かな? ねぇ俊?」
可愛い笑みのはずなのに、背筋に薄ら寒いものが常に付きまとうのは何故だろう。 ちょっと可愛すぎて一般人の俺には神気的なアレを受け止めることが出来なかったのかもしれない。 べつにビビってるわけじゃないけど、ビビってるわけじゃないけど、股間の息子が軽く鳴く。 これはきっとアンモニア臭のする汁のほうだと直感した。
「え~っと……フェイトさん? あれはその──」
「知ってる? 言い訳をする男の人の大半が『あれはその』から始まるんだよ? 丁度いまの俊のように」
ダメだ、勝てる気がしない。 もうなんか土下座して謝りたい。 謝りながら撒き散らしたい。
どっと冷や汗を流し、わずかにフェイトから離れる。 が、フェイトがそれを許すはずもなく俺はなんなく捕まる。 局員って私事でバインド使って大丈夫なんだっけ?
なんともいえない空気が辺りを支配する。 そんな中、相も変わらずフェイトの胸に顔を埋めるヴィヴィオの嬉しそうな声だけが聞こえて、それがいまこの場の状況が俺の妄想でないことを実感させた。
ヴィヴィオの頭を撫でるフェイト。 ネコのように「あう~、わきゃー!」と言いながら楽しむヴィヴィオ。
「可愛いなヴィヴィオ」
「そうだねロリコン」
「可愛いよフェイト」
「ありがと浮気者」
「トイレ行っていい?」
「だめ」
どうやら放尿プレイをお望みのようだ。 度し難いほどの変態だ。
どうやってこの場をうまく収め、トイレに行くかを考えていると──フェイトのほうもモジモジと体を揺らし始めた。
……もしかして──
「成程……。 放尿耐久プレイということか。 なかなかの変態具合じゃないかフェイト」
「いやなんの話っ!? 勝手に私を変態キャラにしないでくれるかな!? もう十分いるでしょ!?」
「しかし俺のリサーチによるとフェイトのおっぱいの成長具合は幼少期からなのはに揉まれたものであって──」
「うるさい黙れ」
流石に怒られてしまった。 くそっ! なんで俺はフェイトのおっぱいを揉むことができないんだよ!?
何故俺がフェイトのおっぱいを揉むことが出来ないのかをレポートにして纏めようと考え出した矢先、フェイトが体を預けてきた。 寄り添うのではなく、預けてきた。 ちらりと横目で盗み見ると寝息をたてているフェイトの姿。 いきなり寝だしたフェイトに首を傾げ、何かに気づき必死に起こそうとするヴィヴィオをこちらに抱き寄せ、その金色の髪を撫で梳かす。 手櫛でここまで滑らかに滑るフェイトの髪の毛って凄いなぁ。
「フェイトママ倒された! パパ、フェイトママが! フェイトママが!」
「しーっ。 フェイトママは疲れて寝ちゃったんだよ。 心配しなくても大丈夫だって」
「そっかぁー……。 大丈夫なのかぁー……」
安心したのか、胸を撫で下ろす仕草をするとフェイトに抱きつくヴィヴィオ。 まぁ、一緒に寝たいだけみたいだし大丈夫だろう。 それにしてもいきなり寝るなんて──
「『やっぱ疲れてるんかなー』ですか? ひょっとこさん?」
「うおっ!? 後ろから顔を出すな驚くだろ!?」
「まぁまぁ。 それよりフェイトさん可愛い寝顔ですね。 分からない問題を教えてもらおうと思いましたが止めておきます」
「お兄さんが教えてやろうか? 手とり足とり腰とり」
「ひょっとこさん知能指数低そうですし遠慮しておきます」
それなりの学力はあったさバカチン。 少なくとも大学は余裕で行けましたとも。 まぁ執務官の試験問題なんて専門的な分野もあるから分からないけど。
「それにしてもフェイトさん、燃料が切れたかのように一瞬にして寝ましたね。 流石に驚きです」
「管理局も新体制になって日が浅いから大変なんだろうな。 無理しないといいけど」
「う~ん……私も勉強教えてもらうの控えたほうがいいでしょうか?」
「おいおい、フェイトでさえ一回は試験落ちてるんだぞ。 素直に教えてもらってろ。 落ちた時の言い訳が出来ないほど教えてもらえ」
「むっ、私は別に言い訳なんてしませんよーだ」
「ほんとかー?」
自然と零れる意地悪な笑みを浮かべ嬢ちゃんを見ると、嬢ちゃんは舌を出しこちらに思いっきり向ける。
