【習作・ネタ】狂気無双   作:モーリン

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9話

 

 

 

「はぁ!?文字が書けない!?」

「はい、自分の名前と、生活で必要な文字しか必要なかったので」

 

あの賊殲滅戦のあと、曹操と荀彧との主従関係がより強固な出来事が(百合的な意味で)あり、曹操軍の内部は結束が高まった。

さらに、許緒を含めその戦力は拡大していった。許緒もこの世界では女の子であり、本当に18歳以上なのか疑えるほど背が低い、いや、体系的にこれは…なんでもない。

ただその力は本物で夏候惇もその武には絶賛をしていたほどである。

 

そして徐晃。彼女は曹操の正式な配下ではなく、客将としての扱いで曹操の下に留まっている。

その徐晃の交友関係は…非常に狭い。あの戦闘を見ていた荀彧と許緒には当初かなり警戒されていた。

それはそうである。徐晃の武勇は曹操軍最強の夏候惇ですら軽くあしらえそうなレベルである。

 

夏候惇は何度か徐晃に模擬戦を仕掛けようとしたが曹操が頑なにそれを許さなかった。

徐晃の異常性と危険性を理解している曹操はその先の結果が見えていたのだ。

それを危惧し夏候惇をどうにか納得させ、模擬戦を行わないように仕向けた。

 

その事に徐晃は何も思わない。

模擬戦なんかで自身の欲求を満たせるわけでもなく、夏候惇の誘いも蹴っている。

 

強い相手との死闘が徐晃にとって甘美なひと時を味わえるのだ。

 

模擬戦は死闘とは呼べない。あくまで純粋に武という点を競うだけのものであり、命をやり取りするわけではないからだ。

それに、もし模擬戦で熱くなったら徐晃は夏候惇を殺してしまうと確信している。

そうなれば官軍から追われる身…いや、官軍より厄介な曹操から追われる身になる。それだけは徐晃も願い下げである。

 

あの溢れ出る覇気は徐晃が今まであった人物では最も輝いて見えた。その思想。その高貴さ。

 

天下を取ると豪語する曹操を見る徐晃は、彼女であれば天下は取れるかもと思わせるほどである。

しかし、彼女が天下を取るということは劉備はどうなるのかと、以前会った知り合いの顔を思い出し、笑う。

 

乱世というものはそういうものであったのだと。

 

戦いの中に身をおいている徐晃がその事を忘れていた事実に可笑しくなり、自分で笑ってしまったのであった。

 

そして、曹操軍で噂を聞いた「天の御遣い」

 

徐晃も勿論噂程度であれば耳にしていた。天から来る使者。

それは皇帝を否定するのと同義である。そんな天の御使いは噂では義勇軍の中で活躍しているらしい。

あくまでらしいだ。実際目で見ていないので徐晃は確信には至っていない。

 

と言ってもその事に対してはあまり関心を寄せていない。

何れにせよ大きな戦の臭いがするだけで徐晃は満足であった。

 

陳留の城で客将として雇われた身だが、徐晃は今まで一人で賊討伐等を行ってきていた

賊を討伐して生計を立てていたので文字を覚える機会はほぼ皆無であった。

邑にいた少女時代の時も勉学より畑仕事にかり出されていたのも原因の一つだ。

 

よって少しばかり警戒を解いてきた荀彧に仕事を…簡単な文官の仕事をやらないかと提案され、冒頭の問答へと戻る。

 

「はぁ…そう、分かったわ」

 

その事実に頭を悩ませる荀彧。

 

 

 

 

 

 

 

荀彧が、徐晃の部屋を覗く前、曹操に徐晃が何をやっているのかと聞かれ

たまに雑事を行うだけで一日中ぶらぶらしているという事実を曹操へ伝えたら

 

「…そう」

 

と、若干呆れが入っていたがそこまでの落胆は無かった。曹操はそもそも徐晃に戦闘面意外での期待はしていない。

出身地はいまや不明で徐晃も殆ど覚えていないと言っていたし、ある程度教養はあるようだが、礼節は殆ど無いといっても過言ではない。

流石に曹操も出来ないことをやれとは言わない。何事も適材適所なのだ。

 

それに曹操の配下には一応加わったが、何時離れていっても可笑しくはない。徐晃は曹操のことを一応主として敬っているが敬意は殆ど感じないのである。

 

だが、曹操はそれでもいいと思っている。

 

何れは徐晃を屈服させ、あの体を堪能し、自身に心酔させるからだ。

 

「であれば、簡単な文官の仕事を与えなさい」

「は!」

 

 

 

 

 

 

と、そういうやり取りがあり荀彧は徐晃の部屋を訪ねてきたのだが、まさか文字を書けないとは露にも思わなかったのである。

徐晃という名前は普通に綺麗な文字で書けていたのでこれは大丈夫であろうという思いが荀彧にあったが、それは裏切られたのだ。

 

