シンフォニア 旅の合間に   作:ルーラー

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コンボ! ロイドとクラトス?(後編)

○イセリア人間牧場にて

 

 マナの守護塔で封印を解いてから、色々あった。色々の筆頭がクラトスの裏切りである。そしてしいなの住む世界――テセアラで、ロイドたちは新たな仲間たちと出会った。

 

 テセアラのマナの神子であるゼロス・ワイルダー。

 とある研究の実験体となっていた寡黙な少女、プレセア・コンバティール。

 恋人殺しの罪に苦しみ、己に罰を科すレザレノ・カンパニーの会長、リーガル・ブライアン。

 

 むろん、出会ってすぐ仲間になれた者ばかりではない。

 ときにはしいなのときのように刃を交えもした。

 

 そうした結果、シルヴァラントとテセアラ両世界の干渉を完全に解くために彼らは仲間となり、共に両世界の精霊と契約していくこととなったのだ。

 そしてその道中、シルヴァラントにも戻り、光の精霊ルナとも契約を交わした。

 

 しかし、それは失敗だった。すべての精霊と契約した瞬間、大樹カーラーン――大いなる実りが暴走し、シルヴァラントを崩壊へと導き始めたのだ。

 ロイドたちはそれをくいとめるため、裏切ったクラトスと手を組み、イセリア人間牧場へと侵入したのだった――。

 

 

 

「――いたぞ! 侵入者だ!」

 

「ちっ! 見つかったか!」

 

 舌打ちをひとつして、声がしたほうを見てみれば、そこには4人のディザイアンの姿。

 

 ロイドは双剣を引き抜き、臨戦態勢に入った。

 

「油断するな!」

 

「お前に言われたくはないな」

 

 苦笑気味にロイドにそう返し、地を蹴って駆け出したのはクラトス。

 ディザイアンはパレター、ベイリップ、アンクショナー、ポーチャーが一人ずつの計四人。

 彼はまず魔術を積極的に使ってくるアンクショナーへと向かった。

 

「リフィルさま~、回復頼みますよ~」

 

 おどけた調子でそう口にして、弓での攻撃を得意とするポーチャーに迫っていくのはゼロス。回復に気を回しながら戦えば隙が出来やすくなる。彼の判断は適切といえた。

 

 ロイドは槍を手に突っ込んできたパレターを相手どる。相手は女性であるが、この状況ではそんなことを気にはしていられない。

 双剣の片方で槍を押さえ、もう片方でパレターに斬りつける。

 

「くっ!?」

 

 思わず、といった様子で後ろに飛びのくパレター。ロイドはそのときに生まれた隙を見逃さず、容赦なく突き入れる。

 

「風迅剣!」

 

 使い勝手の問題から、ロイドは空破衝を忘れて風迅剣を覚え直していた。

 風迅剣はむやみに相手をふっ飛ばさないので、連続で攻撃する際に重宝するのだ。現にロイドは敵にガードする時間を与えずに、すぐ次の技を繰り出す。

 

獅吼旋破(しこうせんぱ)っ!」

 

 回転斬りを放ち、続けざまに獅子の闘気でパレターをふっ飛ばす!

 これでもうパレターは動けないだろう。そう判断してロイドは周囲を見回した。こちらは四人、相手も四人。一見すると互角に見えるが、リフィルは近接戦闘に弱い。すぐに加勢しないと――。

 そこまで考えを進めた瞬間だった。

 

「露と消えろ!」

 

 クラトスはとうとう魔術を一度も使わせることなく、アンクショナーを屠っていた。

 そしてゼロスも、

 

「う~つくし~い!」

 

 自分の剣の腕に酔ったようになりながら、陽気に勝利の声をあげていた。彼と戦っていたポーチャーはゼロスの足元に倒れ伏している。

 残るは鞭を扱うベイリップのみ。

 

 ロイドはベイリップの鞭を杖にからませて動きを封じているリフィルの姿を見つけるやいなや、すぐさまベイリップに駆け寄る。

 慌てるベイリップ。しかしリフィルの杖にからめとられている鞭はすぐには外せない。

 鞭を手放すか否か。その迷いが致命的な隙となった。

 

「行っくぜー!」

 

 ロイドがユニゾン・アタックの号令をかける。

 

「風迅剣!」

 

「風迅剣!」

 

「風迅剣!」

 

「レイ!」

 

 クラトス、ゼロス、ロイドの風迅剣がベイリップを刺し貫く!

 さらにベイリップの周囲に『レイ』による無数の光線が放たれた。結局、光線は一発しか当たらなかったものの、ベイリップの恐怖はかなりのものだったのだろうと、その歪んだ口元から容易に想像できる。

 

 そして条件が揃い、『複合特技』が発動した!

 

 「逃すな」

 

 ――ただし、クラトスとゼロスの。

 

衝破十文字(しょうはじゅうもんじ)!』

 

 クラトスとゼロス、お互いの突きがベイリップを中心に交差する――瞬間。

 

 ゴッ!