9月19日を境に管理局は大きな変化を迎えた。 俺は局の人間でもなければ、状況を知ろうとも思わないので、あまり詳しくは知らないのだが、ラルゴ翁たちを中心にクリーンさを前面に押し出しているらしい。 それに局員の年齢制限、なんかも付け加えられたとか。 本部の上のほうは、はやてが実質握ってるようなもんだし、地上はレジアス中将を中心に前以上に頑張っている。 そして何より──陸と海が互いに協力しだしたのが一番嬉しいことだった。 人手が圧倒的に少ない陸、そこに手を空いている海の局員が助ける形でフォローに入っているみたいだ。
あの時の模擬戦は無駄にはならなかったみたいだ。
海は陸の諦めの悪さを学び、陸は海のエリートによって向上心を刺激された。
互いが互いを認め、切磋琢磨し合う──それがいまの管理局だ。
ただ、管理局は万年人手不足に悩まされている。 そんな状況の中、そこまで手を回せるのは何故か。 そこには外部の存在の力が大きく作用している。
「義賊『フッケバイン』……ねぇ」
「あぁ、それ管理局の間でも話題になってますよ。 なんでもエース級がゴロゴロいるそうで。 それに、それを設立した人がカリスマに溢れており世界最強だとか。 全部噂の域を出ませんが……。 どうしますひょっとこさん、完全にひょっとこさんの上位互換ですよ。 ゲームでいう所の常に待機状態になってしまいますよ」
「いまどき義賊なんてバカバカしい。 それにカリスマ? 世界最強? 『それは上矢俊の父親を超えてから名乗れ』ってな。 なのはが精神的に最強というのなら、父さんは全てにおいて最強だ」
「…………小さな子どもが父親自慢してるみたいで可愛いですねぇ~」
にやにやと笑みを浮かべる嬢ちゃんにデコピンをお見舞いする。 うるさい黙れ。
「まぁ、確かにフッケバインは現状ありがたいけどな。 ただまぁ……場合によってお前らが潰すことになるかもしれないがな。 どっちにしろ俺が関わることはないだろうし、どうでもいいや」
「そういう人に限って中心人物になってしまうんですよねぇ。 よくあるラノベ展開的に」
「魔防0の俺がお前ら魔導師と戦ったら瞬殺されるっての。 それよりその問題集見せて。 ちょっと解いてみる」
「いいですけど出来る訳ないですってば」
嬢ちゃんから問題集を受け取り一問解いてみる。 ふむふむ……成程……。
「これフェイトの執務官試験と同じ問題だった。 ほら、正解だろ?」
「うそぉっ!? 執務官試験って上位に入る、というか一番難しい試験なんですけど!?」
まぁフェイトの試験勉強は皆で手伝ったからなー。 途中でなのはが知恵熱出したりして大変だったけど。
「はっはっは、まぁせめて俺を超えるくらいは頑張ることだな! なんならお兄さんが教えてあげようか? 『なんでもやりますから、教えてくださいご主人様』と猫耳を着用した上で上目使い&旧スク水を着ることが条件だがな!」
「いえ、フェイトさんが起きたら教えてもらうのでいいです」
……そんなあっさり断んなよ。 俺もなのはやフェイトみたいに教師役やってみたいんだよ。 5分で飽きて終了すると思うけど。
後ろで唸りながら問題を解きはじめる嬢ちゃん、隣ですやすやと寝息を立てるフェイトとヴィヴィオを見つめながら、ふと違和感を覚える。
……そうだロヴィータちゃんにミロカロスあげる予定だったんだ!
辺りを見渡すと、ロヴィータちゃんが一心不乱にゲーム機を見つめていた。
「ろ、ロヴィータちゃん!?」
『うるせぇバカ! こっちくんな!』
「……しまった」
完全に拗ねてる。 うわぁ……やってしまったよ。 これ完全にダメ男の典型だよ。
頭を抱える俺の肩を嬢ちゃんが軽く叩いてくる。 まるで背中を押してくれるようで、すこし安心する。 嬢ちゃん……俺に謝る勇気をくれるのか?
「ぷぷっ……! さっさといってきてくださいよ……! ダメ男野郎さん……! ぶはっ!」
近いうちに絶対泣かしてやる
嬢ちゃんのうざすぎる顔を見ながら俺はそう心に決めた。
ちなみにロヴィータちゃんにはミロカロスと間違えて、しゃぶるドン(シビルドン)を送りつけてしまい殺されかけました。 でも罵倒は気持ちよかったです。
いまのポケモ○で可愛いのはどれなのか。私がやっていたときはサーナイトらへんが人気だったけど、いまはドレディア?