「まぁ空いている時間に文字の書き取り練習してるから、いつかは出来ると思うよ」

「あなた、空いてる時間って…殆ど空いてるじゃない。何をしてるのよ?」

「町をぶらぶら~っと」

「はぁ…」

 

ため息をつく荀彧。これで給料を貰っているのだから世の中不平等である。

勿論、各地で賊発生する数が多くなっている昨今。もちろん徐晃も派遣されて動いている…たった一人で

 

普通であれば軍を動かすはずだが

 

「邪魔」

 

という一言で徐晃隊はワンマンアーミー状態である。

 

つまり一人軍隊。

 

まさに一騎当千の力を持っている徐晃。

それに関して夏候惇は認めているが、曹操に対して敬意を見せていないことに対しては不満を露にしている。

ワンマンアーミーに対して曹操は言及する気は無いのか、徐晃の行動を黙認している。

 

結果が伴っているからだ。

 

軍を編成して討伐するという行動でどれほどの物資、人員、金、時間が費やされるのかを考えれば

現時点の曹操軍にとってそれらを最低限に抑えられる徐晃は貴重である。

その他に、緊急時でもすぐさま駆けつけられるというのは魅力的であり、民からの曹操の評価も上がっている。

 

ただ、死体だけは放置できないので数人から数十人の兵を派遣して処理をしている。

 

徐晃が対応する賊は1~1000までの賊が中心だ。と言っても1000まで行けば軍を動かして経験を積みたい。

よって、実質は1~500までの賊討伐に当たっているのが現状である。

 

「…やはり貴方は兵を調練する仕事の方が向いているわね」

「そりゃあそうだけど、したこと無いよ?」

 

徐晃は兵の調練はした事が無いし、調練方法も地方やその武将でやり方は変わる。

基本は変わらないが、陣形等を組む時や、狙い目などは各武将独自なものが多い。

 

しかし徐晃はそういった知識はまるで無い。

 

武術も我流だし、軍に所属することも始めてである。

ましてや、人を育てるという行為は徐晃自身イライラしそうで敬遠していたのだ。食わず嫌いとも言う。

 

「華琳様に掛け合うわ…まったく、何で私がこんな奴の為に」

「お疲れ様ですね」

「あんたねぇ…!」

 

人の気も知らないで…と内心荀彧は怒りに燃えたが、徐晃に対してはあまり意味が無い。

夏候惇のように内政が出来ない時点で同じ脳筋なのだが、徐晃は夏候惇以上に内政が出来ない。

しかし、夏候惇より頭が意外と回りまた荀彧が放つ言葉を吟味して返事をする。

 

その為、反論はあるが概ね荀彧が言っている事が通り、徐晃は形ながらだが反省もするので荀彧は若干肩透かしを食らっているのだ。

 

が、時たまこういった挑発と取れる言動がある事は確かなので、気を抜けないのだ。

 

「…ぐっ……ふぅ。まぁいいわ。華琳様に掛け合うからあなた、春蘭か秋蘭の調練現場でも見て勉強しなさい」

「わかりました。じゃあ、宜しくね」

 

そうして荀彧は徐晃の部屋から出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

「どうも夏候淵さん」

「ん?徐晃か、どうした?」

 

訓練所で声を張り上げていた夏候淵の所へと赴いた徐晃。

徐晃の数少ない友好関係を維持している人物である。夏候淵も誘った責任を感じているのか、なるべく徐晃に接するようにしていた。

と、当初は事務的であったが、現在は友とまではいかないが、それでも軍事関連では信頼を置ける人物と評価を改めている。

 

「お仕事を見学させてくれないかなと思いまして」

「……珍しいな」

 

驚いた顔を見せる夏候淵。それもそのはず、夏候淵も徐晃の現状が見えている一人であったからである。

賊討伐以外は町でぶらぶらと、たまに警備の兵に犯罪者の存在を知らせてくれている。

何故徐晃自身がその場で犯罪者を取り締まらないのか、理由は簡単である。

 

殺してしまうから

 

曹操が治めている町でそのような行為は基本ご法度であるし、人殺し以外は屯所へ連行する決まりもある。

よって徐晃は警備の兵に犯罪者がいたと伝えるだけに留まっているのだ。

その事について夏候淵は正直助かっている。殺しなんてしてくれた暁には街の評価、曹操の評価が下がることは明白である。

 

何より徐晃は戦場での殺しが一番快楽を得られると理解しているので、恐らく殺しはしないだろうが、ついやってしまうかもしれない。

そう徐晃は判断し、一応曹操の配下であるので面倒ごとを起こさないようにはしている。

…定期的に沸いてくる賊で日ごろの鬱憤を晴らしているので、その場で殺さなくても大丈夫だと徐晃は思っているだけだが。

 

「荀彧さんが仕事しろって言ってきまして、私って文字をあまり書けないので内政の補助も出来ないのですが、こういった体を動かすことならできそうかなと」

「文字を書けなかったのか…そうか、まぁ珍しいことではない。ただ、調練はイライラしそうで嫌だといっていなかったか?」

 