 

「ぐっ!?」

 

「ぎゃっ!?」

 

 クラトスとゼロスの頭がものの見事にぶつかった。

 頭を押さえ、その場にうずくまる二人。

 

「ててて~……、なにすんだよ、天使さまよ~!」

 

「それはこちらのセリフだ、神子! 大体、私とロイドで決めようとしたのに、なにを割り込んで――」

 

「つまらないことで言い争っている場合ではないのではなくて?」

 

 子供のようなケンカを始めようとしたクラトスとゼロスをピシャリとした声で黙らせるリフィル。二人が黙り込むと彼女は前方を目で指し、小さくつぶやいた。

 

「――連戦とはね……」

 

 リフィルが指し示した先には、警備用の機械――レイビット3体の姿。

 

 これにもっとも早く反応したのはロイドだった。一気に駆け寄り『虎牙烈斬』でまず一体を破壊、続けざまに『獅吼戦破』でふっ飛ばして二体目も破壊する。

 出遅れたクラトスが三体目に肉薄しようとしたのは、この瞬間だった。

 ちなみにゼロスは一体なんのつもりなのか、ずっと三体目のレイビットに『アピール』をやり続けていた。

 

 そして、クラトスがユニゾン・アタックの開始を告げる!

 

「私に続け!」

 

「風迅剣!」

 

「風迅剣!」

 

「風迅剣!」

 

「レイ!」

 

 技の構成は先ほどとまったく同じ。しかし今回は、待ってましたとばかりにゼロスが先陣を切って風迅剣を放っていた。

 

「逃げるなよ?」

 

 当然、複合特技が発動する。

 ただし、二番目に風迅剣を放ったのはロイドだ。なので当然、

 

『衝破十文字!』

 

 さきほどやった突きを、今度はゼロスとロイドで再現する。

 もちろん、今回は頭はぶつからなかった。

 

 ゼロスとロイドの突きを受け、火花を散らして崩れ落ちるレイビット。

 

 それを見届けるやいなや、ゼロスが勝利の声をあげた。

 

「俺さまのミリキに相手もイチコロよ」

 

 それに思わず突っ込むロイド。

 

「ミリキじゃなくて魅力だろ」

 

 それをゼロスはおおげさに嘆いてみせる。

 

「ロイドくんにバカにされたぁ! ショックだぁ!」

 

 楽しそう、と言えなくもない二人のやりとりを、クラトスはこめかみをピクピクさせて眺めているのだった。

 

 

○フラノールにて

 

 ユグドラシルの野望を阻止するため、救いの塔へと向かう前日。いわば決戦前夜。

 ロイドはクラトスの声に呼ばれ、宿の外に出て、クラトスと話をした。

 むろん、それですべてのしこりがなくなったわけではない。それでも、少しはクラトスのことを理解できたとロイドは感じていた。

 

 そして翌朝。ロイドはノイシュのくわえてきたペンダントを手にとった。中を見てみると自分の幼いころの写真が入っており、そして蓋の内側にはなにやら文字が刻まれていた。

 

『神子を信用するな』

 

 それを読んで、しばし愕然とするロイド。

 やがて蓋を閉じ、クラトスのペンダントを首にかけると、彼は少し思い悩んだ表情で宿屋の外で待っている仲間たちのもとへと歩き出した。

 

 

 フラノールを出るために用意されている橋。その近くにひとつの人影があった。――クラトスである。気配を消して物陰に隠れているのだ。自分の暗躍が果たして功を奏したか、己の瞳で確かめるために。

 

 彼がしばらく待っていると、ロイドたちがやってきた。

 そして橋のところで立ち止まるロイドとゼロス。

 

 先に口に開いたのは、ロイドのほうだった。

 

「――ゼロス、信じて、いいのか……?」

 

 ゼロスはそのロイドの言葉に、ピクリとも表情を動かさずに返す。

 

「なに言ってんだよ~。ばっちり信じてくれって!」

 

(――よし!)

 

 ゼロスのへらへらした表情から、しかしクラトスはかすかな絶望の匂いを感じとり、物陰に隠れたままガッツポーズしたのだった。

 

 

○ヴェントヘイムにて

 

 あのあと向かった救いの塔で、ゼロスはロイドたちを裏切り、ロイドたちの手で殺されることとなった。

 ゼロスの心情をロイドは推し量れず、彼はただただ自分を責めるばかりだった。むろん、彼がなぜ裏切ったのかは謎に包まれたままである。

 

 クラトスは救いの塔でユグドラシルと戦うロイドたちに加勢し、見事ユグドラシルに勝利した。しかし、ユグドラシルを完全に倒すこともまた、出来なかった。

 そのあとも色々とあり、結果、今度こそユグドラシルを倒すため、クラトスもまた、過去の清算をするために、ロイドたちと共にここにやってきたのだった。

 

 

 

「いよいよ、だな」

 

 階段を上りながら、ロイドがつぶやく。

 ――と、そのとき巨大な黒いドラゴンの姿が目に入った。

 

「ダークドラゴン、か」

 

「強いのか?」

 

 クラトスのつぶやきを聞き逃さず、ロイドは尋ねる。

 

「いまの私たちの相手としたら、それほどでもないだろう」

 

「そうか……。よし、勝負だ!」

 

 ロイドのその声に応えるように、ダークドラゴンは大きく咆哮してみせた。

 

 先手必勝とばかりに双剣を引き抜き、階段をひとつ飛ばしに駆け上がりながらダークドラゴンに迫るロイド。

 しかしダークドラゴンは翼をはためかせ、宙を飛んで階下の広間へと向かう。ダークドラゴンも階段上では全力を出せない、ということなのだろう。

 身体を反転させ、すぐさまロイドはダークドラゴンを追う。

 

 ――刹那!

 

「グゴオォウッ!」

 

 ダークドラゴンがロイドにブレスを吐きかける!

 

「――しまった!」

 

 『粋護陣』を使う間もなく、ブレスをまともに浴びるロイド!

 

「リザレクション!」

 

 すでに呪文の詠唱を終えていたのだろう。リフィルは高位の治癒術で、すぐさまロイドの火傷を治してみせた。そして、

 

閃空裂破(せんくうれっぱ)!」

 

 クラトスが螺旋状の軌道を描いて高く飛び上がり、ダークドラゴンの腹に連続で斬りつける!

 痛みに耐えかねてか、高度を落とすダークドラゴン。しかし、まだ地面には落ちない。

 

「ピコレイン!」

 

 そこにコレットがおもちゃのようなハンマーを雨と降らせる!

 それにはさすがに耐え切れず、ついにダークドラゴンは大きな地響きを立てて広間に倒れ込んだ。

 

「よしっ! 一気に畳みかけるぞ!」

 

 階段を駆け下りてきたロイドがその途中で高く飛び上がる。そして双剣を前に突き出し、そのままダークドラゴンに急降下を始めた。

 

飛天翔駆(ひてんしょうく)!」

 

 双剣がダークドラゴンに突き刺さる! 素早くそれを抜き、ロイドはさらに剣を振るおうと――

 

「ギャウッ!」

 

 痛みのあまりにか、尾を激しく振り回すダークドラゴン。その一撃をまともに食らい、ロイドは宙にふっ飛ばされた。

 

「――くっ!?」

 

 なんとか空中で受け身をとり、地面に叩きつけられることは防ぐロイド。しかし、ダメージは大きい。

 

「私に続け!」

 

 クラトスがユニゾン・アタックの合図を出したのは、そのときだった。

 

 ロイドたちは知らない。このときクラトスが『邪魔者はもういない』とばかりにほくそ笑んでいたことを――。

 

「風迅剣!」

 

 そんなクラトスの鋭い突きがダークドラゴンに突き刺さる!

 

「ピコレイン!」

 

 さきほどと同じ技でコレットがダークドラゴンの動きを止めた。

 

「レイ!」

 

 リフィルには、攻撃系の魔術が『フォトン』か『レイ』の二つしかない。そして『レイ』のほうが威力が高いため、月並みと言われようと、バカのひとつ覚えと思われようと、彼女はユニゾン・アタックの際、必ず『レイ』を選んでいた。

 

 最後に技を繰り出すのはロイド。

 クラトスはこの瞬間、正直、狂喜した。もうゼロスのような邪魔をしてくる者はいない、ロイドとの複合特技『衝破十文字』が成立する、と。

 

残光時雨(ざんこうしぐれ)っ!」

 

(――なっ!?)

 

 ロイドは呆気にとられているクラトスを尻目に、ダークドラゴンに連続で双剣を浅く突き入れていく。さらに高く飛び上がって斬り上げ、空中で一撃を加えた。

 

 そして、それですべての攻撃が終わったわけではない。

 

「行くぜ!」

 

 条件が揃い、ロイドとコレットの複合特技が発動する!

 

『スターダストレイン!』

 

(――ま、まさか神子にとられるとは……!)

 

 どこからか降り注いでくる無数の星が、信じられない、と目を見開くクラトスの視界に入った。

 無数の星はダークドラゴンに当たる度に、ピコッ、ピコッっと間抜けな音を立てる。

 

 クラトスはその間抜けな音をどこかぼんやりとする意識の中で聞きながら、その場に立ち尽くすのであった。

 いつまでも、いつまでも――。




実はこの作品、四コママンガのために作ったネタを基にしていたりします。それを小説のプロットに使ったものだから、テンポが悪いこと悪いこと。正直、オチも弱いですしね。

それと今回、『クラトスのペンダント』をちょっとストーリーに絡ませてみました。クラトスルートでロイドがゼロスに『信じていいのか』と言ったのは、クラトスのこういう助言(?)があったからなんじゃないかな、と。

ともあれ、少しでも楽しんで頂けたのなら本当に幸いです。

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