そういう夏候淵の視線は兵達の動きをちゃんと見ている。

 

「ええ、まぁ。ですが、一度見て出来そうか出来ないかを判断しようかなと、といっても恐らく私が調練する兵は貴方方姉妹が抜けた際の臨時でしょうが」

「成る程、承知した」

 

そうして夏候淵の隣に徐晃が立ち調練の様子を見学する。

調練は基本的には兵の基礎体力や、武器の振るい方、陣形の対応、対人の当たり方から、この夏候淵隊は弓隊も含んでいるので弓矢の訓練も在る。

 

「方円の陣を取れ!」

「「「はっ!!」」」

 

今は陣形の変更に対応するべく、夏候淵が陣の形態を大声で指示し、兵士がそれに答えるといった形だ。

勿論出来ない人物も出てくるが、そこは100人隊長や10人隊長のものが全兵士に指示を浸透させるように、さらに指示をだす仕組みとなっている。

 

「そこ!戦場では一息たりとも時間を無駄には出来ん!ちゃんと部隊長の指示に従え!!」

「申し訳ありません!」

 

通常であれば将が一兵士にわざわざしかりつけるなんていうことはしないが、夏候淵は面倒見がいいのか、こういった場面が見受けられる。

 

それらを横でしげしげと見て調練の仕事ぶりを見る。

流れ的には体力づくりから始まって、武、陣、戦という形を取っていた。

そして一番最後に装備している鎧や武器を点検して終わりという流れであった。

 

流石の夏候淵であり、部隊の兵士は士気が高くまた、かなり統率が取れている。賊とは比べ物にならない程である。

 

(…楽しそう)

 

徐晃はそう思った。……そう

 

(彼ら全員と隣にいる夏候淵との殺し合いは凄く興奮しそうだよ…)

 

という事を胸中で思っていた。

賊とはまた違った動き。曹操に誘われた時の賊討伐戦でも軍隊は中々統率が取れていたと感じていたが、改めてみると実にそそる相手だと徐晃は思う。

 

「それでは、本日はここまでだ!解散!!」

「「「ありがとうございました!!!」」」

 

日が落ち始めたのか夕暮れになり、辺りには優しい光が訓練所を照らしていた。

その中で全ての訓練が終わったのか、夏候淵が終了の合図を送り、兵がそれに返事をして規律が取れた行動で訓練所を後にしていく。

 

「…どうだ?全体の流れは分かったか?」

「はい。…あの、質問なんですが」

「どうした?」

 

一日を通して夏候淵は徐晃に教えられる事は教えたつもりであった。

だが、内心は余り期待していなかった。調練の仕事を「イライラしそう」という言葉で断っていたのだから、まずそんな意欲は無いだろうと思っていたが

意外にも食いついてきたため、僅かながらに驚きがあった。

 

「兵士達と模擬戦闘とかしてもいいのですか?」

「……」

 

夏候淵は判断に困った。

まず徐晃が言っていることは普通であればどうぞどうぞという位の物で、質問する事でもない。

事実、夏候惇は中々な頻度で兵士達と模擬戦闘を行っており、兵士がぼろぼろになる様は幾度と無く見かける。

 

が、それは手加減が出来て尚且つ、殺意が無いからというのが大前提である。

 

徐晃を見てみよう。

彼女は自他共に認める殺人快楽者である。その彼女が模擬戦闘を行った場合の未来を夏候淵は想像する

 

(…訓練所が血の海になりかねん)

 

そう、徐晃は気を操ることにおいても熟練者である。故にどんな鈍らでも一定の切れ味や耐久度を発生させることが可能であるのだ。

つまり、刃を潰した訓練用の剣でも人を切り殺すことは徐晃にとって容易いことである。

その事を頭の中で予測していた夏候淵に、徐晃が口を開く。

 

「…大丈夫ですよ。言いましたよね?見下されるか大義名分が立たなければ殺したいという欲求は出ないと思いますよ」

「……いや、思いますよではなぁ…まぁ一回は私か姉者が監督してやればいいか…」

 

確かにと夏候淵は思った。

徐晃が殺人衝動に駆られるのは見下されたときや、下品な言葉と共に性的対象として見られたときである。

強い人間との死闘は兵士の調練が仕事なのでそれは除外する。

 

ともすれば、兵士相手であればやれない事は無いのか…と思案するが

兎にも角にもまずは調練がちゃんとできるかどうかを確認せねばならない事は必然であった。

無駄が出ていれば、主君である曹操の評判にも悪影響を与えかねないし何より、軍を預かっている夏候淵の秩序にも傷が付く。

 

「…ふむ。では調練する際は私か姉者に声を掛けて欲しい。姉者と華琳様には私から話を通しておこう」

「宜しくお願いします」

 

そうして、徐晃の仕事に賊討伐の他に調練という仕事が新たに追加されたのであった。

 

 

 

 




誤字、脱字等御座いましたらご指摘などをよろしくお願いします。

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